長編 #3212の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
15 パウレンの飛ぶスピードは速かった。リエは懸命にパウレンの手を握りしめてい たが、顔面を叩きつける風に、ほとんど目を開けていられなかった。 身体の中で、小さな嵐がざわめいているように、リエにはカダロルのいる方向が はっきり分かった。だが、特にカダロルの存在を感じているわけではない。どうな っているのか理解したわけではなかったが、魔法に関係していることだけは間違い なさそうだった。リエはその力に導かれるままに、時々手を上げてパウレンに方向 を指示していた。 「いたぞ」やがてパウレンは声を上げ、飛ぶ速度を緩めた。「あそこだ」 リエはパウレンが見ている方向を見た。20人ほどの人影が、一人の人間を取り 囲んでいる。カダロルに間違いなかった。そして、周囲にいるのは、まぎれもなく 地球の統合軍制式野戦服に身を固めた兵士たちだった。 リエにとっては故郷の友人にあたる人々である。しかし、望郷の念は少しも沸い てこなかった。 兵士たちは上空を飛ぶリエ達に、まだ気付いていなかった。リエはパウレンに言 った。 「少し離れた場所に降りましょう」 パウレンは頷いて高度を下げた。ティクラムもそれに続く。 3人はカダロルと兵士たちから50メートルほど離れた場所に、静かに降下して 木の陰に身を隠した。ティクラムはすみやかに人間の姿に戻った。 「どうする?」パウレンが訊いた。 リエは統合軍の人数を数えた。25人。2個小隊と指揮官一人だ。全員が火器と 通信装置を装備している。カダロルを尋問しているようだ。一応、8人の兵士が8 方向を警戒しているが、その他の兵士は尋問に注意を奪われているようだった。 特殊部隊ではない、とリエは判断した。ガーディアックを襲撃するにあたって、 リエたちはVRシステムによる100時間の訓練を含めて、2週間にわたるチーム 訓練を積んだ。今、目の前にいる2個小隊が、それほどの訓練を積んでいないこと は、小隊長としての経験を積んだリエには明らかだった。 「まだこっちに気付いていないようです」リエは考えながら言った。「奇襲して 混乱させて、カダロルを救出しましょう。パウレン、彼らの右手に移動して、何か 魔法で注意を引きつけて、そのまま離れていって下さい。撃たれないように……そ の、武器に気を付けて。弓矢の3倍ぐらいの射程がありますから」 「わかった」 「そして、あなた……ええと」リエはティクラムを見た。 「魔法監視官ティクラムよ」ティクラムは答えた。 「ティクラムさんは、左手に移動して、同じように注意を引きつけて下さい。で きますか?」 「竜の姿で飛び回るだけでいいかしら?」 「それで結構です」リエは頷いた。「大切なのは2つ。同時に行動を起こすこと と、彼らを倒そうなどと思わないことです。後はあたしが何とかします」 「一人で大丈夫なのか?」パウレンが気遣ったが、リエは首を振った。 「大丈夫です。あたしは彼らの何倍もの訓練を受けてきたんです」リエは笑って 付け加えた。「魔法より慣れてますから」 3人は、さらに作戦を確認した。やがて、パウレンとティクラムは、それぞれの 役目を果たすべく、左右に分かれて動いていった。 リエは時を待ちながら、カダロルの様子を窺っていた。見ていると、指揮官と通 訳らしい男が何やら言い争っている。やがて、指揮官が怒りの表情を浮かべて進み 出ると、ライフルの銃口をカダロルに向けた。 その瞬間、静かな森が突如として喧噪に包まれた。 兵士達の右手には、身長20メートルはあろうかという、触手と鱗を持った怪物 が出現していた。リエは知らなかったが、それはクーベス大陸の北に広がるユーキ ー荒野に出没すると言われている魔物の姿だった。身体は黒く、ねじくれた筋肉が うねり、触手の先にはぞっとするような牙を光らせた口が開いている。幻影である ことを知っているリエでさえ、恐怖を感じたぐらいだから、不意に対面した兵士た ちの恐慌はすさまじかった。 ほぼ同時に、反対側で、ティクラムが竜に変化していた。先ほどのような白く優 美な飛竜ではなく、巨体と憎悪に光る赤い眼球を持った竜だった。竜は咆哮し、兵 士たちに炎を浴びせかけた。 「撃て!」指揮官が叫んでいた。「撃ち殺せ!」 だが、兵士達を襲った恐慌は、指揮官の命令ぐらいでは収まりそうになかった。 彼らは密集隊形を解こうと、慌てて散開しはじめた。数秒後、リエからカダロルま で、まっすぐに道が開いた。 リエは飛び出した。散発的な銃声が聞こえたが、リエを狙ったものではなかった。 ようやく兵士たちが、両側に出現した怪物に発砲し始めたのである。 「6時の方向から敵だ!」 兵士の叫び声が聞こえた。リエの接近が気付かれたのだ。リエは進路をわずかに 変更すると、もっとも手近で銃を撃っている兵士に突進した。 「撃て!」 何人かが銃口をリエに向け直した。リエは熟練した兵士のみが持つ勘によって、 兵士達がトリガーを絞る瞬間に横に跳んだ。銃弾が空しく宙を引き裂くのを横目に 一気に狙いをつけた兵士の懐に飛び込む。 兵士は何か叫びながら銃をぐるりと回した。まだ、若く少年のような顔の兵士だ った。リエは昔の仲間、という意識を振り捨て、銃を腕で跳ね上げると、兵士の喉 と横隔膜に目にも止まらぬ速さで拳を入れた。兵士は声も出さずに倒れかかってき た。 仲間の異変に気付いた兵士達が、銃口を向けてくる。リエは戦闘能力を失った兵 士の身体を盾にしつつ、ひったくるように銃を奪った。使い慣れた制式銃ではなか ったが、基本的なプロフィールは同じだった。セレクタが3点バーストになってい る。リエはフルオートに切り替えながら、兵士の身体を放り出した。そして、地面 に転がりつつ、自分とカダロルとの進路を邪魔している4人の兵士の足元に、短く 的確な連射を送り込んだ。 4人の兵士は悲鳴を上げて倒れた。リエは跳ね起きると、彼らを見向きもせず、 カダロルのところへ到達した。 「カダロル!」リエは地面にうずくまったまま、茫然となっているカダロルの腕 を掴んだ。「立って!走るのよ!」 カダロルはよろよろと起きあがった。 「待て!」 「捕虜が逃げるぞ!」 複数の叫び声が上がり、何人かの兵士が向かってきた。同士討ちを避けるためか 銃撃しようとしない。そのような遠慮とは無縁であるリエは、カダロルの背中を突 き飛ばしておいて、片手で低い位置を狙って連射した。 「走って!」 3人の兵士が足を撃ち抜かれて倒れた。だが、リエの銃も弾丸が尽きてしまった。 リエは銃を投げ捨てると、カダロルを追って走った。 不意に横合いから、一人の兵士が飛びかかってきた。銃床を振り回してきたが、 リエから見れば隙だらけの動きである。リエは相手の突進をかわすと、急所に蹴り を叩き込んでおいてから、やすやすと銃を奪い取った。 カダロルを振り返ると、二人の兵士が、逃げ出した捕虜を捕まえようと駆け寄っ てくるところだった。銃撃はできない。リエは叫び声を上げながら接近すると、一 人の顔面をバックハンドで殴りつけた。 「てめえ!」もう一人が喚いて、ナイフを抜いた。「死ね!」 ナイフが突き出された。多少は使えるようだったが、訓練の段階を抜けきってい なかった。リエは兵士の手首をとらえると、ひょいとねじってナイフを奪い取った。 「甘いわよ、坊や」 リエは囁きながら、相手の胸を突いて離れ、その際に兵士の腕を軽く切りつけた。 鮮血が迸り、兵士は喚きながら腕を押さえてうずくまった。 「急いで!」 リエはカダロルを助けて走り出した。カダロルは右腕をかばいながら、できる限 りのスピードで走ろうとしていた。 「まっすぐ走って!パウレンが拾ってくれるから!」 リエはそう叫んで、後ろを振り返った。数人の兵士が慎重に後を追ってくる。す でに、パウレンもティクラムも、当初の目的を果たして姿を消していたため、生き 残った兵士たちの注意はリエとカダロルに集中しつつあった。彼らの最後尾にいる 指揮官は、すっかり激怒して強硬な攻撃を怒鳴っていたが、もう少し分別のあるら しい軍曹が、それをなだめつつ命令を発していた。兵士達は、秩序を取り戻しはじ めている。 明らかに統合軍は、二人を生かしたまま捕らえたいのだろう。加えて、リエがた だの若い娘ではなく、火器の扱いに長けた危険な戦士であることも知った。これで リエは素性を大声で公言したようなものだったが、少しも気にしていなかった。 「リエ・ナガセ!」軍曹が大声でリエを呼び、リエの推測を裏付けた。「お前は リエ・ナガセだろう!おとなしく投降しろ!」 リエは無言で銃を構えると、トリガーを絞った。弾丸は一人の兵士の足を撃ち抜 いた。兵士は悲鳴を上げて倒れ、他の兵士達の進み方は一層慎重になった。 「お前は地球人だろう!」軍曹はまた叫んだ。「なぜ、アンシアンを助ける?お となしく投降すれば、軍への復職を認めてやってもいい」 リエはカダロルの進み具合を確かめた。かなり進んでいる。パウレンと打ち合わ せた合流地点まで、もう少しだ。そう見極めると、リエは足を止め、狙いをつけて トリガーを2回絞った。一人の兵士の手から銃がはじけ飛び、もう一人の通信ヘッ ドセットが頭から吹き飛んだ。彼我の距離は30メートル。一級射手のリエにとっ ては、特筆すべきことではないが、兵士達の間には驚嘆のざわめきが続いた。 「この裏切り者!」呼びかける声が変わった。指揮官が進み出ていた。「貴様、 それでも軍人かあ!」 言い終わると同時に、指揮官は手にしていた銃を乱射した。兵士達は慌てて、地 面に身を投げ出して頭を抱えた。リエは罵りながら背を向けて、一気にカダロルに 追いつくと、近くの木の陰に飛び込んだ。 「動くな!」 思ってもみなかった方向、つまり前方から7人の兵士が出現して、リエに銃口を 突きつけた。抜け目ない軍曹が、伏せておいたか先回りさせたに違いない。リエは 銃を捨て、手を上げて彼らを見回した。 「裏切り者め!」兵士の一人が、憎々しげに吐き捨てた。「地面にうつ伏せにな って、手を後ろで組め。早くしろ」 リエは躊躇い、脱出の方策を求めて、周囲を見回した。パウレンとティクラムは まだ無事でいるようだが、彼女たちに救援を求めることはできない。 「早くしないか、売女!」兵士は手袋をはめた手で、リエを頬を叩いた。リエは よろめき、仕方なく膝をついた。 「ふざけやがって……」兵士は獰猛につぶやき、拘束具を取り出した。「地球に 送り返す前に、おれ達でいたぶってやるぜ」 リエは後ろを振り返った。追跡してきた兵士たちも、駆け寄ってくる。リエ一人 であれば、決死の脱出を考えただろうが、カダロルが一緒では何もできない。 鳥が鳴き交わす声が耳に届いた。最初は気にも止めなかったが、不意にリエは身 体全体に悪寒が走るのを感じた。外部から、何か大きな力が働き、リエの中の魔法 の力が反応しているのだと分かった。 ----パウレンの救援? リエはそう考えたが、すぐにその考えは間違いだと分かった。その力はどこか、 邪悪な波動を帯びていた。 鳥の鳴き声は次第に大きくなっていく。兵士たちが不安そうに空を見上げている。 「何だ、鳥がいっぱい……」 その言葉が終わらないうちに、無数の鳥たちが一斉に周囲の森から出現して、呆 気に取られている兵士たちに襲いかかった。リエを拘束しようとしていた兵士の顔 が、数え切れないほどのスズメやコマドリやキツツキの嘴に食いつかれ、たちまち ずたずたに引き裂かれた。 「な、何なの」 リエは驚愕して逃げることも忘れた。 空が真っ黒になるほど、大量の鳥が群をなして兵士達を襲っていた。すっかり恐 慌に駆られた兵士達は、空に向けて銃を乱射したが、鳥の数は弾丸の数を遥かに上 回っている。あっという間に、全ての兵士達が鳥に包まれ、少しずつ食いちぎられ 殺されていった。 「よお、リエ」嘲笑するような声がリエに呼びかけた。「無事で嬉しいぜ」 リエは顔を上げた。そこに立っていたのはキキューロだった。後ろにはブルーと 呼ばれていた地球人もいた。
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