長編 #2762の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
私がこの家の中で見つけたのはもう1つあった。古文書だ。その中には伝承者となる べく代々この石造りの迷宮へへ来ていたということが書かれていた。 「私は代々伝承者の家系に我が伝承などを伝えていたのだ。」 私の話の後を継ぐように幽霊が言った。 「それで?そろそろ成仏したいのですか?」 神官らしくアレストラムが言う。 「いや、そろそろ私も外に出て歌ってみたいのだ。」 「なんじゃと?どうやってじゃ?」 フォーグルがさっぱりわからないという顔で聞く。 「そのために次の代の伝承者である彼女が来るのを待っていたのだ。」 「憑依するつもりか!?」 アレストラムが叫ぶ。「憑依」相手の肉体を乗っ取り、自在に操ること。憑依された 者は意識を失う。事実上死んだも同じだ。 「しかし彼女は我々の仲間ですからね。」 「それより前に私の子孫だ。」 「仮にも1個の人格を持つ人物がいるのです。それを憑依して奪ってし まうという ことは、邪悪に属することと思われますが。」 「そんなことはない。我々の間では日常茶飯事だ。」 そう、この”古の伝承者”が生きていた時代では、魔法を使えないものは動物と同じ だった。彼らはそういう人物達を実験の道具として扱ったのだ。 「確かにあなたの時代ではそうだったかも知れません。ですが我々の時 代ではそん なことをしたら重犯罪ですよ。」 私をかばってくれているのはレイアス。ありがとう。でも、でも・・・。 「ミルさ んはどう思ってるんですかい?」 聞かないで、カロス。私は・・・・。 「それを強行しようとするのなら、それ相応の抵抗はさせてもらいます がいかがな ものでしょう。」 アレストラム・・・・・。 「彼女は我々の仲間なのだ。あなたの子孫であると同じくらいに我々の 仲間なのだ !」 レイアス、私のためにあんなに怒ってくれている。 「いや、それよりも前に私の子孫なのだ。」 そうなのかも知れない。私には分からない。どちらが優先されるのか。仲間か、それ とも血筋か・・・・。 「無理やりやるというのなら、抵抗させてもらいます。」 「無理やりかどうか、その娘に聞いてみるがいい。」 アレストラムの言葉に幽霊はこう答えた。彼は私に向かって言う。 「どうなんですか?」 「自分だけのたった1つの人生を、あなたは歩みたくないのですか?」 アレストラム、レイアス、そんなに私を困らせないで。”古の伝承者”というのは家 の神みたいなもの。それに逆らうのは・・・・、でも・・・。 「あなたは永久に彼女 に憑依するつもりですか?」 「もちろん永久に、というわけではない。」 あ、ちょっとほっとした。けれど、それに続く言葉はまた私を恐怖へといざなった 「その肉体が滅びるまでだ。」 つまり、私が死ぬまでということになる。ここで憑依されれば、私は永久に自我を取 り戻せない。でも、”神”の言うことには・・・・。 「人の運命を決められるものなんて何もありませんよ。あなたの思っ た通りに行動 しなさい。さだめなんてものは自分で切り開いていくもの です。」 レイアス、ありがとう。 ”信頼” 私、分かったような気がする。 「私は伝承者になるようにって親に散々言われて育ってきた。親が死ん だときにそ れからやっと解放されたと思っていたけれど、本当は目に見 えないものに縛られてい たのね・・・・。」 そう、私自身、心の奥底で伝承者にこだわっていたんだ。でも、いま分かった。 「過去のものは過去にあるべきなの。あなたの歌はある程度は知られて います。で も、それはあなたが過去の人だから。いまあなたが存在すれ ば、歌の価値は消えてな くなるでしょう。」 私は覚悟していた。ここまで拒否された以上、幽霊が実力行使に出ると思ったからだ 。でも、”神”の顔は逆に微笑んでいた。 「ミル=セイ。我が子よ。そのような心こそが伝承者の真の素質なのだ。 私が死ん でから多くの子孫達を見てきたが、それに気づいたものはいな かった。」 ”神”はさらに続ける。 「ミル=セイよ。そなたに我が伝承者としてのすべてを託すことにしよ う。ただし 、私が伝えるのは心のみ。それ以上のことは自らの手で学び 取るがよい。」 そう言ったとたん、私の頭の中に彼の様々な思いが流れ込んで来た。彼が生前に、そ して死後に考えた事、感じたこと。私はそれらをしっかりと自分の中に受け入れた。 「あ、待って。」 私は消えゆく彼に呼びかけた。聞いておかなければならない、そんな気がした。 「ミル=セイってどういう意味なの?」 「ミル=セイ、それは私が娘につけた名前だ。私は娘にも伝承者になっ て欲しかっ た。ミル=セイとは、見てそして語る(SAY)者。娘には 伝承者にふさわしい名前 をと思ってつけたのだ。」 そうだったのか。父もそういう思いで私にこの名前をつけたのだろう。 父が言っていた”深い意味”という言葉の意味が、いまようやく分かった。 「これで気がすみましたか?」 アレストラムは”神”に問いかけた。そのとき、私は初めて気が付いた。”神”は涙 ぐんでいたのだ。 ”古の伝承者” 私はその名を、その思いを、そのすべてを、決して忘れない。 ・ ・ 私達は幽霊に教えてもらった道を通って地上に帰ってきた。 「まだ何かやることはありますか?」 レイアスの問いに私は首を振った。 「でも、私はいろいろとやることがあるから、ここに1日泊まっていき ます。」 それを聞くとレイアスは1枚の金貨を取り出して、私の手に無理やり握らせた。訳が 分からない私に彼は微笑んでこう言った。 「新しい伝承者の曲を、1曲拝聴願えますか?」 その途端、私の胸にこみ上げて来るものがあった。 ”信頼” いままで他人として接してきた彼らに、これからは仲間として、友人として接するこ とができる、そんな気がした。 ”信頼” それは心の結び付きの上に成り立っているもの。お互いを信じ合い、お互いをさらけ 出すこと。私が遠い昔に失ってしまっていたもの。 気が付くと私は涙をこぼしていた。 私は最近手にいれた魔法の竪琴ではなく、使い古した竪琴を手に取った。 そして、 心の限り歌った。 歌いながら泣いた。心から泣いた。縛られていた今までとは違う、解放された私がそ こにいた。 涙のせいで声はかすれていた。けれども何も考えないで歌っていた今までよりも、心 がこもっていた。 私は歌った。 自分のために。 仲間のために。 そして、あの暗い部屋の中で私を待ち続け、そして消えていった”古の伝承者”のた めに。 歌声は風に舞った。 (by篠原 泰彦:BWM24499) P.S この文章はサークルの会報に載せるために書かれたものです。 そのため、文中に不必要な空白があります。
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