長編 #2746の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
要塞「ウォール」の発射したミサイルに対しメイホワのアンチウェポンスーツは おとりの為の小型熱源体を射出した。 10数メートルの至近距離で起こった熱原体の目もくらむ発光は,熱誘導兵器に別 の目標を与え,目視兵器には確認を不能にさせる効果があった。ミサイルはメイホ ワを直撃せず少し離れた砂地に着弾した。 柔らかい砂が爆発エネルギーの大部分を吸収したがそれでもメイホワの小さな身体 は宙を舞い,衝撃によって鼓膜が破れないよう口を強く閉じていたメイホワは身体 にダメージを受けていないことを認めるとすぐさま次の行動に移ろうとした。 玉砕か降伏か。 死など恐れてはいないと言える自信はあった。今もそう言える。けれどそれまで心 にひっかかっていた自分がなぜ西をめざし進みつづけるのかという疑問,その理由 をまだ知りえないでいることだけがメイホワに生きる執着を与えた。 防御用熱原体のストックはもはやない。もしも降伏するなら敵が彼女の生体反応を 察知し次の攻撃を始める以前に判断しなければならない。 だが迷う余裕はないとメイホワの頭脳よりもまず反射神経がいち早く判断した。彼 女の手は銃を掴み次に飛来するであろうミサイルを撃ち落とそうと身構えた。 出来ないまでもやるしかない。 メイホワのそれまで生きてきた長くはない生涯がホログラフィのように彼女の脳裏 に浮かんだ。両親の愛情に育まれ満ち足りていた幼き頃、ソフトボールに明け暮れ Aた学生時代,そして卒業と入学,そして・・。 突然,記録フィルムの再生がとだえ,暗闇にからからと音をたてたまま彼女のスク リーンにはもはやなにも映らなくなってしまった。 ある時期の記憶がなぜか消えてしまっている。いったいあの頃自分はなにをしてい たのだろう..。 その時だった。メイホワは遠い砂漠のかなたに新たな蜃気樓を見た。 それは古代衣裳を纏ったまるで自分とうり二つの女性。彼女はかすかに微笑みなが らメイホワに語りかけた。 「まだ..死んではならない。」 ========================= はるか時代を下り700年あまりを経た唐代,同じように国法を破りこの世の果 て天竺へ経典を求める旅に出た若い無名の仏僧はやがて皇帝から両手を広げて迎 えられる最高の栄誉を担った。 メイホワを今その後世の殉教志願者と比較するなら,それは二人が辿った旅の行 の困難よりも,むしろ道中を照らす希望の星の輝く度合においてすべきであろう。 後の世の人々の多くは,夜空にきらめく成功という名の1等星に畏敬の混じった 賞賛を与える。そしてただ僅かな人だけが同じほどの勇気と意志を有しながら誰 にも認められないまま消えていった無数の流れ星達の事を想うのである。 メイホワは輝けるだろうか。 もちろん彼女の勇気と意志にも足りぬものはなかった。ただやみくもに長城をめ ざすのではなく,異国の旅商人から風の噂に聞いたのは夫が遠い西の辺境にいる のではないかということであった。 昼夜を分かたずいつ終るとも知れぬ長城建設。そのどこかで王の血を受け継ぐ者が 苦役に服している。そしてなんと信じられぬことにその者は大切な自分の糧を仲間 である奴隷身分の者たちに分け与えているという。 夫に違いない。 メイホワは神に祈った。どうかめぐり会わしてくださいますように。しかし今のメ イホワは,その目的の為ならば神に無断でこの世を売り渡しかねない天女にもなり えただろう。 メイホワは西に向かった。 たとえ私のこの黒髪が雪のように白く千丈に伸びるほど道がけわしく遠かろうと, きっと待っていてくださるわね。あなた。 どこからか夫の声が聞こえたように思えた。きっと待っていると・・。 ========================= メイホワの生涯をもしも絵巻物にするならその旅の一章は視覚上もっとも単調で もっともつまらない一章となっていたであろう。描けるものと言えばたった一頁 のどこまでも続く果てしない荒野。けれどその一頁がいかに長く過酷なものであ ったろうか。 もはや我が身の感覚さえなくなってしまった足,それでもその一歩が最愛の夫の 元へ近づくための一歩だとメイホワはただ進んだ。実際,彼女の心は流れる白雲 の彼方だけを追い,身体はただそれに曵かれるようにつき従ったと言ったほうが よいかもしれない。 苦難の長城行もようやく終わりを迎えようとしていた。 メイホワは広い広い心を持った女性。地平線を切れ目なく縁どる長城を間近に目 の当たりにした今も壁というものの存在に感じる窒息しそうな印象はかわりはし ない。壮大な閉所恐怖症。 けれど一つ一つの煉瓦の積み目が見てとれるほど近づくにつれもう一つ別の感情 が彼女に湧き起こってきた。 人が自らの命を賭してなにかを創ることの重さ。ただ単にそういうものなのかも 知れない。あるいは巨大な力が一つのあまりに単純な目的につき動かされる時の 狂ったような美しさ。そういうものでもあるかもしれない。 長城は今たしかにそこにあった。それは壁であるとともに一筋の道のようにも思 えた。 メイホワは夫がその優しい手もて運んだかもしれない冷たい煉瓦の肌ざわりにし ばし心潤った。砂漠に新しい星が輝きはじめた。 旺春峰
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