長編 #2963の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
惑げに笑みかわすだけだった。 そうしておれたちは、さらに三日を江ノ島で静養し、宿泊代兼治療代としていささ か色をつけた(濡れていたのをかわかしたためにゴワゴワになった)礼金をわたし、 よれよれしながら帰途についたのだった。 おれたちの街はあいかわらず下世話で平穏だった。連絡のつかないおれたちをさが してだれかが騒ぎたてるようなこともいっさいなかったらしく、斉藤の野郎はふらふ らと現れたおれを見てさっそく、この一週間にどんな苦情がもちこまれ、どんな難題 がふってかかり、いかにして手際よく自分がそれをさばいてみせたのかをくどくどと ならべ立てはじめた。 不覚にもおれは涙があふれてきた。 だまって、なんの説明もせず、ただはらはらと落涙するおれを見て斉藤はあんぐり と大口を開いたきりだまりこんでしまい、集まってきた借金とりを含む魑魅魍魎のご とき油断のならない友人知己どもも、妙な追求はいっさいせず、ぼろぼろのままいつ までも泣きつづけるおれを呆然と眺めやっているだけだった。もちろん後半の落涙は、 借金とりその他の同情を誘う演技だ。 そうしておれたちは日常に返り咲いた。 小春のヤツは、あいかわらず脳たりんな真っ正直さで、自分たちがどんな数奇な冒 険に出会いどうくぐりぬけてきたのかを、あることないこと会う人ごとに熱心にわめ き立てている。 もちろん、そんな狂人じみた、しかも再構築による矛盾だらけの物語を本気で信じ るような奇特なヤツなどいるわけがない。たいていの場合は、無関心と苦笑とを巧妙 かつてきとうにおし隠した微笑とともに聞き流され、小春ちゃんてやっぱり少し足り ないね、といういつもどおりの風評をちょっとばかり補強させるだけのことだった。 もっとも同じことをおれがやれば、あいつとうとう、真剣にあっち側にいっちまっ たとでも噂されるのがオチだ。まったく、見た目がきれいなバカ女ほど許され、愛さ れる存在てなないもんだ。 で、そのバカ女だ。 あれ以来何回かのお通じを経過してきているはずなのだが、小春はいまだに“心臓” をひり出してくれない。 まあ便秘ぎみな娘であることは以前とかわらないし、ダイエットだの出ないのとわ ーわー騒いでいるのもいつものことではあった。 いくらなんでも地球を滅亡させ得るほどの存在の“心臓”と呼ばれるシロモノを消 化してしまうわけはないだろうし、おおかたできの悪い消化器官のどこかにひっかけ てしまっているだけのことなのだろう。 だろう、とは、思うのだが、やはり出てこないかぎりはどうにもおれの尻のすわり が悪いのも事実だった。 小春自身は、自分がのみこんだものの正体などまるで知らないままだから、まった く呑気なものなのだが、はっきりいっておれの方は気が気じゃない。 あるいはとっくの昔にひねり出して、今日はかたくてお尻が痛いわなどと愚痴りつ つ下水に流してしまったのかもしれない。まったく、冗談じゃない。が、充分あり得 る話だ。今度はもしかしたら下水道の内部を放浪させられるのかもしれないと想像し て、おれは一人でげんなりしていたりしたのだった。 尚美と鏑丸だが、やはりあれ以来いっさいの音沙汰はない。 あれだけ“心臓”に執着していた以上、小春のバカが下水に流してしまったのなら ともかく、生きているなら必ずふたたびおれたちの前に姿を現すはずだ。 それがいまだに音信不通なのは、あいつらがあの地下世界でいまだに出口を求めて さまよっているからなのだろうと思うことにしている。べつに鏑丸のことなどどうで もいいのだが、せめてもう一度、顔だけでも見せてくれれば、と願ってやまない昨今 だ。 もっとも、待望かなってあいまみえる時には、顔見せだけですますというわけには おたがい、行くまいがな。 もちろん、あの篭女の方はどうしたといえば、生きている可能性など皆無といって しまいたいところだ。が――こちらも実のところ、なんともいえない部分ではある。 あの無惨な姿からプラナリアみたいに再生して、すずしい顔で上品に笑いながらふ たたび現れないとも、いいきれないところがおそろしい。この点に関してはあまり考 えないことにしているのだが、それでも時おり淫夢または悪夢の形をとって、あいつ がおれの脳裏に立ち戻ってくることはすくなくない。和服姿の女を見かけるとぎょっ としてしまう癖がついたのも、なんとも残念な事実のひとつにあげられるだろう。 ともあれ、だいたいそんなところだ。 そういうわけで、おれは今でも借金とりとのあくなき追いかけっこを満喫しつつ、 濡れ手にあわのボロもうけのいつかを夢に見ながら日々、呑んだくれている。 小春は小春であいかわらずで、血がにじむほど人の陽根をもてあそびまくったあげ く、なおも元気いっぱいで間男をつれこんだりホテルやレンタルームにしけこむ現場 をいろいろな人間に目撃されたりしながら、毎日毎日無邪気にやかましく、いつ放り だそうかと思案するおれを日々、うんざりさせている。 そんなところで、とりあえずは平穏で退屈な毎日だ。 あん? 忘れてる? なにをだ。これでたいがい、説明はしつくしたはずだがな。 なんだって? タクシーの運ちゃん? 料金? ……。 ……。 あ。 ダルガの心臓――了
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