長編 #2986の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「バイトなんですか?」 「それに似たようなもので、冬のシーズンだけ雇うシステムになっているそう だね。正規の従業員ていうのは、近くに住んでいる人が大半。ここ、雪のない 時季もグラススキーだの何だのができるから、年中、従業員は必要なんだ。で も、やっぱり冬が一番忙しいということだ」 「福沢という女性は普段、何をしているんです?」 「いわゆるフリーターらしい。このロッジのオーナーによれば、彼女は高卒で、 今シーズン初めて雇ったという話だった。十一月から働いてもらっており、勤 務ぶりは良」 地元警察に知り合いがいなくても、結構、聞き出しているじゃない。感心し てしまう。と同時に、探偵って嘘つきだなとも思えた。 「死因は毒。何の毒かまでは教えてもらっていないが、効き目から推測して、 青酸系である可能性が高いと思う。死亡推定時刻や入手経路等についても教え てもらっていない。というか、これはまだ判明していないのだと思うね。 次に、僕が発見したいきさつを話しておこう。今朝の六時なんだ、発見時刻 は。信じにくいかもしれないが、僕は、電話で呼び出されたんだよ」 「そんな時間に? どういう……」 「慌てないで。まず、従業員の一人の下に電話があったそうなんだ。彼、照岩 修平君は正規の従業員で二十三才、二ヶ月ほど前に福沢がここに来た直後から、 彼女にアプローチを始めている。それがまあ成功し、一応、公認カップルみた いな形になっていたらしい。最近の仲がどうだったかは知る由もないが、昨夜 遅く、照岩君は福沢から電話を受けている。これも詳しくは聞かされていない んだが、死んでやるとか何とかいう意味の電話だったらしい」 思いも寄らぬ話に一瞬、しーんとなる。それを破ったのはミエだった。 「穏やかじゃないですね。でも、それが事実なら、自殺は確定、警察はお役御 免だと思いますが、どうなんでしょう?」 「その話は後にして……発見時のいきさつをすませてしまうよ。照岩君は僕が 探偵だと知っていたのだ。いや、これは僕が不用意だったんだけど、偶然、彼 に対して自分が探偵であると教えてしまったんだよ」 らしくないミスに、あたしは突っ込んで理由を尋ねた。その答は単純で、何 の気なしに部屋の案内を頼んだ従業員が、照岩修平だったっということ。その 折、自分の身分を明かしてしまったというから、意外と間が抜けている。こう いった点も、小説には書かれない探偵の素顔ってとこかしら。 「もちろん、そのときは彼が照岩君だなんて知りもしなかった。それで……明 け方の五時半ぐらいだったかな。電話のベルで起こされてね。何かと思ったよ。 さすがに不機嫌な口調だったと思う。相手は照岩君だった。彼女から自殺をほ のめかす電話があった。ぶしつけなのは重々承知の上で頼みます。彼女が無事 かどうか見に行ってください。そんな主旨だった」 「変だな。何で、その男は自分で見に行こうとしなかったんだろう?」 珍しくも、細山君が疑問を呈した。 流さんは、目を細め加減にして答える。 「ふむ、ちょっと誤解があるようだから、補足しよう。正規の従業員である照 岩君は、近くの自宅からここに通っている。夜は帰宅するんだよ。もちろん、 全ての正規従業員がそういう訳じゃないんだが、彼の役割はそれで充分、勤ま るという話だ。つまり、彼は自殺をほのめかす彼女からの電話を、自宅で受け た。知っていると思うけど、ここの客室は外部からの電話も二十四時間、スト レートにつながる仕組みだ」 「流さんが探偵だと知っていたその人は、とにかくすぐにでも様子を見てほし くて、電話をしてきたんですね。失礼を承知で」 剣持の言葉にうなずく流さん。今度はあたしが質問。 「何故、ロッジのオーナーや親しい従業員に頼まなかったんでしょう?」 「それはこうじゃないかな。……男女の問題でトラブルを起こしたことをオー ナーに知られては、自分の立場がまずくなると思った。後者は、ここに泊まり 込みする従業員の中には親しいのがいなかったか、あるいは親しい従業員にさ え、福沢とのもめごとを知られたくないと考えたか」 あたしは納得して引き下がった。流さんが続ける。 「僕も少しは名を知られた探偵という自負があったから、眠気を振り払って、 相談に応じたよ。真っ先に、折り返し、彼女のところへ電話してみたらどうだ とアドバイスした。返事はノー。電話したくても、バイト従業員が泊まってい る部屋には、電話がないという。ああっと、当然ながら、福沢は自分の部屋を 出て、公衆電話からかけたんだろう。 それでも、正直なところ、その時点では単なる人騒がせな脅かしの電話に過 ぎないと、悠長に構えていた。照岩君の狼狽ぶりを気の毒がる以上に、おかし く思えるぐらいにね」 探偵の表情が引き締まる。 「僕は寒くないよう着替えて、勝手口から外に出た。そこからの方が、福沢と いう従業員がいる別館が近いと聞いたからね。雪はうまい具合にやんでいた。 そのとき、漠然と意識したよ。『誰も踏んだ跡のない雪か……』とね。それか ら別館前に到着。別館といっても、こっちの本館とはだいぶ造りが違う。あち らはバイト要員を寝泊まりさせるためだけの部屋だから、平屋で単に部屋が並 んでいるだけなんだ。出入りも一部屋ずつ別々になっている。そうそう、念の ために言っておくと、公衆電話は別館の左右の端に、一台ずつ設置されている。 さて、僕は、福沢菊江という名札を探した。すぐに見つかった。一番右端。 隣の部屋は鍵はかかっていなかったが、空き室だった。僕はなるべく静かにド アをノックした。応答はない。目を覚まさないんだと思って、いくらか強く叩 いてみたが、やはり返事がないのだ。三度目、相当強くドアを叩いたが、これ もだめ。まさか本当に……さすがに慌てたよ。どうすべきか考え、何はおいて も、この状況−−雪に足跡がなかったことを誰かに確認してもらおうと、別館 の他の部屋の人を起こした。説明するのに往生してね、部屋に上がり込んで事 件発生を信じてもら得るよう、説得したよ。 そこからあとは、ロッジのオーナー、ええっと、刈谷氏に委ねられることに なった。刈谷氏自ら鍵を持って、別館まで来た。何もなかった場合でも責任は 僕が取ると強く主張して、ようやく福沢の部屋を開けてもらった。こうして、 僕は遺体の発見者となった」 「鍵がかかっていたんですか?」 本山が聞く。雪の密室の上に、部屋自体も密室だったのか、気になる訳ね。 「かかっていた。鍵も室内にあった。ただね、ここでも補足説明だが、別館の 部屋の鍵の仕組みは、室内からは、ノブにあるボタンを押し込んでから閉めれ ばそのまま鍵がかかるタイプ。だから、論理だけで言えば、部屋の密室につい ては考慮しなくていい」 「自殺だとお思いですか?」 肝心な点を聞いてみる。流さんは顎に手を当てた。 「現時点では、判断が難しいな。遺書は見つかっていないんだよ。その代わり に、照岩君が聞いた電話のメッセージがある。部屋の周辺に足跡はなかった。 これだけを見れば、自殺としていい。ただ、怪しい人影を見たという証言もあ るし……」 「照岩修平という人が嘘をついている可能性、ですか」 ミエが先回りする。その後を受けて、あたしが続ける。 「その人の証言が全て嘘だとしたら……ううん、自殺をほのめかす電話がかか ってきたのは本当だとしても、それから流さんに連絡するまで時間が開いてい るのが気になります」 「電話を受けてから、一度ペンションに向かい、福沢菊江と口論となり、結局、 殺してしまった。その後、家に引き返した照岩君は、僕のところに電話を入れ た……とこういう筋書きだね? 僕も考えてはいる。照岩君がずっと自宅にい たことが証明されているのかどうか、それとなく聞き出してみたんだが、彼は 独り暮らしをしているから証明のしようがないらしい」 「時間的問題はどうなんです?」 再びミエ。 「自宅とペンションを往復する時間が、照岩という従業員にあったかどうか」 「これはもう、充分すぎるほどある。彼の家は、ここから二十分とかからない ところにあるそうだよ」 いきなり来訪者があった。随分と急いでいるらしく、忙しなくノックを続け ている。 「はい」 言いながら流さんは立ち上がり、ドアを開けた。そこにいた男は従業員の格 好をしていた。やや慌てているように見える。 「流さん、刑事さんがお呼びでございます」 「へえ? 何の用だろう」 あたし達に目で合図して、探偵は部屋を出て行った。 十五分ほど色々と議論していたら、流さんが戻って来た。 「待たせたね」 「何か新しいことが分かったんでしょう?」 勢い込んで、あたしは尋ねた。 「そうなんだが……どうもまずいことになった。自殺でない可能性が高まった らしい」 「え? 何故です?」 「文字を書き遺していたんだよ、福沢は。備え付けの文机の裏側に、真新しい 傷が刻まれていたそうだ。弱々しい線だったが、固い物で引っかいたらしく、 読むことはできた。アルファベットのKとね。警察は、相手の殺意を悟った福 沢が、死ぬ間際かあるいは毒を飲まされる前に、犯人を示す手がかりとして、 隙を見て書き遺した物でないかと見なしている。それで今まで、僕は足跡につ いてしつこく聞かれた訳さ。本当に何の足跡も見なかったのかとね」 「Kだけなら、ここにいる何人かにも当てはまってしまうな」 細山君は、どこかおどけている感じ。何の手がかりにもならないじゃないか と言いたいみたい。 「一応、リストアップを始めているようだよ、警察は。宿泊客から従業員から、 徹底してね。もちろん、その中から福沢とつながりのある人間をあぶり出すん だろうけど」 「流さんも当然……?」 促してみると、簡単に話してくれた。 「そうだねえ。自分が知っている範囲では、ロッジのオーナーが刈谷氏だから K。数えたくなるね」 「照岩修平が除外されますけど……」 何だか不満そうに言ったのは真子。 「まだ分からないよ。例えば、あだ名があったのかもしれないだろう。あるい は何かの文字を見誤ってKと判断した可能性も否定できない」 「流さん自身は、その文字を見ていないんですか?」 あれっという風に、ミエが聞いた。当然見ているのだろうと、あたしも同じ ように考えていた。 苦笑して、流さんは答える。 「直接にはね。ポラロイド写真で撮影したものは見せられたんだけど、じっく り考察する暇はなかったから」 「他殺となると、足跡がなかったのはトリックでしょうか」 本山はトリックにこだわっている。 流さんは少し考える仕種をしてから、口を開いた。 「もしくは……トリックなんてなかった場合もある。別館にいたバイト仲間が 犯人だとすれば、足跡を着けずに現場に出入りできそうだからね。これは確か めてみないと断言できないが」 あたしは別館の情景を思い浮かべてみた。遠目に眺めただけだから、細部の 様子は分からない。ただ、印象としては、雪を汚さずに部屋と部屋の間を行き 来するのは無理じゃないかしら。渡り廊下はなかったみたいだし。 「そうだ、亡くなった福沢の顔写真をもらったんだった。と言っても、警察か らじゃなく、ここのオーナーにお願いしたんだけどね。一応、見てもらおう。 君達も何らかの形で接していないとは限らないし」 流さんは、ジャケットのポケットから一葉の写真を取り出した。 澄ました顔の、肩から上の写真だった。二十二才と聞いたけれど、それより も子供っぽく見える。耳を隠す程度の位置でカールした髪を、彼女自身気に入 っていた雰囲気がある。 写真を回していると、一人が声を上げた。きよちゃんだった。 「あー! この人、知ってる。見たわ」 「見たって、どこで?」 この場にいるほとんどの者が、一斉に聞き返す。もちろん、あたしも。 「ほら、最初の日に、食堂まで行くときに……。リマには話したでしょ? 酔 っ払いに絡まれていた女性従業員がいたって」 「あ、あの人のこと?」 思い出した。でも、どういう顔をしていたかまでは、全く記憶していない。 「そうだったっけ?」 「そうだよ。間違いなし」 「僕らにも分かるよう、話してもらえるかな」 流さんが穏やかに求めてきた。きよちゃんは張り切って、身振り手振りを交 えて説明する。ちょっと長くなったけど、内容は伝わった。 「ねえ、これって動機になりますか?」 説明し終わると、きよちゃんは興味深そうに探偵に聞く。 「さあて、本人の性格にもよるから、何とも言えないな。その酔っ払いのおじ さん、年齢、どのぐらいだったって?」 「えーと、四十才ぐらい……かな」 自信なさそうなきよちゃん。あたしに視線を送られても困るんだけど。 さすがの流さんも、ちょっと困惑したような笑みを浮かべてから、 「そうだな、白髪があったとか髪が薄かったとかは」 と聞いてきた。 「髪はちゃんとありました。黒々として、油っぽい感じでてかってた」 「……分からないなあ」 お手上げといった風の探偵。 「まあ、オーナーとはパイプを作ったつもりだから、そちらに頼めば何とかな るだろう。宿泊客に関するデータをどこまで明かしてもらえるかが鍵だね」 流さんが掴んだ全情報を披露したこともあって、ここで一旦終了。何か分か れば教えてくれることを約束してもらってから、あたし達は別れた。 −−続く
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