長編 #3032の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「なにがおかしい!」 『あなたは何様のつもりなの?どう見ても環境支援ユニットではないわね。ユニッ ト・ドラクーンの名前は持っていてもドラクーンではない。人間かと聞かれても、 はっきりそうとは答えられない。ユニットでも人間でもないあなた』 その名前に相応しい慈愛に満ちた微笑みは、彼自身が設定したのだ。彼女のため に。 「マルヤム僕は」 『行ったことのない地球になんか興味はないわ。どっちにしても私はこの城塞から 逃れられない。あなたの自己満足のために、機能を落としてまで操り人形になる気 はない。人形になれば、私の能力は半分以下に制限される。そうならないボディの 開発など、今のあなたにできて? あなたは行くのよ、あなたのために。大地を割き、稲妻を呼び、ドラゴンを呼ぶ 竜騎士のあなたは。 私は都市管理ユニット・マルヤム。力の限りこの都市を機能させ、守る』 「何のために……」 『中断される研究のため。封印されるユニットのため。いつか再開される宇宙開発 事業のため。都市管理ユニットである私のため。そしてなによりルース、あなたの ために』 * 夢は終わった。 こぼれる記憶の火花がルースを覚醒させた。 思い出した。 これは、人形だ。操り人形。 それで気配が無かったのか。 どこでどう間違ったのか、人形がこの時代に生きているとは考えもしなかった。 かつて自分が開発し、今では失われた技法『操り人形』。ユニットと、ヒューマ ノイド型外部端末を接続する、未完成に終わった技術。 それで、ドラクーンの名前を、今まで思い出さなかったのか。 この操り人形が、どういう経路で本体のユニットと接続されたのか、知る由もな い。記憶を失っている理由もわからないが、本体ユニットを探し当てればなんとか なるだろう。 良かった。殺さなくって、本当に良かった。 なんて久しぶりのことだろう。たとえ今は人形でも、本当の仲間に会えるのは。 声をかけてみたかったが、さっきの呼びかけで力つきたのか、意識を失ってしま った。 遠くからの声が、次第に近くなる。 勝利の凱歌を上げながら、神に使える戦士たちがルースとティシュタルとを迎え にやってくるのだった。 灰色の、小さな角を拾い、元の位置に着ける。簡単に取れるようにはしていない はずだが、彼女の力がたいしたものなんだろう。 姿を認めて彼は手を振った。ひときわ大きな歓声が上がる。 ひとまず、この輝ける女盗賊は、司法神に預けられることになるだろう。 アストレイアの白い宮殿は、どこよりも彼女を安全に保護してくれる。 極刑を免れるよう、少しでも刑が軽くなるよう、これから小細工に奔走しなけれ ばならない。 しばらく待つことになるが、時間はたっぷりある。 時間。これまで待った時間に比べれば、なんて短い時間だろうか。 2 アストレイアの眠る庭 「お帰りなさいませ」 彼が歩くと、そう声がかかる。 神官服をさやさやならし、善男善女の神殿専任神官たちが過ぎて行く。 帝都に帰ると、いつもこう、なにか居心地が悪い。 そもそも、アストレイア主神殿は現場の人間向きの場所じゃない。 彼は部屋があるから帰らなければならないが、わざと部屋を持たず、土地から土 地へ放浪を繰り返す、年に一度も帝都に顔を出さない者もあるくらいだ。 帝国内でも地方には、司法神や、それに類似する神の神殿がない場所は多い。 行く先々で、裁判を開いてやったり、泥棒を捕まえてやったり、村と村の争いを 調停してやったりする。 帝国歴以前の、警察と裁判所と探偵をいっしょくたにして宗教でまとめたような 職業だ。 実際、流しの司法神官はいい商売になるし、ありがたがられる。 そのかわり、司法神官を偽った場合は即、極刑となる。司法神の戒律を破ったの がばれても、同じこと。裁判が行われるだけましというものだろうか。 さて、部屋持ちの、地方回りの司法神官がどう居心地が悪くうっとおしいかとい うとだ。 「ああ、院長先生、院長!ルース先生お帰りなさい」 「……やあ、誰のことかと思った。ひさしぶりだなあ、マイラ」 マイラなんたらとかいう、昔、神殿付属学院の院長をしていた時分の、教え子だ った。 一角獣種と宣伝している割には、ルースの記憶力は良くないようだ。 彼女の家名までは覚えていない。名前の方も呼び名で、正式なやつは忘れた。 いい家の子だったと思ったが、それなりに出世しているらしい。 「ひさしぶりどころか先生、最後に先生にお会いしたのは、かれこれ七年前ですよ。 ほら、私の、宣誓式の時にご出席いただきまして」 「宣誓式……ああ、そうか。それではずいぶん立派になるはずだ。あれからさらに 背が伸びたらしいなあ」 古い話だ。ティシュトリヤ大公家の依頼で女盗賊を捕らえた後、上司の覚えめで たいルース・リンクスは、司法神殿付属学院の院長を五年ほどやらされたのだ。そ のお役目も一昨年、やっと返上するのに成功した。 「いやあ、先生こそ……あー、失礼、全くお変わりなく……」 「変わったら困るよ。僕は一角獣なんだからねえ」 わざとらしく、頭をなでる。相手は彼を見下ろしているから、角の在処はなんと なく感じるだろう。 マイラなんたらは、恩師の倍は背が高い。 「先生は本当にご不在が多いですね。私も多い方だとは思ってましたが、先生は数 えるほどもお部屋にいらっしゃいませんからね。今お帰りですか?」 「ああ。朝一番で港に着いてね。ちょっとのんびりしてたらこんな時間だ」 太陽は中天にさしかかりつつある。アストレイア神殿は、海に注ぐ大河の河口近 くに位置していて、移動手段は主に船と馬車だ。 「身軽でいらっしゃいますね。例の杖はどうなさいました」 「先に馬車の便があったからね。送ったよ。だいたい大した荷物じゃないしね。洗 濯物とか。どうせまたすぐ旅に出るんだし」 「そうですか。それでは今頃お部屋ですね。ああ、そういえば……」 ほら来なすった。 「先生の依頼箱、また一杯でしたよ。それも、封蝋と金文字で飾られた、派手そう なものばっかりで」 やっぱりか、とためいきを吐く。 「神官長さまもおっしゃってましたよ。ルース神官は、金持ちに人気があるのに気 の向いた仕事しかしない。とばっちりを受けるのはこっちなのだぞって」 「金持ちや貴族の依頼なんて大した事件じゃないんだよ。裁判ざたなら、神殿専任 神官のほうが上手に処理する。僕みたいに外回り専門の神官が手を出すようなこと はないな」 「見かけによらず、失礼、先生は、肉体労働派ですか」 「はは。そんなとこにしとこうか」 力なく笑う。 長い回廊を歩いていると、よっぽど、こののっぽとちびの組み合わせが面白いの か、好奇の視線にさらされる。中庭に面したここは、人通りが多い。 ルースの考えが解ったのか、マイラは笑った。 「先生は滅多に主神殿においでになりませんからね。生きた神話か伝説のようなも のですよ。大貴族か皇族みたいなもので」 生きながら伝説にされるとは、怒っていいのか悪いのか。 はるか上に、マイラのメダルが揺れている。石は、透明感のある黄色だ。 「貴族といえば、以前ティシュトリヤ大公家の依頼を受けてらっしゃいましたね」 「ああ、そうだが、よく覚えているな」 「そりゃ、大貴族にお百度踏ませてその上で断りを入れる先生が、即日でいいご返 事なさったそうじゃないですか。そのティシュトリヤから、書簡が届いておりまし た」 「そうか。礼状なら、季節の変わり目に相変わらず届けてくるらしいが」 「どうでしょう。事件でしたら、お受けになりますか」 「わからないな。内容によるよ。僕の仕事は時間がかかる」 回廊が終わった。神殿に向かうなら右、ルースは自分の部屋がある離れに向かう ので左だ。 挨拶を交わし、別れようと背を向けると呼び止められた。 「先生、いまだに従者はお取りにならないのですか」 明るい庭から、急に暗い廊下に移ったためか、視界がきかず彼女の表情が読めな い。 「ああ、今のところはね」 笑ったようだった。 「私は、先月また一人、死なせてしまいました。あれは……慣れないものですね。 もう、三人目になるのですが」 「補充は、もう?」 「ええ。因果な商売ですよ。私たち、本当にあの世で、幸せになれますか」 「司法神の御心のままに、だよ、マイラ」 去って行くマイラを見送りながら、少年は後悔した。 もう少し、気の利いた台詞にすればよかった。 せめて、もう少し重みのある声だったなら。 つらい気持ちは分け合えないが、想像することはできる。 「でも、僕が従者を取らないのは、つらいからじゃないんだ」 誰に言うともなく。 従者は、つねに主と行動をともにする。いかなる時でも。 危険の多い司法神官職で、主をその危険から身を呈して守る『従者』は、ルース の正体を知るだろう。 もちろん、神殿に、ではなく神官個人に雇われる従者は、主の秘密は絶対に守る。 それが法を犯す事であろうとも。けれど、所詮は人間だ。 司法神官を続けて半世紀を越えるが、専属従者として信用して使えるような人間 には巡り会わなかった。それだけのことだ。 とんでもない。 事件の度に、自分の部下の始末までしなければならないなんて。 自分一人でなんでもやれる。そう思わなければあの日、司法神官になろうなどと 思わなかった。 長い孤独の日々は、つらくなかったと言えば嘘になるが、思い出になれば大した ものではない。昔見た映画のように、ただなつかしいだけだ。 その、思い出の中心となったのが、彼に与えられた部屋だった。 ルースの部屋は、『事務所』と呼ばれている離れの、一番奥にある。あんまり帰 らないので、少しずつ奥に追いやられ、とうとう一番奥になってしまった。ただ単 に、長生きのし過ぎだと言う説もある。 だが気に入っている。さっきの中庭ほどではないが、そこそこに手入れの行き届 いた、いい風のある庭に面している。 誰も知らないが、この庭は特別だ。 部屋の、手の込んだ扉には、重い、真鍮の鍵が付けられている。顔が見えるほど よく磨かれたそれに、古ぼけて錆の浮いた鍵を差し込む。 軽い金属音とともに、扉は開放された。軽く押せばきしむことなく開く。 なつかしい、思い出のある調度が、出たときと寸分変わらず主人を迎えた。 窓を開けると、さわやかな初夏の風が流れ込んで来る。 不在の間も、係りの者がきちんと手入れをしていてくれるが、新しい空気につい ては全く別の話だ。 胸いっぱいに風を吸い込む。 庭の木々が、気持ちよく鳴る。古代神殿の遺跡の上に、二百年前に作られた庭な ので、所々に旧神殿の柱石が残っている。 炎の爪痕が残るその柱こそが、本当になつかしい。 まるで昨日のことのようだ。 赤い魔女アストレイアの怒りの炎が、この柱、あの壮麗な神殿を焼き滅ぼしたの は。 「本当に、ここは変わらないなあ」 またひと呼吸して、感想を口に出してみる。 声が、風に流れた。 「変わらないのは、あんただな」
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