長編 #2839の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
3 実川教授は苦痛に歪んだ顔で、目の前に立っている女性を見上げた。肉体的には指 一本触れられていないが、たった今テロリストの女性が口にした要求は、これほど多 くの人間が人質になっていなければ考慮にも値しない問題であった。 教授が座っているのは、研究棟の2階にある会議室のひとつである。テロリスト達 が大学を占拠したとき、実川教授も他の教授達と同様に講義室の一つに集められ、監 禁されていた。だが、30分前にテロリストが実川教授を指名して呼び出し、ここに 連れてこられた。そこで教授ははじめてテロリストのリーダーらしい女性に対面した のである。 背が高く、尖った顎が冷酷な印象を与える女性である。モンゴロイド特有の顔つき だが、アジアの女性の平均を遥かに上回る身長に恵まれている。他のテロリストが都 市型戦闘服を着てサブマシンガンを握っているのに対して、この女性は猛暑にもかか わらずシックなグリーンのコートを羽織り、たそがれを想わせるような薄いオレンジ のブラウスと、扇情的な黒い革のミニタイトを身に着けていた。黒のストッキングと 黒のブーツは、長く見事な脚線美を隠してはいなかった。 ジヒョン、と名乗った、そのテロリストはコートの下に吊ったハンドガン以外は武 器を持っていなかったが、ルージュをひいた唇に浮かぶ冷酷な笑みには、銃弾以上の 恐怖があった。実川教授が冷汗をかいているのは、両側に立ってサブマシンガンを手 にしている2人の男ゆえではなく、ただ一人の女性のためである。 「ドクター・サネガワ」ジヒョンは明晰な日本語で言った。「あなたの返答次第で は、人質の半分を即座に解放してあげてもいいのよ。考えるまでもないと思うんだけ ど、いかがなもんかしら」 「それはつまり、君たちの要求を呑まなければ学生達の命はないということか?」 実川教授は憎悪のこもった低い声で訊いた。「そうなんだな?」 ジヒョンは肩をすくめた。 「私も無駄な殺傷はしたくないのよ、教授。弾ももったいないしね。こっちはたっ た10人あまりだっていうのに、表には一個師団ぐらいの警官がいるんだから」 「くそったれめ!」教授は英語で吐き捨てた。 「大学教授がそんな言葉を使っちゃいけないわね」ジヒョンは微笑んだ。「学生た ちが聞いたら幻滅するわよ。若い女子学生に人気がおありなんですってね?」 実川教授は憎悪をこめてジヒョンを睨んだが何も言わなかった。 「さて、教授。そろそろ返事をいただきたいわね。イエスかノーか、どちらをお選 びになるのかしら」 「ノーに決まっているだろうが」教授は断固として答えた。「お前の言うとおりに すれば、早晩、地上を想像を絶するような災厄が席巻するだろう。全人類を巻き込ん でだ。だとすれば、単純な比較問題だな。400人の学生と、60億の人類とどちら を選ぶかということだ」 「あなたの勇気には敬服するわよ、教授」ジヒョンは相変わらず笑みを浮かべたま ま言った。「だけど、少し演技不足ね。後ろめたそうな表情が浮かんでいるわよ。口 ではどう言おうと、教授の良心が痛みを感じていることは確かね。違うかしら?」 「私の答えは変わらない」 「その答えは保留にしておくわ。というのはね、教授。あなたにちょっとしたショ ーをお見せしたいと思っているのよ。ひょっとして、それを見れば考えが変わるかも しれないわよ。おい!」 最後の言葉は、会議室のドアを守るように立っていた男の一人に向けられていた。 日本人らしいその男は頷くとドアを開けて出ていった。 「何をしようというんだ?」不安そうに実川教授が訊いた。 「すぐにわかるから、落ち着いて座ってらっしゃいな」 数分後、男が戻ってきた。一人ではなく、誰かの手を掴んで引っ張っている。その 人間が会議室に入ったとき、教授は思わず立ち上がって叫んだ。 「道代君!」 「教授の大事な助手なんですってね?」ジヒョンは震えて立っている金納道代に近 付くと、その顎に手をかけて上を向かせた。ジヒョンとは対照的に、小柄で線が細く、 二十歳そこそこに見えた。実際には25才の大学院生なのだが、教授のゼミの卒業生 で、そのまま教授の助手を勤めている。 「何をするんだ!」教授は座っていた椅子から立ち上がってジヒョンの方に詰め寄 ろうとした。「おい、その子に触るな!」 「教授を椅子に戻してあげなさい」ジヒョンは舌なめずりしながら命じた。「お前 はこの子をそこの壁際に立たせるのよ。教授がよく見えるようにね」 一人の男が教授の肩をつかんで、強引に椅子に座らせた。別の男が泣き声を上げる 助手を引きずるように壁際に押さえつける。男は手錠を出すと、道代の手にかけ、チ ェーンにスナップをかけると、ロープを伸ばして天井にあるプロジェクタ用の金具に 通して勢いよく引いた。道代の両手は高々と掲げられ、背伸びをしたような格好にな った。 「やれ」ジヒョンが言った。 男の一人が道代に近付くと、いきなりその胸元を引き裂いた。道代は悲鳴を上げて 身体をよじった。清楚な白のブラウスが無惨に裂けて、細い肩とブラジャーが露にな る。 「いやああ!」道代は絶叫した。「助けて!やめて!」 「やめろ!やめてくれ!」実川教授は叫んだ。 男は教授には目もくれず、道代のブラジャーを引きむしった。続いてベルトを外す とタイトを一気に引き下ろし、ストッキングを破り捨てた。金納道代は悲鳴を上げて 懸命にもがいたが、男は構わず慣れた手つきで衣服をはぎ取っていった。 白のショーツ一枚になった道代に、ジヒョンが近付いた。服を引き裂いた男は、文 句も言わずに引き下がる。 すすり泣いていた道代は、ジヒョンの細く冷たい指にすっと首筋を撫でられて息を 呑んだ。恥辱をこらえるような必死の表情が浮かぶ。 「かわいい子だわね、教授」ジヒョンは道代のうなじをなぞりながら言った。「も う寝たのかしら?」 教授はスペイン語で悪態をついた。 「それに優秀な助手らしいわね」ジヒョンは続けた。「こんなかわいい子を助けて あげようとは思わないの?」 教授の顔に逡巡がよぎった。口を開いて何か言いかけたが、すぐに思い直したよう に閉じる。 グル 「冷たい導師ねえ」ジヒョンは失望の素振りも見せずに道代に顔を近付けた。「教 授はあんたを見捨てるみたいよ」 道代の顔から恥辱が消え、怒りと決意の色が入れ替わった。 「たとえ私が殺されたって、教授はあんたみたいなクソ女の言いなりになるもんで すか!」涙を流しながら道代は叫んだ。「殺すなら、さっさと殺してよ!」 「へえ」美貌のテロリストは感心した表情を作った。「虚勢にしろ、そこまで言え るのは大したものね。お望みなら殺してあげるわ。けど、殺す前に10人ぐらいに、 レイプさせるわよ。教授の目の前でね」 ビッチ 「やれるもんならやってみなさいよ、この牝犬!」 「教授、教育がなってないわね。女の子が、そんな言葉使っちゃいけないわよ」ジ ヒョンはちらりと教授を見て、それから道代に視線を戻した。「私が教育してあげる わ」 なす術もなく椅子に押さえつけられている教授は、突然ジヒョンの双眸が不気味な ルビー色に輝いたのを見て飛び上がりそうになった。同時に、道代の幼い顔に浮かん でいた反抗と怒りが不意に消え失せた。両目は吸い寄せられるように、まっすぐジヒ ョンのそれに固定されている。 「道代君!」教授は叫んだ。だが、道代は吸い寄せられるようにジヒョンの赤く光 る双眸に見入って、教授の言葉など耳に入らないようだった。 次第に道代の瞳から、理性と知性が失われていった。口がだらしなくぽかんと開き、 唇の端から涎が垂れ落ちる。緊張していた身体がぐったりと弛緩し、半裸の身体がぐ らりと揺れた。 「さあ、プリティ・ガール」ジヒョンは満足そうに言った。その瞳に輝いていた、 妖しい真紅の光は消えている。「私はチェ・ジヒョン。お前の主人よ。立ちなさい」 「はい、ご主人さま」道代はしっかりとした足どりで立ち上がった。 「おい、ロープを外してやれ」ジヒョンは命じた。早速、一人の男がスナップを外 し、手錠も外した。 「おいで、ハニー」ジヒョンが呼びかけると、道代は嬉しそうにその傍らに寄り添 い、コートに頬をすり寄せた。「どう、教授?」 「貴様、まさか……」教授は恐怖の色を浮かべていた。「<従者>か?」 「あいにく私は人間よ。普通のね。あなたが今口にした勢力とは、よく取引するけ ど、魂まで売っちゃいないわ。金払いは最高だからね」ジヒョンはニヤリと笑った。 「その子に何をしたんだ」 「子供の頃から、私の瞳には奇妙な力があってね。他人を従わせることができるの よ。この目のおかげで、さんざん迫害されたものよ。魔女だの吸血鬼だのってね」ジ ヒョンの声に少し翳りが混じった。「もっとも、この力には代償が伴うんだけどね。 私の力の影響を受けた人間は、私に対して従順になる代わりに、極端に知能を低下さ せてしまうの。今、この子のIQは60から70ってところかしらね」 「悪魔め」むしろ抑えた口調で、しかし凝縮された怒りをこめて、教授は吐き捨て るように言葉を投げつけた。 「最高の誉め言葉ね、それって」ジヒョンは微笑みながら道代の髪を撫でた。「さ て、教授。取引に戻りましょうか。教授の可愛い助手を元に戻せるのは、私だけ。そ れはもちろん、教授の返答次第だけどね」 「くそくらえだ」 「いい返事ね。だけど、わかってるの?あなたがノーと言い続けるなら、この子が どうなるのか。放っておけばどんどん知能が低下していって、最後には本能だけで生 きる動物みたいになるのよ。ただのセックス奴隷にね」ジヒョンは楽しそうに言った。 「まあ、少し想像してみたらどうかしら?この子が、大勢の男に順番に犯される光景 を。教授が想像もつかないような残虐な行為を平気でやる男ならこと欠かないわよ」 「どうせ、もう、その子には、異常な行為とそうでない行為の区別などつかないの だろう」教授は平板な声で答えた。「ならば大した違いはない」 遠くで雷鳴のような鈍い音が響いた。教授はさっと窓の方を見たが、何が起こった のかはわからない。ジヒョンはといえば、わずかに片方の眉を上げただけで平然とし ていた。数瞬の空白の間をおいて、ジヒョンは言った。 「そうとは限らないのよ、教授。私は必要なら、この子の知性を多少上げることだ ってできるのよ。どうかしらねえ。この子が自分の身に起こっていることを知りなが ら、何十人もの男に昼夜の別なく犯されて、しかも狂うことすらできないとしたら」 「やめろ」教授は弱々しく言った。 「もちろん避妊なんて気遣うような連中じゃないわよ」ジヒョンは容赦なく続けた。 「妊娠しても、犯されるのは変わらない。子宮に手を突っ込んで、胎児を引きずり出 して射精し、また元に戻す方法を楽しむやつだっているわ。もちろん胎児を生かした ままでね」 「やめてくれ」実川教授は呻いた。道代はきょとんとした目で、自分の恩師を眺め ているだけで、話の内容は理解していないようだった。 「まあ、いいわ」ジヒョンは苦悩する教授を残忍な笑みをもって眺めた。「まだ時 間はあるわ。1時間後にまた同じ質問をするわ。その時にまた同じ答えなら、今度は 人質の学生の中から女の子を10人選んで同じ目に遭わせるからね」 「何が望みなんだ!」教授は突然激昂した。「日本が、いや世界中が想像を絶する 災厄に見舞われれば、お前だって無事ではすまないのだぞ!」 「余計なお世話よ、教授」ジヒョンは凄惨な笑みを唇に浮かべた。「1時間後に、 また来るわ。それまでこの子は預かって置くわ。心配はいらないわ。それまでは誰に も指一本触れさせないから。それまではね」 ジヒョンの言葉が終わらないうちに、小さな電子音が響いた。ジヒョンは顔をしか めてコートのポケットに手を突っ込むと、携帯電話ぐらいの通信機を取り出して鋭い 口調で訊いた。 「Jだ。何事?」 『クックです。表で警察車両が事故を起こしたようです』男の声が報告した。『関 係者が右往左往しています』 「事故?ポリスの陽動?」 『いえ、事故は本物のようです。関係者の様子からみても間違いありません。です が、その騒ぎに紛れて何者かが構内に侵入した形跡があります』 「ほう」ジヒョンは楽しそうに白い歯を見せた。「もちろん警察ではないわね?こ ちらの被害は?誰かやられた?」 『オキーフとナカムラがコールに応じません』クックは答えた。『今、3人ばかり そちらに向かわせています』 「よし、任せる。何かあればいつでもコールしなさい」ジヒョンは通話を切って、 教授を見た。「聞いての通りよ。騎兵隊の出現らしいわね」 教授はそっぱを向いた。ジヒョンはくすくす笑った。 「ふふ、今一瞬希望が見えたでしょう、教授。ひょっとすると、救出されるかもし れない、この野蛮な悪魔どもは皆殺しにされるに違いない、ってね。だけど、これだ けは言っておくわよ。私は予定を変えることが大嫌いなのよ。何があろうと、一時間 後にまた戻ってくるからね。真剣に返事を考えたほうがいいわよ」 実川教授は相変わらず口を閉じたままだったが、再び苦悩がその顔を覆いつつあっ た。苦痛に満ちた視線を半裸の道代に向けたが、道代の方は教授に目もくれず、しっ かりとジヒョンの身体にしがみついていた。 「それじゃあ、また来るわ」ジヒョンは道代を従えてドアに向かった。「誰にも邪 魔されずに熟考したいでしょうから、一人にしておいてあげるわ。言うまでもないけ ど、窓から逃げようなんてつまらないことを考えない方がいいわよ。ではまた、後ほ どお目にかかるわ。良い返事を期待しているわよ、教授」 ドアが閉まり、苦悩する一人の男が残された。
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