長編 #2799の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
バラムの質問に軽くうなずいただけでマリッドは管制系に灯を入れ手際よく出発 の準備をはじめた。 エンジンがうなりをあげる。管制室に回線をつなぐと、さきほどの整備員が心配 そうに眉を寄せながら答えた。 「出発するわ。誘導をよろしくね」 『気をつけてくださいよ。コンピュータはまるであてにならないんだ。マニュアル だけでやる自信がないなら、途中で戻ってきてください。誘導しますから』 「ありがとう」 『ああそれと、そちらの男性の方ですがご同僚ですか? IDチェックの必要はな いんですが、場合が場合なだけに報告だけはしておかなきゃならんので』 「俺はテロリストだ」 ぎょっとしたように目をむく童顔の軍属に、マリッドはあわてて言葉をかぶせる。 「同僚でいいのよ。よろしくお願いね」 「甘いな、あんた」 バラムはうす笑いを頬にへばりつかせつつ、「そんなことだからトーチカを占拠 されちまうんだ。平和ぼけすると規律の隙間と緊急事態との区別がつかないバカが 出てくるから困る」 狐につままれたような整備員の顔を横目に、マリッドはため息をつきつつ艇を進 めた。なにかいいたげにバラムをふりかえり、見つめかえすいたずら小僧の笑いを 見つけて、力なく首を左右にふりながらもう一度、深いため息をつく。 野獣の発する威嚇のような音とともに艇はゆっくりと前進し、さしたる支障もな しにリングシステムに見放されたステーションを後にした。 それからの数時間を、退屈が占拠した。システムに異常がないかを耐えずチェッ クし、交代で仮眠をとり、観測機器のわりだすデータから現在位置を知るために単 調な計算をくりかえし、そして幾度となく航路を修正する。 やがて華々しい光球が明滅するのを確認して、マリッドは浅い寝息をたてるバラ ムに手をのばす。 「どうした?」 肩に手がふれるかふれないうちに、バラムは前触れもなく薄目を開いていた。 「派手にやってるわよ」 示されたフロントヴュウにちらりと目をやり、バラムはエネルギー分布図に視線 を移した。 火線が飛び交っている。 「警備隊か」 「ほぼ壊滅しつつあるわね」 「軍は?」 「外惑星から集結しつつあるところ。計算してみたら、先発隊が戦端を開くのとち ょうど同じころあいに、あたしたちもあそこに到着することになりそうね」 「乱戦のどさくさにまぎれこめる。危険だが、悪い条件じゃない」 「そうね」 と女は不敵に笑った。「ただし不利な要素もあるわ。ジョルダン・ウシャルが先 行してるってこと。彼の収容が連中の目的である以上、軍の船団が到着するまでぐ ずぐずしてるとはとても思えないわね」 ふん、と鼻をならしてバラムは目を閉じる。 「逃したら逃したで、つかまえるまで追えばいいってことだ」 「うらやましいわね、自由業は。宮仕えはそうもいかないわ」 「神にでも祈るんだな」 嘲笑にのせて吐き出された言葉に、マリッドは憎々しげに顔をしかめてみせる。 「もうひとつあるわ。正体不明の船が一機、あたしたちと同じコースを追随してき てるの。シャトルだと思うけど、たぶん、目的地は同じね。何者か心当たり、ある?」 問いかけにも、バラムは肩をすくめて見せるだけだ。 やがて、探査システムが新たに交錯を開始したエネルギー流を探知した。かなり 速い動きで目まぐるしく、互いの位置を変えながらの戦闘が展開されているらしい。 僥倖というべきか。 フロントヴュウが修正を加えた望遠の映像で、戦闘シーンを視覚化する。軍の高 速戦闘艇が五機。それよりもさらに目まぐるしいスピードでヒットアンドアウェイ をくりかえしているのは、二機の小型戦闘艇。それから、シュティーベリン駆動を 装備した中規模の武装恒星船が一隻。 トーチカ自体が戦闘には関わらず沈黙しているのは、高速で移動する戦闘艇が相 手では事実上無力だから、ということのほかに、射程内に標的となり得る小まわり のきかない大型艦の類がないことの証左でもある。 無愛想な仏頂面のまま、どうする、と視線で問いかけるバラムに、マリッドはち らりと考えるような表情をうかべただけで、答えた。 「器用な避け方で侵入してもまきぞえをくわないわけにはいかないでしょうね。ス ピード重視。ど真ん中をつっきるの。どう?」 云って、ちらりと片眉をあげてみせた。 ふん、と小さくバラムは鼻をならす。 「それでいい。やってくれ」 「気楽に云う。高くつくわよ、タクシー代」 云い終えるより速く、打ちこんだコマンドをランさせた。 加速圧より、複雑な弧を描く遠心力がより不快だった。 機体強度や乗員の安全など頭から無視した狂気じみた軌道を描きながら宇宙艇は、 華々しく戦闘の展開する宙域のただ中を、トーチカ目がけて突入した。 下唇をかみしめつつマリッドは、ちらりと横目でバラムを見やる。 暗殺者は腕組みをしてシートの背もたれに深く背中をあずけ、眠るように瞑目し ていた。 「気持ちだけでも協力しようとか、せめて神にでも祈ろうとかも、まったく考えも しないわけね」 皮肉をこめつつ投げかけると、 「おれが祈ると、いつも結果は悪い方に出るんでね」 眉ひとつ動かさず、バラムは答えた。 予測不能のでたらめな航跡。姿勢制御ノズルがまったくランダムに、のべつまく なしに噴射をくりかえす。 戦闘は、新たな侵入者へのとまどいを見せつつもあいかわらず、双方ともに致命 打を与え得ないままつづいていた。流れ弾とも狙い撃ちともとれぬ火線が、船周を かすめすぎていく。 ぎりぎりと船体が震えた。ごん、どん、と得体のしれない衝撃波が、エアバッグ で半固定されたふたりを激しく痛めつけながら揺らがせる。 「おい」 幾度となく跳ね上がりゆさぶられつつ、バラムは問うた。「船が保たない、って ことはないんだろうな」 「知らない」 小気味いいほど無責任な答えが返った。「船にきいて」 「勘弁してくれ」 うんざりしたようにつぶやくバラムに、マリッドはちらりと微笑をむける。 フロントヴュウにトーチカの威容が迫る。 同時に、激烈な衝撃が船を揺るがせた。室内灯が明滅し、パワーダウンしてオレ ンジの非常灯にとってかわった。メインパネルの前で目まぐるしく動きまわるマリ ッドの手もとで、半分近くの機器が異常をうったえていた。 きつく眉根をよせながらマリッドが口を開いて何か云いかけるよりはやく、二撃 目が叩きつけた。間髪入れず、被せるように第三撃。 「直撃かよ!」 吐き捨てるようにバラムが叫ぶ。マリッドは答えず、奥歯をぎりりと噛みしめた。 交錯する火線の間隙をぬって、旋回しながら艇はトーチカのランディンググリッ ドに突進した。制動どころか、姿勢制御さえ満足にできないらしい。 「飛び降りる用意でもしといて!」 「地獄にか」 切り返しつつバラムは、すばやくエアバッグをおしのけてシートから飛び出し、 縦横無尽に荒れ狂う船内をまろび、あちこちに叩きつけられながら移動した。 エアロックにとりつくと、セイフティ解除ボタンのカヴァをぶち壊して内扉を開 き、となりのクロークへと場所を移す。 三つならんだ重装備の気密服にはちらりと視線を走らせただけで無視し、ヘルメ ットを二つ、さらに小型のスラスタとハンドガンひとつずつを、手にとった。 「つっこむわよ!」 マリッドの、警告、というよりは絶叫とともに、盛大な衝撃がバラムに強烈な一 撃をくらわせた。 狭い船内の機器にうめつくされた壁に背中から叩きつけられて、内臓がせり出し てきそうな苦痛にバラムはうめいた。ついで、地獄の撹拌が景気よく何もかもをか きまわしはじめる。 マリッドは艇が虚空に跳ね返されぬようほとんど勘だけで姿勢制御ノズルを咆哮 させながら、せり出したランディングギアでグリッドをつかもうとしていた。 ギアのひとつが格子の一端をわしづかんだ。 激しい慣性に苦痛のうめきを上げつつ、ひとまず安堵の息をついた。 甘かった。 たたき割られた氷のようにギアはねじ折れ、あと少しでグリッドをつかみかけて いたもうひとつのギアは空を手にとった。 地獄の撹拌がふいに停まり、艇ははじき出された。 「逆もどりかよ」 うんざりしたようにバラムが云った。 「やけにいいわね、往生際が!」 叫びつつマリッドは、メインノズルに一瞬だけ、火を入れた。 絶妙のタイミングとヴェクトルが艇を、まるで羽毛のようにやんわりとおし戻し た。 残ったひとつのギアがグリッドをつかみ、ついで沈みこむような衝撃が重く、頭 上から降りそそぐ。 ぐえ、ととぼけたうめき声を上げながらバラムは、ちらりと唇の端を歪めて見せ た。 混濁からむりやり回復させた視野の端でそれをとらえてマリッドも、笑みをうか べかけた。 これも視界の端で、リアヴュウにきりもみ状態の物体が映ったのに気がついた。 火を噴きながら、みるみる迫る。 「ストラトス軍の――」 この状況下ではあまり意味のない認識を口にしきる前に、リアヴュウはノイズに 占められ―― 「出るぞ!」 わめき声とともに猫のように背中をつかまれ引き寄せられた。 ヘルメットをなかば無理やりにかぶせられる。あわてて、簡易気密服と連結させ た。 マリッドの準備を待たず、みずからも真空に備えつつバラムはエアロックの開閉 スイッチを叩いた。 コオ、と吐息のような音を立てて外扉が開いた。 ほとんど同時に、眼前に開いた真空が貪欲な勢いで艇内の乏しい空気を吸い出し はじめた。 飛び出すより速く、衝撃が二人の背中を叩いた。 まろぶようにして放り出された。視界が盛大に回転している。 景気よく鳴動する視野のなかに、青白い炎があった。 スラスタ。 そしてバラムの視線の先に存在するもの――トーチカのエアロック。 そのとき、後方で、火球が炸裂した。 音はない。震動も。壮烈なスパークと爆散する残骸の煙が、きらきらと彼方の陽 光に照り映えながら広がるだけだった。 バラムの背中で、噴き出していた青白い炎がとぎれた。燃料切れか。慣性のまま 二人は落下する。 衝撃波。 支点のない虚無の空間で、もつれあったまま見えぬ神の巨大な掌にはじき飛ばさ れたようだった。 それから抵抗とともに壁にとりつくまでに、永遠に近い時間を過ごしたような気 がした。現実には、ほんの一瞬のことだったにちがいない。 衝突の打撃がほとんどなかったのは、バラムの驚異的な筋力をほこる手と足が人 間離れしたパワーで、トーチカ構築物へと叩きつけられた衝撃を吸収してしまった からなのか。 無骨な手がエアロックの緊急開閉レヴァにのびた。 引きちぎるほどの勢いで、引いた。 音も動きも何もなかった。 目と歯をむきだしてバラムは威嚇するようにエアロックの扉をにらみつけ、わき のグリップに手をのばしてぐいとつかんだ。 マリッドの腰にまわした手をのばしてハンドガンをとる。 撃った。 閃光が弾けた。 扉は――へこんでいるだけだ。 強情な奴だ、と口中でつぶやきながらバラムは、マリッドの手をグリップにのば させた。 うながすまでもなく、マリッドはグリップを握りしめた。ただし、バラムの意図 はいまひとつ計りきれない。 バラムもまた片手でグリップを握りしめ、空いた腕をぐい、と背後に引いた。 疑問と不審の視線を向けるマリッドの眼前で、バラムは拳をふりあげた。 否。 掌を。 叩きつけた。 驚愕に、マリッドは目をむいた。 接合部が一瞬にして引きはがされ、開いた隙間から猛烈な勢いで空気が噴き出し はじめた。 吐き出される端から、白い氷塊となって四散していく気流を避けて、すばやく体 を入れかえるやバラムはもう一度、掌をふりあげた。 ふりおろす。 見えた。叩きつけたのではない。掌と扉とが激突する寸前、不可視の衝撃が構造 材を揺るがせているのだ。 ひしゃげた扉がそのまま奥にむけて弾け飛び、すぐに噴き出す気流に押し戻され て背後の虚空へと飛び去った。 噴出する凍った気流にに逆らってバラムとマリッドはエアロック内部のハンドレ
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