長編 #3240の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
推理研全員でぎりぎりまで考えた結果を、取り急ぎ、記します。 宗像は藤村美代を殺し、その罪を中井さんに被せようと計画していたのでは ないか。そう考える理由。 1.それまで疎遠だった中井さんを北海道に来させたがっていた。 2.中井さんが来る日の天気を気にしている(中井さんが来る日に合わせて 殺人を決行するため)。 3.計画的殺人の現場を自宅にした不自然さ。自宅で殺人を犯した場合のデ メリットに、遺体を運び出さねばならないという点があるが、もし中井さ んに濡れ衣を着せるのであれば、遺体を放置しておいてよい。 4.木林の存在。木林は中井さんの北海道行きを色々と気遣っていたのは、 宗像にその模様を逐一伝えるためではないか。留守番電話に残されていた 木林のメッセージは、犯行が成功した際の宗像からの連絡がないのを不審 がった木林が、我慢しきれずに電話したのではないか。宗像の死を知った 木林が、何もかも放り出して北海道に飛んだ理由も説明がつく。 以上の四点が思い浮かびました。一つが気になり出したら、すらすらとつな がりましたが、いかがでしょう? 自分達の推測では、宗像と木林が共謀の上、 藤村美代を殺害し、その罪を中井さんになすりつける計画だったが、逆に宗像 が死んでしまった。そんな感じになります。 気になるのは、やはり藤村の供述です。これが本当であれば、誰が宗像を絞 殺したのか? 木林のアリバイはしっかりしているんですよね? だったら、 藤村美代が現場を去ったあとに、宗像に恨みを持つ誰かがたまたまやって来て、 重傷の宗像を見て幸いとばかり、絞め殺したとしか思えません。木林の他に宗 像の共犯を演じた人物が存在すれば、話は別なのですが。 もう時間がありません。中途半端ですが、ここまでで送信します。推測なん て言葉を使っていますが、当てずっぽうには違いないので、最終的判断は奥原 さんにお任せします。 札幌の次は苫小牧を回られるんですね。気をつけて、無事に帰って来てくだ さい。 N大学推理小説研究会一同 * * 奥原は、中井佳寿美の後ろ姿を見守るしか、できないでいた。 「来なければよかった」 風に向かって、中井が言った。風の音にかき消されてしまいそうな、弱々し い声。 「宗像さんを−−Mを失っただけでもショックなのに……彼の気持ち、完全に 離れていたのを思い知らされちゃった」 奇妙に明るい調子の中井は、奥原へと振り返った。頭には、いつものように 帽子。 「その上、木林君まで……。すっごくいい友達を持てたんだなって、私、感激 していたのに。どうしてこんなことになるのかな。あは……はは」 笑いが固まる。そのまま顔をくしゃくしゃにして、嗚咽を漏らし始めた。す ぐに、両手で顔を覆う中井。 「わ、私が、Mに会いに来たばっかりに、色んな人が死んだり、犯罪者になっ たり……無茶苦茶! 無茶苦茶よ!」 死んだのは宗像だけではなかった。行方不明となっていた榊奈津江も、三月 九日、水死体となって発見された。 海への飛び込み自殺だった。その遺書には、榊が宗像のもう一人の共犯であ ったこと、彼女の役割が演劇で培った技能を活かして中井になりすまし、いか にも犯人らしく振る舞うこと、計画が狂って宗像が刺されたのを知って変心、 宗像に恨みを抱いていた榊が彼を発作的に絞殺したこと等がしたためてあった。 自ら死を選んだ理由に関しては、宗像を殺害した時点で我に返り、どうしよう もなくなったためとの趣旨があった。 「あっ」 くずおれる中井を見て、奥原は駆け寄り、支えた。 「気をしっかり持って」 「−−誰とも知り合わなければよかった」 奥原の腕の中で、中井は憑かれたようにつぶやいた。 「もう誰とも親しくならない。そうすれば、悲しい目に遭わずに済む。−−そ うですよね?」 「……馬鹿だなあ。困ったお嬢さんだぜ、全く!」 わざと声を張り上げる奥原。 中井はびくりと身体を奮わせ、目を見開いた。 「いいか? 間違っても、今度の事件は自分のせいだなんて思うな。身勝手な 奴らがやったことだ。中井さん、あんたは悪くない! 一歩間違えば、殺人犯 に仕立てられていたんだぜ? 完全に被害者だよ。あんたと付き合っていたM は、上面だけのとんでもない野郎だった。いいな、分かったな!」 今の段階で、宗像の思い出を破壊することがいいことかどうか、奥原には判 断しかねていた。しかし、中井の様子を見ていると、ここで断ち切ってやらな い限り、いつまでも事実をねじ曲げて捉えてしまうのではないか、そんな危惧 に駆られた故、敢えてきっぱりと言い切ってやった。 「−−」 ゆっくりうなずいた中井。 「よし。立てるか?」 「……立てません。手を引いてください」 差し出される中井の白い手。 (まだ甘えてるよなあ。もっときつく言ってやった方がよかったか) と思いながら、彼女の手を取る奥原。 「あ……また」 手を引いてやったその拍子に、中井の帽子が取れ、雪の残る地面に落ちた。 黒髪は、奥原が初めて見たときそのままである。 「帽子をずっとしている理由、当ててもいいかな?」 「……どうぞ」 帽子を手に、小首を傾げる中井。 「失恋したから、だろ?」 「失恋したら、髪は切るものですよ」 片手を口に当て、声なく笑う中井。 奥原は左右に首を小さく振り、改めて言い切った。 「未練があったから、切らなかった」 中井の笑みが消える。その表情を目にし、奥原はさらに続ける。 「切れなかった、かもしれないね。Mの奴と再会できるとなったときは、切ら なくてよかったと思ったろうな。それでも、そんな自分の気持ちが悔しくて、 かな? 帽子をかぶって、いかにも髪を切ったように見せかけて、Mとの再会 を果たそうと考えていた」 「……さすが、探偵さんですね」 ほっとしたような表情になる中井。帽子は、手の中で所在なげにしている。 「切らないのか?」 奥原は、ぶっきらぼうに聞いた。 「Mのことは忘れるんだ。そのために必要なら、髪は切った方がいい」 「切りません」 はっきりとした口調だった。 意外な返事に、奥原は口を開きかけ、しばらくそのまま言葉を探した。どう して?と聞いても、それは彼女の自由なのだと思い直す。 「……」 「奥原さん、私の髪に見とれたでしょう?」 「な、何を」 初めて中井の髪を見たときのことを思い出す奥原。 (−−いや、違う。髪に見とれたんじゃない。きれいな髪を持った君に見とれ てしまった) 顔が赤くなるのを、奥原は意識した。直に社会人となる自分が、高校を出た ばかりの少女に対して、そんな思いを抱くことに、若干の気恥ずかしさを覚え、 また顔が熱くなる。 「ごまかさないでください。私が髪を切らないのは、奥原さんのためなんです から」 「何だって?」 聞き返す奥原の胸に、中井が飛び込んできた。うつむいたまま、上半身を強 く預けてくる。 「お、おい」 戸惑いつつも、とりあえず、彼女の二の腕辺りをつかむ。 「いくら、札幌を離れたからと言ったって、人目がある」 「いいんです。それより……泣かせてください」 「泣く?」 中井が見上げてきた。 「はい。嫌な思い出を忘れるために」 「……それぐらいなら、いいだろう。俺では役不足だろうが」 「そんなことありません。泣いて、全部、吹っ切れたら、私の気持ちを言いま すから−−聞いてください」 再び、奥原の胸に顔をうずめる中井。 奥原は、自分の手に優しさを込めてみた。 * * みんな元気にしてるか? 自分の方も事件からも立ち直り、元気になってき た。報告がてらの便りを書いてみようと思う。 書き出そうとして、この葉書が届く頃には、そっちに戻っているかもしれな いと思ったが、気にしないことにしよう。 事件に関して、色々と意見を出してくれてありがとう。実際にも心理面でも、 助かった。感謝している。お土産に期待してくれていいぞ。 今、札幌を離れて、苫小牧を回っている。一年前の事件現場である「雪月花 荘」は、すでに取り壊されてなくなっていた。どう受け取るべきか、少し複雑 な心境だが、まあ、よいことだとしておこう。記憶にとどめておくだけでいい。 スペースが尽きた。締めくくりは気取らせてもらおう。 −−雪残る北の地より、新しい友人を隣に。奥原丈巳 * * あたし達は部室で、奥原先輩が来るのを、今や遅しと待ちかまえていた。 今日は我が大学の卒業式。後輩は先輩を送るため、式が終わるまで、じっと 待っているのだ。 「新しい友人なあ」 高野君が、高い位置で葉書をぴらぴらさせている。葉書とはもちろん、奥原 さんが旅先から出した物。 「気になる。何の説明もないということは」 そう。北海道から帰ってきた奥原さんとは、今日、初めて顔を会わせるの。 電話で話す機会があったから、葉書にあった「友人」のことを聞いてみたんだ けど、教えてもらえなかった。 「説明がないんなら、それまでの『登場人物』なのよ、きっと」 玉置は、分かったような口を利いた。実際、想像はついてるのだろうけど。 あたしだって、見当はつく。 「やっぱり……彼女よねえ。中井さんっていう人」 あたしが言うと、この場にいる全員がうなずいた。 「『友人』とあるけど、実際はどうなんだろ?」 「『恋人』とか?」 勝手なことを言って、きゃーきゃー騒いでいると、いきなり、部室のドアが 開いた。 「あ、奥原先輩。おめでとうございまーす!」 声を揃えて迎える。 「どーも。何やら、楽しそうに話していたみたいだが」 「えへへへ、そんなことありませんよ」 一番近くにいたあたしは、意味もなく笑ってごまかした。 ついで、身体を横にずらして、奥原さんを室内に迎えようとしたとき、奥原 さんの後ろに、女の人がいるのが見えた。 「先に紹介しておくか」 あたしの視線に気づいたらしく、奥原さんが言った。 「入って」 奥原さんに促され、推理研部室に入ってきたのは、白い肌の女性、いや、少 女だった。つやのある豊かな黒髪が、女のあたしから見ても素敵。 そして、それ以上に、笑顔がかわいかった。 −−終
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