長編 #2810の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
とリークされた、ということになりはしないか? 舞踏教団と情報部とが直結しているとは、今までの経緯からすると考え難い。と なれば、緩衝役を果たす何かが、その間には横たわっているはずだ。 暗い仮説が、バラムの脳内で形を成した。 その仮説の先端には、マリッドがいた。 街は陽気に荒れ騒いでいた。ねり歩く人々はどのひとりもそろってその顔に奇怪 な隈取りをほどこし、笑いさざめきながら互いをこづきあったり、かけまわったり、 あるいは何も知らない(それとも、何もかもを承知した)旅行者の顔に自分たちと 同じ隈取りを塗りたくるために、叫び声をあげながら追いまわしたりしている。 中心街の大通りから街はずれの裏小路までところせましと屋台が立ちならび、荒 々しいほどの呼びかけの声がひっきりなしに地上を埋めつくしていた。 無数の山車がわがもの顔にあちこちをねり歩き、行き当たろうものなら互いにゆ ずりあう気などまったく見せあわず、威勢のいい罵倒をひとしきりかわしたあげく、 双方納得ずくの荒々しい衝突と儀式めいた喧嘩を開始する。 時が経つにつれて破壊され、よれよれになっていく御輿は、その損壊度とそれに もかかわらず残された威容をこそ誇りとして、三晩街中をねり歩いては衝突をくり かえし、そして最後の時まで形を保つことのできたものは街の中心部近くに位置す る広大な競技場に運びこまれて火をつけられ、幾世紀も以前にこの世界が邪神の怒 りの業火に焼き尽くされるのを身をもって制した至高の聖者ハレ・ガラバティへの 供物として、永遠なる天へと供されるのだ。 バラムにとってこの大祭は、まさに青天の霹靂だった。宙港のライナーから異様 な興奮につつまれた街路へと一歩足を踏みおろしたとたんに殺到した隈取りの一団 に対して、反撃に移るのを抑え得たのはまさに奇跡に等しかった。 聖者ガラバティを模倣する、という名目の、まったくでたらめとしか思えない隈 取りを顔面にほどこされてからも、喧噪と興奮の手はなかなか訪問者を手放そうと はしなかった。数歩と進まぬうちにわらわらと子どもや若者の集団が、あるいは手 に手に怪しげな品物を保持した得体の知れぬもの売りたちが、つきまとってはけた たましいご託と笑い声とを交互にならべたててなかなか離れようとはせず、たえず 狂騒が周囲につきまとっていたのだ。 状況を逆手に、アムルタート舞踏教団やシャルカーン・バールカイベル、あるい はその他の固有名詞をならべ立ててかたっぱしから質問を浴びせかえしもしたが、 なかなかはかばかしい返答は得られなかった。 地平線にいすわっていた陽光の切れ端がようようのことで姿を隠しはじめたころ、 バラムは小休止のためにバラックのごとき食堂に入り、得体のしれない煮込み料理 をかきこみはじめた。その間にも店の間口からむこうでは果てしれない馬鹿騒ぎが 途切れることなく、疲れ知らずに行き交っている。 「あんた旅行者かい」 額がみごとに禿げあがった、赤ら顔の食堂の親父が気安げにそう声をかけてきた。 「ああ。この祭りにいきあたっちまったのは、偶然だがな」 しこんだ肉が骨ごととろけるほど徹底的に煮込まれた料理をかっこみつつ、調子 をあわせてバラムが答える。 「へえ、祭りを見にきたんじゃなけりゃ、仕事かい? いやあ、そんなはずはねえ な。祭りの十五日間、とりわけこの三日の間は、たいがいのビジネスは休みに入っ ちまってるはずだしな」 「いや、仕事だ。おれはフェイシスの特捜官でな」 ぬけぬけと云う。「アムルタート舞踏教団てのを、知ってるかい?」 「はあん? いや、知らないなあ」 「じゃあシャルカーン・バールカイベルって名前の男は? 見た目はミドルティー ンのちょいとした美少年だが、やけにカリスマめいたものがあって、不思議な雰囲 気をもった男だ」 ややくたびれ気味に、幾度となくくりかえしてきた質問を口にしたが、やはり親 父もあいまいに笑いながら首をひねるばかりだった。 さして期待していたわけでもないが、やはり落胆もあらわにため息をつく。 「アムルタート。アムルタートねえ。アムリタとはそりゃ、関係ないんだろうねえ」 赤ら顔の親父は何げない調子でそう口にした。 バラムはちらりと片眉をあげただけで、用心深く疑わしげな顔をしながら訊いた。 「なんだい、そのアムリタ、てな」 「この先の寺院で半年に一度くばってる、お神酒のことさ」 こともなげに親父はそう云った。 「はん。なるほど」 うなずきつつ、バラムは失望をうかべる。 が、つづく親父のセリフに、驚愕もあらわに目を見ひらいていた。 「なんでもそのアムリタの由来てのが、不老不死の霊水のことらしくてね。古い、 古い伝説に関係あるらしいけど」 しばし無言で、探索者は親父の赤ら顔を凝視していた。 その異様な雰囲気に気づいて親父は、どうにも居心地悪げな笑みをうかべてみせ たが、 「その寺院てのは、どう行けばいいんだい?」 ややうわずり気味のバラムの質問に、訥々と、だがきわめて丁寧に道順を教えて くれた。 礼をいってやや破格のチップとともに店を後にするや、熱気にあふれる人群れを おしのけるようにして問題の寺院を目ざした。 街の中心にわけいるにつれていよいよ人の密度と喧噪の度合いも濃くなりまさっ ていく。いくつもの極彩色の建物をやりすごし、どうやら問題の寺院らしき建築に たどりついたとき、世界はすっかり夜の底に抱えこまれていた。 赤を基調にした派手な色あいの木造建築が、かなりの広い敷地内にたたずんでい た。巨大重厚な門内にも例外なく人群れと喧噪はあふれているが、寺院の内部はろ うそくの灯明が縦横に無数に灯され、さらには怪物めいた魁偉な容貌の神像を前に ひざまずいた老若男女がわずかに頭をたれながら一心に口中で祈りの言葉らしきも のを唱えており、そこにはあきらかに外界の浮ついた狂騒とは一線を画した、厳粛 な雰囲気がただよってもいた。 寺院を主催する僧らしき姿をした者もまた、祈る人びとの間をぬうようにしてお ちついた足どりで、ひっきりなしに行き交っていた。小僧の類らしいあどけない顔 をした者も忙しげに行き来している。 そんな寺院内の様子をしばらく眺めやった後、バラムは小僧のひとりをつかまえ て問いただした。 「よう。この寺でいちばん偉い坊さんはどこにいる?」 ぶしつけな質問にも、域外の狂騒の延長とでも思ったのか小僧はさほど不審がる こともなく、正面にそびえる神像のかたわらで読経する赤い法衣の僧侶を指さして 見せた。 「バグマドさまがそうです」 と云いそえるのへ、 「この寺の由来なんかについて、いろいろ訊きたいことがあるんだが、時間は割い てもらえないか?」 と重ねて訊くと、しばし待て、としぐさで制していそいそとした足どりで尊師の もとへと歩みより、一心に読経する僧の耳もとにささやきかけた。 おだやかに小僧の伝言に耳を傾けていた僧侶が、ゆっくりと顔をあげてふりむき、 バラムを手招いた。 堂内に群れた人びとがその一事にさして関心を向けた風もないところを見ると、 神像の前の僧侶の存在はとりあえずさして重要な役割ではないらしい。バラムはひ ざまずいた人びとの間をぬけて僧侶のもとへと歩を進めた。 訪問者が近づくのを待ってバグマドもまたゆったりとした動作で立ちあがり、ふ たたび軽く手招くと無言で堂を後にして、バラムを先導しはじめた。 木板を組み合わせた吹き抜けの廊下をわたり、堂の裏へと出た。むせかえるよう な香の匂いがやや薄まり、人びとの祈りとざわめきの声も彼方に退く。かわって、 ろうそくの灯明が永遠を形成するごとく照明をおとし、奥行きを強調した奇妙な室 に出た。 深い、というのが最初の印象だった。どこか洞窟めいた奇怪な雰囲気の室は奥行 きも、高さも、その空間自体でさえ、とてつもなく深く、底知れなかった。 室内は大まかに四つの階梯にわかれている。手前、入口からつづく床の部分。一 段下った、四角い枠を形成する巨大な正方形。それに囲まれるようにして、もっと も深く奥まった台座部分。それからその背景のように、入口よりも高い位置にある キャットウォークのような部分。 高座には重厚な銅色の鐘がいくつもならび、同じ色の花をデフォルメしたらしい オブジェが広大な堂内のいたるところに絢爛と配されている。そしてそれらに囲ま れるようにして、もっとも底の部分に胡座をかいてなお、門口の広い入口自体を睨 睥するほどに巨大な、すさまじい様相の神の像。 憤怒の形相を炎のようにうかべ、髑髏の首飾りを胸につらねた、四腕の漆黒の神 像はバラムたちにむけて、ふいの侵入者を咎めたてるように苛烈な無言の凝視を、 圧し潰すように投げかけていた。 「シヴァ神です」 僧バグマドはうなずきながら口にして、魁偉な神像の手前、入口より一段低くな った場所に座すと両掌をあわせ、しばしの間口中で呪文めいた独言を唱えてから、 ゆったりとふりむいてバラムにも座すように勧めた。 「今宵より三晩、ハレ・ガラバティのマウリドが行われることはご存じでしょうな」 バラムが無言でうなずくのを待って、「街を行く人びとが顔面に奇怪な隈取りを しているのを見て驚かれたかもしれませんが。それに、見れば手荒な洗礼をすでに お受けになったご様子。いかがですかな、この星は」 意外にくだけた口調で、笑いさえまじえつつ発されたバグマドの問いに、バラム は肩をすくめただけだった。 にこやかに笑いながら小さくうなずき、バグマドはつづけた。 「今でこそ隈取りはやたらに派手派手しく、まるで無意味にぬりたくるのが慣例に なっておりますが、あれは昔はハレ・ガラバティが邪神の業火からこの世を救う際 に、三日三晩の苦行を経て血まみれになって息絶えた、その行跡を偲んでのものだ ったわけです。まあ、私は昨今の馬鹿騒ぎも、けして嫌いではありませんが、な」 ニヤリと笑い、ウインクをしてみせた。どうもこの規模の寺院の座主にしては、 ずいぶんと砕けた印象だ。 「当寺の由来をご存じになられたいとか」 「それと、アムリタという神酒のことを。なんでも不老不死の霊水、とかに関係し ていると聞き及んだのですが」 そこで老僧はにこやかに笑いながら寺院の由来やそれにまつわる神話などを語り はじめた。 アムリタ、というのはかの“イサナミの首環”の彼方、はるかなる人類の故郷・ 地球時代からその存在を神話に託して語られていた不死の飲料であること。イムジ ェとその衛星に現れたシヴァの威光。邪神との闘争においてシヴァの救けを得、業 火がイムジェとそこに住む人々におよぶのを防いだ、ハレ・ガラバティの奇跡とそ の死。そして復活。 ややくだくだしく、そして多数の象徴と比喩にくらまされてどこまでが事実なの か、あるいは物語の全体がまったくの虚構であるのか否かさえ判然とはしない物語 を、バラムはおとなしく最後まで聞き追えた。 が、伝説の(本物の)アムリタをハレ・ガラバティがどこで手に入れたのかも具 体的にはわからず(神話の内容によれば、それは死界への道程、とされている)、 有用と思われる情報には何ひとつ行き当たることはなかった。 心中の落胆は見せず、バラムはしかつめらしくうなずいてみせながらバグマドの 講話に対して丁重に礼をのべ、ついでのように訊いてみた。 「そういえば、以前エル・エマドで耳にしたことがあるのですが、アムルタート、 という言葉をご存じですか? アムリタという言葉と似ているのでふと、思い出し たのですが」 「アムルタート、ですか」 とたん、終始にこやかだった僧バグマドの丸顔に、わずかに翳りが落ちたことを バラムは見逃さなかった。 16.語らぬ者たち 不可解なものに対するとまどいを、その表情は物語っているようだった。 「以前、その名を冠した教団の人間が当院をたずねてきたことがありましたな」 「ほう」 バグマドの微妙な反応に、荒れ騒ぐ内心をおしころして、さほど興味もなさそう に問うた。「教団、ですか」 「ええ。アムルタート舞踏教団、と名乗っておりましたか。教団、とはいっても、 宗教団体とはすこしちがう、と、何やらまことしやかな説明をなさっておいででし たな。やはりあなたと同じように、アムリタ、より具体的には不死に関して、強い 興味を覚えておられたようでした。どうもわしの話す由来だのにも、かなりの部分 が現実に裏づけられたものがあるのではないか、とそういうような受けとりかたを なさっておいででしたなあ。わし自身、神だの魔族だの冥界途上の不死の神水だの、 どうにも現実にこの世に存在するとは思えぬ、おそらくは何かの事象や思想の象徴 にしかすぎぬものと思っておるものに対して、そうも真剣にとられたのではどうも、 とまどいを抑えきれなかったもので。よく覚えておりますよ。アムルタート、とい うのも、ザール・トゥーシュ教の一派に伝わる、アウラマドゥの七陪神の一人です。 意味もそのまま不死をさしているようですな」 どうやら、大当たりを引き当てたらしい。 「不死、というのは、ですがだれしも興味を抱くものでしょう」 さりげなさを装い、バラムは云った。 それはそうです、と一度はうなずいてみせたものの、バグマドはなおも釈然とし ないとでもいいたげに首を左右にふった。 「ですが、舞踏教団の方たちはそれをかなり本気で、追求しておられたようでして な。しかもその本気、といののありようが、熱にうかされるように、ではなく―― そう、むしろしごく冷静に、あたりまえ――とまではいかぬものの、ある程度手な れた感触をもって、それを探求なさっておいでだったような」 「不死を、ですか?」 うろんげに眉根をよせつつ頓狂に訊きかえしたのは、むろん演技ではない。 さよう、と、これも当惑げに僧はうなずき、 「たとえば、ハレ・ガラバティが冥界行に立って後、アムリタにいたるまでの道程 を現実の、イムジェフィフタスを含めた生命圏の地形上にあてはめたあげく、アム リタ摂取の候補地点をいくつか、あげておいででしてな。それに、奇妙なことも口 にしておられた」 「奇妙なこととは?」 「さよう。たとえば当院なども、ハレ・ガラバティがアムリタをおとりになった聖 地と、ある意味で同じように重要だ、などと。わたしなども僧職にある以上、当院
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