長編 #2797の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「わかったわよ。説明するからはなして」 つきのけるように解放するバラムへ舌を出してみせ、 「女の子にもてないわよ」 「余計なお世話だ。さっさと説明しろ」 「待って」 と、マリッドは手をさしあげた。「その前に用事をすませとくわ」 云いながらドレスの胸もとをおさえる大ぶりの宝石をくいとひねり、なにごとか をささやきかける。通信プロセッサだ。受信部分は網状の球となって形のいい左耳 の内部におさまっている。 「だれと話していた?」 作業が終了するのを待って問いかけるバラムへ、マリッドはしかめ面で、 「あの二人の」と、街路に突っ伏した生死不明の黒服二人の身体を指さしてみせ、 「回収を依頼したのよ。ついでにシャトルを一機、調達できないかと思ったんだけ ど。時間がかかりすぎてダメみたいね」 ふん、と鼻を鳴らすバラムに、マリッドは背をむけて歩きだした。 「おい、どこへ――」 問いかけるバラムへマリッドは背をむけたまま、 「道々話してあげるわ」 「あ?」 と追いすがる。 くるりとふりむくとマリッドは、ききわけのない子どもにいいきかせるようにし て指をつき出し、 「追うんでしょ? ウシャルを。だったらしばらくの間、行動をともにすることに なるわ。ちがう?」 いい終えると、ふたたび背をむける。 あわててそれを追いながら、バラムは音たかく舌うちをしてみせた。 5.傷ついた塔 「おまえらいったい、何者だ? あん?」 下唇をつき出して憎々しげに問うウシャルに、返ったのは冷たい哄笑だけだった。 くそ、と露骨に嫌悪を表明しながらも“帝王”がそれ以上癇癪を破裂させなかっ たのは、彼を救いに現れた騎兵隊が必ずしもジョルダン・ウシャル、ストラトスマ フィアの名前と威光に伏す種類の人間ではないことを、本能的に察知していたから だ。 二機の突撃艇に護られながら急激に上昇をつづける惑星間シャトルの内部には、 操縦席のパイロットをのぞいて、ウシャル夫妻の他に合計三人。 二人は、一目でそれと知れるごろつきの類だが、残る一人は奇妙だった。 暗黒街の帝王に向かって露骨に嘲笑をあびせるチンピラとちがって、その男は静 かに瞑目し、一種神秘的な雰囲気をさえ放っていた。 厳密には、一人、とか男、とかいう形容は正確ではないのかもしれない。なぜな らそれは――地球人ではなかったからだ。 ざんばらの髪はつやつやと光る紅。奇妙な、あわせ式の上衣を着てまるで行者か 何かのように結跏趺坐している。背に負った、野太い棒状の、奇妙な三弦の楽器。 そして何よりも異様なのは、嘴だった。巨大な鳥様の嘴はまるで鋭利な凶器のよ うに不気味な存在感をもってその顔貌を占拠している。ラトアト・ラ人。帝国領内 の神秘的で謎につつまれた異星人だ。科学技術こそ劣るものの、恒星船の超光速航 行時に採用されている音声式の催眠法、イシュ・タン・ヨル・ハー催眠のもととな った音声パターンを人類文明にもたらした、一種仙人めいた印象をもって知られる 種族である。 「おれたちをどこにつれていくんだ?」 なおもふてくされた口調でウシャルがそう問うたとき、ふいに、そのラトアト・ ラ人が目を見ひらいた。 白目のない、湖水のような青い瞳が真正面からウシャルを見つめた。 聖者の視線を前にしたように、ジョルダン・ウシャルはたじろいだ。 が、異星人が口を開くと、その神秘的な印象はとたんにぬぐい去ったように消え た。 「星間旅行に招待してさしあげよう。行き先はまあ、楽しみにしておられるがよい」 しわがれ声だった。地球人でいえば、かなりの高齢者の雰囲気だ。小柄な身体の 放つ印象からしても、老人といってさしつかえはなさそうだ。 おちょくるような調子で口にするラトアト・ラ人にあわせるようにして、ごろつ きどもがいっせいに声をそろえて笑った。表現方法はともかく、すくなくとも二人 の無頼漢はこの異様な異星人に、畏怖に近い感情を抱いていることがその態度から 察せられた。 「旅行だ?」 うさんくさげに肥満顔を歪めつつ、ウシャルも云った。「おれの意向とは無関係 に、かよ?」 「しかり」 嘴のついた異相では表情などわかりようもないが、それでもどこか嘲笑するよう な雰囲気がある。 ち、とウシャルは舌を打ち、 「ちょいと待った。降ろせ、とは云わねえ。寄り道してもらいてえ場所がある」 うろんげに、ラトアト・ラ人の眉間に皺がよる。 「罠、というのは歓迎できんの」 「罠じゃねえ。どうしてもダメだってんなら、こっから飛び降りるぞこの野郎」 凄む、というよりは駄々っ子のように云う暗黒街の帝王に、ラトアト・ラ人はし ばし困ったように逡巡していたが、すぐにパイロットに向けて進路の変更を告げた。 二機の突撃艇をともなって、シャトルは上昇を中止して眼下の都市に向け、静か に降下を開始した。 縦横にならんだシートの最後部、入口ちかくの二つをえらんで、マリッドが奥に 腰をおろした。バラムはひとわたり四囲をあらためた後、マリッドの席からひとつ おいた位置におちつく。 ケージの内部にあわい橙色の灯がともる。 「出発まで十五秒」 マリッドの言葉に、バラムは無愛想にうなずいただけだった。ブ……ン、とケー ジの内部が低いうなりにみたされ、座席前部にすえつけられたモニタが赤く明滅を くりかえす。 「危いんじゃねえのか? もしかするとよ」 その明滅を眺めつつ他人事のようにバラムがいうと、マリッドは片眉をくいと吊 りあげ、 「かもね」 と薄く笑った。 「これもなにか関係があるのか?」 シートの回転とともに、天井部に穿たれた窓からはるか上方――天の彼方にむけ て果てしなくのびる長大な支柱が視界に入る。スカイフック――天と地をむすぶ橋。 発進灯が点滅した。同時に身体がシートのなかにぐいと押しこめられた。 支持架が窓外を、猛烈なスピードで通過しはじめる。モニタの明滅は、あいかわ らず赤のままだ。 バラムは目を閉じ、聴覚に神経を集中する。気密ドアを透してひびく獰猛な風音 の彼方で、ピシ、ピシ、とかすかな、そしてこの上なく不吉な音が鳴りわたってい た。構造物のきしむ音? 「オービタル・リング・システムに異状があるみたいね」 こともなげに、マリッドが恐ろしいことを口にした。 「なぜだ?」 「たぶん、ニフレタのスカイフックが破壊されたんだと思う」 「ニフレタ? ハンジャ大陸の海洋都市ニフレタか。破壊されたってのはどういう ことだ」 「ストラトスの保安機構に脅迫状が届けられたのが二日前のことよ」 世間話をはじめるような気軽さで、とんでもない内容が口をついて出る。「そこ には、軌道ステーションジョシュア3を破壊する用意がある、と書かれていたわ。 あわてて警備部から爆発物処理班を中心とした調査隊がジョシュア3に派遣された ものの、なにも発見されなかった。だから悪質ないたずらとして処理されてしまっ たの。あとでわかったことだけど、なにかが出てくるはずがなかったのよね。占拠 されていたのはジョシュア3じゃなくて惑星防衛線の早期警戒トーチカだったんだ から」 「知能犯だな、それをやった連中は」 「たしかにね」 語尾がため息とともにかすれたのは、疲労のせいか。 言葉どおり、戦争状態にでもあればともかく、惑星防衛ラインなど監視機器をペ テンにかけることができれば制圧するのに手間はかからない。そのうえ長期間潜伏 していても発見される恐れはほとんどないとくる。 「政府を脅迫するには最適の環境だな」 「テロ行為にもね。さっき、衝撃波が奔りぬけてったのを覚えてる?」 ウシャルの城を一瞬で瓦解させた異変の光景を、バラムはもの憂く思い浮かべた。 「問いあわせてみてわかったことだけど、要するに脅迫が実行に移されたってこと らしいわ。ジョシュア3に寄港するところだった恒星間宇宙船を、トーチカが攻撃 した。ジョシュア3のエネルギー供給機関が破壊され、それに恒星船のリプ粒子の 暴走がからんで、超光速フィールドがステーションをまきこんで地表に落下。ニフ レタは蒸発したそうよ」 「過激な挨拶だ」 唇の端を歪めてバラムは笑う。 「とうぜんのことだけど、影響は全土に飛び火しつつあるそうよ。それに、ニフレ タの軌道ステーションとスカイフックが急激に壊滅した以上、オービタル・リング ・システムでつながってる他のスカイフックもいつ崩壊をはじめるか知れたもんじ ゃないし。多重保安システムにしたって、まさかステーションまるごとテロの対象 になるとは想定されてなかったでしょうからね」 こともなげにいうマリッドに、バラムは呆れたように、 「よくもまあ、おちついていられるもんだ」 「あなたもね、バラム」 マリッドは微笑んでみせた。「わたしの場合は、結構なれてるのよ、こういう状 況には。死にそうな目に何度もあわされてきたもの。派遣されるのはいつも危険度 最上級の第一線」 「おまえが何者なのか、まだ聞いてなかったな」 「ああ、話さなかったかしら。ストラトスのフリー・エージェント。つまり、雇わ れ工作員ね。この仕事についたのが、一週間ほど前かしら。ジョルダン・ウシャル の内偵に来てたの。あなたが彼をつけ狙ってるって情報を知ってたのはそういうわ け。でも、今度の仕事は案外楽だと思ってた矢先にこの事件でしょ。がっくりきち ゃったわ」 「で? さっきウシャルをかっさらっていた邪魔者どもは?」 マリッドは、小さく肩をすくめてみせた。 エレヴェータは漏斗状の地上部をぬけてすさまじい速度で塔を昇りはじめていた。 窓外に、つぎつぎに通り過ぎていく無数の支持架の向こうにポルトジョシュアの市 街が広がっている。 「かなりのレベルの機密情報に関わるらしいわね。あたしみたいな雇われ者は、く わしいことはほとんど教えてもらえなかったわ」 「知っていることだけでいいさ」バラムは云った。「どうせ、おしきせの情報だけ を信じてるってわけじゃないんだろう?」 返答にマリッドは、ちらりと微笑んでみせた。 「あら、なぜわかるの?」 「なんとなく、な。なんとなく、おまえはそういう性格だ」 「どういう意味、それ? 誉めてるんじゃなさそうね」 「誉めてるんだよ」 仏頂面で、バラムは云う。「いいから、さっさと話してくれ」 マリッドは肩をすくめた。 「保安機構にとどいた脅迫文を唯一、まじめにうけとったのがストラトス情報部の、 ジョシュア分室。つまり、二日前に急にその動きが活発化しているらしいって、あ たしが使ってる情報屋からの商品。で、ちょうど同じ時期にジョシュア分室から、 バラムとは別の線でウシャルを狙っている集団があるって、警告が入ってきたの」 しばし黙考し、 「どういうことだ?」 とバラムは訊いた。 「脅迫の内容にジョルダン・ウシャルが関係しているってこと、かしらね。たぶん」 「どういうふうに?」 「それはわたしにだってわからないわ。問題の脅迫の内容だけど、きわめて簡潔よ。 『ジーナ・シャグラトの秘密をわたせ』これだけ」 「……ジーナ・シャグラト?」 「そいつはなんだ、なんてきかないでね。わたしにもなんのことだかさっぱりわか らない。二日間でいろいろ調べてみたことはみたけど、これといった答えは出てき ていないわ。ジーナ・シャグラト、というのが人の名前だと仮定して調べてみたの。 ジョシュアとその衛星系の諸都市で、数はすくないけどシャグラトという姓はたし かに分布しているわ。でもジーナって名前はなし。地名の線では、ジーナもシャグ ラトもまるっきりはずれ。だからたぶん、ジーナ・シャグラトってのが人の姓名で あるって見当がついただけであとは五里霧中。とうぜん、当の要求を受けた保安機 関にもこの要求の意味はさっぱりだったんでしょうね。だからいたずらと決めつけ て、対応を遅らせたんだろうけど。その秘密を知っているのは――」 「情報部、ジョシュア分室か。ウシャルはそれにどう関係してくる?」 「それを教えてくれないのよ、だれも。ただ脅迫者の魔手がウシャルに迫るはずだ から気をつけろって、それだけ」 「わけがわからん」 「わたしもよ」 「脅迫を送ってきたのは何者だ?」 「アムルタート舞踏教団。知ってる?」 「いや」 「帝国発祥の犯罪的秘密結社よ。神秘学の線から不老不死の法を追求してるってう わさがあるわ。魔法陣の祭壇に処女の生け贄をささげたり、なんてまことしやかに ささやかれてるわね。ま、あくまでうわさだけど」 「馬鹿ばかしい、と一笑に付すこともできんな。神聖帝国自体が、科学では立証不 可能の神秘学をその基盤においている」 「その帝国の神秘思想からもはみ出した筋金いりの狂人集団がアムルタート舞踏教
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