長編 #3361の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
一日目は、大きな期待と少しの不安とで、頭の中はいっぱい。 お寺とか神社なんかを回るのは、最初に漠然と想像していたよりは興味深く て、面白いものだった。それに何より、お土産屋が楽しい。その一方で、いち いち集まって取る記念写真は面倒だった。 夜、泊まるのは日本風の旅館だった。古くさい建物だけど、何だか伝統があ りそうで、結構緊張。壁に掛かる絵とか掛軸が、高そうに見える。 ともかく、今日、明日は中村君達の班と一緒の部屋だから、気遣いせずに済 む。 「UNOやろう」 食事も終わって、お風呂の順番を待つ間、僕らの班は遊んで時間を潰すこと になった。 「ビリになったら、何か罰ゲームがないとつまんないよな。何かないか?」 藤倉君が札を切りながら、みんなの顔を見る。 「ありがちなところで、しっぺか?」 「ジュースをおごるとか」 色々と出たところで、中村君が言った。 「いいこと思い付いた。負けたら、好きな女子の名前を言う」 「ええー?」 僕も入れた他の四人は一瞬、嫌そうにしてみせた。だけど、案外、面白がっ ているのも事実。 「好きな子なんて一人ぐらいだろうから、一回目の負けのときだけ言えばいい んだ。簡単だろ? それに、みんな、他の奴のを聞きたがるから、一度負けた らあとは勝たせてもらえるさ」 「それ、いただき。いいよな?」 宣言すると、藤倉君は配り始めた。 少しばかり、異様な雰囲気が漂っている。最初に言うのは絶対に嫌だという 風な雰囲気。僕だって嫌だ。 「誰だよ、これ配ったの」 配った当人の藤倉君が嘆いている。「おまえだよ」と寺本君が横手から突っ 込んだ。 今回は、藤倉君が彼自身の言葉通り、最下位になった。他のみんなは、僕も 含めて、ほっとしている。 「さて」 「仕方ないなあ」 後頭部をしきりに掻く藤倉君。 「同じクラスの中からじゃないといけないんだろ?」 「そりゃあ、できればその方が。他のクラスでもいいけど」 「……確かめてなかったけどさ、これ、ここだけの秘密にしてくれよ」 僕らは黙ってうなずく。 藤倉君も安心したようにうなずくと、思い切った風に始めた。 「喜多嶋がいいな、って思ってる」 「陸上部の?」 木曽君が、意外そうに声を上げた。 「見た目、男みたいじゃんか」 「いいの。女子にしては凄く元気いいところが、いいんだよ」 唇を尖らせる藤倉君は、顔が少し赤くなっている。 「いいか。絶対、秘密だぞ」 「分かってるって。どうせ僕らも同じ立ち場に立たされるんだから」 この回、一番に上がった中村君が札を切りながら言った。 勝負は進む。二回目に負けたのは、木曽君だった。 「誰がいい? 正直に言えよな」 最初の犠牲者となった藤倉君は、照れ隠しなのか、まくし立てるように言う。 「えっと、飛島さん」 木曽君が言ったのは、教室で席が隣の子だ。 本当のところ、飛島さんが好みに合っているのは、僕も同じ。大人しい感じ で、勉強はよくできるし、運動も一通りこなす。肩まであるきれいな髪を、赤 系統の髪留めでまとめているのが、とても似合っていて、広いおでこもかわい い。 「ああ、なるほど」 何かしら分かったみたいに、中村君はうなずいた。そう言えば飛島さんは副 委員長だ。中村君と一緒に仕事していることも多い。 「もしかして、おまえも好きなんじゃないのか?」 藤倉君が意地悪そうに笑いながら、中村君を拳で小突いた。 「残念ながら、違うんだなあ」 軽くいなす感じの中村君。 「一緒に仕事してると、知り過ぎちゃって。話してて楽しいけれど、面白くな いんだ」 自慢なのかどうか、中村君は僕らを見ながら喋っている。それにしても意味 の取りにくい表現をする。楽しいけれど、面白くない……? 「それより、他にもいるはずだ、飛島さんを好きな奴。ついでだから言ってし まったら?」 どきりとした。 少し迷うのは、綾辻さんのことが頭にあるから。彼女を好きかどうか聞かれ たら、多分違うと答えるけど、気になるのも事実だった。 対して、飛島さんはお姫様的存在。中村君がいみじくも言った通り、ほとん どの男子が憧れたって当然と思える。 「実は僕も飛島さんがいい」 先を越された。寺本君が、視線をそらしながら言ったのだ。 僕は焦った。今言っておかないと、出遅れを取り戻せない。そんな圧力を感 じた挙げ句、口走っていた。 「ぼ、僕も」 「五人中、三人か。まあ、こんなものかな」 満足そうにしている中村君。彼の想っている女子は、本当に飛島さんじゃな いのだろうか。 「ライバル多いんだから、覚悟しないといけないねえ」 中村君の言葉に、僕と木曽君、寺本君は顔を見合わせた。 「それより、中村君。君の番だ」 「まだ負けてないから」 「それなら、早くやろうぜ」 言って、藤倉君が札を配ろうとしたとき、僕らの前の班の子が部屋の入口に 来た。 「風呂、空いたから」 十分間に区切られた入浴は、慌ただしく始まり、すぐに終わった。騒いでい る暇さえ、ありゃしない。 「さあ、続きやろうぜ、続き」 脱衣所で着替えている最中から、藤倉君が大声を出している。中村君だけが 好きな女子の名前を言っていないのが、よっぽどしゃくなんだ。 「あ、飛島さん」 中村君が急に言った。 彼が見ている方向に、僕らも視線が行く。いた。 飛島さんや佐伯さんらがお喋りしながら歩いてる。彼女達の班もちょうどお 風呂が終わったところらしい。 「一緒にUNOかゲームでもしない?」 中村君が女子に声をかけた。うまく逃げられた気がする。普通、女子を混ぜ た場で、好きな子の名前を言えるはずない。 班長の飛島さんが、どうする?という風に他の二人を振り返った。 「いいけど、髪、乾かさなくちゃ」 女子三人の中では一番髪の短い佐伯さんが言った。 彼女はともかく、飛島さんは特に時間がかかりそうだ。濡れて光る長い髪が、 いつもと違った印象を見せる。 「三十分ぐらいあとでもいい?」 「いいよ。待ってる」 中村君は残念そうにしている。待つ間のことを考えたに違いない。 僕らは部屋に戻って、勝負を再開した。 「三十分、しのがなきゃならなくなった」 「絶対に負かす! みんな、協力だからな」 中村君包囲網ができあがった。 だが、どうした訳か、中村君を最下位にさせられない。彼の一着は防げても、 最下位争いに巻き込めない。運もあるだろうけど、どうやら僕らの方が同士討 ちしている感があった。 部屋の戸が、こんこんと音を立てた。 「来ちゃったけど、いい?」 飛島さんの声だ。 「よしっ、時間切れ」 「くそー」 片方の拳を握る中村君に、肩を落とす藤倉君。 「ちょっとお、いないの?」 こちらが返事しないので、戸の向こう側で、女子がいらいらしている。 「ごめん、開いてるから、入って!」 中村君が言ったけれど、扉に一番近かった僕は立ち上がって、開けてあげた。 「あれ?」 つい、声が出た。 六人いる。飛島さんの班だけじゃなく、もう一班。 「あ、綾辻さん……」 「私達もいいよね?」 ひょこっと、部屋の内へ顔を覗かせる。伸ばし始めたらしい髪が、さらさら 流れる。 飛島さんが説明を加えた。彼女の方は、波打つように豊かな髪をきちんと整 え、垂らしている。 「話してたら、綾辻さん達も言ってみたいってことになって。いい?」 「だめと言う訳ないでしょうが。な?」 中村君は、かすかに顔を赤くしながら、他の男子に同意を求めてきた。別に 異論はない。 十一人となると、さすがに狭い感じがする。正座した膝を付き合わせるよう にして、円になって座る。僕の右は飛島さん、そして左は綾辻さん。 「UNOだと多すぎるかな。他のカードゲーム、何がある?」 「えっと」 藤倉君が鞄の中をごそごそ探している。思いもかけず、喜多嶋さんが来たの で、彼もどことなくよそよそしい。 「何かお土産、買った?」 綾辻さんが聞いてきた。 「まだ別に……。今買っても、重たいだけだから」 「ここのお土産は、今しか買えないわよ。宅配にしたら?」 「そうよね」 飛島さんも加わる。 「私なんか、家族や親戚から頼まれて、大変よ。その苦労の何分の一かでも、 味わってみたら?」 「分かったよ」 飛島さんの笑顔につられて、うなずいた。 それからあとは、お土産や今日の観光の話なんかで盛り上がりながら遊んだ。 僕は一つ、思い当たる点があった。 二日目は曇りがちで、しかも蒸し暑いときたから始末が悪い。 「いっそ、降ってくれえ」 半ばやけになった口ぶりは、藤倉君。何でもないときでもよく走り回ってる 分、汗っかきだ。 「降ったら、昼からの遊園地がなくなるよ。あっても、コースターなんかは無 理になるかも」 冷静に指摘する中村君。実際、雨天の場合は近くの美術館見学に変更される ことになっている。落差がありすぎて、比較にならない。 「それはまずい」 藤倉君は大人しくなった。 愉快そうにする中村君を見て、不思議な感覚にとらわれる。僕の方は、今晩 のことが気になってしょうがないのに、同じ立場の彼は一言も口に出さない。 昼食後の休憩時間に、聞いてみることに決めた。 「何だい、話って。わざわざみんなから離れるほど、重要なこと?」 班長であり、委員長でもある中村君は、時間を気にしている。僕も長引かせ る気は毛頭ない。 「昨日のゲームだけど」 「ん? 槙君まで、僕の好きな子をそんなに知りたい訳?」 「分かったつもりだけど……君が好きな子」 僕は言った。 「へえ」 中村君の表情が微妙に変化したように思う。目が泳いでいる。 「言ってみなよ」 「女子を入れてカードゲームやってる間は、罰はしっぺだったよね。中村君、 一度だけ一番を取って、叩く役になった。でも、凄く大げさな身振りだったか ら、全員がよけた」 「あれは失敗。みんなを甘く見てた」 「わざとじゃない? 普段の君からじゃ、考えられないぐらい、遅すぎたよ。 それから、他の、叩かれる場合だけど……。何度かはよけて、何度かは叩か れていたよね」 「当然じゃないか」 中村君の口調は、少し怒っている感じがあった。 「僕、気が付いたんだ。君がよけるときは、ある女子の手が下にはなかった。 よけないときは逆に、その女子の手が必ず下にあった」 −−未了
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