長編 #2729の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
4 ベッドの上に大きく横たわる志村の左腕を、両腕で固めて誠は放さない。 幾度のため息を虚空に放り投げる志村の表情は、実にさばさばとしたものであっ た。志村が誠とのセックスに費やした時間は三分数十秒程度の僅かなものであっ たのだが、性急すぎたのかもしれない。 しかし、激しかった。ガキという言葉で通用する歳なのに手慣れていて、安心 感があった。誠が寛大に受け止めてくれたおかげで志村は戸惑うことなく一度目 の本懐を遂げたのである。最後は、叩きつけるようにして、出し切った。 「気持ちいいというか、しんどいというか。デコボコには引っ掛かるし、ぐい ぐいと締めつけるし」 誠の瓜の部分にもう一度右手を差し延べる。 「志村って、タフ」 がっしりとした肩の骨格のラインを誠の舌がさぁっと走った。 「やめろよ、くすぐったい」 しかし隙を見計らって、何度もちょっかいを出してくる。 誠からはもう危険な匂いは感じられない。普通の女の子が、側にいる。 「ルイスから聞いたんだけどさ」 志村は、誠の過去に触れようとした。 「本当に、向こうでコールガールやってたの? 」 志村の素朴な疑問である。 「本当よ」 誠は否定しない。 「ブラジルに留学しにいったとき、屋敷のじいちゃんが、不自由しない位の金と、 向こうの所属球団を紹介してくれたんだけど、ブラジル人の奴、男の子に混じって サッカーが出来るはずが無いって最初から決めつけて、結局、最初のクラブに居た 時にしてた事といったら、クラブのまかないとポルトガル語の勉強くらいのもの。 アタマきたから、二週間で雲隠れしてプータローになっちゃった」 恵まれた待遇を、景気不安定なブラジルという国であっさりとなげうったのだ。 「で、最初に思いついたのは、売春が手頃かなって思って。一時間半4000ク ルゼーロ程度でケリをつけて、組合には入らなかったけど、日銭はそれで稼いでい た。1000クルゼーロがピルに、もう1000クルゼーロで食べていたから、手 取りは僅かだったけど」 「抵抗は、無かったの? 」 可愛げの無い誠の発想に、何処か救いを見いだしたい志村であったが。 「楽しかった。ツキイチ除いて毎日セックスが出来て、お金が貰えて。向こうの 男は情が深くて、おかげで顔見知りも増えたし。あの頃は、セックスする事と、町 内対抗の草サッカーに加わる事、この二つが楽しみだった」 「毎日? 」 「そうよ」 以降、想い出話が続く。 ドゥンガという男の話であった。 「下町の工場町の名物男でね。自分でチームを作ってサッカーをやってた陽気な 奴だった。この男のこと気に入って、三日に一日は抱かれていた」 「好きだったのか? 」 「男だったらみんな好きだったけど、ドゥンガは気前よかったし、奥さんとも顔 馴染みになったし」 話が進む度に喜色満面の表情も輝きを増す。 陽気で享楽的な男達や女達の姿が浮かぶ。志村をはじめとして日本人の南米人観 といえば、貧しくていい加減だけど朗らかで情熱的な奴、そんなものだろう。 誠の話は売春にまつわるものである。しかし日本の吉原に代表されるような後ろ めたさなんて誠には感じられない。ピルという固有名詞も頻繁に登場している。志 村は、誠の話の中にひそむ傷を見いだそうとしていたのかもしれないが、それは、 いらぬお世話だったようだ。 「セックスの数が、まこちゃんの交際範囲の広さとなり、人生経験となった。そ ういうわけか」 好漢ドゥンガの話を契機にして、誠のブラジル修行日記は、草サッカーの話へと 展開していった。 「三日に一日くらいかな、工場の休憩時間の間に草サッカーの試合やってた。そ んときに余興で十分くらい試合に出て、売り込んだんだ」 この十分間のあいだのことが、売春婦としての誠の評価を変えたようだ。 「そんときの試合でハットトリックやっちゃって、ドゥンガやチームの皆が抱き ついてくるのよ、凄いって。だから一ヵ月の間くらいはドゥンガのチームに入って ミッドフィルダーやってた」 「草サッカーじゃ、ほとんど遊びだっただろ」志村がたずねた。 日本のセミプロリーグよりも本格的で、勝負に対する執念はプロにも劣らないと 誠は言う。この国は、誰もがサッカー狂で、一度はプロを目指すほどの大国なので ある。遊びじゃ試合には加われない。 「私が入ってからは負け知らずで、私も毎試合得点してたし。金がかかっていた から負けられなかったんだけどね」 ドゥンガのチームから勝つ度に、600クルゼーロの小遣いを貰ったという。財 源は相手チームの賭金だ。この頃の誠はドゥンガのアパートに居候し、不衛生では あったが生活は安定していたという。 話はしばらくの間、草サッカーの試合の回想録が続いたが、ここで志村は、ある 固有名詞に出くわした。 ここを境に誠の運命は揺れ動く。 「1分15秒? 」 志村は眼を大きくして驚いた。 「そう、山岡のおっさんが試合に出てみたらどうかって勧めたのよ。で、何の特 訓もせずにリングに上がったんだけど、相手が弱くて、退屈な試合になるなって思っ てノシちゃった」 誠は軽く言ってのける。 プロの格闘家としてのデビューは鮮烈であった。しかし、ここで山岡の名前が出 てくるとは思ってなかったはずだ。志村は、ようやく誠と山岡の関係を理解した。 山岡の行動における謎を、ようやく解くことが出来たのだ。 はじめての出会いは、ドゥンガのチームでの試合の時だった。この試合中に、誠 の体に悪戯をしようとした奴がいた。そしてついに、執拗なやり口に誠の怒りが爆 発し大乱闘になったのである。数分後グラウンドの真ん中に、マグロのようになっ て倒れている相手チームの選手の姿があった。イレブン全員、誠が叩きのめしてし まったのである。その光景を目にしたのが山岡であった。 「喧嘩だったら私は負けない。沖縄の古武術の道場で少しやってたから」 これが、売春とサッカーの助っ人を凌ぐ高収入になったという。 「これも週一のペースだったかな? サンパウロの大きなナイトクラブの特設リ ングでキックボクシングのような試合を続けていて5戦全勝。2分か3分でみんな KOしちゃったから、これ食いブチになるなって思った」 この時の誠の生活は、充実しているというより過密スケジュールを生き抜いてい るといった感じだった。朝が何処かのジムでスパーリング、昼に草サッカーの試合、 夜は売春か格闘技の試合という疲れ知らずの一日始終である。 「山岡のおっさんが私のマネージャーだった。一試合で5万クルゼーロくらいか な? 女子のキャットレスリングはナイトクラブの余興だったから、新入りのくせ に結構貰えた方かなって思ってたけど、本当だったらもう少し貰えたと思う」 誠の試合の時の山岡の恰好を聞いた時、志村は馬鹿笑いした。いわゆる田子作の ような服装に身を包んだ悪徳マネージャーを演じていたという。互いに、本当にプ ロレスのことが本当に好きなんだねと顔を見合わせた。 そして、ルシア・ライカとのパーリードゥード(ルール無し)での試合のことだ が、山岡がプロモーターとなって売り込んだんだと誠は説明してくれた。 ここから先は、ルイスが志村に語った話と同じである。 日本中を席巻する格闘技ブームのことを考えれば快挙であったのだが、誠はお茶 を濁すだけである。ぽつりと言った言葉がこれだ。「ルシアは余興でブラジルに来 たんだね、多分」 「山岡さん、まこちゃんの経歴をでっち上げたな」と苦笑を浮かべる志村。 楽しそうだ。 悲哀の匂いが全然しないブラジルでの修行の体験談をはじめて聞いた。売春まで もがコミュニケーションとして位置づけられている。太陽族のように喧嘩に恋に遊 びに明け暮れ、貧困なんて気にしない。かつての日活の映画に登場するヒーローや マドンナ達は、みんな快活だった。志村の知らない昭和三十年代前半の若者達の姿 とブラジルでの誠の姿は瓜二つだ。 志村は、そんな激しい少女の生きざまに負けたくなかった。 「し、しむらっ、ゆっくりやろうよ! せっかち……… 」 急に志村が、誠の瓜部を攻めた。既に先端が当たっている。 「俺は、今度は負けねぇぜ」 がっしりとした男の腕が少女の肩をつかんだ。 「志村、ゆっくり…… 」 しかし、志村は激しく動いた。 「しむらっ! 」 密室の中に激しい少女の呻きが響きわたる。 誠の虚ろな眼差しが、志村の心を、更に燃え上がらせた。
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