長編 #2829の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「心配はいらんよ、そっちを見てごらん」 おじいちゃんの指さす方を見ると、そこには一回り小さな新しいソリが四つ、大 きなソリに寄り添う様に並んでいた。 「だけどこれって、自分で坂を滑って遊ぶ物じゃ無いみたいだね」 「ねぇねぇ、これって犬ゾリってヤツじゃない? ねぇ、おじいちゃん」 「ん? まあ、そんなところだな」 それからおじいちゃんは、急に難しい顔になって、しばらく何かを考え込んでい た。そして「やはり、お前たちには無理かも知れん………」と漏らした。 「えーっ、それはないよお。だって、この小さなソリはぼくらの為に作っておいて くれたんでしょ」 おじいちゃんの発言に、ロバートは不満の声を上げる。 「そのつもりだった。そしてわしの息子たち………お前たちの父さんの拒んだ世界 をお前たち見て欲しかった」 「父さんたちの拒んだ世界?」 「そうだ。あいつらはそれをわしの『道楽』と言いおった。だがその『道楽』意味 をあいつらは理解しておらん。お前たちの様な無垢な心なら或いはと思ったのだが、 やはり辛過ぎる………」 ロバートたちには、おじいちゃんの言っている事がさっぱり分からなかった。 もしかすると、おじいちゃんは変になってしまったのかも知れない。ロバートた ちはしばらくの間、言葉を発する事を躊躇った。 「見せて下さい、わたしにも」 そう叫んだのはリリアだ。 「ぼくも」「わたしも」「あ………ぼ、ほくも」 他の三人もそれにならう。 「しばらく待っていなさい」 そう言っておじいちゃんは、小屋の中に仕切られた部屋の扉に消えた行った。 ぱちぱちと音を立てて燃える暖炉を前に、ロバートたちはおじいちゃんを待った。 「ねえ、おじいちゃんが見せたい物って何かな?」 口を開いたのはシンシアだ。 「あのさ、ぼく思ったんだけど………」 待ってましたとばかりに、ロバートは自分の考えを話し始める。 「あのソリ、きっと犬ゾリだぜ」 「犬ゾリ?」 「そう、エスキモーとかがよく乗っているやつ」 「犬ゾリなんて、何に使うの?」 リリアが聞いた。 「決まってるだろ、南極に行くんだよ。おじいちゃんの趣味って、きっと南極探検 なんだ」 「ばーか」 呆れ顔でシンシアはロバートの顔を見る。 「で、でもさ………南極なんて行ったら、食べ物とかどうするのさ」 と、これはデビット。 「もちろんそれは現地調たち。つまり、狩りをするんだ」 「狩りって………動物を殺したりするの?」 悲しそうにリリアが尋ねる。 「そんな訳ないでしょ。駄目よリリア、ロバートなんかの話を真面目に聞いちゃ」 「なんだと! シンシア」 「何よ」 「これこれ、二人とも止めんか」 喧嘩になりそうだった二人を止めたのは、おじいちゃんの声だった。 「おじいちゃん」 四人の子どもたちは、一斉に声のした方を振り返った。 「サンタ………クロース?」 小さく呟いたのは、リリアだった。 真っ赤な帽子に、真っ赤な服。真っ赤なズボンに、靴まで真っ赤。 もともと、ちょっと太っていて、白くて長い髭を生やしていたおじいちゃんは、 どこをどう見ても立派なサンタクロースだった。 「やだ………本当に絵本から、抜け出てきたみたい」 シンシアの言葉には、感嘆が込められている。 「すげー………これでトナカイがいたら、完璧」 これはデビット。 「えっ? もしかしてあのソリはトナカイが引くの?」 「その通りだよ、ロバート」 「じゃあ、南極には行かないの?」 「南極……ああ、行くかも知れんな」 「もう、おじいちゃんたら、冗談ばっかり」 シンシアが言う。 「わたしたちに見せたかった物って、まさかそのサンタクロースの恰好なの?」 「まあ、これもその一つだな」 それまでおじいちゃんは、クリスマスを孫たちと過ごした事が無かった。それが 今年は、身体を悪くして仕事を全て息子たちに任せたおじいちゃんは、暇の出来た クリスマスを孫たちと過ごそうと考えたのだろう。 孫たちを喜ばす為に、わざわざこんな用意までした。 四人の子どもたちは、みんなそう思った。 「わしはな………本物のサンタクロースなんじゃよ」 子どもたちはニッコリと笑った。 「うむ、どうやら本気では信じておらんようだな」 しばらく考え込むように目を閉じていたおじいちゃんは、急に険しい表情になっ て話し始めた。 「心事られんかも知れんが、わしは本物のサンタクロースなんじゃ。 わしの息子ども………お前たちの父さんたちが『道楽』と言いおったのは、これ の事だ。 わしのおじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも、ずっとサンタクロースだった。 息子も、当然サンタクロースになってくれるものとわしは思っていた。 サンタクロースの家系に生まれた者は、毎年イヴの夜からクリスマスにかけてだ け、魔法が使える様になりサンタクロースの役目を務める事が出来るのだ。 だが、年に一晩だけでは世界中を回ることはさすがに無理だ。 そこでわしは会社を作る事を考えた。会社を作り、お金を儲けて、それを貧しい 人々の役に立てる。 会社はわしが思った以上に大きくなった。 たが、その会社を任せた息子たちは仕事に追われるうちに、サンタクロースの跡 継ぎなど、馬鹿馬鹿しいと考える様になった」 「おじいさん………わたし、信じる」 突然リリアが叫んだ。ロバートたち三人も頷いて見せる。 おじいちゃんは、軽く微笑むと話を続けた。 「息子たちの言う事も、もっともかも知れん。サンタクロースなどおとぎ話の中で の存在で、その跡継ぎになるなどは馬鹿馬鹿しい事かも知れない。 だがな、息子知らんのだ。世界にどれだけ、本物のサンタクロースを必要として いる人々がいるのかを。 わしはもう歳だ。年々魔法も弱くなり、もうサンタクロースを務める事は難しい。 息子たちはだれも跡を継がない。 だからわしはお前たちに見せておきたい。世界の姿をな。 今は途切れても、いずれお前たちのうちの誰かがサンタクロースを継いでくれる かも知れん。 いや、誰も継がなくてもいい。 それでも真実を伝えておきたい」 おじいちゃんは、両方の手をそっと差し出した。その手をリリアとシンシアが取 る。リリアとシンシアの手を、ロバートとデビットが取る。そしてロバートとデビッ トが手を繋ぐ。 おじいちゃんと四人の子どもたちは、一つの輪になった。 「もう一度聞く………。お前たちは、わしが本物のサンタクロースである事を信じ てくれるな?」 子どもたちは皆、同時に頷いた。 ロバートはそれまで、サンタクロースの存在を信じていた訳では無かった。確か に幼い頃には信じていたが、今ではその正体がパパやママである事を知っていた。 しかし、おじいちゃんの熱のこもった話は、それがとても作り話の様には思えな かった。 「おじいちゃんは、本物のサンタクロースなんだ」 他の三人も想いは同じだった。 「本当なら、まだ魔法の使える時間では無いが、お前たちが信じてくれれば何とか 出来るはず………」 おじいちゃんの身体がうっすらと、白く輝きだした。光はやがて強くなって行き、 おじいちゃんの全身を包む。そしてその光は手を伝わり、シンシアとリリアをも包 む。そしてさらに光はロバートとデビットへ。 「なんだか暑い………」 シンシアが言った。 「我慢をおし。わしがいいと言うまで、みんな決して手を離さん様にな」 子どもたちは一様に意識が薄れて行く様な感覚を覚えた。 山小屋の丸太造りの壁が視界から消える。 真っ暗な空間にリリアは投げ出された。 「やだ、おじいさん? シンシア………ロバート、デビット?」 答えは返らない。 「どうして………」 暗闇に一人取り残されて不安になったリリアは、闇雲に走り出したい衝動に駆ら れた。 「落ちついてリリア」 何処からか、おじいちゃんの声がしてリリアのそんな衝動を抑えた。 「おじいさん………どこなの。みんなは?」 声はするのにおじいちゃんの姿は見えなかった。 「わしはちゃんとリリアと、手を繋いでいるよ。みんなもそうだ」 「でも見えないわ………それに手だって、ほら誰とも繋いでいない」 姿の見えないおじいちゃんにリリアは訴える。 「気持ちを落ちつけて、感じてごらん」 「感じる?」 「そう、今のお前は魂だけの存在なのだよ。皆を肉体ごと、飛ばす事はさすがに無 理なのでな。お前の身体は、わしの山小屋でみんなと手を繋いだままだ。心を静か にして見れば、分かるはずだ」 不安を残したまま、リリア言われたとおり気持ちを落ちつけようと試みた。 時間は掛かったが、何とか気分が落ちついてくる。 「あ………みんな」 確かにおじいちゃんも、シンシアも、ロバートも、デビットもみんないる。 「やっと気づいてくれた」 「さっきから、声を掛けてるのに、リリアったらちっとも気がつかないんだもんな あ」 「へっ、デビットだってパニックになってたくせに」 「あら、半べそかいてたのは、だれだったかしら?」 「あーっ、シンシアこそなあ………」 リリアは感じた。 「そっか………分かったわ。いま、わたしはみんなの魂を代表しているのね」 「そうだよ、リリア。今のリリアは、一人であって一人でない。何も心配する事は ないんだ」 「ええ、分かったわ」 リリアから不安は完全に消え去った。
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