長編 #3009の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
7 ----苦戦しているようだな? ----!! 突然、頭の中で聞き覚えのない声が響きわたり、リエは剣を取り落としそうにな った。 ----なぜ、魔法を使わない? B・Vのナイフが左脚の太腿に切りつけてくるのを、ぎりぎりでかわしながら、 リエは混乱した頭を振った。 ----な、なに?誰? 声は答えた。 ----お前が危機に陥ったときには現れるといっただろうが。 その瞬間にリエは理解した。 ----あたしの影とか言ったやつね!だけど、おとついの夜はあたしとそっくりの 女だったじゃないの。 ----わたしは姿形や性別などを超えた存在なのだ。重々しく影は答えた。あの夜 <ヴェーゼ>という物質で目覚めて以来、わたしは進化を続けてきている。 ----興味深い話だけど、あたしは今忙しいのよ。リエは見えない影に怒鳴りつけ た。ひっこんでてよ。 ----手を貸してやろう。影はリエの言葉が聞こえなかったかのように言った。わ たしのためにも、リエ、お前に死なれては困るのだ。 ----いらないわよ、やめてちょうだい。 ----そうはいかない。このままでは、お前が負けることは明白だ。 リエは自分の中から、熱い力がじわじわと滲み出るように広がってくるのを感じ た。抑えようとしたが、抑えきれなかった。活火山の噴火口に立って噴出する溶岩 を素手で押し戻すようなものだった。 「やめて!」思わずリエは叫んだ。その言葉を自分に言われたと思ったB・Vが いぶかしげな表情で動きを止めた。 次の瞬間、B・Vの口から呻きに似た驚きの言葉が発せられた。冷酷な暗殺者に しては珍しいことだった。だが、B・Vにはそれを恥じている余裕などなかった。 続いてキキューロまでが驚きの声を発した。 ネイガーベン都市評議会と魔法使い協会との間では、互いの権益のため幾つかの 盟約が結ばれている。ネイガーベンの中では、ある規模以上の魔法を使用してはな らない、というのもその条項の一つである。 この盟約が死文と化さないためには何らかの監査機構が不可欠となる。魔法監視 委員はそのために設けられた組織である。もっとも、監視委員は監視官が一人いる だけの極めて小規模の組織ではある。だが、これは監視官の重要度が低いことを意 味しているのではない。監視官はネイガーベンでは都市評議会委員に次ぐ力を持っ ており、治安維持自警団に対して評議会の承認を得ることなく命令を出せる唯一の 職務だった。 現在、監視官の任についているのは、ティクラムという若い女性だった。過去の 監視官のほとんどがそうであったように、ティクラムも自由魔法使いであった。つ い、数週間前、前任の監視官が病気のため引退し、その孫娘であったティクラムが 推薦されたのだった。 監視官としての俸給は普通の生活を送るにあたっては申し分なかったが、ひょっ としたら永久に出番がこないかもしれない職業が、おもしろみに欠けるのも事実だ った。本来の職務にさしさわりがなければ副業を持つことは禁じられているわけで もない。ティクラムは小さな花屋兼薬草店を営んでいた。 その日は、厚い一日になりそうだった。ティクラムは鉢植えにして並べてある、 ロース草やキャドマ草、ヴィンセルという高価な花などに注意深く水をやり、直射 日光を避けるための覆いを出す。 「さて、これでよしと」ティクラムは立ち上がった。今までずっと腰を折り曲げ て、草花の手入れにいそしんでいたので、ぐっと身体を伸ばす。無造作に束ねた肩 の下まである褐色の髪が揺れた。「一休みしよっかな」 ティクラムは水差しから、冷たい水をごくりと一口飲むと、うまそうに口元を拭 って奥に呼びかけた。 「ヴィンセル!いつまで寝てるの!起きなさい!」 ティクラムの声に応じて、住居になっている奥の方でもぞもぞと何かが起きる気 配がした。しばらくして、緑色の皮膚と翼を持った生き物がのそのそと歩いて出て きた。大きさは仔イヌほどで長い尾と短い首が頑丈そうな皮膚に覆われた胴体から にゅっと突き出している。4本の脚で歩き、2本の腕がある。見かけは竜にそっく りだが、魔力も持っていないし、口から炎を噴くこともないので妖精竜と呼ばれて いる。通常は人気のない深い山中などで生息している。この妖精竜は、ティクラム が監視官の職と共に祖父から譲り受けたのだった。 「おはよう、ティクラム」花の名をもらった妖精竜は重々しい声で挨拶した。 「おはようじゃないわよ、ヴィンセル。もうお昼よ」カップや皿を並べながら、 ティクラムは言った。「おなか空かないの?」 「空いた」ヴィンセルは答えた。「すごく空いたな。のども乾いたぞ」 「冷たいお水があるから飲みなさい。今日は暑いわよ。後でお花の配達に行って もらえる?」 「いいとも」指が3本の前足で水差しをつかみながら、ヴィンセルは答えた。「 どこだ?」 「野菜卸のカレ商人と、ロッティナさん」ティクラムは、朝一番で届けられた柔 らかいパンを籠から出して皿にのせた。「それと……」 何かの兆候を感じ取ったティクラムが言葉を切った途端、周囲の草花が風もない のに一斉にざわめいた。ティクラムの店にある様々な薬草や花は、多かれ少なかれ 魔法の力に敏感になっている。 「な……!」 数拍遅れて、ティクラムにも明確な知覚が訪れた。それは、ティクラムが生まれ てこの方見たこともないような強大な魔法の力だった。しかも、ティクラムが驚い ている間にも、刻々と強力になりつつあった。 「なんてこと!」ティクラムは叫んだ。「近いわ。ネイガーベンの中だわ!」 ティクラムは寝るときも入浴のときも、左手の中指から外したことのない指輪を 目の前に持ち上げた。埋め込まれているエメラルドは魔力に反応して内部から輝き を発する呪文がかけられている。今、エメラルドはそれ自体が太陽と化したかのよ うな光の塊となっていた。 「ヴィンセル!」ティクラムは妖精竜に呼びかけた。さっきまでの呑気な表情は 真剣で険しい表情に飲み込まれてしまっている。「わたしは魔力の発生源に飛ぶわ。 あんたは急いで、都市評議会委員の誰かにこのことを知らせて!現在、ネイガーベ ン内に所在が確認されている魔法使いの一覧表が欲しいと伝えてちょうだい。マシ ャと自由魔法使いを問わずよ!それから第6自警団に緊急出動要請を伝えて」 「自由魔法使いは届け出をする必要がないから、正確な集計はできないと思うが」 ヴィンセルは翼を広げられるだけの場所にのそのそと移動しながら答えた。 「いいから、急いで。わたしは行くわよ!」 ヴィンセルが何か答えたが、もはやティクラムは聞いていなかった。エプロンを むしり取るように外すと、声高に呪文を唱える。数秒で変身が始まり、呪文が終わ ったときには、一頭の真っ白な飛竜が宙に浮かんでいた。妖精竜より一回り大きく 肉食を示す鋭い牙と鋭い爪が特徴的である。 ティクラムは翼を広げ、勢いよく空へ飛び立った。指にはまったままのエメラル ドは、ますます輝きを増していた。それを見送ったヴィンセルも、翼を広げて、ふ わりと空へ羽ばたいた。 「バカめ!魔法を……!」 キキューロの狼狽を含んだ叫びが聞こえたようだが、もはやリエはそれに気を取 られているどころではなかった。必死になって自分から発生している魔法の波動を 制御しようと、死に物狂いに奮闘していたのだ。だが、内から沸き起こる強烈な意 志は、そんなリエの努力をあざ笑うように意識を奪い取ってしまった…… リエの身体から、真っ黒な雲がものすごい勢いで噴出していた。みるみるうちに 周囲を覆い尽くした黒雲は、ゆらりと地上を離れると、そのままゆっくりと上昇し はじめた。リエの身体を包み込むように。 不意に黒雲全体にすさまじい放電が走ったかと思うと、轟音とともに稲妻が地面 に叩きつけられた。雷光は立ちつくすB・Vから数歩離れた場所で飛散し、B・V は風にあおられた木の葉のように、よろよろと後ずさった。 続けざまに稲妻が地上を襲った。キキューロは建物の陰に隠れながら、上空のリ エの姿を探して視線をさまよわせた。ようやく捉えたリエの顔を見て、キキューロ は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。リエはさっきまで必死で戦っていた人間 とは思えないほど、冷たく澄んだ笑みを浮かべていた。 あるいは、あの女にちょっかいを出したのは、とんでもない過ちだったかもしれ ない…… 大胆不敵なキキューロですら一瞬、心の底からの恐怖を味わったほど、それは人 間離れした表情だった。 ----神……か? 自問に対する答えは得られなかった。いつのまにかリエの衣服は消滅しており、 均整のとれた美しい裸身が雷光を反射して、淡い輝きをはなっている。両手が高々 と天を指し示し、新たな雷光を呼んだ。 雷光が走った。奇妙なことに雷鳴は轟かない。雷光は生き餌に集う魚の群のよう にリエに手に集まり、次第に膨れ上がる球体を形作っていった。 「ヤバイ!」キキューロは叫んだ。「ブルー逃げるぞ!」 B・Vは反応を示さなかった。呆けたようにポカンと口を開いたまま、上空に浮 かぶリエに見とれている。 「このバカ!目を覚ませ!」キキューロはB・Vの腕をつかんで、無理矢理その 視線をそらさせた。「飛ぶぞ!捕まれ!」 B・Vは我に返って、キキューロの腕にしがみついた。キキューロは素早く呪文 を唱えた。 あちこちで空気が帯電して、バチバチとはじけ飛んでいた。あちこちの建物から 人々が顔を出して、にわかに黒雲に覆われた上空を眺めては、ざわざわと騒ぎ出し ている。何人かは高空で雷光の玉を作っているリエに目を止めて、わけのわからな いまま呼びかけようとしていた。 キキューロが変身の魔法を唱え終わったその瞬間、リエが巨大に膨れ上がった光 球を地面めがけて勢いよく放った。 ティクラムが魔法の波動の中心部へ向かう間にも、感じられる力はますます増大 していた。これほどの巨大な力を持った魔法使いは、マシャの中でも数人もいない だろう。そんな力を持つ魔法使いがネイガーベンに入ったという報告を受けた覚え はなかった。 ----だとすると、自由魔法使い?ティクラムは飛びながら考えた。それにしては 力が強すぎるわね。ひょっとして、ガーディアックが滅びた夜、感じたあの力と同 じ持ち主かしら? あの夜、ガーディアックを中心に、アンストゥル・セヴァルティ中を貫いた魔法 の力は、当然ティクラムも感じ取っていた。 その時、突然視野の半分が目も眩むような光で満たされた。悲鳴を上げて顔をそ むけたティクラムは、とてつもなく巨大な力が地上で炸裂したのを確かに感じ取っ た。 「なんなの!」ティクラムは薄目を開け、そして息を呑んだ。 ネイガーベンの西大通りから少し離れた区域が燃え上がっていた。その上空には、 不自然な形の黒雲が浮かび、中央に光り輝く何かがいる。それが裸の人間らしいと 確認したとき、再び巨大な力と光がその人間から発せられ、地上に激突して太陽を 作った。 至近距離にいた建物は一瞬で粉々になり、その周辺の建物は紙細工のように発火 した。悲鳴と怒号が渦巻き、何人もの住民が大慌てで飛び出してくる。ティクラム は恐怖と怒りに身を震わせながら叫んだ。 「やめなさい!」 次の光球を呼び集めていたリエが、声の聞こえてきた方向に顔を向けた。そこに 浮かんでいる冷たい美に、ティクラムは背筋が凍りつくのを感じた。それでも、職 業的義務感に支えられて、ティクラムはさらに接近した。 「わたしは、ネイガーベン魔法監視官である自由魔法使いティクラムだ!」ティ クラムは近づきながら名乗った。「そちらは誰か!何故に、このような暴挙を成す のか!盟約が定める権限に基づきお前を逮捕拘禁する!直ちに全ての魔法を停止し 地上に降りろ!」 リエは表情も変えなかった。片手には人間の頭部ほどの光球を乗せている。手首 がひょいとかえり、光球は放たれた矢のようにティクラムめがけて空中を飛んだ。 「!」 危ういところでティクラムは光球を避けた。翼の先を掠めるとき、なめし革のよ うに固い翼が高熱に炙られて焼け焦げるのがわかった。ぐらりとバランスを崩しか けたティクラムは、さすがに腹を立てて怒鳴った。 「やったわね!そっちがその気なら、こっちにも考えがあるわよ!」 ティクラムは素早く呪文を唱えると、人間の姿に戻った。ただし、飛竜の翼だけ はそのままである。 「竜たちよ!風と土と火の交わりの如く我を助けよ!」ティクラムは唱えた。「 我が身に災いなすものを死神の吐息に換えよ!いざ、来たれ!」 たちまちティクラムの周囲に数十頭の翼を持つ生き物が出現した。どれも人間の 拳ほどの大きさだが、鋭い爪と大きく開いた口に並ぶ牙から想像できる獰猛さは、 身体の小ささを補ってあまりある。物理的な力と魔法的な力の両方であらゆる敵を ずたずたにする小さな破壊魔たちだった。 「行け!」 号令一下、竜たちはばっと四散するとリエに向かって全方向から突撃した。口々 に可聴域すれすれの甲高い鳴き声を発しながら。
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