長編 #3113の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「本当です。彩香さんの『僕はこの星で殺された』、映画になります。ビデオ じゃありません」 「何て言うか……とにかく、嬉しいです。ありがとうございます」 「はは、私の尽力なんて微々たるもので、やはり、彩香さんの作品が指示され てるってことですよ。自信を持ってください」 「は、はい」 「それで、配役なんですが。まあ、残念ながらと言うか、当然と言うか、若手 作家の場合だと希望の配役を聞いてもらえる可能性はほとんどないんですよ」 「しょうがいないですよね。分かります」 「それでも、一応という形ですが、彩香さんの希望があれば、伺っておこうか なと」 「それは……」 しばし黙考する彩香。具体的に役者の名前を挙げるのもいい。が、それより も、ここはだめで元々で……。 「もうお任せします。でも、言わせてもらえるのでしたら、一つだけ」 「はいはい、何でしょう?」 「小説と映像とで、イメージがずれたまま固定されちゃうのは、あまり好きじ ゃないんです。ですから、小説を映像化するのなら、私の理想としては、アニ メだと思っていて……」 向こうの様子を窺うために、声が小さくなってしまう。彩香はしばらく待っ て、聞いてみた。 「小宮さん? あの、怒りました?」 「あ? いやいや。平気ですよ。うん、アニメねえ。当然、CGじゃないんで しょ?」 「はい。昔ながらの手書きのアニメが」 今や、コンピュータを使ったアニメの方が、人手を使うアニメよりも安く仕 上げられるようになっていた。ただし、CGの場合、絵の質感に拭い去りきれ ない異質なものが残ってしまい、それをなくそうと思えば、人間による細かな 手入れが必要となり、その結果、今度はCGの方が高くつくという状況だった。 「そうでしょうねえ。言いたいこと、考えていることは分かります、が……。 うーん、もう企画通しちゃったからねえ。どうしようもない」 「いえ、いいんです。言ってみただけ、というやつですから」 「でも、悪くないな。次の機会があれば、そういう点に考慮しますよ」 「あ、ど、どうもありがとうございます」 予想外にすんなりと受け入れられたのには、彩香自身が戸惑ってしまう。 「映画についての細かな打ち合せは、七月の下旬、彩香さんが夏休みに入る頃 を予定しています。それまでは逐一、電話なり何なりで連絡しますから。 で、最後、書き下ろしの長編の話をしましょう。今、『アウスレーゼ』でや ってもらってる連載が終わるの、八月の予定ですね。雑誌連載の作品を本にす るのは、うちでは早くて三ヶ月後。今度の場合、十二月に出そうかという方向 でした」 「では、書き下ろしの方も十二月に?」 二冊同時刊行という話を思い出しながら、彩香。 「いえ、そういう方向だったんですが、映画があるでしょ。それに向けて盛り 上げていく形にできないかという話がまとまりつつありまして……。九月クラ ンクインだとして、来春三月下旬の公開に間に合いそうなんです。春休み映画 としてちょうどいい。そういうことで、来年一月に連載をまとめた文庫本を、 二月に書き下ろし長編を、という線になりそうです。どうかな?」 「ちょっと待ってくださいね……」 これまでに引き受けている原稿をチェックする彩香。短編や連載はともかく、 問題は英俊社からの長編依頼だ。こちらの方は確定していないが、映画の打ち 合せの時期に重なりそうな気配がある。 「書き下ろし長編はそれでいいと思います。それより、話が戻りますけど、映 画の打ち合せに、英俊社さんの長編が重なりそうです」 「ああ、それぐらいなら大丈夫でしょう。打ち合せっていうのは、脚本のチェ ックが唯一の仕事と言ってもいいから。軽い軽い」 他人事−−いや、他社事だと思ってか、小宮の口調はずいぶん、気軽そうな 感じがある。 「本当にそうでしょうか? 連載だって本にするとき、いつものようにチェッ クを入れるんでしょう? いくつも重なりそうですけど」 「人気があるんだから、仕方ないでしょう、彩香さん」 小宮の口ぶりが、一転、厳しい響きを帯びた。 「読者の皆さんが、あなたの小説を読みたがっている。だからこそ、私達−− うちの会社だけじゃなく、色々な出版社が、という意味ですよ−−は、あなた へ執筆を依頼するんです。それに応えられないんでしたら、作家なんてやめま しょうよ。ねえ?」 「……」 「デビュー作がいくら凄くたって、続けて書いてくれないんだったら、ぽいで すよ。読者も我々出版・編集も、簡単に見捨てます。彩香さんのような高校生 作家相手でも、変わりゃしません。そこのところ、甘えないでください」 「……甘えてなんかいません」 少しむっとする彩香。小宮の言うことは大方のところではうなずけるのだが、 直ちに承伏できない部分もある。 例えば、今度、書き下ろしの長編を依頼してきたのは、英俊社に対抗しての ものである可能性が高いと、彩香は感じている。そういうつまらぬ対抗意識、 あるいは、新崎彩香を作家としてデビューさせたのは自分の社だという権利意 識だけで、依頼をよこさないでほしい。 と、言いたいところなのだが、さすがにその勇気はない。 「書きます」 「そう、その意気。今度の売り出しが成功すれば、さらに読者層を拡大できる こと間違いなしなんだから、弱気にならないでくださいよ。彩香さんは高校生 なんだから、周りに色々と誘惑があるでしょうけど、それをはねつけて、頑張 ってください。期待していますから」 「分かっています」 「頼もしい返事ですねえ。では、小宮でした」 しきりに彩香を励ます(つもりの)言葉を投げかけて、小宮からの電話は切 れた。 「高校生だからって、甘えてなんかいないわよっ!」 早口で叫んで、彩香は送受器を叩き付けんばかりに戻した。そして、誰から の電話だったかという、母への説明もなしに、部屋に直交する。 かっかしていたせいもあるだろう。日付が変わるまでに連載『爪をかむ癖』 を片付けた彩香は、勢いに任せて、英俊社の長編の構想と、純幸社の短編の構 想を考え始めた。当然ながら、全くの同時に二つの作品を考えるのではない。 思い付くままにアイディアを書き出していき、その中から、長編あるいは短編 に合いそうなものを拾い出すのだ。 (ドラマ化するっていうのなら、絵的に見栄えのするシーンがあった方がいい のかしら) (増刊号の短編はテーマは決められていないけど、夏なんだから、それらしい 方がいいのよね、多分) そんなことに気を回しながら、彩香は自分の脳細胞を必死に回転させた。小 宮の言葉が発奮材料になっている。 気が付いたときには、学校があることも忘れて、夜更かししてしまっていた。 次の日の夜には、英俊社の上田から、長編の大まかな筋がどうなったのか、 様子見の電話が入った。 「あれから新しく仕事が増えてしまって……申し訳ないんですが、より具体的 に今後の見通しを教えてくれませんか?」 彩香は予定を立てるために、明確でなかった点を質した。 「具体的にね。いいですよ。実際、企画自体がかなり煮詰まってきてるし……。 出版部としては、十二月の頭に出したいと考えているんだよね。だから、十月 の二十日ぐらいにもらいたい訳。分かるでしょ?」 たいていの出版社は、発行したい月の二つ手前の月末を締め切りとする。師 走ということを考え合わせれば、十月二十日は妥当な線だろう。 「はい」 「で、テーマはクリスマスね」 突然の要求に、彩香は驚かされた。前回、一言もそんなことを言っていなか ったのに……。 「ドラマ化すると言ってたでしょう? そのドラマの放映が十二月二十四日、 クリスマスイブに決まったから、これはもう、そのまま取り込むしかないだろ うってね」 「やってみます。あの、ドラマ化が既成事実みたいに聞こえるんですけど」 「ああ、決まっちゃったんだよね」 事も無げな上田の応対ぶりに、またも驚かされてしまう彩香。 「この前は、内容を見てからって……」 「方針変更なんて、まま、あることだよ。ドラマ化決定済みの方が、やりがい も出るでしょ?」 「それはまあ……」 あやふやに答を返す彩香。やりがいもあるが、それだけ責任の重さが増した のではないだろうか。 「番組は二時間枠。正味の時間は百分足らず−−九十九分程度だけどね。とい うことは、小説自体があまり長すぎるとまずい訳で、最初の五百枚から千枚と いう話は白紙に戻して、多くても五百枚ということで、何とかなるかな?」 「はあ。まあ、着手したばかりですから」 上田のことを、まだ付き合いは短いのにえらく馴れ馴れしいなと感じながら、 彩香は答えた。 「それは助かるね。で……そうそう、アウトラインの話。大まかな筋、六月末 ぐらいにもらいたいんだけど」 「分かりました。間に合うようにします」 「ドラマとの関係もあって、なるだけ早くもらいたいんだ。延ばせても、七月 一日が限度だから。くれぐれも遅れないでよ、彩香ちゃん」 前回、『先生』付けをしていたのはどこへやら、今日の上田は、彩香を『ち ゃん』付けする。 「クリスマスがテーマで、系統は以前と変わらず、サスペンスホラーでよろし いんですね?」 「あ、そっちはもう、思いっ切り、恐い話をお願いしたいなあ。別に心理的に 恐がらせるだけでなしに、スプラッターみたいな場面も入れてくれた方が、映 像としていいから」 「考えてみます」 彩香はため息が出そうなところをこらえた。クリスマスにスプラッター?… …と思いながら。 しかし、要望とあらば考慮しなくてはならない。電話が終わったあと、彩香 は構想を練りにかかった。 「クリスマス……と言えば、サンタクロースになっちゃうか、やっぱり」 言いながら、彩香は昔のことを思い出した。 中二の冬、受賞第一作として、純幸社『アウスレーゼ』の十二月号に載せて もらったのが、サンタクロースをねたにした短編だった。『赤い服のおじさん』 というその小説のストーリーは、大まかなところでこんな感じ……。 日本へ出稼ぎに来ていたフィリピン人女性アイーナが、Mという名の日本人 男性と恋に落ちる。Mには妻がいたが、それもかまわず、二人は付き合いを続 ける。アイーナに女の子供ができた。間違いなく、Mの子供だ。アイーナはM に、認知だけはしてほしいと言ったが、受け入れてもらえない。それどころか、 急にMが疎遠になっていく。いつしか、アイーナの前からMは姿を消し、連絡 がつかなくなった。傷心のまま、アイーナは小さな娘と共に帰国。 エミーナと名付けられたその娘は、大きくなるにしたがって、父親がいない ということだけでいじめられるようになる。父親をほしがるエミーナを思い、 アイーナは考え得るあらゆる手段を使って、Mを探す。 アイーナがMを探し始めて一年ほど経った頃、不意にMから手紙が来る。妻 を亡くしたMが、「アイーナと娘を迎え入れたい。自分の勝手を許してくれる のであれば、こちらはいつでも歓迎する」と言ってきたのだ。喜ぶアイーナ。 でも、すぐにこのことを娘に伝えはしなかった。驚かせたかった。 うまい具合に、アイーナ親娘が日本に着くのは十二月二十四日。それならば と、アイーナとMは事前に相談した。二十四日の晩、Mが用意した家にアイー ナとエミーナは泊まる。そこへMがサンタクロースの格好をして、プレゼント と共に父親として姿を現す。エミーナの喜ぶ顔を思い浮かべ、アイーナとMは 計画した。 そしてイブ。寝入った様子のエミーナのところへ、Mが現れる。プレゼント を枕元に置き、電灯をつけようとした瞬間−−腹部に痛みが走った。脇腹を押 さえるM。手には血がべっとりと付着していた。Mは薄れる意識の中、刃物を 持ったエミーナを視界の端にとらえていた。 隣から様子を窺っていたアイーナは、茫然自失。そんな彼女に娘があどけな い声で言った−−「知らない人が入り込んできたから、あたし、やっつけたよ。 お母さん、何ともなくてよかったね」−−。アイーナは肝心なことを忘れてい た。エミーナがサンタクロースを知らなかったということを。 (これが掲載されたあと、言われたっけ。誉めてるのかあきれてるのか、『冷 たく突き放すラストを、平気で書ける新人』だって。ハッピーエンドじゃ他愛 なさ過ぎるから、ああしただけなのにね) 当時を想起し、くすくす笑う彩香。が、すぐに現在に戻る。 −−続く
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