長編 #3363の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「仕方がない。な、槙君?」 「え? 着替えるの?」 中村君はうなずくと、綾辻さんから浴衣を受け取った。 仕方がないのは、僕の方だ。僕も浴衣をもらって、綾辻さんがこちらに背を 向けたのを確認してから、さっさと着替えた。 「終わった?」 「終わった。まじな話、涼しい感じがするよ」 「−−似合ってるね」 僕らに向き直った綾辻さんは、満足そうに微笑んだ。 「綾辻さんもね」 「ありがとう。−−考えたら、もったいないよね。この格好して、部屋の中に いるだけなんて。花火でもしたい」 「無理なこと言う」 口ではそう応じながら、僕は頭の中でその場面を空想する。綾辻さんもいい けど、飛島さんの顔を当てはめた。 「旅行のときじゃなくたっていいじゃないか」 と、中村君。 「夏休みに祭り、あるよね。そのとき、浴衣着てさ、みんなで花火やるって、 結構いいかも」 「そうね。火を使うと、親がうるさいけど」 唐突に現実的なことを言い出す。 「チャンスあれば、夏休みにやろう」 「うん」 ここらがいい機会だと、僕は判断した。腰を上げ、扉に向かう。 「どうしたの?」 「ちょっと……トイレ」 言って、僕は中村君にだけ分かるよう、目配せした。 実は頼まれたのだ。さっき、この部屋に戻る途中、中村君が言ってきた。五 分だけでいいから、二人きりにさせてほしいと。二人きりというのは、無論、 中村君と綾辻さん。 僕がびっくりして目を向けると、中村君は慌てたように付け加えた。気持ち を伝えてみるだけだから、変なこと考えるなよって。 僕はそのとき、返事に少し迷った。綾辻さんが僕のことを好きらしいことを 言うべきかどうか。結局は、言ってもどうにもならない、僕一人じゃそれを証 明できないし、綾辻さん本人に言わせるのもおかしな話だと思い、何も告げず、 中村君の希望を受け入れることにしたのだ。 ただし、部屋の戸を開けて、浴衣姿の綾辻さんを見た瞬間、僕は約束を忘れ たくなった。それほど、きれいだった。でも、やっぱり約束を破ることはでき なかった。 廊下をぶらぶらしていると、見張り役らしい先生に、どこに行く?と呼び止 められたけど、まだ早い。時間稼ぎのため、喉乾いたから、水飲んできていい ですかと頼んだ。 「ジュースを買って無駄遣いは感心できんなあ」 「ジュースじゃないですよ。水。ウォータークーラー、どこかにあったと思っ て……」 「ああ、それなら一階の食堂の手前だ。早く行ってこい」 僕は先生から見える位置では走って、あとはことさらゆっくり歩いた。 そして、充分、時間が経ったのを見計らい、僕は部屋に戻った。 室内の空気は、先ほどとは微妙に変化しているような気がした。 「遅かったね」 綾辻さんが口を開いた。意外な印象。中村君が気持ちを打ち明けたら、結果 はどうであろうと、少なくとも彼女の口数は減るだろうなと思っていたのに。 それとも、照れ隠しなのかも。そう思って見れば、心なしか彼女の頬が赤いよ うな気がする。 「ついでに水を飲んできたんだ」 言い訳しながら、今度は中村君が気になる。横目で観察する限り、普通だ。 ただ、細かく言えば、しきりと頭に手をやっていて、目の動きがせわしない。 彼女からの返事がどうだったのか聞いてみたいのだけれども、この状況では 難しい。ひそひそ話してるところを、もしも綾辻さんが聞きつけたら、怒るだ ろうな。僕のことを嫌いになるだろうか? 分からない。 館内放送があった。消灯五分前と言うことだ。 「真っ暗だと眠れないとか、ない?」 と、綾辻さん。久々に話題を見つけた、という響きがあるようなないような。 「自分は別に。どちらかと言えば、真っ暗じゃないと眠れない質だよ」 答える中村君の口調は、すでに普段通りに戻っていた。 「僕も、暗くても平気」 家では小さな灯りをつけているけれど、あれは安全のため。 この旅館だって、明かりが消えても、入口の脇の電灯はついたままのはずだ。 とりあえず、室内灯のついている内に、布団にもぐり込んだ。部屋の奥から 僕、綾辻さん、中村君の順。彼女が真ん中を選んだ。 「二人とも、いつも何時ぐらいに寝てるの?」 「そう言う綾辻さんは?」 「十時に」 「何があっても十時?」 にわかには信じられなくて、聞き返した。 「そうよ。毎日、ちょうど八時間眠るように心がけているの」 「健康的だね」 「ええ」 中村君の言葉に、綾辻さんは短く返事した。 「僕は、観たいドラマがある日は、十一時を過ぎることもあるけど」 「あと、野球。放送時間が延長されたときなんか、ずるずる観てる」 「そうそう」 「男の子って、本当に野球好きよね。何が面白いの?」 「何がって−−あ」 灯りが消えた。九時十五分が来たらしい。一瞬、しんとする。 含み笑いが聞こえた。綾辻さんだ。 「怪談でもした方がよさそうね」 「やめよう」 即座に僕は反対した。怪談は……苦手だから。 「恐いの? 男なのに」 「男だって何だって、恐いものは恐いんだよっ」 「強くない男の人は好きになれないな、私」 別に君に好かれなくたって、と言おうとしたけど、中村君の方が早かった。 「綾辻さんて案外、古風だね」 「そう?」 「男は強いものってことは、女は守られるものってことだろ? この考え方は 凄く古い−−」 「女が強くてもいいのよ。でも、強くなくたっていい。どちらでもいいの。だ けど、男は絶対に強くなきゃだめ」 「ふうん。僕は合格?」 中村君の問いかけには、真剣味と冗談が同居している。そんな風に感じられ た。僕は綾辻さんの返事に神経を集中させた。 答を待つ時間がやけに長く感じられる。 部屋は静かすぎて、呼吸の音が聞こえてくるようだ。 やがて彼女が答えた。 「強さなら、合格かもしれないわね」 「よかった」 中村君の反応は小さな声。顔は見えないけど、ほっとしているのが手に取る ように分かった。 と言うことは、さっき僕がいない間に気持ちを告げて、どんな返事をもらっ たのだろう? ひょっとして……まだ答えてもらってないんじゃないかなと思 えてきた。 「それより、折角だから、もっと男子の考えてること知りたい」 僕らはすぐに返す言葉がなかった。こういう発言が簡単にできるのは、女子 の中でも綾辻さんぐらいだと思う。 「今の男子って、どんなタイプがいいのかしら」 「それは……なあ」 「うん」 僕と中村君は、暗がりの中、離れていても、互いの考えていることがよく分 かった。 「一人一人、違うんじゃないか」 「そう? 思うんだけど、男子って、髪が長いと美人みたいに考えてない?」 これには、僕は何も言えない。僕の好みが髪の長い子というだけなのだが。 それにしたって、綾辻さん、わざと言ったのかい? 「僕は違うよ」 中村君だけそう答えた。 「それじゃあ、性格いいけどかわいくない子と、かわいいけど性格悪い子、ど ちらがいい?」 「……テレビで聞いたことあるような質問」 中村君がぽつりと言う。 「えっと、番組の中では確か、妻にするなら性格重視、恋人にするなら外見重 視とか答えてたっけ、タレントが」 「そういう答はなし。どちらかを選ぶこと」 「それじゃ、僕はかわいい方」 あっさりと答える中村君。 声を上げたのは僕だ。 「え? まじ?」 「大まじめ。だって、よく考えろ。性格は変えられるかもしれないけど、顔は 変わらない」 「整形手術とか」 「作り物だぜ? 性格の方は、変わっても、それを作り物とは言わない」 「そうか……」 奇妙に納得してしまう話だった。 「槙君はどう?」 「……中村君の話を聞いて、影響受けた。僕もとりあえず、見た目優先」 「そういうものなのね」 彼女の言葉に、軽蔑や落胆の響きを見た。 僕はすぐに言い添えた。 「さっきの君の質問に限っての話だからな。要するに、自分と話が合って、見 た目も好みなのが一番いいんだ」 「頭のよさはどう?」 「それは……」 あまり考えたことがないと気付く。 ただ、きれいな子は、たいてい成績もいいような気がする。組でいつも上位 の飛島さんがいい例だ。 そう言えば、綾辻さんもかなりできるみたいだ。 「成績だけで選ぶことは絶対にない」 「中村君の答、当たり前すぎるわ。じゃあね、見た目が同じぐらいかわいくて、 性格も同程度にいい子が二人いたら、成績のいい方を選ぶんじゃない?」 「難しいなあ。詰め寄られると困る」 声の調子から、中村君は僕に話を振りたいらしい。 僕は考え考え、ゆっくり答え始める。 「選ぶ基準の一つにはなるけど、何て言うか……それまでの付き合いの中で、 きっと違いが出て来てると思う。どれだけ分かり合えたかって言えばいいのか ……。それに、好きになるのは片方だけの気持ちでも、結局、二人とも好き同 士にならなくちゃ意味ないんじゃないか?」 「ん、分かる」 綾辻さんの声は、少し弾んでいるよう、僕の耳には聞こえた。 「うまく答えたな、この」 中村君が茶化す。 でも、僕は今がいい機会だと判断した。 「あのさ、綾辻さん」 「何?」 「……飛島さんが誰を好きなのか、分かる……?」 「−−」 ちょっと予想しないでもなかったが、綾辻さんはすぐには答えなかった。中 村君も黙っている。 その内、綾辻さんが答え始めた。あなたは飛島さんが好きなの?とも何とも 聞き返さず、ただ答え始める。 「知っているわ。でも、教えられない。飛島さんから聞いたとき、約束したか ら。誰にも言わないって」 「絶対にだめ?」 「約束はね、守らないと意味ない」 「せめて、僕らのクラスにいるのか、それとも別のクラスの男子なのかだけで もさ」 「だめよ」 即答に意志の固さを感じた。とても口を割ってくれそうにない。 「あきらめるよ」 「飛島さんを好きな奴ら、いくらでもいるんだぜ」 中村君が不意に言ったので、僕は焦った。まさか言うんじゃ。 「飛島さんはもてるわ」 とっくに分かっている。綾辻さんは、そんな口ぶりだった。 ついで彼女は、がらりと話題を換えてきた。 「キスしたことある?」 またもや絶句しそうな話題だ。 「……綾辻さん、君は?」 切り返ししかない。中村君が尋ねた。 「私? うふふっ、ある」 −−未了
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