長編 #2868の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
すぐに非常階段に戻り、やや慎重さを欠いた足どりで昇る。 吹きなぐる雨の中、屋上フライアポートに二機の小型フライアがおり立っていた。 出はらっていたものが緊急帰還したのだろう。 帰還を要請していたのは知っている。 戻らず、ほかの機の調達も思いどおりにいかなかったのは、そこになにものかの作 意がはたらいていたせいかもしれない。 だが、やっとのことで戻った二機が、階下で必死の防戦につとめる部下たちを無視 して、市長のとりまきと幹部連のみを搭載して飛びたとうとしている場面にいきあた るとまでは、マウェンもロウァンも予想だにしていなかった。 「マウェン! なぜ持ち場を離れた!」 雨をついて、閉じかかったフライアのキャノピーのかげから、副署長の叱責があび せられた。 狼狽をかくすための叱責口調だ。ロウァンは奥歯をかみしめた。 「いま報せをやろうとしていたところだ」 フォローするように、署長の声だけが呼びかけてきた。 「後続のフライアも、間をおかず到着する。それまで持ち場を死守してくれ」 返答はせず、マウェンは声をはりあげた。 「市長! この男が市長に会いたがっております! 見おぼえはありますか?」 「テロリストをつれてきたのか? なんてことを――」 ののしりめいた非難をあびせかける副署長の叫びを圧するように、 「ドク・ラオ!」 当のシェイ・バ自身が叫びつつ、雨中に身をのり出してきた。 四囲を屈強のガードにかためられてラウレン市長が小走りにかけよってくる。警察 関係者たちの反応が一拍おくれたのは、なにがおこったのかとっさには理解しがたか ったからなのだろう。 「ドク・ラオ、説明したまえ! これはどういうことなんだ。え?」 怪我をしています、乱暴にあつかわないで、というロウァンの怒りにみちた抗議の 声など天から無視して、人格者で売っている市長が、乱暴なしぐさで傷ついた白衣の 男の胸もとをつかんでふり動かした。 蒼白の男は酸欠状態のように口をぱくぱくさせたあげく、弱々しくつぶやいた。 「暴走だ……シェイ・バ。究極のホムンクルスは……制御不能だ……」 「うそをつけ!」 とたん、けが人に対して模範的人物がとるとは思えない激烈な口調で、市長が叫ん だ。 「きさまがやったのだろう! あの生体兵器のサンプルを! 危険きわまりないあの 怪物どもを! くそ、どうやっておれを狙わせている! くそ、さんざん助成金をま わしてやった恩も忘れて! だいたい、もとはといえばきさまが年甲斐もなく若い女 を女房にしたのがまちがっていたんだ! いいか、あの女はな、むこうから色目をつ かってきたんだぞ! それをきさまは……それをきさまは……!」 ぶるぶるとふるえつつ歯をくいしばる名士を、署長以下はさすがに呆然と眺めやっ ていた。 紙のように白くなったラオ博士の顔が、そんな市長の狼狽ぶりを見て力なく、かす かに笑った。 「暴走だよ……シェイ・バ……あれは、暴走したのだ……」 笑いながら、弱々しくいいつのった。 「この前の視察のとき……あんたの臭いをおぼえたのだ。……あれらは……自分らの 境遇を呪い……あんたを呪っていた……。暴走だよ……。暴走……」 そして口もとを歪めてみせてから――がくりと首をたれた。 シェイ・バは、言葉もなく目を見ひらき唇をふるわせていた。 が、ふいに、癇癪をおこした子どものような声をあげてぬれた床面を蹴りつけ、く るりと背をむけた。 追って移動した全員の視線が――絶望的な光景を目のあたりにした。 裂かれた首を折れ茎のようにしなだらせたパイロットが、ふりしきる雨に半身をさ らして倒れこんでいた。 ガルウイングのドアはひきちぎられてころがり、ルーフの上でねじ曲がった背中ご しにふりむいた髪ふり乱した獣の顔が、光る目でシェイ・バをにらみつけた。 残る一機のフライアは、バチバチと火花を散らしていた。 と、思う間もなく――どん、と音をたてて燃えあがった。 「ライゴウ……狂ったライゴウ……」 戦慄を声音ににじませつつ、市長づきの護衛のひとりが呆然とつぶやいた。 怪物は、しゃぎ、と背筋を逆なでるように耳ざわりな声をあげて牙をむき、ごうご うと燃えさかるフライアの前におりたった。 びちゃりと、水たまりがはねた。 ひい、ひい、とシェイ・バは小気味いいほどのうろたえぶりで護衛たちの後ろにま わってその背をおしやる。 いくつもの銃口が、ためらいがちに、それでも機械のような正確さで怪物の腹にむ けられた。 残像をのこして究極の人造生物は消失し、瞬時にして切りおとされたいくつもの首 が、ごろごろと雨のふりしきるフライアポートにころがった。 そして怪物はシェイ・バの眼前で牙をむきだし、炎のただよってきそうな息をしゅ うと吐きかけた。 へたりと市長は尻をついた。 だれもがその死を確信した。 そのとき―― 「いやっほう。おれさまだあ」 最高に間のぬけたすっとんきょうな叫び声とともに、一同の背後から救世主が、あ らたに発見した一升瓶片手に、千鳥足で出現した。 チャン、それどころじゃ―― いいかけてふりかえったマウェンが、あんぐりと大口あけた。 よれよれとあぶなっかしい歩調で階段をのぼるチャン・ユンカイは、肩を組んでい た。 ――もう一匹の、人造生物と。 一同は声もなくその姿を見まもった。 よく見ると、階下には酔いつぶれたようにして最後の一匹がへたばっている。 しゃう、とひき裂くような叫びをあげて、フライアを破壊してのけたホムンクルス が、呆然とする一同の頭上を一息にとびこえ、チャン・ユンカイに突進した。 悪質な酔っぱらいをふくんだ三つのからだが、もつれあって階段をころげおちた。 そんな状態になりながらユンカイは、手にした一升瓶を割るどころか、中身をほと んどこぼれさせもせずに保持していた。たいした反射神経、というよりはあきれた意 地きたなさ、といったほうが的確かもしれない。 「おお、なんら。てめえも飲むか? よしよし大サービスら。ほうれ」 上機嫌でユンカイは一升瓶をかざして、どぼどぼと中身をまき散らしはじめる。 そして二体の生物兵器は争うようにして、落下する液流にむけ、牙をむきだしにし た血まみれの大口をぐいぐいとさし出した。 おもしろそうにげたげたと笑いながらユンカイは、ゆらりゆらりと一升瓶をゆらめ かせつつ、翻弄されるように瓶口を追う二体の凶獣の醜態を眺めやる。 「酒に弱い生物兵器か……」 マウェンが、惚けたような口調でつぶやいた。 「最強の生物兵器は……」 うけてロウァンも、魂のぬけたような顔つきのままいった。 「あの男かもしれませんな」 チャン・ユンカイを指さした。 対してマウェン部長は、夢からさめたような表情をうかべてから、唇を真一文字に ひきむすぶと、 「いいや」 と、断固たる口調で首を左右にふってみせた。 ちらりと、横たわるドク・ラオに視線を走らせ、つづいて狂態を演じるホムンクル スに目をやり――そして最後に、チャン・ユンカイを情けなさそうに眺めやった。 そしてため息とともに、口にした。 「兵器ってのは、いかなる形にせよ制御可能なものをさすものだ」 そしてふりしきる雨の中、呆然とする世界の囚われ人たちを背に、ロウァンと目を 見かわしながら情けなげに笑いあった。 あやつり人形――了
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