長編 #3230の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
水晶玉に手をかざしていた白髪の紳士。閉じていた両眼を開く。青い虹彩が 水晶を見つめている。 「ようやく……見つけたようです」 静かに言った。 かたわらにいた体格のよい、黒髪が見事な男がそれに反応する。 「男ですか、女ですか」 「男性、ですよ」 「それなら」 と、今一人、この場にいた若い女が受けた。金髪をなびかせ、腰掛けていた テーブルから床に降り立つ。 「私がやってみようかな。顔、見せてもらおうかしら、師アダム=テイカー?」 「ご覧なさい」 水晶の前を空けるアダム。 「……ふうん……。なかなか生意気そうで、かわいい顔。やる気出た。うまく やってみせるわ」 「ではミズリイ、あなたに頼みましたよ」 「任せておいて」 「せっかちにことを進めるんじゃないぞ」 黒髪の男の言葉に、ミズリイは笑みを投げ返した。 「あら、ホルス=シカティック。あなたがたまーに、お得意の技で無理矢理相 手を引っ張りたがってるの、私は知っていますことよ」 「何を言う。実際に使ったのは、敵を相手にしたときだけだ。仲間に手荒なこ とはしない」 「口喧嘩は困ります」 再び水晶の前についたアダムが、二人をたしなめる。 「さあ、ミズリイ。なるべく穏便にすむよう、願っていますよ」 「努力はするわ」 男二人にウィンクすると、ミズリイは小走りで部屋を出ていった。かすかに、 香水の匂いが残った。 夜。町の小さな公園には、外灯は乏しい。 さて、どうしてやろうかな−−。レイ=スティングは、己の置かれた状況を 明らかに楽しんでいた。 「何、笑ってんだよ」 彼を取り囲む四人の内の一人が、一般的に考えても耳障りな声で言った。黒 板をチョークでこすったときの音と、ガラスを硬貨できしませたときの音を足 して二で割ったよりも嫌な音かもしれない。 「笑っている? 俺がか」 「そうだよぉ!」 四人の組の二人目が凄む。こちらはまあ、さまになっている。と言っても、 及第点ぎりぎりだが。 「俺が笑っているように見えるとすれば、それは−−おまえ達がすでに負けを 認めている証拠だぜ」 「けっ!」 最初の奴はそう吐き捨てると、いきなり殴りかかっていった。顔面を狙った 彼の拳は、しかし簡単によけられた。 「くそ!」 「ほら、どうした」 レイ=スティングは、自らは手を出そうとせず、相手にさせるがままだ。そ れでも、一発たりとも食らうことはない。 「おまえ、喧嘩したことあるのか?」 右手首をつかまえ、ひねり上げるレイ。 「は、放しやがれ」 「おまえのような単純馬鹿は、顔ばかり狙ってくる。一番、さばくのが簡単だ よ。お分かり?」 レイは相手の足を払って、その場に転がした。狙ったのかどうか、相手は地 面にしたたか後頭部を打ち付けた。気を失ったらしい。 「やれ。二人でやっちまえ!」 四人組の中でボス格らしい男が、大声で二人に命じた。 「二人がかりか。ちょいと面倒だね」 レイは両手を軽く握った。 そして二人がかかってくるタイミングを見極めるように、顎を上げ加減にか まえる。 「来いよ」 きざな言い方だった。それがかちんときたのか、男二人は、ほぼ同時に、レ イめがけて突っ込んでいく。 「おりゃっあ!」 瞬間、レイは身体を回転させ、一人の攻撃を避けると同時に、そのまま今一 人の頬のあたりを肘で砕く。バックエルボー。裏拳の要領で、肘を当てたわけ だ。 あっという間に、一人がダウン。 「……おまえだって」 攻撃をかわされた男が、強がったように口を開く。 「おまえだって、顔を狙うじゃねえか」 「それに引っかかるおまえの仲間は、どんな頭をしてんだよ?」 「うるせえ!」 再び、闘牛のように突っ込んでくる。レイも先ほどと同じように身を翻した。 「馬鹿か! 裏拳はもう−−」 顔面をガードしながら、男が叫んだ。が、その言葉を最後まで聞くことはな らなかった。今や、男の口からは、うめき声が短く出てくるのみ。 「げ、ほ」 「……裏拳だろうがエルボーだろうが、常に顔を襲うとは限らない」 レイの肘は、相手の腹部にめり込んでいた。 「三人目も終わりだ。残るは一人」 ボス格の男に視線をやるレイ。 「俺は簡単にはやられんぞ。覚悟しろ」 上着を脱ぎ捨てた。 「簡単にはやられないってのは、最後には負けるってことかい?」 「減らず口を! たたき壊してやる!」 「無理だ。仲間がいる間にあんたが出てくれば、まだ可能性はあったかもしれ ないが、一人だと−−」 レイが喋っている途中で、相手は蹴りを出してきた。すっと、後ろに下がっ てよける。 「せっかちな野郎だ。最後まで聞けよ。後学のためになるぜ」 「やかましいわっ!」 よほど自信があるのか、また蹴りを出してきた男。 レイはそれを見切って、楽に相手の懐に飛び込んだ。そして胴に密着すると、 相手の足に自らの右足をかけ、地面に転がせる。 「これがやりたかったんだよ、俺は」 相手の腹にのっかる格好のまま、レイははっきりと笑みを浮かべた。 「くそ、どけ!」 相手は腕を振り回すが、その拳がレイにダメージを与えることは全くない。 同時に、足をばたつかせて、必死で起き上がろうとするものの、ほとんど態 勢は変わらない。レイが重心をうまく動かしているためだろう。 「抵抗は終わりかい? じゃ、こっちからいくぜ」 レイは宣言すると、実行に移した。 両手に拳を作り、素早い、本当に素早いパンチを繰り出す。相手の顔面や耳 を正確に連打している。相手が腕で顔面を守ろうとすれば、すぐさま脇腹に打 撃を与え、腕を下げさせる。 「く」 たまらなくなったか、レイの下で向きをかえた男。背中を向ける格好になる。 「待ってました」 レイは拳を解くと、両腕を男の首に回した。そしてこれも素早く、一気に絞 め上げる。 「ぐ、え」 男は声を漏らしたかと思ったら、すぐ静かになった。レイはさして力を入れ ていないようだが、瞬く内に相手を絞め落としてしまった。 「弱いねえ」 相手の身体から離れ、レイは両手のひらをぱんぱんと払った。 「弱すぎる。試せないじゃないか」 そうつぶやいたとき、一番初めに転がされていた男が、起き上がった。−− 不幸にも。 「う……いててっ。……あ、てめえ」 「お目覚めかい。ちょうどいい。役不足なのは承知の上、使わせてもらうかな」 レイは右手を今までになく強く握りしめると、まだ半身の相手につかつかと 近寄った。 「このっ」 相手が立ち上がろうとしたところを狙いすまし、レイは右手の拳を打ち込ん だ。瞬間、彼の右手が白く光った。しかし、それは常人には見ることのできな いもの。 「−−」 声もなく崩れる男。 「やっぱり、だめだな」 何ごともなかったようにつぶやくと、レイはじっと己の右手を見つめる。 「『光る拳』の本当の力は、また分からなかったな……」 それからお情けのように、倒れている四人を眺めやる。 「たかが煙草のぽい捨てを注意されたぐらいで、そんな怒るなって。まあ、怒 ってくれたときは、俺も腕が振るえると思って、うれしかったんだけどねえ。 あんた達、期待はずれだったよ」 その場所を、ディグロチアの住民は「黒の森」と呼んでいる。その名の通り、 昼なお暗い、深い森。人喰いの森とか、妖精の誘惑香る地といった伝説が伝え られるほど、昔は行方不明者を多く出した、一種神秘の場所だ。現在、中を無 事通り抜けるには、唯一作られている一本道を行くのが安心。 そうは言っても、元来、人間は好奇心が強い。特に年端の行かぬ子供は。一 本道から脇にそれ、奥深く踏み入ってしまうこともしばしば。全員が戻れなく なるのではないが、逆に全員が無事に戻れるわけでもない。 「やめようよ」 「いいじゃないか。行ってみようぜ」 ギャランはしきりに、森の奥の茂みに行きたがっている。 止めようとするのは、リーシャ。手首を引っ張られそうになるのを振り払っ て、少し弱い声で返事する。 「やだよ。お母さんに言われてるもん。森を通るときは、道をはみ出ちゃいけ ないって」 「弱虫だな。女だもんな」 もう一人の男の子、カルタスがあざけるように言った。 そう言われると、反発したくなる。けれども、「あたしも行く」と言ってし まいそうなところを、ぐっとこらえた。 「行かない。絶対に」 「分かったよ。じゃあ、そこにいろよな。珍しい物を見つけたら、持って来て やるから」 「……うん」 リーシャはこくんとうなずいた。本当は嫌だったけど、ここを離れて自分だ け帰るのは、許されない行為のように感じたから。 「すぐ戻ってよ!」 「分かってるって!」 元気よく手を振るギャラン。 男の子二人は道を外れ、そのままずんずんと奥に分け入り、やがて姿が見え なくなり、ついで声が聞こえなくなった。 −−続く
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