長編 #3201の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
八 「近所の人が学校に連絡してきたんですよ。うちの生徒とA中の生徒が大げんかをし ているって」 よく日の放課後、ぼくは母といっしょに職員室に呼び出されていた。 「かけつけてみたら、私のクラスの生徒たちだったんでびっくりしました」 高橋先生は、もう何人もの父兄や先生たちに同じことを話していたらしく、『びっ くりしました』と言ってもちっともそのように聞こえなかった。 「でも、話をきいてみると、相手の中学生の方が悪かったようですし」 と、先生はつかれた声で言った。 「しかし、彰くんがあんなことをするとは思いませんでしたよ」 とも、先生は言った。 そのたびに母はすまなそうに頭を下げていた。 先生のお説教は二十分ほど続いたが、結局、一番問題だったのは、学校のバケツを 無断で持ち出して捨ててきてしまったことだったらしかった。 心配顔の母を先に帰して、ぼくはひとりで教室に上がった。 フンチやクンチたちは先にもどっていた。博史や、きのうぼくを救い出してくれた 女子たちも待っていた。 雄介は今日も学校に来ていない。 それに千春までも、今朝から学校を欠席している。熱を出しているという。 きっと、きのうから具合が悪かったんだ。廊下のおくでフンチたちにつめ寄ってい るとき、いつもの千春ではなかった。そのうえ、ぼくを助けるために智子たちと走り まわったりして、よけいに悪くしてしまったのかもしれない。 「どうだった?」 博史が、心配と好奇心を半々に見せて聞いた。 「よくわからなかったけど、こんどやるときは、自分のうちからバケツを持っていけ ばいいみたいだ」 「おれも、そう思った」 源太郎がぼくに賛成すると、みんな手をたたいて喜んだ。 さっきから、ぼくは智子のようすが気になっていた。 昼休みに、智子はぼくの背中をつっついておいて、なんでもない、とやめてしまっ た。 いまもなにか言いたそうに見える。 「どうしたの?」 そばに近寄って顔をのぞいた。 「じきに、わかってしまうことだものね」 智子はきまりの悪そうな笑い顔で、頭をかく。 「あのね、雄介は肺炎じゃなかったの。風しんだったのよ。ゆうべになって体にポツ ポツが出てきて……」 「おい、風しんなら、おれだって去年かかったぞ」 「おれだってやったよ」 医者のむすめの意外な報告に、男子たちは一せいに声を上げた。 「なんだよ、A中のやつらにやられたんじゃなかったのか?」 「ちがうのよ。雄介がびしょぬれになったのはほんとうなの。きっとそれで体が弱っ て」 「そうだよ。ほんとうに野島くんは一人であいつらに向かっていって、冷たいどろ水 の中にたおされたんだ」 ぼくは声を張り上げた。 「それにね、千春も風しんなの」 こんどは女子があわてだした。 「ええっ!」 「なんで、千春が雄介と同じ病気にかかるのよ!」 さわぎは、見まわりに来た高橋先生に教室を追い出されるまで続いた。 ◇ ◇ ◇ 音楽と図工と理科は、これはいつも『5』。 国語は『3』。 右の耳がくすぐったくてふり向くと、智子の額に、自分の額をぶつけそうになった。 「体育が『1』なんて、どうやったら取れるの!」 「のぞくなよ」 ぼくは配られたばかりの通信簿をあわてて閉じた。 「さか上がりができなかったし、棒登りもだめだったし、百メートル走もビリだった からなのね」 そんなことは言われなくてもわかっている。これまでだって体育はずっと『1』か 『2』だったから、自分ではなんとも思っていないんだ。 「教えてあげる」 うしろの席をふり返った。真剣な目を見つけた。 「さか上がりを教えてあげる。力なんていらないの。こつがわかれば、だれだってで きるんだから。春休みに学校においでよ」 こんどの春休みから、休みの日でも、十時から三時までのあいだ校庭で遊んでいい ことになった。さらに来学期からは、放課後の二時間、校庭で遊べるようになるらし い。 工事で校庭がせまくなって、生徒がのびのびできる場所が少なくなったので、その うめ合わせをするためだという。 もしかしたら、ぼくたちの起こしたあのさわぎが役に立ったのかもしれない。 「通信簿はどうでしたか」 高橋先生が話を始めたので、ぼくは智子に返事をしそこなった。 「こんど会うときは、みんな六年生ですね。病気やけがをしないで、また元気で会い ましょう」 五年生最後の礼が終わると、高橋先生はみんなに手をふって教室を出ていった。 その先生と入れかわりに、前の入口から雄介が顔を見せた。 雄介と千春は今日初めて、そろって登校していた。千春は月曜日から三日ぶり、雄 介は土曜日からだから五日ぶりの学校になる。 春休みの解放感でさわがしくなりかけていた教室が、しんとなった。 仲よく風しんで学校を休んだ宿敵どうしが、どんな顔をして再会をはたすのか、こ の組の、とりわけ女子たちの関心の的になっていたからだ。 「ふたりとも、すこし顔がやせたみたいだね」 ぼくは横の智子にそっと言った。 「千春、きれいになったみたい」 智子は、同級生の横顔をうっとりした目で見つめている。 「野島くんは?」 またささやいた。 「ちょっとだけ、頭がよくなったように見える」 ぼくはふき出しそうになった口をあわてておさえた。 雄介が、席にすわったまま机の中を整理している千春の前に立った。 「元気そうだな」 雄介が千春に対してぶっきらぼうなのは、いつものことだ。 「あなたもね」 千春は雄介を見上げて、ふだんより少しゆっくりと言う。 「おまえら、女のくせにばかなことをやったんだってな」 女にくせにとはなによ、と千春が反発することを期待していたのかもしれない。 でも、千春は首をかしげて雄介を見つめるだけで、なにも言わない。 雄介は気まずさをごまかすように、あたりを見まわした。 「おまえ、女をあぶないことに巻きこむんじゃないぞ」 あとから教室に入ってきた博史をつかまえて、急にしかってみせる。 それまですまし顔で雄介の表情を観察していた千春が、がまんできなくなって、ぱ たぱたと机をたたいた。 「なにを気取っているのよ。ぜんぜん似合わないんだから」 「気取っているのは、おまえの方だろ!」 雄介が真っ赤な顔をしてさけんだ。 ◇ ◇ ◇
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