長編 #2987の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
結局、午前中は潰れた。午後も潰れるかもしれない。今日の夜行で帰る予定 だけど、それまでに何とか解決したい。そんな気持ちが強くなっちゃってる。 「雪の密室、か」 食堂のテーブルに肘をついて、そんなことをつぶやいていた。 「『白い僧院』ですね」 ディクスン・カーの作品名を挙げたのは本山。雪の密室トリックの代表作と して有名。 「今度の事件の場合、発見者がどうこうという可能性は除外できるから、楽は 楽なのよね」 「それだけ、密室が完全に近いってことにもなるんじゃない?」 ミエが冷やかすように言った。とりあえず、切り返しておこう。 「そうとも言う」 「足跡を着けずに別館へ出入りするとなると、時間を錯覚しているか、ロープ の類で綱渡りするしかないでしょ。でも、今のところ死亡推定時刻は信用でき るみたいだし、綱渡りはロープを結ぶ適当な場所がない」 ミエの冷静な指摘。それに剣持が追随する。 「別館内に犯人がいるとしても、足跡を全く着けずに、福沢って人の部屋への 出入りは難しいみたいですしね」 「できてしまった足跡をうまくごまかす方法でもいいのよ。例えば『妖女の足 音』みたいな」 口に出してから、そのトリックが今度の場合、可能かどうかを頭の中で検討 してみる。建物の配置に関係しているんだけど、別館や本館の位置では無理、 という結論になるわね。 「室内にある何かに毒を仕掛けていたら、話は簡単じゃないの? 何かの拍子 に毒を口に含んだら死ぬような仕掛け」 きよちゃんが現実的な意見を持ち出してきた。 「待てよ。他殺を考えるなら、先に電話のことを片付けてくれよ」 細山君が言った。その口調は、付き合いではなく、本気で考えているみたい で嬉しい。あたしはすぐに応じる。 「電話って、自殺をほのめかしたっていうあれ? 簡単よ。テープレコーダー から流された物だと考えればいいじゃない。もちろん、照岩が真実を述べてい るとして、だけど」 「どこで録音するんだ? 都合よく喋ってはくれないぜ」 「留守番電話じゃないかしら。福沢が留守番電話に一方的に声を入れていった のを、犯人が利用したという訳」 「それじゃあ、被害者とそれなりの関係にある男が、犯人ってことか?」 「テープはいくらでも持ち出せる物だから、完全に断言はできないけど……そ の確率は高いはずよ」 「……しかし、おかしいな。だったら、照岩が最有力だ。でも、照岩だったら、 自殺電話についての証言そのものがそいつ一人にかかっているんだから、意味 がない。堂々巡りになってしまいやしないか?」 「女のあたしが言うのは気が引けるけれど、福沢が照岩だけと付き合っていた かどうか分からないわよ。他にもいるかもね」 「なるほど」 どこかとぼけた調子だが、納得した顔をする細山君。ともかく、トリックで 自殺をほのめかす電話が偽造できると分かったところで、また雪の密室に戻る。 「部屋の中の毒を仕掛けるのは、警察にばれると思うの」 ミエがきよちゃんに説明する。 「何に仕掛けるか知らないけど、その毒を全部、被害者が飲んでくれる訳はな いのよ。きっといくらかは残る。それに警察が気付かないなんてこと、ちょっ と考えにくいのよね」 「えっと、昔、読んだ読み物に、毒のカプセルを飲ませるっていうのがあった わ。それなら分からないんじゃない? カプセルって溶けちゃうんでしょ」 「それは本当よ。でもね、それなら、被害者は誰が犯人か分かるかしら? 死 ぬ間際に手がかりを遺そうとしていることをお忘れなきよう。ね?」 「……カプセルを手渡されたとすれば、その相手を犯人だと思って」 「じゃあ、きよちゃん。あなた、カプセルを手渡されて、飲んでくれと言われ たら、その通りにする? 相手がいくら好きな人だとしても」 「飲まないわ。薄気味悪いもの」 両肩を抱くようにして、身震いの格好をするきよちゃん。 「それと同じ。犯人は自然な方法で被害者に毒のカプセルを与えなければなら ない。その一方で、今度の事件では、被害者は犯人に思い当たっていなきゃな らない。これは矛盾しているのよ」 結論が出ないまま、お昼も食べ終わったので場所を空けようとしていたとこ ろへ−−。 「分かったぞ」 背中の方から大声がした。見れば、流さんだった。とても晴れ晴れとした表 情をしているのが、何だか面白く感じられる。 「分かったって、犯人がですか?」 「そのつもりだ。警察に話す前に、君達に聞いてもらって検討するのもいいん じゃないかと思ってね」 光栄だわ。あたし達は再び座り直した。ウィークデーのためか、さほど人が 多くないから助かる。 「ダイイングメッセージを取っ掛かりにしたんだ。調べてみると、イニシャル Kの人物はいくらでもいた。福沢に関係のある者に限ってもね」 おもむろに一枚の写真を取り出す探偵。 「えーっと、船越さんだっけ?」 それからきよちゃんに声をかける。 「はい?」 「この写真の男だろう、君が見た酔客って?」 「あ、はい、そうですよ。もう分かったんですか?」 驚いたのがきよちゃんだけでなかったのは、言うまでもない。 「うん、ちょっとした観察でね、すぐに見つけた。と言っても、他の女性従業 員に聞いて回っただけなんだがね。接近して確かめたら、ぴたりと当たってい たよ。あっさり認めてくれた彼の名は、外山浩太郎」 写真裏にはその名がメモしてあった。 「浩太郎……Kですよね。ということは……」 続けようとしたら、流さんが手を挙げた。 「違う違う。とりあえず、紛らわしい枝は払っておこう。すんなり自分の醜態 を認め、詫びた外山氏は、犯人でないと思えるんだが、念のために……。香田 さん、君が見た怪しい人影っていうのは、かなり背の高い女性、ということだ ったね」 「あの、女性とは断定しませんけど。髪からそう思っただけです」 若干の訂正をしてから、あたしは肯定した。 「僕の目測で、外山氏の身長は一六〇ちょっと。君の見た人影の背を確認して おこう」 「一七〇前後あったと思います」 「これで外山氏は除外できる」 満足そうに微笑む流さん。 「身長で犯人を絞り込むのですか?」 非難めいた声を上げたのはミエ。 「もしも、犯人が目撃されることを想定して、身長をごまかしていたらどうな るんでしょう?」 「もっともな質問だが、考え始めると際限がなくなるんじゃないかな。仮にご まかそうとすれば、どうか。身長を高く見せかけるのは、何か慣れない物を履 き足す訳だから、歩き方がおかしくなるだろう。低く見せるのは背を丸めると かひざを折るとか、そういった類になるよね。目撃した感じに、そういった不 自然さはあったかい?」 聞かれたあたしは、あのときの情景を思い浮かべる。そして出た答は……。 「いいえ、ありませんでした。きちっと姿勢を正していないと、あんな風にか つんかつんと足音はしないでしょうし」 「それならいい。僕の推理を続けよう。身長が条件に当てはまり、福沢とつな がりがあって、イニシャルがKという人物を探してみると、他にはここのロッ ジのオーナーである刈谷夏男氏しかいなかった。アリバイは奥さんの証言のみ で、警察は採用しない。でも、彼も犯人ではない。体格ががっしりしている山 男タイプだから、女性に化けるのは不可能だと考えなければならない」 「じゃあ、誰もいなくなるじゃないですか!」 真子が怒ったように言う。 「そうなんだ。こんなやり方では犯人を絞り込めないんだ、今度の事件は」 流さんはあっさりと認めた。 「では、どうするか? 条件を緩めるのがいい。福沢とつながりがある。身長 が一七〇ほどある女性か、女性になりすませる男。姓名のいずれかのイニシャ ルがK。最初の二つは絶対条件と言っていい」 その言葉に、全員でうなずく。 「最後のイニシャルKはどうか。本当にKだったのだろうか。そんな疑念が沸 き起こらないかな?」 「Kじゃない……とすれば、何が」 「あの文字は机の下、というか裏側に書き遺されていたと言ったね。何故、裏 側なんだろう」 「当然、犯人に見られないように……」 「それもある。だが、机の裏に書くという行為自体、非常に目立つ。それだけ で、犯人は福沢が何かを書き遺したことを知るはずだよ。しかし事実、気付い ていないということは、福沢は不自然な体勢を取ることなく、机の裏に文字を 書いた、となる」 「手だけを机の裏に回して書いた、とか」 細山君が意見を述べる。流さんはにこりと笑った。 「半分だけ、正解かな。僕は、後ろ手だったと思う。まあ、細かい点はどうで もいい。要は、見た目は自然だが、当人にとっては不自然な書き方をしたって こと。被害者は犯人の方を向いたまま、後ろに回した手で机の裏に文字を書き 遺した。これを実際にやってみれば、本当は何を書こうとしたのか分かるよ」 そう言われても、手元に実験するための紙もペンもない。 すると流さんは、手帳を取り出した。 「僕は何度か実験して、これだという答を見つけたつもりだよ」 と、あるページを広げて見せてくれた。そこには歪んだ「K」らしき文字が いくつも並んでいる。 「何を書いたらこうなるんです?」 「『オ』だよ。カタカナの『オ』。見る角度に思い込みがあれば、Kと読める」 頭の中で『オ』を後ろ手に書いてみるのだけれど、本当にそうなるのか、分 からない。 「ダイイングメッセージが『オ』だとしたら、どうなるんですか?」 話を本筋に戻す剣持。 「それがねえ、驚いたことに、該当者がいなくなってしまうんだよ。福沢とつ ながりがある人物の中に、『オ』が最初に着く者はいない。もちろん、ロッジ 『レオン』に来ている者の中で、だけど」 「ところが、面白い事実が判明してね。驚くべきことに、名前か名字の最初が 『オ』の人物は、宿泊客と従業員を合わせても、一人しかいなかった。さて、 誰でしょう?」 試すような口ぶりの流さん。聞いてくるからには、あたし達の知っている人 ということね。……あ! 「まさか、岡田さん?」 「そうなんだ。岡田牧子、彼女しかいないんだよ」 「あの人が犯人だなんて……動機は」 きよちゃんは、信じられないといった表情を見せている。 「動機は考慮していないから、これだと言い切ることはできない。だが、想像 はできるんだ。僕が彼女から相談を受けたのは、知っているよね」 知っているも何も、その直前にあたし達が岡田さんを流さんに引き合わせた のだもの。 「本来なら、依頼人からの秘密は守らなければならないんだが……ヒントだけ 言おう。彼女の相談は恋愛関係……それも同性間でのね」 「えっ? それって、レ」 ズ、と続けようとしたら、止められた。 「そこまで。他言無用に頼むよ。恐らく、新たな恋愛対象として福沢を選び、 拒まれたんじゃないかと思うが、これは警察に調べてもらわないとね」 「犯人を詰める推理は、分かりました」 言葉とは裏腹に、あまり納得できでないような顔のミエ。しきりと髪をかき 上げてるときの彼女は、そういうことが多い。 「雪上に足跡がなかった点の説明が、まだなんですけど」 「ああ、それか。難問だったが、可能にする方法を一つ、見つけたよ」 自信たっぷりの探偵の口調。ここの辺りは、本で読むの探偵の姿と重なる。 ほとんど違和感がない。 「仕事を終え、福沢が部屋に戻ったのが0時以降なのは分かっているんだ。そ れ以降、犯人は彼女の部屋を訪れたことになる。例えば、雪が降っている間に 部屋に行けば、行きの足跡は消えてしまう」 当たり前。問題は、帰りをどうするかなのよね、探偵サン? 「帰りの足跡をどうしたか。何もしなかったんじゃないかと、僕は思う」 「何もしなかった?」 理解不能。何もしなければ、足跡ができてしまうんじゃないの。 「犯人は別館から出なかった……という意味でしょうか?」 剣持が探りを入れるように発言。 「ご名答。この寒さだ、外で突っ立ってる訳にもいかないから、隣の部屋に隠 れていたんだと思うね。ドアは開いていたんだから。そして僕が福沢の遺体を 発見し、他の連中に知らせ、騒ぎが大きくなったところで、隙を見て外に出る」 何て言うか……言葉がなかった。野次馬の足跡がごちゃごちゃに着いたとこ ろで、それに紛れて逃げ出したということかしら。 「ドアから出れば、誰かに見つかるんじゃないですか?」 当然の疑問を、ミエが呈した。 流さんは訂正を始めた。 −−続く
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