長編 #3211の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
14 とっさにカダロルがとった行動は、手にした石を力一杯相手に叩きつけることだ った。相手は若い男で、ひどく驚いている様子から、この遭遇が偶然のものであっ たことが分かった。カダロルは手を振り下ろしてから後悔したが、もはや遅すぎた。 鈍い音とともに、石は相手の顔面を直撃した。兵士は悲鳴を上げ、手にしていた 武器を持ち上げようとした。恐慌に駆られたカダロルは、そのまま相手に突進し、 二人の男は地面の上に倒れた。 兵士はカダロルに分からない言葉で何かを叫んでいた。友好の挨拶でないことだ けは確かである。カダロルは相手が反撃に出ないうちに、再び石を振り下ろした。 4度、石を叩きつけると、兵士の動きが止まった。カダロルは激情に駆られるま ま、もう一度叩きつけ、それからよろよろと相手の身体から離れた。 カダロルは兵士を見下ろした。少し躊躇った後、手をのばして、首筋と手首の脈 を探る。完全に止まっていた。顔面は完全に潰れ、額が砕けている。割れて血に染 まった頭蓋骨のかけらと脳漿も見える。 「殺してしまった」カダロルは呆然と呟いた。「おれがこの手で」 不意に吐き気を感じたが、カダロルは懸命にこらえた。吐けば体力を消耗するこ とが分かっていたからだ。 逃げなくては。不意にその思いがわき起こった。ここに、この兵士がいたという ことは、近くに仲間がいても不思議ではない。そいつらに見つかる前に、ネイガー ベンに戻って、パウレンとリエに知らせなければならない。 まるでカダロルの考えが具現化したかのように、木々の向こうに人影が見えた。 カダロルは慌ててその場を離れて走り出した。 左手で、負傷した右腕を押さえていたが、足を踏み出す度に激痛が走るのは防ぎ ようがなかった。治療術の中には、痛みを麻痺させる呪文もあるが、練り上げるに は時間が必要なのだ。 いくらも走らないうちに、逃げてきた方向で、大勢の人間が呼び交わす声が耳に 届いた。兵士の仲間が死体を発見したのだろう。やがて、大勢の人間がカダロルを 追跡してくる気配が伝わってきた。カダロルは必死に走った。 低い叫び声を耳にして、パウレンは振り返った。応接室にいた全員も同じ行動を 取り、ソファの上に身を起こしたリエを目にした。 「リエ」パウレンは駆け寄った。「大丈夫か?」 「行かなくては」リエはしっかりとパウレンを見据えた。「カダロルが危ないの よ」 「何だと?」パウレンは疑わしそうにリエを見た。魔法の修行を始めたばかりの 者は、大きな術を使った後、意識が混濁することがある。「少し、気を落ち着けて 何か飲んではどうだ?」 「何も混乱などしていません、パウレン」リエははっきりした声で答えた。「意 識を失っていた間も、見聞きすることはできたんです。ただ、どういうわけか、目 を開けることも、身体を動かすこともできなかっただけで」 「防衛反応だわ」ティクラムが口を挟んだ。「本能的に、心が休息を求めるため に身体を眠らせるやつよ」 「カダロルが危ないんです」リエは立ち上がった。「すぐに行かなければ。地球 の、あたしの世界の軍隊が、またアンストゥル・セヴァルティに侵入してきたんで す」 「カダロルが見たのは、やっぱりそうだったのか……」トートがつぶやいた。「 でも、どうして分かったんだ、リエ?」 「わからないわ。だけど、分かったのよ」リエは矛盾した答えを返しながら、ド アの方へ向かった。「助けなければ、殺されてしまう」 「よし、一緒に行こう」パウレンも立ち上がった。リエが反対しかけたが、パウ レンは押し切った。「カダロルは私の友人だ。それに、さっきみたいなことになっ たとき、おぬしを止める人間がいるだろう」 「私も行きますよ」ティクラムも名乗り出た。「あなた方に逃亡する機会を与え るわけにはいきませんからね」 リエもパウレンも反対したが、ティクラムは譲らなかった。自分だけ、蚊帳の外 に置かれるのにはうんざりしていたのだ。 「いいわ、時間がない」リエはとうとう言った。「いきましょう。場所は大体、 分かります」 「お前達はここにいろ」パウレンはトートとイーズに命じ、クランの方を見た。 「ミリュドフに伝えてくれ。すぐに戻るからと」 「何だかわかりませんけど、気をつけて」クランは微笑んだ。 3人はセレランティム・コーンの外へ走り出た。 外の空気を吸った途端、リエは躊躇って立ち止まった。カダロルの居場所を、リ エ自身が正確に知っているわけではない。自分の中にある正体不明の魔法の力が、 その場所に導いてくれるのを期待するだけである。だが、その場所に行くのに、魔 法を使うことはできそうになかった。リエは強大な魔法の力を有しているとはいう ものの、意図して使用したことはまだなかったからだ。 パウレンはすぐに、それを察したようだった。リエの肩に手をかけて、優しい声 で言った。 「私が飛ぶ。おぬしは、私の手を握って方向を教えてくれればいい」 「すみません、パウレン」リエはパウレンの手を握った。「お願いします。大体 あっちの方向です」 「やはり森の方だな」パウレンは呪文を唱え始めた。 不意にリエは身体がふわりと浮かび上がるのを感じた。見ると、パウレンの身体 が上にあった。二人はそのままぐんぐんと上昇していった。 翼のはばたきが聞こえたので、リエは振り返った。一頭の真っ白な飛竜が浮かん でいる。その姿を見て、リエはさっきの戦いと、自分が破壊した街を想い出してし まった。 上空から見ると、リエが起こした火災は鎮火したようだったが、まだ何本もの煙 が上がっていた。リエは深い罪悪感にとらわれ、改めて自分の身に降りかかった災 難を呪った。 「行くぞ」パウレンが言い、ティクラムを振り返った。「ついてきてくれ」 3人はかなりのスピードで、東へ向かって飛び出した。 追っ手は少なくとも20人はいた。彼らはこの森には慣れてはいない様子だった が、ばらばらに分散していても、互いに意思を伝達する手段を持ち合わせているよ うだった。 カダロルは懸命に走ってはいたが、怪我をしているために、足の運びは鈍りがち だった。追っ手たちは、カダロルを生け捕りにしたいと考えているらしく、あの妙 な武器を使おうとはしなかった。カダロルが逃げ続けていられるのは、そのおかげ だった。 生きたまま奴らの手に落ちたら、何をされるんだろう。カダロルはぞっとして、 その考えを頭から追い払った。リエの話が甦る。ガーディアックの女たちに、あの 兵士たちがした所業が。もし、カダロルがあの夜の生き残りだと分かれば、どうい う運命が待ち受けているのか、想像したくもなかった。 今や、前方にも、追っ手がいるようだった。追っ手たちは、巧妙にカダロルの逃 走方向を誘導することで、確実に包囲の網に追い込んだのだ。それに気付いたカダ ロルは身体から力が抜けていくように思った。 突然、左右から、二人の男が飛びかかってきた。カダロルはとっさにそれをかわ したが、足がもつれてよろめいた。兵士たちはそれを見逃さず、一気にカダロルに 迫ると、乱暴に地面に押しつけた。負傷した右腕が、兵士の身体にあたり、カダロ ルの口から絶叫が発せられた。 カダロルはうつ伏せに地面に倒され、一人の兵士が膝を背中に押しつけて、動き を封じていた。もう一人は、カダロルの身体を調べている。武器を探しているよう だった。カダロルは小さなナイフを持っていたが、それはすぐに発見されて、取り 上げられた。 兵士達は何かを話していた。誰かに呼びかけているようだった。間もなく、いく つもの足音が近づいてきた。カダロルは苦痛で呼吸が乱れていたが、何とか顔を上 げて周囲を見回した。 異世界の兵士達が何人も周囲を取り囲んでいた。全員が、深い緑色の服と、黒い ブーツを身につけていた。武器らしい金属と木で作られた棒のようなものを構えて いる。先端に開いた穴は、カダロルを向いていた。誰もが緊張した顔つきで、武器 ももっていないカダロルを恐れているようにも見えた。 「言葉が分かるか?」 兵士達の一人が、クーベス大陸の標準語で呼びかけたので、カダロルは驚いて一 瞬、腕の痛みを忘れてしまった。異世界の兵士だと思ったのは、自分の勘違いだっ たのか、と思ったぐらいだ。 話しかけてきた相手は、カダロルと同じぐらいの男だった。 「言葉が分かるか?」相手はまた聞いた。「聞こえているのか?」 「聞こえる」カダロルは答えた。「お前は誰だ?」 男はその問いには答えずに、隣にいた年輩の偉そうな顔をした男に何かを話した。 話しかけれた男は頷いて、何事かを口にした。その言葉を受けて、カダロルを押さ えていた兵士たちが、カダロルの身体を起こして座らせた。 「おれはお前達の言葉を学んだ。最初に警告しておく」と男は言った。「我々は お前を一瞬で殺すことができる武器を持っている。お前が魔法を使う徴候が少しで も見えたら、お前を殺す。聞かれたこと以外に何かを言っても殺す。質問に正直に 答えなくても殺す。わかったか?わかったら頷け」 言われた通り頷きながら、カダロルは彼らが自分を恐れる理由が分かったと思っ た。自分がタカに変身して飛んでいたため、魔法使いだと思われていたのだ。そし て、彼らは魔法を恐れているのだ。 「よし、お前の名前は?」男は訊いた。 「カダロル」とりあえず素直に答えることにした。。 「どんな魔法が使える?」 「治療呪文398種類と、変身呪文1つだ」 「お前は医者なのか?」 「そうだ」 「どうして、我々の仲間を殺した?」 「驚いたからだ」 「驚いただけで、お前は人を殺すのか?」 「そんなことはない。身の危険を感じたからだ」 「お前に殺された男は、お前に危害を加えようとしたのか?」 「していない」 「では、なぜ、身の危険を感じた?」 カダロルは躊躇った。 「どうした?答えろ?」男は促した。 それでもカダロルは黙っていた。男は苛立ちを隠そうともしなかった。 「答えなければ、この場で殺す」 「お前達の仲間を前に見たことがあるからだ」しぶしぶカダロルは答えた。 男は驚いた声を上げ、また年輩の男に話しかけた。どうやら、その男が指揮官の ようだった。 指揮官は鋭い声で何かを言った。通訳の男は頷いてカダロルに向き直った。 「お前は、どこで我々の仲間を見たんだ?」 「この森の中にある村でだ」 「いつだ?」 「20日ぐらい前の夜だ」 「お前はそこで何をしていた?」 「おれはガーディアックに住んでいたんだ!」カダロルは怒鳴った。「お前の仲 間たちは、ガーディアックに住んでいた人間を皆殺しにしたんだぞ!この人殺しど もが!」 通訳ははっきりと驚愕の表情を見せていた。カダロルはてっきり殺されると思っ たのだが、予想したような事態は起きなかった。通訳は明らかにカダロルの話した ことが初耳だったと見えて、うろたえたような声で指揮官に何事かを問いかけてい た。 指揮官は鋭い声で何か言ったが、通訳は反論していた。周囲の兵士たちも、顔を 見合わせていた。 やがて通訳はカダロルに言った。 「お前は嘘をついているに違いない。そんな事実はない」 「嘘をついているのはどっちだ。こっちには証人が何人もいるんだぞ」 「証人とは誰だ?どこにいる?」 「それは言えないな」 通訳は、もう生命の中断を脅迫しようとはしなかった。顔から汗を流しながら、 指揮官を振り返った。指揮官は何かを命じ、通訳の男はさらに訊いた。 「我々がどこから来たのか知っているのか?」 「別の世界からだろう。テーラとかいう世界だ」 「なぜ、それを知っている?」 「大勢の人間が知っているさ」カダロルは質問を微妙にはぐらかした。「お前達 は、アンストゥル・セヴァルティに移住しようと、いや侵略しようとしているんだ ろう」 通訳の言葉を聞くと、指揮官の顔色が変わった。指揮官は通訳を押しのけると、 武器を構えてカダロルの前に出て何か叫んだ。殺意が、暴風のようにカダロルに吹 きつけてくる。カダロルはやりすぎたことを知った。この指揮官は証人を消そうと しているのだ。 同じ殺されるなら、少しでもこの男から満足感を奪ってやろう。カダロルは背を まっすぐのばし、傲然と相手を見返した。指揮官はその態度に怯えたように、一歩 後ずさると、武器をのばしてカダロルの額に先端を押しつけた。冷たい金属の感触 がカダロルに死を囁いていた。
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