長編 #3380の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
3人残ったとき、私は居ても立ってもいられなくなりました。居たたまれない気持 ちでした。早く私の名を呼んで欲しい、早く向こうの組に行きたい、次は絶対自分が 呼ばれるんだって、頑張っておりましたよ。おや、お笑いですか、ほんと、子供って 妙なところにこだわりますよねえ。今も昔も変わりませんか。 残っていたのは、私と小さい久美ちゃんといつも汚れた格好をしてぼんやり笑った ような表情を浮かべているノリオ君でした。じゃんけんはまたこちらの負けで、久美 ちゃんが欲しい、と向こう側から声が掛かってきて、久美ちゃんは嬉しそうに走って いき、みんなと手を繋ぎました。ノリオ君はいつもと同じように、飄々として白痴地 味ていて何も考えていない風でした。でもねえ、私はその時、どきん、と心臓が跳ね 上った気がいたしました。もし、一人残ったらどうしようって。 花いちもんめ、花いちもんめ、じゃんけんぽん、勝って嬉しい花いちもんめ、負け てくやしい花いちもんめ。負けた方の歌は、蚊みたいにか細くなっとったです。あの 子が欲しい、あの子じゃわからん、相談しましょ、向こうの組はわーっとばかり集ま って内緒話を始めました。私とノリオ君は取り残されたように突っ立っておりました 。 日もすでに落ちて、夕飯を用意するかまどの煙が所々で見えました。もう、私はノリ オ君と手を繋いでいるのもイヤになっておりましたなあ。 相談がまとまって、向こうの組は手を繋いで横に長々と並び直しました。そして、 愉快そうに足を蹴り上げながら、こう声をそろえて言いました。 ノリオ君が欲しい。 ・・・・・それはお気の毒様、そうですなあ、私はあの時どうして私を残してみんな がノリオ君を取ったのか、わけがわからんかったです。悲しくて、悲しくてねえ。か といって意地悪されたのかというと、そうとも思えないのでした。ただ、裏切られた 、 という強い感情のしこりが無性に残ったのでした。自分がたまらんほど、みじめでし た。みんなに悪いことなどしとらんのに、どうして、のけ者にされたんだろうって、 頭の中で堂々巡りをしておりました。 気がつくと、社殿の階段のところに腰を下ろして、独りでしゃくりあげて泣いてい ました。振り返ってお宮を見ますと、格子戸が少し開いています。お宮の格子戸を開 いて私は中に入りました。普段だったら、怖くて出来ませんでしたでしょう。とっぷ り日も暮れていましたんでなあ。 中はがらんとしていました。奥の壁にそれでも祭壇らしいものがあり、真ん中に呪 譜めいた字が書かれた長四角のお札があり、両脇に陶器製のあまり出来映えの良くな い稲荷様と鑞が半分ほどまでたれて汚く固まったろうそくと燭台が置かれてありまし た。どれも、とても煤けて古く、長い間人の手に触られた痕はありませんでした。 ふわっと、2本の蝋燭に火が点りました。嘘ではないのですよ。ぽっと、最初は微 かに、だんだん揺らめきながら火は大きくなって社殿の中を照らしだしました。2つ の光は私の目の前をちらちらと動きながら、生き物のように祭壇の周りを回り始めま した。私の黒い影も、つられてあちこちに動き回るのでした。私は祭壇のところに、 女の子が居るのを見ました。それは、私自身でした。もう一人の私は、大きく息を吸 って言いました。 千鶴ちゃんが欲しい!。 夢でございましたんでしょうか。幻覚かなにかの類でしょうか。家人に話しても、 おおかたキツネに馬鹿にされたんだろうって、取り合ってもらえませんでしたからね え。えっ、あの神社で子供が居なくなった?ああ、最近ではこのあたりでも田圃をつ ぶしてずいぶん新しい家が建ってきましたからね。そこの家の子供ですか。まあ、一 人じゃあない、半年前ももう一人。さあ、心当たりなんてとんとありませんねえ。そ の前、一年前にも居たのですか、居なくなった子供が。3人も。それはまた、不思議 なことで。でも、あの神社はたたりなんかしませんです。お宮に入ったことのある私 だって大丈夫だったんですから。 まあ、駐在さん、麦茶をもう一杯おあがんなさいまし。ゆっくりしていっておくん なさい。昔話は、ほんに懐かしいものでございます。花いちもんめ、花いちもんめ。 年寄りの話し相手はおいやになりなしたか。まだ回るところがたくさんある、お忙し いのですねえ。駐在さんはお若いですねえ、おいくつになられます。はたち。お若い ということは羨ましいですねえ。私ですか。私はもう喜寿を過ぎました。こんなに長 生きするとはねえ。まだ、どなたのお手間にもなりませんですよ。畑仕事にも精を出 しておりますんですよ。あらあら、駐在さん、もうお出かけですか。この暑いのに大 変ですねえ。またいつでもお越しください。こんな婆でよかったら、昔語りをお話し しましょう。よいお嫁さんが見つかるとよろしいですねえ。 若い巡査は、一人住まいの老女の家をやっと辞去した。年寄りの話は長いものだ。 いつ腰を上げようかと、内心じりじりしていたのである。広い庭から眺めると、旧家 らしく屋敷は広いが、老女一人では維持しきれないのだろう、あちこち痛み、修理も されないまま放置されていた。屋根にも草が繁り、廃屋じみた様子は、さっきまで話 していた老女の姿とだぶってくるのだった。 屋根の上には、烏の群が巣を作り、野放図とも思える営みを精力的に繰り広げてい た。一羽の大きな烏が、勝ち誇った如く鳴き声を上げた。その鳴き声は、自分こそが この家の支配者だと言っているかのようだった。 巡査は、腐って骨の見えだした子供の遺体を目に浮かべた。 ・・・・・了 by ルー RJNO8600
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