長編 #2828の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
食事の間中、おじいちゃんは上機嫌だった。 おじいちゃんの手作りだという、大きな木のテーブルを孫たちといっしょに囲ん でする食事が嬉しくてたまらない様子だ。 あいにく、パパやママたちはさすがに座りきれないので別室で食事をしているが、 おじいちゃんにしてみれば息子たちといるよりも、孫たちといっしょにいるほうが 楽しいらしい。 さっきから三年前に会ったときにも何度も聞いた昔話をしたり、孫たちとのおしゃ べりをしては時折豪快な笑い声を上げている。 おじいちゃんの笑い声につられるようにして、リリアがくすくすと可愛い声で笑 い続ける。あんまり笑いすぎたリリアは息が苦しくなって、咳込んでしまい、シン シアに背中をさすられていた。それでもまだ笑いが止まらずに、大粒の涙をぽろぽ ろとこぼしている。 「おいおい、大丈夫かリリア」 あんまりリリアが笑いすぎるので、さすがに心配になったおじいちゃんが声をか けた。 「はあはあ……ああ苦しい………笑いすぎちゃった。だって、おじいさんのお話が、 あんまりおかしいんだもの………フフフッ」 まだ笑いのおさまりきらないリリアが切れ切れの息で答える。 「驚いたあ」 リリアの背中をさすっていたシンシアは、そんな双子の妹に目を丸くしながら言っ た。 「あんたったて、わたし以外はパパやママの前でさえ、ろくに話もしないくせに、 おじいちゃんの前だと本当に元気になるんだから」 「だってぇ………」 そんなやり取りにおじいちゃんは、細い目をますます細める。 「そうか、リリア。わしの話はそんなに面白いか?」 「ええ」 「わしのこと好きか?」 「……………」 おじいちゃんの質問に、リリアは真っ赤に頬を染めてもじもじとする。 「ほら、おじいちゃんが聴いてるじゃないの。答えなさいよ、リリア」 いつまでも恥ずかしがっている妹をシンシアが促した。 「わたし……おじいさんのこと………大好き!!」 「ほっほほ、そうかリリアはわしのことが好きか!」 おじいちゃん大きな声で笑った。 「わたしもリリアに負けないくらいに、おじいちゃんのこと、好きだからね」 つけ加えるようにシンシアが言った。 「ぼ、ぼ、ぼくだって、おじいちゃんのことが大好きだよ」 それまでひたすらに食べることに夢中だったデビットが、突然立ち上がって叫ん だ。 「うわっ、きたねぇな、デビット。口の中に物を入れてしゃべるなよ」 「ご、ごめん、ロバート………」 「何よ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。デビットは、おじいちゃんが大好き でたまらないことを、少しでも早く伝えたかったのに」 「なんでリリアが、デビットの味方するんだよ」 「それはデビットの方が、ロバートより優しい子だからよ」 「ロ、ロバートもシンシアもやめてよ。ぼ、ぼくが悪かったんだから」 「ほらほら、やめんか二人とも。デビットが困っているではないか。ほれ、リリア も怯えている」 おじいちゃんに仲裁されて、二人はそれ以上言い争う事をやめた。 食事が終わった後も、ロバートたちはおじいちゃんと話をしていたかったが、お じいちゃんはパパたちと大事な話が有ると言うので仕方なくそれぞれの部屋へと戻っ ていった。 部屋に帰る間際にロバートは、おじいちゃんにそっと言った。 「おじいちゃんのことを一番好きなのは、ぼくだからね」 おじいちゃんは何も言わずに微笑んだ。 ぱちぱちと暖炉の中で薪が弾ける。その音がやけに大きく聞こえた。 誰も口を開こうとはしない。 先ほどまで孫たちと共に陽気な笑い声をあげていた老人は、まるで別人の様に渋 い顔で書類に目を通している。 「ふーっ、最悪の数字だな」 書類を机の上に置き、ようやく老人が沈黙を破った。 「それでも他社に比べれば、ずっといい業績なのですよ」 グレゴリーが老人の言葉に反論をした。 「世界的な不景気ですからね、そのなかで我々のグループがこれだけの成績を残し ているのは、むしろ誉めて頂きたいくらいですよ」 銀縁眼鏡を掛けた神経質そうな次男、デビットの父でもあるアルバートが兄の言 葉を助けた。 「いや、確かにお前たちに任せた会社はどほれもそれなりの成績を残しておる…… …が、しかしだ」 「それでは何が不満だというのですか………父さん………いえ、会長」 これはリリアとシンシアの父で、兄弟の三男でもあるリチャード。 「しかし………なんだね、これは? 各所への寄付の金額が極端に減っているでは ないか」 老人は資料を手にしながらグレゴリーを見上げた。 「それは当然でしょう。この景気で収益が大きく落ち込んでいる中、寄付どころで はありません。本来なら、寄付を0にしてしまいたいくらいなんですよ」 「だがな………グレゴリー」 「兄さんの言う通りです」 「リチャード!」 「確かに、持てる者が持たざる者を助けるのは当たり前の事かも知れません。でも 我々は企業の経営者です。貧しき者を助ける前に、社員たちの生活を守っ てやらなければならないのです」 リチャードは興奮気味に、大きな声で叫んだ。 「ならば、我々の分を削ればいい………」 「!」 老人の台詞に兄弟たちは言葉を失ってしまった。 「そもそもわしが会社を興したのも、自らが豊かになりたかったからではない。少 しでも人々を助けるための力が欲しかったからだ」 「その時とは事情が違います」 どこまでもアルバートの口調は冷静だった。 「やれやれ、このクリスマスまでにはわしの後継者を正式に決めようと思っていた のだか………」 「そのことですが」 「ん? どうしたグレゴリー、やはり長男であるお前が継ぐと言うのか」 「いえ、これは私たち兄弟で話し合った結果ですが」 「?」 「私たちは誰も、あれを継ぐつもりはありません。従ってあれは父さんの代で終わ りにして頂きたい」 −−ドドドドドドッ−− 大きな足音を立てて、子供たちが廊下を走る。 おじいちゃんの部屋の前に差し掛かったとき、部屋から出てくるジェームズに会っ た。 「ジェームズさん!」 「おぼっちゃま方、お静かに願います」 「あ……の……。おじいさんは」 身内の前ですら、余り話すことのないリリアが不安に満ちた眼差しで執事のジェー ムズに尋ねる。 「ご心配ありません。少々お疲れのご様子ですが、しばらくお休みになれば、すぐ にお元気になられます」 「お、おじいちゃんに、あ、会っていい」 ついさっきまで食べていたビスケットのかけらを口の周りに残したデビット。 「旦那様は、たった今、お休みになられたばかりですから………」 「ロバートたちか………?」 ドアの向こうから、おじいちゃんの声がした。 「おじいちゃん」 四人の子供たちの声が揃った。 「ジェームズ、子供たちと話したい」 「はい。旦那様」 ジェームズによって開かれたドアから、ロバートたち四人はおずおずと部屋の中 へ入っていた。 おじいちゃんは大きなベッドにその身を横たえていたが、子供たちの姿を認める と、ゆっくりと身体を起こして微笑んだ。 「旦那様ご無理をなさっては………」 「なあに、心配はいらんよ、ジェームズ。子供たちの顔を見たら、いっぺんで元気 になってしまったわ」 そう言っておじいちゃんは笑って見せたが、どこかやつれているようにロバート には思えた。 「お願いおじいさん、無理をしないで」 リリアもロバートと同じ事を感じたのだろう。 大きな瞳に涙を浮かべ、懇願する様に言った。 「おおっ、リリア、泣かないでおくれ。ちょっと疲れただけで、わしは別にどこも 悪くないのだよ」 「本当?」 「ああ、本当だとも」 おじいちゃんはベッドの上でおどけたポーズを取って見せた。 「そうじゃ!」 突然、何かを思い出した様におじいちゃんは大きな声を上げる。 「どうしたの、おじいさん。どこか痛いの?」 「いやいや、そうではないよ、リリア。これからみんなで、ソリ遊びに行こうじゃ ないか」 「旦那様!」「おじいちゃん」 ジェームズと子供たちの声が重なった。 「その様なお身体でソリなどとは、無理でございます」 「いや………この様な身体だからこそなのじゃよ、ジェームズ」 「………」 「わしの三人の息子どもは、どいつもこいつもいっぱしの経営者を気取りおって、 わしがこれまでしてきたことをまるで意味のない、ただの年寄りの道楽の様に言い おった。 確かにわしには金が必要だった………あれの為には多くの金が掛かった。 だからわしは会社をおこし、息子どもには経営者としての教育を施した。思えば それが間違いだったのかも知れん。 わしの親父やじいさんたちの様に、少しずつでもあれを行って行った方が良かっ たのかも知れんなあ」 おじいちゃんの言っている言葉の意味は、ロバートたちには良く分からなかった。 ただ無性に寂しさを感じるだけだった。 「お願い、おじいさん………パパたちの事を悪く言わないで」 リリアが悲しそうに言う。 「おお………すまん、すまん、リリア。おじいちゃんが悪かった。 ジェームズ、この子たちは本当に優しいなあ」 「はい、旦那様」 「だからこそ見せておきたいのだ」 「ねぇ、おじいちゃん。本当に大丈夫?」 パパたちに見つからないようにこっそりと山荘を抜け出してみたものの、外は激 しく雪が降り出しており、思った以上に寒くなっていた。 「なんのこれしき」 気遣うロバートに対して、おじいちゃんはいつもの陽気な笑顔を返して見せた。 「さあ、ここだ、ここだ」 おじいちゃんがロバートたち四人の子どもたちを連れてきたのは、山荘から程近 い所に立てられていた小さな山小屋だった。 「ささ、外は寒い。みんな中へ入った、入った」 山小屋の中は薄暗くて寂しい感じだったが、おじいさんがランプに灯をともすと 途端にその狭い空間は何かわくわくするものを感じさせた。 そこはほとんど納屋と行っていい程度の物であったが、部屋の中央に置かれてい た大きなソリが、子どもたちにそのわくわくを感じさせる原因だった。 「うわーっ、大きなソリ!」 デビットが目をまん丸にしながら声を上げる。 「ソリってこんなに大きい物だったの! わたし、てっきりこんな小さなものだと 思ってた」 と、シンシアは手を六十センチほど開いて見せる。 「はははっ、これはな、おじいちゃんのそのまたおじいちゃんそのまたおじいちゃ んの………ずうっと前のおじいちゃんから使っていたものだ。 これはソリ遊びに使うのでは無く、人や荷物を運ぶものでな。車や飛行機の無かっ た時代には、それは重宝したものだった」 おじいちゃんは懐かしむ様にソリを見つめながら言った。 「でもこれ、みんなで乗るのにはちょっと窮屈じゃない?」 とシンシア。
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