長編 #3353の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
去年、他のネットで三題話(手紙・注射・弟)の企画をやったとき、二晩で仕 上げて一番乗りでuploadしたことだけが自慢、というものです。 ---------------------------------------------------------------------------- (三題話 手紙・注射・弟) 『遺書』 登場人物 康夫 卒業間近の大学生 浩二 康夫の友人 舞台 安アパートの一室 正面に締め切ったガラス窓。舞台の中央に、枕を下手に置いて、布団が敷き延べら れている。その枕元に座卓と座布団。窓の下に小さな本棚、くずかごが並ぶ。 康夫が座卓の前に端座している。やつれてはいるが、悟りきった落ち着いた表情で、 数枚の便箋を読み返している。 康夫: 常に変わらぬ愛情を注いでくれた君に。私の死がどれほどの苦痛を君に与え るのか、それを思うと胸にかすかなためらいもある。しかし残酷な言い方だ が、このような私を愛したのは君自身の失敗だった。だから、悲しみを乗り 越えるのは君の責任だ。君にはできる。そしてその後にもっと強い、もっと 輝いた君が生まれているはずだ。 真摯な言葉を交わし合った友よ。君たちは私のことを逃亡者だと思うだろう か。人生の深淵を前におじけづいた臆病者だと思うだろうか。 便箋を封筒に収め、机の上に置くと、立ち上がって、ゆっくりと下手に消える。 下手から、シューシューというガスが漏れる音が聞こえだす。 再び下手から現れ、中央の布団の上に仰臥し、両手を胸の上に組み、目をつぶる。 康夫: (仰臥のままで)文学を志した者がしばしば陥る人生の罠に、才能ある青年 がまた命を散らしたと惜しむ声もあるだろう。溢れる才能に溺れ、自滅の道 を辿った愚かな若者と蔑む者もいるだろう。しかし、そのときすでに私はそ こにいないのだ。 ひとつ深い嘆息をつく。 康夫: もう、何も考えるのをやめよう。 しばしの静寂。ガスの漏れる音だけが聞こえる。 十五秒ほどあとに、上手で突然扉の開く大きな音が響く。 紙袋を抱えた浩二が、上手から血相を変えて飛び込んでくる。 浩二: なにをしているんだ。馬鹿野郎っ! 康夫、仰天して布団から飛び起き、あたふたと取り乱す。 浩二、抱えていた紙袋を床に落とし、康夫の前を駆け抜け、下手に消える。 ガスの音が止む。 浩二、すぐにもどり、窓を乱暴に開いて、座布団でガスを外にあおぎ出す。 康夫: (胸を押さえて独り言で)ああ、びっくりした。死ぬかと思った。玄関の鍵 をかけるのをわすれたんだ。 浩二、しばらく座布団を振り回したあと、それをわきに投げ捨て、康夫の前に座る。 康夫、ようやく落ち着き、先程の表情にもどっている。 浩二: まったく……。(嘆息) 康夫: (下を向いたまま)怒らないでくれ。 浩二: どういうつもりだ。 康夫: 考え抜いたすえの結論なんだ。 浩二: ぼんやり考えごとなんかしているから、こんなことになるんだ。 康夫: 他に道はなかった。 浩二: 俺が来るのがもう少し遅かったら、死ぬところだったんだぞ。 康夫: あ? 浩二: 普段からぼーっとしているから、いつか大怪我でもするんじゃないかと心配 していたんだ。 康夫: (何か話が食い違っていることに気が付き初めて)あ、いや、俺はいま死の うと思って……。 浩二: (相手の話を全く聞かずに)ガスを使うときはちゃんと火が付いていること を確認する。こんどから気を付けろよな。 康夫: お前、俺が何をしようとしていたのか、わかっているのか? 浩二: インスタントコーヒーでもいれようと思ったんだろう。やかんの中には水も 入っていなかったぞ。しょうがない奴だ。 康夫: (次第に苛立って)あのなあ。 浩二: ちくしょう、何しに来たのか忘れるところだった。麻雀しようぜ。 康夫: (あきれて)麻雀? 浩二: 竹内たちがうちにきているんだけど、メンツが足りないんだ。どうせ暇なん だろう。行こう。 浩二、立ち上がりかける。 康夫: (低くつぶやくように)お前は真面目に人生のことを考えたことがあるのか。 浩二、康夫の言葉は聞こえていない。何気なく、本棚から文庫本を一冊取り出す。 浩二: (表紙を見ながら)文学、文学なんていっているけど、お前でもこんなのを 読むんだな。赤川次郎。 康夫: わあっ(あわてて本を取り上げる)、これは弟がガールフレンドを連れてき たとき、そいつが忘れていったんだ。(吐き捨てるように)だれがこんな物 を読むか。 康夫、本をくずかごにたたき込む。 浩二: お前の弟はもてるからな。(ひやかすように)見せびらかされて腐っていた んだろう。(鼻をくんくんいわせながら)もういいか。 浩二、立ち上がり、窓を閉める。 康夫: (くずかごの中をにらみながら、独り言に)こういう物はちゃんと処分して おかなければいけないな。後に残った者たちに、つまらない誤解を与える。 浩二、座卓の上の封筒に気づき、手に取る。表情が変わる。 浩二: お前、まさか……。(康夫を見つめる) 康夫: (独り言で)やっと、気が付いたか。 浩二: (うめくように)どうして親友の俺に一言相談しなかったんだ。 康夫: 人に話して解決される問題ではない。(顔を背け)これが俺の人生だったん だ。 浩二: あの女はよせと、なんども言っただろう。(失望したように)それをまた未 練たらしく手紙なんかを書いて。 康夫: (混乱して)何を言っているんだ。 浩二: 何もかもがうまくいかないとき、女に安らぎを求める気持ちは俺にもわかる。 でも、あの女はいかん。 康夫: どうしてそんな話になるんだ。
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