長編 #2833の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「すごい、これでらしくなった」 「でも、わたしトナカイなんて操れない」 「願えばいいんですよ。そうすれば、トナカイはあなた方の思いの場所へ、連れて 行ってくれます。そこで何か必要な物が有れば、袋の中を探してみてください」 「ありがとう、ジェームズさん」 ロバートたちは願った。すると何も言わないのに、トナカイはそれぞれの気持ち を理解したように走り始めた。そして、空を飛んだ。 「あの子たちは、わしより強い魔法を持っているのかも知れん」 夜空に消えていく子どもたちを見送り、おじいちゃんは呟いた。 「ジェームズ、わしらも行くぞ。孫たちに遅れを取る訳にはいかん」 「旦那様、まだそんな事を………」 そこまで言って、ジェームズは言葉を止めた。ロバートたちを見送るおじいちゃ んの顔色はとても良かった。 「では参りましょう」 ジェームズは大きなトナカイに姿を変えた。 「全く、父さんには困ったもんだ」 空に消える四つの光を見送りながら、グレゴリーは顔をしかめていた。 「今日はイヴだったのね」 教会から聞こえて来る賛美歌に、少女は足を止めた。 イエスの誕生を喜ぶ歌、だがその歌は、少女には悲しく聞こえた。 まだ身体中が痛む。破けた服は、少女を一層みすぼらしく感じさせる。 少女は、自分がとても惨めに思えた。 つい一瞬、ほんの一瞬盗み心を起こしてしまったが故に、酷く痛めつけれ報酬さ え取り上げられてしまった。 このまま家に帰っても、夕食は食べさせてもらえないだろう。けれど、そんな事 より少女はイヴの夜に、妹にキャンディの一つも買ってやれない自分が悲しかった。 こんな恰好では、今夜はもう仕事は出来ない。重たい足しを引きずって家に向かっ た。 思った通り家に帰ると、母親は少女の姿を見るなり怒りだした。そしてお金を取 り上げられてしまった事を聞くと、傷だらけの少女を更に打ち据えた。 「服の替えなんて無いからね、何処かで拾ってきな。でなければ、ずっとその恰好 でいるんだね」 そして寝床に向かう少女を後目に、呟いていた。 「全く、こんな事なら、あの時売ってしまえば良かった」 この国には、少女を対象にした人買いが存在していた。以前、その人買いが少女 を買いに来たことが有ったのだ。 「おねえちゃん………」 汚い寝床で痛みに堪えながら横になっていると、心配そうに妹が近寄って来た。 「だいじようぶ?」 「ん、だいじょうぶ。一緒に寝よう」 二人は小さな寝床で、抱き合うように横になった。 −−シャン シャン シャン−− 鈴の音が聞こえた。 何処かでイヴを祝っているのだろう。 「昨日見たのは、今日の出来事だったのね」 その声に驚いて、少女は飛び起きた。 少女を覗き込むようにしていた、リリアと目が合う。 「この人だあれ? おねえちゃんの、おともだち?」 妹も目を覚ましたようだった。 「いいえ、知らないわ。誰なの、あなたは」 「あら、この恰好を見て分からないかしら」 リリアは赤い服を指さした。 「あっ! サンタクロースさん」 妹が叫んだ。 「女の子のサンタクロース? おかしいわ」 「おかしいかしら?」 「ええ、おかしいわ」 三人の少女の笑い声が響いた。 「プレゼントを持って来たの」 「プレゼント?」 「だってわたし、サンタクロースですもの」 言いながら、リリアは袋を開いた。しかしそこには棒キャンディが一本、それだ けしか入っていなかった。 「ひどい………ジェームズさん『必要な物が入っている』って言ったのに………。 ごめんなさい、これしか持っていないの」 リリアは申し訳なさそうに、キャンディを差し出した。 「ありがとう」 キャンディを受け取る少女の笑顔は、リリアがこれまでに見たこともないくらい 嬉しそうだった。 そしてキャンディを受け取った少女は、それを妹に渡した。 「おねえちゃんは?」 「わたしはいいの」 妹はキャンディを二つに折って、大きい方を少女に手渡した。それを受け取った 少女は、妹の持つ小さい方と取り替えた。 「あなたは?」 「あ、いいの。わたしはサンタクロースよ」 その小さいキャンディを、さらに分けようとしている少女をリリアは止めた。 二人の少女は、とても美味しそうにキャンディを食べた。 リリアは胸がとても熱くなるのを感じた。そして溢れてくる感情を抑えきれなく なり、二人の少女に抱きついてしまった。 「お願いがあるの」 「な、なに」 戸惑う少女を余所に、リリアは話し続けた。 「もう、あんな事は止めて」 「あんな事って」 「その………あなたの………夜の………」 「……………分かったわ、約束………する」 リリアも少女も、それが出来ない事は分かっていた。 しかし願わずにはいられなかったし、約束せずにはいられなかった。 −−ガタッ−− 「行けない、人が来る。じゃあ、さようなら」 物音がしたので、リリアは慌てて窓から外に出た。 「誰と話していたの」 入って来たのは、少女たちの母親だった。 「い、妹と」 「そう………」 母親は二人の少女を見つめた。そして、二人を抱きしめた。 「ごめんね………私、夢を見たわ。子どもの頃の………そしていろんな事を思い出 したの。楽しい事、辛い事………。あなた達には辛い事しか無いのにね」 母親はぼろぼろと泣き出した。 こんな事は初めてだった。いや、遠い昔にあったかも知れない。 母の温もりがとても嬉しかった。 「田舎へ行きましょう、決して生活は楽では無いけど………母さんも、一生懸命働 く。そしたら、私たちが食べて行くだけなら、なんとかなるかも知れない」 少女は泣いた。嬉しかった。妹も泣いている。 少女たちに最高のプレゼントが届いたようだった。 窓の外で様子を見ていたリリアは、ジェームズの言う『必要な物』の意味が分かっ たような気がした。 「ここは………どこだろう」 意識を取り戻した少年は、ひどい息苦しさを感じた。 重たい………身体は動かないし、辺りは真っ暗だ。 人………人、人、人。 少年は自分がたくさんの人々と一緒に、積まれている事に気がついた。 「そうだ」 思い出した。少年は政権を取った民族に追われて逃げていた。そして、追いつか れて撃たれてしまったのだ。 異臭、髪を焼く匂い。 積み重なった死体の山の隙間から、白人の兵士が死体を焼いているのが見えた。 難民援助の為に白人が来ていると、聞いたことがある。 ああ、自分は死んだのだと思われてしまったのだ。 「ぼくは生きてる」 声を出そうとしたが出なかった。喉もやられてしまったのだろうか。 このままでは死体と一緒に、焼かれてしまうかも知れない。 しかしその事に、不思議と恐怖を感じなかった。 「生きていたって、しょうがない」 少年は思った。 「だめだよ、死んじゃ。生きるんだ」 誰かの声がした。 「誰?」 聞き返そうとしたが、やはり声が出ない。 気のせいだろう。ここで自分が生きている事を知る者がある訳はない。 けれども何か勇気づけられたような気がした。そして、死にたくないと思った。 「たまらんな、良くこれだけ殺したもんだ」 疫病や蝿の発生を防ぐ為とはいえ、死体を焼く仕事は気分のいいものでは無い。 兵士の一人がぼやいた。 「俺達は生きている人間を守りに来たんだ、葬儀屋をしに来たんじゃないぜ」 「ぼやくな、仕方ないだろう」 大きな穴を掘り、死体を投げ入れる。油をまいて焼く。機械的にそれを繰り返す。 死者に対する尊厳も無い。尊厳を保つ為には、あまりにも死者が多すぎた。 「本当に酷いもんだ」 男は呟いた。 自国ではもう何十年も戦争をしていない男にとって、これほどの死者を目の当た りにするのは初めての体験だった。 最初はその悲惨さに驚愕し、嘆いたものだったが、繰り返し繰り返し毎日のよう に死者の山が築かれて行くのを見て行くうちに、その状態に慣れてしまっていた。 「酷いもんだ」 これほど多くの人が、いとも簡単に殺されてしまうと言う事より、その現実を当 たり前に受け取ってしまう自分の感覚に対して呟いた。 「ああ、そう言えば今日はクリスマス・イヴだったな………」 男は誰に対してと言うのでもなく、言った。 「今頃、キャンプの方では留守番の連中がすっかり用意を調えている筈ですよ」 自分に話し掛けられたのだと思った、近くにいた若い兵士が、死体を放り投げな がら答えた。 「ああ、そうだな。楽しみだ」 死体の山を焼きながら、イヴを祝う。なんとも奇妙な事が、ここでは自然に感じ られる。 「だが………」 「は?」 「こんな雪も降らない所では、サンタクロースは来られ無いな」 「ははっ、そうですね、それだけが残念です。それと………」 「ん?」 「その、男ばかりで、彼女と過ごせないのも、少々………」 そう言ってから、若い兵士は照れて笑って見せた。 「そうか………、今年は仕方無いな」 男にも国に妻がいた。連れ添って二十年になるが、今更二人きりでロマンチック なイヴを祝いたいとも思わない。そんな事をさらりと言ってのける若い兵士が、羨 ましくも感じる。子どもでもいれば別なのだろうが、残念なことに妻は子どもの生 めない身体だった。 「何かあったか?」 考え事をしているうちに、陽気な若い兵士が急に静かになった事に気づき、男は 尋ねた。 「あ……あれ」 まるで阿呆にでもなったような仕草で兵士は空を指さした。 男はその指の指し示す方へ、視線を向けた。 「なに」 自分は頭がおかしくなってしまったのかも知れない、男は思った。そう考えれば、 この死体の山を当然と受け入れてしまっている自分に納得が行く。 だが、今見ている物から感じられる暖かさは、決して狂気がもたらす幻覚ではあ り得ない。 「私たちは幻覚を見ているんでしょうか?」 「いや………違うようだ………」 「では、あれはどこかの国の新兵器では?」 「あんな物を兵器にするような不遜な国が有るものか」 男たちの頭上では、トナカイの引くソリに乗ったサンタクロースが旋回を続けて いた。
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