長編 #2749の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
SUTERAのことを僕たちはスーと呼んでいた。 でも後になって聞いた話ではSUTERAというのも彼女の本当の名前ではなく、 それはスーがこのイングランドへ来る途中、KOBEという港へ寄った時そこの日 本人につけてもらったものらしい。 スーの本当の名前を英語っぽくしたものだというが、それがどこまで彼女の元の名前 に近いのか今ではもうスーの本当の名前を知ることはできない。 SUTERAという発音をどう解凍すれば原音に戻るか僕は今でも知りたいと思って いる。 言葉のまったくわからない東洋の女性をメイドに雇った僕の両親だけれど、それほど 僕の家も裕福というわけではなかったし、特に手がまわりかねるほどの忙しさもなか った。 きっと親達はなにか別の意味があってスーを家に呼んだのだろう。僕の父はこの町で 大学の教授をしていて東洋史が専門だった。家の中にはあれこれとわけのわからない 置物や東洋のみやげ物がところせましと並べられて僕は生まれた時から慣れっこには なっていた。でも実際に東洋人を見ることはそれまでぜんぜんなかったんだ。 ある夏のはじめのよく晴れた夕方にスーはやって来た。黒い髪に黒い瞳。それは今 だからいうけどびっくりするほど黒いもので、その時クラスで一番黒い髪をしてい たヘンリーよりもさらに黒かった。 背の低いまるで子供のようなその東洋人の女の人はなにも言わず首をうなだれていた ので僕は彼女がなにか懺悔でもしてるかのように思えた。だってこの国では悪人でさ えめったにそんな態度をすることはない。そんな態度をするのは自分で自分の非を認 めた時だけだ。 でもそれは僕の思い過ごしだったみたいだ。じっと顔をのぞき込んでいた僕と視線が あうとスーは子リスのように笑った。 彼女のふるさと中国ではどんな名前がSUTERAになるのか誰か教えてくれないだ ろうか。 ======================== 赤いサンザシの実を包んでくれたのは古い新聞の切れ端だった。 まわりが薄いキャンディーに覆われて甘いけれど中身はとっても酸っぱいその実。 スーは国から持ってきたわずかな荷物の中からそれを取り出すと僕にくれた。 リンゴでもなければプラムでもない、サンザシというその実を口にしたのはたった 一度だけなのに僕にとってそれはずっと懐かしい味となった。 共に教師であった両親はいつも仕事から帰るのが遅く、最初から僕とスーは一日 の大半を一緒に過ごすようになった。今になって思えば生活習慣の違う異国人に まだ幼い子供であった僕の面倒を見させたのだから親たちも冒険をしたものだと 思う。いや、彼らには彼らなりの考えがあったのかもわからないが。 東洋人らしくスーは普段はとっても大人しく控え目だったが、僕は彼女の黒い瞳が 口から発せられる言葉以上にいろいろな事を話すのを知っていた。 僕の記憶の中で、スーはだから最初から言葉を喋っていたようにしか思えない。 ビリーの家の飼犬トッツィーが屋根の上に登って降りてこれなくなりとうとう煙突から ススだらけになって助け出されたことを僕が話した時、スーはたまらなくおかしそうに 笑ってくれたし、スーが困った時は僕も落ち着かなくてなんとかできることはないかな んていつまでもスーの黒い瞳をのぞき込んだものだ。 実際、幼い僕とスーが一緒に教えあうことはとっても多かったと言える。スーはよく 英語の綴りを練習していたがそれは僕が学校でやるような簡単な単語ばかりだったの で時には僕がスーの手助けをしたこともある。その時僕は自分がちょっと偉くなった ような気がした。 でもたまにこんなこともあった。僕が学校の宿題をしているとノートに余白がなくな ってどこにも書けなくなってしまった。するとスーはそれを見て驚いたことに文字を 横の空いた部分に縦に並べて書いたんだ。 学校の先生が誰も教えてくれなかったその書き方を僕はものすごい発見だと思い次の 日の教室で得意気に黒板で披露した。 結果はどうだったかって?。もう廊下に立たされたくはないから僕はそれから学校で は縦書きをしないようにした。先生達は僕がふざけてると思ったんだな。 スーの国がいったいどのへんにあるのか、その頃の僕には世界というものがなんなの かまったく理解することは出来なかったが、時たまお父さんがスーに彼女の国の新聞 をどこからか手に入れてきて渡すことがあった。 とってもとっても複雑な活字、それは古代の象形文字の一種だったけれど、僕には 縦書きのその新聞がすごく珍しくて、新鮮だった。 僕は意味のわからないまままるで絵のような文字の一つ一つをくいいるように目で 追って、ふいに気がついた。 スーの目に涙が浮かんでいるのを。 スーの国がその頃決して良い状態ではなかったことを知ったのはそれからだいぶ後の ことであった。 旺春峰
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