長編 #3135の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
つまり、自分が回るのは、西山さんと姉が一緒に利用した旅館ということに なるんだ。佳子はそう解釈した。 「詳しい段取りは、次の機会にしよう。そうだな、今夜はずっとそこにいるの かい、佳子ちゃん?」 「そのつもりです」 「なら、いい。今夜中にももう一度電話をかけるから、そのとき、話を詰めて しまおう。いいね?」 「はい」 何もかもが急激に展開している。そんな雰囲気をひしひしと肌で感じながら、 佳子は送受器を置いた。 夜、西山誠一からの電話を受け、話がまとまった。 佳子はそのあと、西山からの話を叔父に伝えるべきかどうか、迷っていた。 はっきりと聞いてはいないが、西山は恐らく、反対することだろう。 佳子もそう思う。言えば、それ見たことかと、鬼の首を取ったかのように、 追及の勢いを増してくるに違いない。 (言わないでおこう) 佳子は決めた。 (この頃、叔父さんの口車に乗せられてしまいがちだから、今度ぐらいは一人 で見極めてみないと) それから彼女は、旅行の準備を始めた。いくら休みが続くからと言っても、 先立つ物の関係上、何日も泊まるのは無理なのだから、簡単にすむ。結果はど うあれ、二日程度で戻って来るつもりである。 (下手な推理小説で) ふと、佳子は思った。 (こんなのがあったっけ。−−新入りOLが先輩の死に疑問を持ち、常識外れ の長期休暇を取って、先輩の留学先だったアメリカに旅立つ−−というのが。 読んだときは、ご都合主義の最たるものだなあと思ったけど、今なら少しは納 得できるわ。大学をちょっとばかり休んでまで、お姉ちゃんの身を案じる妹と して……) 佳子は初めての土地にも戸惑うことなしに、迅速に次の行動に移った。リス トのトップにあった旅館を、まずは目指す。 伝統のある純日本風の旅館。それが建物の前に到着したときの、佳子の率直 な印象だった。 もしや、中で働いている人達も、昔の考え方なんじゃあ……。佳子の内に悪 い予感が沸き起こる。 果してそれは、的を射ていた。 「あの」 佳子の最初の一言で、これは泊り客ではないと判断したらしく、和服を来た 仲居(らしき女性)は、黙ったままいちべつをくれただけである。 佳子はくじけずに、用件を切り出した。過日、これこれこういう男女二人が 来ているはずなんだが、そのときの様子を聞きたい。さらには、女性の方が再 び訪ねて来ることはなかっただろうか……。 「お客様個人に関わることは、一切、お答えできません」 けんもほろろ、である。 「私、その女性の妹なんです。今、姉の行方を捜していて」 「それが証明できますか?」 「えっと」 ぱっと思い付いて、学生証を取り出す佳子。が、それを見せたところで、す ぐには動いてくれそうにない気もした。 学生証を見やってから、佳子の顔を見、また学生証に目を落とす。そんなこ とを二度繰り返した仲居は、 「あなたが横澤佳子さんだということは分かりました」 と、馬鹿丁寧な口を聞いた。 「それが?」 「それがって、姉の名前は横澤紀子っていうんです。二十世紀の紀と書いて。 その名前を調べてくれませんか? 宿泊者名簿とか何か、記録があるのでしょ う?」 「宿帳はございます。が、あなたがお姉さんのことをお捜しだとの証明が、ま だなされていませんよ」 「名字が同じです」 「偶然、同じなのかもしれません」 開いた口がふさがらなくなりそうだ。佳子は、ここまで頭がかたい人を相手 にしたことがなかった。 それに、どうにかして自分が横澤紀子の妹であることを相手に納得させたと しても、この人の様子では、他人様のことをちらちら観察したり、盗み聞きす るような者はここにはおりません−−というような一言で片付けられそうなの は目に見えていた。 「どうも、すみませんでした」 怒気を含めた声で、佳子は打ち切った。出鼻をくじかれてしまい、彼女は少 し焦りを感じた。 しかし、世の中よくしたもので、二番目に列挙されていた旅館、いやホテル は、全くの正反対の対応を受けた。 「横澤紀子様と西山誠一様でございますね? 承知いたしました。あちらで少 少お待ちください」 事情を話すと、フロントにいた男が、物腰柔らかく受け答えしてくれた。ロ ビーのソファで所在なく待っていると、すぐにお呼びがかかった。 「どうでしょう?」 カウンターにつんのめるようにして、佳子は聞いた。 「はい、確かに、お客様のおっしゃる日に、横澤様と西山様は、お泊まりいた だいておりました。ですが、ここ数日の記録を見渡しましても、横澤紀子様の お名前は見つかりません」 「そうですか……。あの、ひょっとしたら、名前を変えているかもしれないん です。だから、この写真を」 と、佳子は姉の顔写真を取り出し、カウンターに置く。 「見てください。これが姉なんです。よく似た人がいたとか、そういうことは ないでしょうか?」 「多分、お越しになっていないでしょう」 さして写真を確かめずに、男は答えた。 「どうしてそう簡単に」 「これは失礼をいたしました。差し出がましいようですが、お客様からご事情 を伺った範囲で考えてみますと、当然ながら、当方へのご予約はなさっていな い、と、こうなりますね?」 「はい、多分……」 「当ホテルだけでなく、この辺りは観光地として、ただ今、一つのシーズンを 迎えておりまして、泊まっていただく場合、あらかじめご予約をしてくださら ない限り、ご宿泊は難しいのです」 その説明には、佳子もすぐにうなずけた。ロビーも人でいっぱいだ。彼女は 相手に礼を言って、そのホテルを後にした。 三つ目のホテルでも、同じようなことしか聞けなかった。佳子自身、ホテル に予約が必要だと気付かされ、こんな聞き込みをしても無意味なんじゃないか しらと思い始めたせいもあった。 フロントの男に頭を下げて、帰ろうとしているところへ、女性従業員が二人、 姿を見せた。 「どうかしたの?」 「いやね……」 男が手際よく、佳子のこととその目的とを説明する。 女性従業員は興味を持ったらしく、自分達にも横澤紀子の写真を見せててく れないかと言い出した。 「どうぞ」 佳子が写真を差し出した途端、女性従業員の内の一人が声を上げた。 「ああ、この人」 「知ってるの?」 聞いたのは、もう片方の女性従業員。佳子は、じっと話に聞き入っていた。 「あなたも見たはずよ。ほら、あの人よ。ゆるゆるの指輪をしていた」 「ああ!」 二人の女性従業員の記憶が一致したらしかった。 「指輪がどうかしていたんでしょうか」 さほど期待せずに、佳子は尋ねた。何故なら、女性従業員らが言っているの は、姉が西山誠一と二人で来たときのことに違いないからだ。 「婚前旅行とか言っていたから、つい、左手の薬指に目が行って……」 話している女性の顔は、今にも笑い出してしまいそうである。佳子が写真の 女性とどういう関係にあるのかも忘れてしまったらしく、話言葉が普通になっ ている。 「おかしいのよ、ほんとに! 指輪がゆるいみたいでさあ。ゴムか何かで詰め 物して、はめていたのよ、この人」 「それ、本当ですか?」 「本当……でございます」 佳子の質問に、相手の女性は、急に取りなすように言葉遣いを改めた。 「確かに、姉……この写真の人に間違いありませんでした?」 「ええ。ちょっと化粧の乗り具合いが違うかなって気もしますけど。ねえ」 と、隣の女性従業員に同意を求める。そちらの方も、うんうんとうなずいた。 「言われてみれば、そうね。それに、あのときの、このお客様はサングラスを されていましたし」 「サングラス?」 思わず、叫んでしまう佳子。 「あの、失礼ですが、それで顔が分かったんでしょうか」 「この写真の方と似ていることは、間違いありませんわ」 自信ありげに、二人の女性従業員は言い切った。 「どうもありがとうございました」 礼の言葉もそこそこに、佳子は懸命に考えていた。 (婚約指輪、私も見せてもらったけど、そのときにはぴったりしていた。お姉 ちゃん自身が買いに行ったんだもの、それも当然よ。それなのに、今は指輪が ゆるくなるくらい、痩せたのかしら? 精神的に参っていたということなの、 お姉ちゃん?) 横澤佳子が長野に出向いたのも、ほとんど無駄骨折りに終始してしまった。 三箇所、旅館やらホテルやらを回ってから、佳子は西山と合流した。すぐさ ま、彼に首尾を聞いてみたのだが、返ってきた答は、首を横に振る動作だけ。 「まさかと思うけど、家の方に帰っていないよね?」 「もちろんです。それだったら、私、ここまで来ません」 「そうだろうな……」 顎に手をやる西山。 「ところで、あの、関係ないかもしれませんけど」 佳子は、気になっている点について何気ない風に聞いてみることにした。 「ん?」 「お姉ちゃんがしていた婚約指輪についてなんですが……」 ホテル従業員の、指輪がゆるかったようだという話を、手早くする佳子。し ながら、相手の反応を窺う。 「あ、ああ、あれか」 やや間の抜けた声を、西山は発した。嘘や言い訳を考える暇はなかったよう に、佳子には思えた。 答を待つ佳子に対し、西山は言い淀む様子を見せた。 「いやあ、これも話しにくいんだけれども……」 「言ってください。どうせ、と言ったら失礼になるかもしれませんが、お姉ち ゃんと西山さんが喧嘩したことに関係しているんでしょ? 違います?」 「当たっているよ。佳子ちゃんにはかなわないな」 ほんの一瞬、西山の漏らした空虚な笑いが気に満ちる。が、それもすぐに霧 散し、西山は真面目な調子に戻った。 「喧嘩のせいなんだろうな、あれは……。精神的な要因で、紀子……さんは身 体に変調をきたしたようでね。ぱっと見ただけでも、痩せたなと分かるぐらい になってたよ。でも、知らなかったな。指輪が抜けそうになるぐらいになって いたなんて」 「食べる物は食べていたんですね?」 姉の健康を気遣った発言をする佳子。西山は笑って保証した。 「その点は大丈夫」 「よかった……」 「それより、僕は謝らないといけない。君のお姉さんにつらい目に遭わせた上、 君を呼びつけて探すのを手伝わせ、あまつさえ、指輪のことなぞ君に言われて やっと思い当たる情けなさだ。申し訳なく思っているよ」 頭を下げる西山。 年上の男にそんなことをされ、佳子は戸惑ってしまう。 「いえ、いいんです。そんなことよりも、今は、ともかくお姉ちゃんを見つけ ることに全力を注がなきゃ」 「そう言ってくれると、僕の肩の荷も、少しは軽くなるよ」 今度は声のない、うつろな笑みを浮かべる西山であった。 結局、佳子は当地に二泊した。だが、そこまでした妹の思いは姉の紀子には 伝わらなかったのか、空しく時間を浪費しただけで、その影さえつかまえられ なかった。 居残って捜してみるという西山に望みを託し、佳子は帰京した。 いい加減、月日が経っていた。横澤紀子が旅先の長野で『失踪』してから、 十日目を迎えた。 今日、西山からよい知らせが入らないようだと、ここは真面目に警察へ捜索 願を出すことを考えなければ。そう思い始めていた矢先、その西山から、佳子 のマンションへと電話が入った。 「どうなったんですか? 私、もう心配でたまらなくって……」 −−続く
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