長編 #3365の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
彼女が泳ぐのを待って話したいけど、ほとんど僕と同じ順番で飛び込むだろ うから、今は無理。 「あとで」 ちぇ、と舌打ちすると、藤倉君は水に飛び込んでいった。派手な水しぶきに、 隣の女子の列の先頭の子が顔を背ける。 その子も飛び込んだところで、僕や綾辻さんが台に立った。 「競争しようか」 「え?」 彼女の呼びかけに答える間もなく、次、行くようにとの先生の合図。僕はそ のまま、飛び込んだ。 水泳には自信があった。背泳が一番得意だけど、速さで言えばこの自由型。 僕が水中で右隣を見ると、女子の足が見える。 前の子に追いついたかなと思って、そのまま泳ぎ切る。そして顔を上げて、 びっくりしてしまった。 「ほとんど同着ね」 綾辻さんが微笑んでいた。 さっき見えたのは、綾辻さんの足? だったら、しばらくは先行されていた ことになる。感嘆さえしてしまう。 「速いんだ……」 「最初の飛び込みで、距離を稼いだから」 表情だけ笑って、綾辻さんは身体を水中から抜いた。全身の肌が白くて、印 象に残る。 人魚。 水を滴らせて歩く彼女を見上げながら、僕はそんなことを思い描いていた。 「速いな」 いつの間にか、中村君が後ろに追いついていた。 「ああ、そうだね」 「綾辻さんだけじゃなくて、槙君も速い」 「僕は水泳やってたから……」 僕らは相次いで上がった。 「絶対、綾辻さんは君が好きなんだぜ。うらやましい」 不意に、にやにや笑いを始めた中村君。 「ど、どうして、そんなこと」 彼女自身から正面切って言われて、承知しているのだけれども、改めて第三 者に指摘されると、どぎまぎする。 「去年は彼女、あんなに速く泳いでなかったんだ。そもそも、体育を休みがち だったんだよ、彼女。去年の六月頃なんか、今以上にやせてて」 「本当に? 信じられないな」 「本当さ。それが今は、君が来たから張り切っているんだな、きっと」 「そうかなあ……」 僕は首を振って、話を曖昧にしようとする。また列に並ぶからだ。 「おい」 先にいた藤倉君が、僕を肘で小突いてきた。 「あれ、見てろ」 藤倉君が顎で示した先、綾辻さんは水着のお尻の辺りを指で直していた。 中村君の反応も気になったが、今は自分のことで精一杯だ。 「な、何だよ」 「うれしくないか?」 「やめようよ」 「何で……。そうか。さっき、たっぷり密着したもんな」 藤倉君もにやにや笑い。 「そんなんじゃないよっ」 僕は叫んでいた。 何事とばかりに、周りの人が一斉に振り向く。綾辻さんの視線もあった。 僕は押し黙って、空とぼけた。 やがて自由時間になった。みんな水に入って、はしゃぐ、騒ぐ。 「槙君」 ここでも、彼女が声をかけてきた。 「何、綾辻さん?」 さっきからからかわれ気味の僕としては、つい、素っ気なく応じてしまう。 「鬼ごっこしようよ。中村君達も誘って。いいでしょう?」 「ええ? 女子だけでやりなよ」 「人数、少ないんだもの。もう少し多い方が、きっと面白いわ。お願い」 「……分かったよ」 別に綾辻さんからじゃなくても、女の子に頼まれると弱い。 中村君達に話を伝えると、承知しながらも、再度からかうような、あるいは 妬んでいるような口ぶりで言った。 「やっぱり……。なっ?」 自由時間の間中、ずっと鬼ごっこをしていた。 綾辻さんが鬼になると、いつも僕を追っかけてくる。気のせいじゃない。 彼女は大胆だ。もし飛島さんがいて、僕が鬼のとき、あからさまに飛島さん ばかり狙うなんて、とてもできない。 自由時間が終わると、しばらく休憩。水泳場から上がって、身体を休める。 「どうして水泳部に入らないの?」 佐伯さんと綾辻さんが、揃って聞いてきた。僕は今のところ、どこの部にも 入っていない。先生から、早く決めなさいと言われているのだけど。 「期待してたのに」 特に佐伯さんは、残念そうにしている。 「さっきも見てたんだけど、速いよ、槙君」 「入る気はあったんだけど、部員、男子が少ないから、恥ずかしいもんな」 「そんなことないって。今を逃したら、大会、なくなるわよ」 「僕は別に……。そうだ。僕を誘うぐらいなら、隣の綾辻さんを」 「そうなのよねえ」 声の調子を高くする佐伯さん。 「綾辻さんったら、隠してるんだから。あんなに速いなんて、知らなかった」 「調子がよかっただけ」 ごまかすように笑う綾辻さん。 「そお? 信じられない。どこかで練習してるんじゃないの?」 「練習だなんて……。でも、泳ぐのは好き。お父さんが健康のためにやっとけ って言うのもあって、小さい頃からスイミングスクールみたいなことを」 「やっぱり、練習してるんじゃない」 口を尖らせる佐伯さん。 綾辻さんは、慌てたように手を振った。水滴がかすかに飛び散る。 「そうじゃないってば。遊びよ。毎週二回、二時間から三時間ぐらい、市立運 動公園の屋内プールでゆっくり泳いでるだけ」 「あそこなら知ってる。私も行ったことあるけど、見かけないわね。何曜日に 行ってるの?」 「だいたい、水曜日と土曜日。学校が終わってから」 「そうなんだ。今度、一緒に行かない?」 「いいけど……槙君も来ない?」 突然、話を振られて、僕は驚いた。 「何で僕が」 「知っている人が多いほど楽しいもの。いいよね?」 これまで一人で通っていたはずなのに、おかしなことを言う。 「他に僕が知ってる男子がいなきゃ、嫌だよ。」 「そんな無茶な」 あきらめ顔になったのは佐伯さん。僕らの組に、男の水泳部員はいない。そ れに、わざわざ毎週、水泳に付き合うほど泳ぎ好きな者もいない。 「無理に誘ったら悪いわ」 珍しく、綾辻さんもあきらめてくれたらしい。 「だけど、もしも気が向いたら来てね」 「あ、うん。分かったよ」 上の空で返事した。向こうで見学している飛島さんと目が合ったような気が したから。相手はすぐに視線を直したけど、僕の心臓はどきどきしていた。 「槙君?」 綾辻さんの、何故かしら不安そうな表情が近くにあった。 「似合ってる。かわいいね」 中村君が盛んに誉めている。彼が言うと、何でもない台詞がちゃんと格好つ くから、不思議だ。 僕らの前には、同じ組の女子三人。飛島さん、綾辻さん、喜多嶋さん−−修 学旅行でも仲よくしてた子ばかりだ。でも、夏休みに入って初めて会うから、 久しぶりな感じがする。 「お世辞、うまいのね」 喜多嶋さん。夏休みも陸上部の練習はあるらしくて、よく日焼けしている。 「お世辞じゃないって。なあ、藤倉?」 当然のように、藤倉君へと話を向ける委員長。 喜多嶋さんを好きな藤倉君は、ほんの少し顔を強張らせてから、 「うんうん。お世辞じゃない」 と、早口で言った。その様がおかしいのか、喜多嶋さん達女子は、口元に手 を当てながら見返してくる。 「揃って浴衣なんて、偶然?」 中村君が聞く。僕ら男子三人は、普通の格好してる。 「綾辻さんが言ったのよ。ね?」 飛島さんの言葉に、綾辻さんは黙ったまま、うなずいた。手のうちわを、ゆ っくりと動かしている。 続ける飛島さん。 「綾辻さんが、お祭りに行こうって、電話で誘ってくれたのよ。そのとき、浴 衣持っているんだったら、着て行こうと言うから」 「もしかして……」 僕は思い出して、綾辻さんを見た。 「花火、持ってるんじゃないの?」 すると彼女はうれしそうに微笑み、うちわを持っていない方の手に提げた袋 の口から、花火を覗かせた。 「あとでやろうね」 「祭のプログラムの最後、花火大会のはずだけど?」 中村君が言った。比較にならないということだろう。 「いいの。それが終わってから、河原に出て」 心に決めている様子がありありと窺えた。 それから僕ら六人はひとかたまりになって、あちこちの露店を回った。 「うまいなあ。全然破れてないじゃんか」 感心されてしまった。 今やってるのは、金魚すくい。手元のお碗には色鮮やかな金魚が、すでに三 十匹近くいるはず。もう少ししたら、新しいお碗をもらわないといけない。 元々得意だけど、さっきから輪投げ、射的と惨敗しているから、気合いが入 ったのも事実。 「店が潰れちまうよ」 店のおじさんが苦笑いしながら、お碗をくれた。早速、赤いのを一匹すくう。 「もっと大きいの狙いなさいよ」 喜多嶋さんが注文をつけてきた。僕のちまちましたやり方は気に入らないら しい。その証拠に、彼女はいきなり大物を狙って真っ先に破いている。 「今から狙っても、破れてしまうよ」 「そりゃあ、槙君の自由だけど。うーん、いらいらするのよねえ」 「そっちに行った、赤いのを取ってあげて」 右隣の綾辻さんが指さす先には、確かに赤い金魚がいた。 「そんなに言うなら、自分でもやればよかったのに」 金魚すくいは遠慮すると言って、綾辻さんだけやっていないのだ。 「私には無理。ほら、そこ」 「そんなに乗り出すと、袖が濡れるよ」 僕が言って、中村君が綾辻さんの袖をたぐってあげる。その様がおかしくて、 手元が狂った。少し、紙が破けてしまった。 「早く取って」 「そんなに焦らすなよ」 「だって、その赤い金魚、さっきすくった赤いのと仲がいいみたいなんだもの。 早く一緒にしてあげないと、かわいそう」 「へえ?」 僕だけでなく、他のみんなも感心したような声を上げる。 「そんなところまで見ていたの?」 飛島さんが腰を屈めて、僕の左横に来た。 「ええ。寄り添うように泳いでいたから、絶対っ」 「どの金魚?」 「そこ。今、角に」 「これね。槙君、一緒のお碗に入れて、確かめてみたいわ」 「はいはい、分かりました」 僕はそーっと両手を伸ばし、紙が比較的丈夫な部分を水面下にくぐらせた。 「よっ、と」 右手首を返すと金魚が跳ね上げられ、左手のお碗に入る。 「さっすが」 「それで、一緒に泳ぐかな?」 全員で覗き込む。赤い金魚二匹は、確かに並んで泳ぎ始めた。 「ね?」 ほっとしたように笑みを浮かべる綾辻さん。 「おじさん、もらえる金魚は二匹まででした?」 「そうだよ」 店の奧の張り紙を示すおじさん。 何匹すくっても、あるいは逆に零匹でも、二匹もらえる。あとは、すくった 引き数に応じて景品がもらえるようになっていた。 「じゃあ、槙君。もらうのはこの二匹にしよっ。いいでしょう?」 −−未了
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