長編 #2796の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
なおかつ状況を冷静に分析しつつある。“帝王の資質”というやつだろう。 「さあ、抵抗したまえ、バラム」 陰々と、情報局の工作員のうちの一人が口にした。「有害なテロリストを抹殺す るのはわれわれの義務だ。君が抵抗してくれれば、それを実行にうつす大義名分が できる。じつはさっきから引き金を引きたくてうずうずしているのだ」 物騒なことを口にする。淡々とした口調がいっそ不気味でもあった。 「と、いうことは、だ」 対してバラムは、嗤いながら一語一語、区切るようにして云った。「おとなしく していれば、おれを殺すことはできないってわけだな。政治的な問題とやらでよ」 「君は抵抗するさ」 挑発するように、黒服は銃口を腰のわきに下げてみせた。「今でなくとも、いず れそのうちにな」 「そのときに死ぬのは、おれではないさ」 不敵に、バラムは云い放つ。 それを聞いて、マリッドがさも嬉しげに笑った。 そんなマリッドの笑いを無視してもう一人の黒服は、おもしろくもなさそうな口 調で云った。 「さて、それではわれわれと一緒に来てもらおうか。時間がないので、急いでもら いたい」 「ほんと、遅すぎたわ」 マリッドが、つぶやくようにいいながら上空に視線を転じた。「どうやら騎兵隊 が到着しちゃったみたい」 近づきつつある音を、バラムの聴覚もほぼ同時に捕捉していた。 エンジン音だ。突 撃 艇の。 気ちがいじみた速度で吹きとばされていく無数の雲間をぬって、光点がときおり 垣間みえた。猛烈なスピードで近づいてくる。 黒服二人組は眉根をよせた。渋面はもともとだから、表情にあまり変化はない。 そして――マリッドの示す方角に視線を転じる。 不用意だ。あまりにも。 罠だろう。 かまわない! 一瞬の決断とともに、バラムは動いた。 標的は――むろん、ウシャルだ。 一瞬で“帝王”の背後にまわる。二人の黒服とマリッドを視界におさめようとし て―― その視界が、マリッドの美貌に占拠されていることに気づき、呆然と目を瞠った。 銃口は喉もとにつきつけられている。 火を噴いた。 血がしぶく。 瞬間、微笑を驚愕に凍りつかせたのは、今度はマリッドの方だった。 そして見ひらかれた目はそのまま、女の朱い唇はすぐに、ふたたび笑いのかたち に歪んでいた。 間一髪、一瞬の光条をかわして飛びすさった暗殺者が、一転、攻勢に移行する。 銀のナイフが後退するマリッドを追って弧を描き――死角からせりあがった蹴り が、銃を手にしたマリッドの右肩に痛烈な打撃をたたきこんだ。 がらりと音を立てて、銃が街路にころがる――追って、反転しながら手をのばす マリッドより一瞬速く、バラムの掌が銃にたたきつけられた。 万力に押しつぶされたように、銃はひらべったい残骸と化した。 「むちゃくちゃなひとね」 あきれたように、マリッドがつぶやく。 つぶやきながら、直線を描いてせまる神速の蹴りをかわして、後方に飛びすさっ た。 と同時にマリッドは、突きだされた足が中途で地を蹴ったのに気がつく。フェイ ント。 ウシャルのみにくく肥満した巨体をかかえて走る黒服の一人を、バラムが追う。 追随しながら、マリッドは急迫する突撃艇に目をやった。 高速度映像のように天空をかけ抜ける雲塊をぬって、裂くような弧を描きつつ急 迫するシルエット。反重力発生器の真円を後部に一枚。鋭角のノーズと、ジェネレ ータ上部にV角に二枚羽を装備し、可変収納式デルタ翼を開いたフォルムは大気圏 内戦闘艇にはありふれたものだが、後部下端、噴射ノズルにはさまれて円盤から突 き出るようにのび出た、鋭利な剣、あるいは優美な脚線を思わせる独特のUGフィ ールド制御翼が、その素性を明らかにしていた。 SAC―GT11・カサンドラ。ストラトス軍に装備が予定されている、最新式 の大気圏内突撃艇だ。 空に潜行する死神が、三つの標的を射程距離内に捕捉する。 閃光と同時に、路面に溶解した穴が数個、穿たれた。上空から破裂音が落ちてく るのは一瞬後のことだ。 射撃は正確に三組の標的をポイントしている。命中しないのは、標的の勘と反応 速度が三者三様に常人ばなれしているからにほかならない。 デルタ翼がねじりこむように旋回し、半壊していまにも崩れ落ちてきそうなビル 群をぬって急迫する。ひびわれたガラスはソニックブームにつぎつぎと粉砕され、 結晶片の雪と化して舞いちる。さらに、壁の残骸が落盤のごとく頭上を強襲。 衝撃波が、狩られる三つの標的を街路にたたき伏せる。勢いのままに離脱し―― 遠く、天頂へとつづくスカイフックの長大な円柱を、まわりこむようにして反転。 正面から獲物をとらえて、砲口が白熱した光球をたてつづけに吐きだした。 プラズマ弾は街路を白一色に染めながら空を切りさき、都市は無差別に高熱の洗 礼をうけて溶解していく。 二万度Cの肉薄する閃光をかわしつつ、バラムは奥歯をきしらせた。 「まったくどいつもこいつも!」 低空を高速でせまる突撃艇の機体に目をすえて、舌なめずりをした。 次の瞬間―― 「ええっ?」 マリッドが驚愕に叫びあげ、黒服たちも、そしてウシャルもまた、目をむいてい た。 高速で推進する突撃艇の行くてをはばむかのように立ちつくしたバラムが、次の 瞬間、制御翼にさらわれるように機体に取りついていたのだ。 いったん、機体は接地寸前まで沈みこみ――一転して急上昇を開始した。 流雲をつき破って突撃艇はまたたく間に、天空に消えうせる。 狂おしく変化するエンジン音がしばしのあいだ、とりついた異物をふりはらうた めの狂的な曲芸飛行を暗示していたが、それも徐々に遠ざかりつつあった。 一同は呆然と空を見やり――情報局エージェントの小脇にかかえられた暗黒街の 帝王は、不満げにぶうと鼻を鳴らした。 「おい、いつまでひとを小荷物みてえにかかえてるつもりだ? あん?」 「残念だが、現在の君は文句をいえるような立場にはいない」 うわのそらでエージェントは答えた。 「でも立場はすぐに逆転するのよ」 気取った声音が、ふいにビル街の陰からかけられた。 ぎくりとして二人の黒服は目をむきながら、銃を向ける。 その手もとに向けて、鋭利な銀光が迸った。 刺すような痛みを感じて二人のエージェントはぶざまに銃を路上にとり落とす。 「おそいぞ馬鹿野郎! どこでアブラ売ってやがったんだ、この役たたずが!」 救援の到着に涙を流して感謝してもいい立場のウシャルが、頭からどなりおろし た。 敵に小荷物のようにかかえられていながら、その全身から強烈な圧迫感が噴きだ している。 「おゆるしを、ダーリン」 ビルの陰から現れたカフラ・ウシャル――マダム・ブラッドが、優雅に一礼して みせた。「でも少しは心配してくださってもよろしいんじゃなくって? ついさっ きナイフで刺された上、崩壊するビルから落下して本来なら病院のベッドの上で手 当を受けていなきゃならないほどの、重傷をおっているのよ」 内容とはかけ離れた口調で平然と云ってのけた。が、たしかに顔面は蒼白で足ど りも危うげだ。 「うるせえ、泣き言はいい。とっとと何とかしろ」 対してウシャルは憎々しげに云いはなち、ふん、と鼻を鳴らした。 「冗談じゃないわ」 腹すえかねたように、マリッドがいった。「ひとを無視していいたい放題。ねえ、 あんたたち」 と、二人の黒服をふりかえり――眉をひそめる。 無表情な二つの顔はうなずくこともなく新たな敵へと向けられていたものの、そ の表情はまるで魂をぬかれた者のように茫洋としていた。 それが相前後して、ゆっくりと前のめりに倒れていった。 司星庁情報局、腕利きのエージェント二人から一瞬にして戦闘力を奪ったのは、 云うまでもなくマダム・ブラッドの、驚くべき技量の吹き針だ。 マリッドは、二人が倒れきらぬうちに飛びすさっていた。 「ぐえ」 下じきになってうめく肥満体に、すかさず美女が駆けよろうとする。 その足もとを、閃光が焼いた。 飛びすさる美女を死の光条が追いすがる。 「邪魔をするな、犬めが!」 怒りに燃えて吐き捨てるカフラに、マリッドは嘲るような笑いをかえしながら銃 を乱射した。 マダム・ブラッドは軽々ととび跳ねつつ銃撃をかわし、ふいに反転するや一気に 距離をつめた。 その白い手に握られたハンドガンがいままさに火を噴こうとしたとき―― 側方に、大音響がとどろいた。 ぎくりと身をこわばらせ、その場にいる全員が音源に目をやった。 交差路、前方二十メートルに、巨大なクレーターが出現していた。 そして、もうもうと舞いあがる塵芥のなかから、ひとつの影があらわれる。 「――バラム……!」 呆然と目を見ひらきながら、つぶやくマリッドの口もとにたまらない笑みが刻み こまれていた。 「バラム……夜の虎……!」 答えるように、バラムが顔をあげる。 埃にまみれた顔のなかで、半眼に開かれたその双眸だけが、爛々と輝いていた。 煙のなかからひき抜くように、右腕をさしあげる。 まるいものを持っていた。 首だった。突撃艇の、パイロットか。 殺し屋の唇がめくれあがった。――笑いのかたちに。 獲物を前にした虎が笑えば、こんな顔になるのだろうか。 その場に集う二種類の人間にむけて、値ぶみするようにゆっくりと視線をめぐら し―― その双眸が、呆然と目を見ひらくジョルダン・ウシャルの巨体の前で静止する。 「ひい」 ぶざまな悲鳴をあげて尻でいざるウシャルの前に、かばうようにしてマダム・ブ ラッドが立ちはだかった。 間にわって入ろうと一歩を踏みだしかけたマリッドを、バラムがぎろりと視線で 制した。 殺気が、渦巻いた。 緊張の糸がとぎれる寸前―― バラムの表情がかわった。 ――いぶかしげに、眉をひそめたのである。 頭上を見あげて。 闘気をはぐらかされて、カフラ・ウシャルもバラムの視線を追う。 最初の認識は、音だった。 幾層にもおり重なって流れる雲塊の彼方から、ひびきわたる轟音。 「もう一機――新手かしら?」 マリッドがつぶやくのへ、バラムが首を左右にふった。 「三機だ」 地獄の悪魔の告げる予言を裏づけるように、雲塊を閃光がつらぬいた。 敷石が、街路樹が、高架橋が、王冠のように円を描いて跳ねあがった。 間一髪、四つの影が四方に難を逃れる。 衝撃波に追われて路上を飛ばされ、彼我の距離が大きくはなれた。 間をおかず、幾筋ものビームの光条が地上を襲う。絶妙のコンビネーションで放 たれる正確な射撃は、やがて獲物を二種類に弁別した。 ウシャルを背おったマダム・ブラッドと、もう一組に。 「くそったれがよ!」 毒づきながら、バラムはウシャルに追撃をかけようとする。が、突撃艇の執拗な 攻撃は、それを阻むかのように暗殺者をウシャルから引きはがしつつあった。 マリッドの方も、もう一機の突撃艇に追いやられている。そして、残りの一機、 突撃艇ではなく、ずんぐりとした重量感あふれる惑星間シャトルが――降下しはじ めていた。 ジョルダン・ウシャルのかたわらに。 最初は呆然と、ことのなりゆきを見まもっていたウシャルも、味方と見るや躊躇 なく開かれたハッチに身を滑りこませた。ついでマダム・ブラッドを収容し終える と、シャトルはすみやかに上昇を開始する。 「バラム、逃げられるわ!」 マリッドの叫びに、 「わかってる!」 苦々しく叫びかえした。 ウシャルを乗せたシャトルが飛びさると、突撃艇二機も後を追って上昇を開始し た。 さすがのバラムも、相手が低空飛行をしないかぎりはうつ手がないらしい。荒々 しく毒づきながら、地面を蹴りとばした。 「やつらいったい何者だ!」 「ウシャルの手の者じゃないの?」 しれっと答えるマリッドに、バラムはつかつかと歩みよって胸ぐらをつかみあげ た。 「とぼけるんじゃねえ! ウシャルの配下なら、奴に襲撃かけてたおれを見のがす はずがねえんだ。それにあの突撃艇、あれは軍用だろうが! ああ?」 バラムの剣幕にマリッドは軽く肩をすくめてみせた。
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