長編 #3231の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
その小柄な青年は、クリス=ロッドといった。 彼は「黒の森」の前に立つと、じっと眺め上げた。青々とした葉が、嫌でも 目に入る。 前々から、噂には聞いていた。よく行方不明になる者がいる森だと。しかし 近頃、行方不明者が多すぎる。森という闇の中で起こる、奇怪な出来事……。 故あって、クリスはそのような類の事件を追っている。 「闇の気術士の仕業かどうか……」 考えていることを口に出したクリス。しばし待つ。 「反応はなし」 やがて彼は、ため息をつく。 (まあ、分かっていたことだ。慌て者の敵ならば、今の言葉を聞いただけで姿 を現すんだが、そうそう間抜けな敵はいないってことさね) と、自分を納得させるためにうなずくクリス=ロッド。 「さあて!」 一つ気合いを入れ、彼は森の一本道の上を歩き始めた。 森の中に入ると、真昼だというのに、太陽光はほとんど射し込んでいなかっ た。しかし、暗くて歩けないほどでもない。が、クリスは念のため、懐中電灯 で前方斜め下を照らしながら、歩き続けた。 しばらく進んでクリスは足を止めた。そして周囲を見回し、適当な木を探す。 (一番最近の行方不明事件は、この辺で起こったはず) 子供達二人が消えた場所は、だいたいのところを事前に聞いていた。 万が一、自らが道に迷ってしまう場合も考え、クリスは準備をしていた。ま ず彼がしたのは、一本道の脇に立つ低木にロープを結び、そのもう一端を自分 のベルトに結び付けることだ。次に、茂みに分け入るときに、小石大のプラス チック片を一定の間隔で地面に落とすと決めていた。そして無論、方位磁石の 携帯。 ここまで彼に用心させる原因。それは、クリスが『闇の気術士』という存在 を認識しているからに他ならない。 刃渡りの長いナイフを取り出す。そのまま、道を外れる。 「なるべくなら、出てほしくないけどな」 クリスは吐き捨てるように言って、一歩を踏み出した。足下にプラスチック 片を一つ、落とした。 公園の時計は、昼の二時過ぎを示していた。今の時間帯、この公園を訪れる 者などほとんどいない。 レイ=スティングは、そんな静かな公園が気に入っている。学校をふけて、 一人、公園でくつろいぐことは、彼にとってなかなかに気分のいいことであっ た。 ところが今日は、公園にもう一人の利用者が現れた。公園の内に入ってくる なり、ベンチに座っているレイ=スティングの方に近づいてきたのは、金髪女 性だった。女性にしては背が高い。年齢はレイより上か。身体の線にぴったり した赤系統の衣服を、目立ちすぎることなく着こなしている。 「君」 真正面からそう声をかけられた。無視するわけにもいかないなと、レイは目 線を上げ、相手の顔に合わせた。 「何でしょうか」 「あらら、素っ気ないわね」 金髪女性はレイの反応を予測していたみたいに、作ったように笑っている。 「初めての人に接するときは、声をかけた側−−そちらから名乗るのが礼儀だ と思いますがね」 「リアよ。リア=ミズリイ」 髪をかき上げるミズリイ。 「私が名乗ったんだから、あなたの名前、教えてくれない?」 「レイ=スティング」 「学生?」 「勉強しない学生」 レイの愚にもつかない冗談を、相手の彼女は大げさに笑った。 「あなた、面白いわね。ますます気に入ったわ。一人でいるくらいだったら、 私と遊ばない?」 「声をかけてきた目的は、それだったんですかね」 「ん……まあ、そうね」 「あいにく、一人でいることがこの上なく楽しい性分でしてね」 「断るつもり?」 これも演技みたいに、頬を膨らませているミズリイ。 「つもり、じゃない。断ったんですよ、たった今」 レイの口調が強くなった。 「一人でいるのって、そんなに楽しいかなあ。私と二人で遊んだ方が、ずっと 楽しいと思うけど」 「根拠ゼロの言い種、やめてくれ」 「な」 さすがに驚いたらしく、あとに続く言葉のないミズリイ。 「全部とは言わないが、自分のことはだいたい自分で分かっている。いいか、 それ以上、話しかけるな、リア=ミズリイさん」 レイは立ち上がると、金髪女性から距離を取った。 「しっ、失礼ね!」 レイの背中に向かって、金切り声を上げるミズリイ。 「ふん、素直になりなさいよ。こんな美人が声をかけているのよ。普通の男だ ったら、放っておかないわ。それともあなた、男の方がいいとか?」 「うるせえ、黙ってろ、ぶすが!」 「何ですって? もう、頭に来たっ!」 頭に来たらどうするってんだと思いつつ、レイは自分の肩越しにミズリイを 見やった。 「大人しく聞かせてあげようと思ったのに、君が悪いんだからね!」 ミズリイは持っていたショルダーバッグを放り出した。 「まさか、やるつもりなのか」 あきれているレイを無視するかのように、ミズリイは奇妙な動きをする。目 をつむり、胸の前辺りで手を交差させている。続いて一度、大きく身体を反ら せた。長い金髪がさらさら流れる。 その格好のまま、ミズリイは目を開くと、こう言った。 「ふふ。幸い、他人の目もないようだし」 「やめとけよ。俺は手加減しない質なんだ」 「結構!」 ミズリイは次の瞬間、交差させていた手を広げた。大型の鳥が羽ばたく様子 にも似て、彼女の両腕は一気に振り上げられた。 「何を−−」 レイの言葉が終わらぬ内に、ミズリイは地を蹴り、放物線を描いて、高く舞 った。その頂点で、彼女は両腕を再び前に振りかぶった。 届くわけないと、見守っていたレイだが、次に慌てることになる。 「何ぃ?」 ミズリイの指先から、白く輝く何かが長く伸びてきたのだ。とっさにかわし たからよかったものの、レイがさっきまで立っていた地面には、十の傷が五本 ずつ、ほぼ並行に残されていた。 「おまえは……」 「ふうん」 何に感心しているのか、ミズリイは何度も小さくうなずいている。 「さすがに気術士だけのことはある。よくよけたわね」 「気術士? 分からんな。それよりもおまえの指だか爪だか知らないが……」 「これかい?」 レイの言葉を遮り、ミズリイは右手をひと振りした。五本の光の矢が、レイ めがけて飛んでくる。今度は地面に伏せてかわしたレイ。その上空を通過した 光の矢は、公園の木々に当たる前に消えた。 「またかわされちゃった。本当、凄いわ」 「……てめえ」 レイは慎重に身体を起こすと、ゆっくりと土を払った。 「質問の途中で、ふざけた真似をするミズリイさん。あんたの服も土で汚して やろう」 「ふ……その方が手っ取り早いかもね」 「何をわけの分からないことを−−。くらってみろ!」 レイは相手との距離を保ったまま、右拳を引くと、一気に前に突き出した。 すると、右の拳全体が光の球に包まれた。かと思うと、その球体は拳を離れ、 相当のスピードを持って、ミズリイめがけて飛ぶ。 「−−きゃっ!」 ミズリイは一瞬、ためらったようだ。自慢の光の爪で応戦するか、それとも 素直によけるか。そのため、間一髪のところで辛くもかわす結果になってしま ったらしい。 「今なら、しりもちぐらいで許してやる。きれいな服に土も付いたことだしな。 まだやるつもりなら、それでもいい。あんたのその爪に興味がわいてきた」 じりじりと相手に近づくレイ。 「ふん!」 ミズリイの方も負けん気が強いようだ。 「君の気術力じゃ、私に勝てるかしら? 確かに速い。それだけ。命中率はか なり低いと見たけれど、いかが? 距離さえ保てば、私の勝ちよ」 「だから、こうやって近づいているんだよ、おねえさん」 低く言い切ると、一気に間合いを詰めたレイ。そのまま、半身の態勢のミズ リイを押さえにかかる。 「ご、強姦に間違われるわよ!」 「面白いね。他人の目がないことを確かめたのは、あんただ。いくぜ。ここか らなら外しはしない。例えその爪に切り裂かれても、一発、顔にお見舞いして やるっ」 右手の拳をかまえるレイ。拳に光が宿る。 「さあ、もう一度聞く。負けを認めて、謝るならそれでよし。それができない なら」 「……やってみなさいよっ」 「いいだろう」 レイは躊躇なく、拳を振りかぶり−−。 しかしそのとき、急に腕の動きを封じられた。輪をかけられたような感覚。 そのまま、後ろの方に引っ張られている。そう、実際に投げ輪ようの物で引っ 張られているのだ。 レイはちらと振り返ってみた。 右手首には光の輪がかけられ、それにつながるこれも光のロープが伸びてい る。そのロープの端を持つ、大柄な男の姿が目に入る。前髪の隙間から、鋭い 眼光が見返している。 「ここまでにしようじゃないか、レイ=スティング」 黒髪の男が言った。落ち着きの感じられる口ぶりだ。 「俺はやめてもいいんだが、このおねえさんがね」 男とミズリイは知り合いなんだと察したレイは、警戒しながらもそう切り返 した。 「ミズリイ、言ったこととやっていることが支離滅裂だぞ」 たしなめるように言う黒髪の男。 ミズリイは顔だけ起こすと、腹立たしげに唇を尖らせていた。 「この坊やが、私のことを侮辱したから」 「侮辱しただって? 知らないね」 視線をミズリイに戻すレイ。 「言ったじゃないの、ぶすって!」 つばきを飛ばして、言い返すミズリイ。もちろん、横たわっているのだから、 そのつばきのほとんどは自分に返ってくるのだが、そんなことは気にしていな いようだ。 「あれはあんたが、俺の邪魔をしたからだ」 「話ぐらい聞けってのよ!」 「よさないか、ミズリイ」 黒髪の男の鋭い声。その口調にはしかしながら、若干のあきれた響きも感じ られる。 「とにかく、事を荒立てるな。今でも充分、荒立てているが……これ以上はな。 本当に人が集まりかねん。すまないが、レイ=スティング。ミズリイから離れ てもらえないか。私もマインドバインド−−この光の輪を君の手から外すとし よう」 「……そうだな」 レイがミズリイから離れると、光の輪も手首から消えた。 「……私が悪いのは分かっているわ」 ゆっくりと起き上がりながら、急に素直なミズリイ。彼女はレイの方を向き ながら、続けた。 「だから謝るのはかまわない。でも、負けを認めるのだけはできないわよっ」 「それなら、正式に決着を」 「待て待て」 レイが言い出したのを、止めに入る黒髪の男。 「まったく、アダムの水晶で覗いていたら、おかしな雰囲気になったので来て みたが……。ミズリイ、何も説明できていないんだな?」 「……そうよ」 そっぽを向くミズリイ。 黒髪の男は、やれやれという具合に肩をすくめた。 「どうでもいいが、話があるなら早くしてくれないかな」 レイはしびれを切らしそうになっていた。 「そうだな。まず、私も名乗ろう。ホルス=シカティックだ」 黒髪の男はそう言って、レイに手を差し出してきた。レイも右手を出し、と りあえずは握手で始まる。 「自分はレイ=スティング。だが……あんたは俺のことを最初から知っていた みたいだな」 「それを説明するには……うむ、気術士のことから始めなければならない」 −−続く
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