長編 #3315の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
三、四時間目が終わって、昼休み。給食の時間が来た。 今日の給食当番に僕は当たっていないらしく、手を洗いに行ってからあとは ずっと座っていられた。 「ねえ」 教科書を読ませてもらっていると、綾辻さんが声をかけてきた。 顔を上げて返事する。 「何?」 「朝の質問に、答えてほしいんだけど」 「朝の……」 相手の言葉を繰り返そうとして、すぐに思い出した。 僕は、彼女の目をじっと見返し、やがてそらした。何故か知らないけど、恥 ずかしい。 「いいでしょう? 今なら他に誰も聞いていない」 「で、でも……」 言い淀んでいると、手から教科書を取り上げられた。 「簡単でしょう。好きなタイプ、言えばいいんだから」 「……」 「まさか、女子より男子がいいなんて?」 「そ、そんなことないよっ」 慌てて答える。 綾辻さんは−−何故か−−、笑っていなかった。 「あ、遊ぶのは男同士の方がいいけど、好きなタイプって言われたら、当然」 「だったら、聞かせて。興味ある」 彼女がそう言ったところで、給食を取りに行く順番が回ってきた。 立ち上がって、列の一番後ろについた。みんな並んで、お盆におかずやご飯 を載せて行く仕組みになっている。 教室の後ろを見ると、まだ順番が回らない綾辻さんが、所在なげにしていた。 僕が給食を持って戻ってくると、今度は入れ替わりに綾辻さんがいなくなる。 話が再開されたのは、全員そろって「いただきます」と唱えたあとになった。 「ね、聞かせて」 「……だけど、人に話すなんて……」 「じゃあ……好きな有名人を言ってみて。もちろん、女の」 「……それもちょっと。どうせ、好きなタイプに関連づけるんだ」 「もちろん。決まっているわ」 「嫌だな。−−き、君こそ答えられるか? 好きなタイプ」 「私が言ったら、答えてくれる?」 すっと顔を寄せてきた。また、どきどきしてしまう。ちっとも箸が動かない。 別の意味でも、僕は慌てていた。だって、彼女が答えるとは思っていなかっ たのだから。 僕の予想をあっさり裏切って、綾辻さんは答える気配だ。 「私が好きなタイプは」 綾辻さんの声は、さすがに小さく、低くなっていた。 「ちょ」 僕は一層慌てて、彼女の言葉をさえぎろうとする。が。 「槙君よ」 言い切ると、彼女は僕をまっすぐ見つめてきた。 僕はしばらく、ぽかんとしていた。と思う。 はっと気付いて、急いで視線をそらす。自分の顔が赤らむのが、鏡がなくて もよく分かった。ごまかすために、ご飯を適当にかき込む。 「さあ」 綾辻さんは次にそう言った。私が答えたのだから、あなたも早く答えろとい う意味だろう。 「じょ、冗談だろ?」 これが僕の精一杯の返事。 「本気で言ったわよ」 「し、信じられるもんか。今日、初めて会ったんだ」 「悪いかしら。一目惚れという言葉もあるし」 「……僕に答えさせようと、適当に言ったな」 「そんなことない。今はまだ印象に過ぎないけど、これからちゃんと好きにな れるかもしれない。予感がする」 全然笑わない綾辻さん。 真面目な表情で予感がするなんて言われると、気味悪くさえ思えてくるじゃ ないか。 「答えて、お願い」 彼女はお祈りするように手を合わせてきた。何故、こんなに必死なんだろう。 「あの、綾辻さん」 「私、槙君の好きなタイプになるよう、努力してみるから」 「え−−」 何も言えなくなってしまう。 僕は自分の容姿に劣等感を持ってはいないけれども、凄くもてるんだなんて いう意識もない。 でも、綾辻さんの言葉を聞いてると、一目惚れされたのかなと思えてくる。 それに僕自身、彼女にどきどきさせられているのは、彼女がかまってくれる こと以上に、僕に原因があるような気がする。 「すぐじゃなくてもいい」 不意に、綾辻さん。 「でも、なるべく早く、私、槙君の好きな『女』になる。だから槙君も」 あとの言葉は、もう聞こえなかった。何が何だか、理解できない。ただ、音 だけが耳に入ってくる。 「WATASIWOSUKININATTE」 僕も綾辻さんを嫌いじゃなかった。 最初の日は、びっくりさせられるばかりで、ほんの少し、恐くもなった。 けれど、次の日からはほとんど何も言わなくなった。普通に戻ったという感 じである。 僕は安心した。いや、それどころか、逆に、彼女が好きと言ってくれなくな って、焦りを感じさえした。 だから、僕は自分から動いた−−。 「こんな感じ?」 彼女が釦をかちかちと押した。 画面には、様々な髪型の『綾辻織栄』の顔が並ぶ。四×五で二十通りある。 髪の長い子が好みなんだと言ったら、その日の放課後、綾辻さんにこの部屋 に連れて来られたのだ。 「コンピュータ教室、ここの方がずっと立派だなあ。さすが都会」 「今、そんなことに感心しなくてもいいでしょう。どういう長い髪がタイプ?」 「……」 ゆっくり、横目で画面を見やる。答えないと終わらない様子だ。 「……この、まっすぐなのと……後ろをリボンで結んでいるやつ」 「ストレートかポニーテールね。案外、伝統的なのが好きなのね」 「そうなの?」 僕は首を振った。何が伝統的なのか、よく分からない。奇抜なのを排除し、 綾辻さんに似合っているのを選んだら、こうなった。まっすぐなのは、大人し い感じがする。後ろで束ねてある方は、活動的だ。無論、両方とも僕が好きな 髪型だった。 「何ヶ月かかるかしら」 憂鬱そうな綾辻さん。現時点での彼女の髪は、うなじを隠す程度だ。 髪をなでながら、彼女が言った。 「最低でも、あと五センチか六センチほしいな。待っててくれる?」 「う、うん」 戸惑う。こんな彼女に、僕は戸惑う。 こちらから、付き合う−−なんて『いけない』表現なんだろ!−−意志は示 していない。 綾辻さんが僕を好きだと言ったのも、あの一回きり。「私が好きなタイプは 槙君よ」のあれだけなんだ。本心から言ったのかどうかさえ、今となっては怪 しく思えてくる。 彼女は僕の好みの女の子になろうと、懸命に努力している。好きになったら、 ここまで相手に合わせようとするものなんだろうか? 分からない。 「もうこんな時間」 彼女の言葉につられ、壁の時計を見る。 「時間がなくなるわ」 綾辻さんは立ち上がった。 本で調べたら、人間の髪の毛って、ひと月で約六粍伸びるんだって書いてあ った。綾辻さんの言ってた六糎を達成するには、それを十回繰り返さなくちゃ ならない。 実際にそのときが来たのは、ふた月早かった。彼女が五糎で妥協したのか、 それとも髪の伸びが早かったのかは分からない。 「これ」 放課後、僕を図書室に連れて来てから、綾辻さんは小さな箱を取り出した。 「これって……何?」 手に小箱を押し付けられながら、問い返す。 「今日、何の日か分かっている?」 「二月十四日、金曜」 口にしてから、納得した。 「……ああ」 「チョコレート。本命」 改めて、受け渡す動作。 彼女の長くなった髪が、さらさらと揺れる。 「私を好きになってくれたのなら、受け取ってください」 ちょっと、変わった告白だった。 僕はこれまで、女子から贈り物をもらったことはあったけれど、告白はこれ が初めてだ。だから、変わってるかどうかを言うのはおかしいかもしれない。 でも、綾辻さんの言葉は、何だか不思議に響いた。これまでのいきさつがな かったら、きっと、もっと不思議に感じたろう。 「もらう、もらうよ。その、ありがとう。ずっと前から、綾辻さんのこと、気 になってた」 「完全に、私を好きになってくれた?」 確認するような口調。 僕は強くうなずき返した。 「そう。よかった」 彼女は言った。 けれども。 少しも嬉しそうじゃない。僕好みの女の子になろうと一生懸命だった昨日ま でとは、がらりと変わったような印象を受ける。今の彼女は、僕が転校してき た日、最初に僕に接してきたときの彼女のよう。 僕は声をかけようとした。 が、綾辻さんの言葉が先だった。 「三月一日、空いてる?」 「え?」 「来月、三月一日、時間あるかしら?」 「……えっと……何曜日?」 「土曜よ。お昼、学校が終わってからでかまわない。ぜひ、家に来てほしいの」 「家って、綾辻さんの家?」 「もちろん。私の家。誰もいなくなるから、さみしい気がして。だから、来て。 お願い」 「誰もいなくなる? ちょ、ちょっと、何時までいればいい訳?」 汗が出て来た。それほど突然の展開。 「できるだけ長く」 「……夜の七時までなら、いいと思う」 綾辻さんは考える顔つきをかすかに見せた。 「いいわ。約束したわよ。学校が終わったら、そのまま私の家に行こうね。少 しでも長く、二人でいたい」 「い、いいけど」 照れてくる。 綾辻さんが何のためらいもない様子なのが、照れに拍車をかけた。 「きっとよ」 彼女はようやく笑顔を見せた。 と思ったら、彼女の腕が伸びてきて、僕の肩へと回された。背の高さはほぼ 同じ。 「な」 一言も発する間はなかった。 彼女の顔が近付いてきて、彼女の両眼が閉じられ、彼女の赤い唇が僕の口を 塞いだ。 最初、そっと触れて、ほんの一瞬だけ離れた。びっくりしてしまった僕が、 身を引いたのかもしれない。 その判断ができないまま、再び触れ、強く押し付けられた。 何秒間かが経過した。 「−−」 綾辻さんが離れて行く。手も僕の肩から離れた。 終わるまでは長く、終わってみると短かった。 「 す き 」 抑揚のない言い方をしながら、僕を見つめてくる綾辻さん。 僕が何も言えないでいると、彼女はきびすを返そうとするのが分かった。 「ぼ、僕も」 慌てて口を動かす。 彼女は立ち止まった。こちらを振り返る。 「僕も君が、好きだ」 綾辻さんは、黙って首を縦に振った。髪の毛が揺れた。 −−未了
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