長編 #2720の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
6 「双子って居るもんだな」 志村は呆気にとられている。 誠と渚の容姿は、全くの瓜二つ、鏡で自分をみたような感じである。ショート カットのヘアスタイルに大きな瞳、ふっくらと発達した胸、一卵性双生児の双子 に間違いない。 といっても、性格が全体に表れるのか細部における違いはあった。雰囲気のせ いだろうか、誠の目は少しつり上がっているように思える。 それに体格にしても、渚が女性独特のふんわりとした体格をしているのに対し て誠はがっしりとした女性アスリート型、ジャッキー・ジョイナー・カーシーの ような風貌を持っている。 アクセサリーにしても誠の凝りようはかなりのものだ。渚が何も目立つところ がないのにたいして、誠は頭にヘアバンドを付け、手首にはリストバンドを巻い ている。どちらもアディダス製だ。 「あっちの、誠って子、気が強そうだ」 田宮の分析は当たっている。 「あの、外国人のチーム相手にどんな事をやるんだろうね。あの10番は」 「そうだな」と志村は頷いて、 「おい、矢島」 矢島がクラブハウスから戻ってきていた。「はい、先輩」 「あの、外人さんのチーム、あれって何? 」 米軍の子弟のクラブか何かのチームかと志村は思っている。コスモポリタンな 編成だからそう考えられるのだが。 「あのチームは『セレソン』です」 「セレソン?」 「別に、ブラジル代表とかというわけじゃないんですけどね。ブラジルとか南 米からサッカーの上手な少年を現地で拾ってきまして、姫百合学園の留学生とし てこちらの方に呼び寄せているんです」 「へえ」 「レベルも相当なものです。中にはフラメンゴやボカ・ジュニオルズのジュニ アユースのイレブンメンバーだった子もいますからね」 フラメンゴとは、ブラジルの大都市のリォデジャネイロがあるリオ州の名門ク ラブチームだし、ボカ・ジュニオルズはアルゼンチンのブェノスアイレスに本拠 を置いているマラドーナも在籍していたことのあるクラブチームである。 「そんな奴らとやって実際勝てるのかよ」 当然の疑問であった。 しかし、矢島は自信を持って答えた。 「五分五分です」 「嘘ぉ」 「渚ちゃんの実力を疑ってはいけません。それに、背番号10のまこちゃんの 実力も相当なモノです」 「うむ」 「Jリーグよりもハイレベルですよ、この練習試合は」 腕組みしながらフィールド全体を眺めている矢島の背後に沢山の観客が集まっ てきた。姫百合学園の生徒たちにオクマの青年団の連中もちらほらといる。 口笛に交じってマコトーやナギサーの声が聞こえる。マコトーは姫百合の中等 部の数十人の女の子の声で、ナギサーは男子生徒の叫び声だ。時々ネーネーとい う方言も耳にする。 「そうそう、田宮さんが来てるって加茂さんに言っておいたんですが」 「加茂監督! 」 朗報である。田宮にとって加茂はかつての師匠であった。 「クラブハウスの三階にいらっしゃいますから」 「ありがとう」 田宮は、かつての快速ウイングとも呼ばれた足を飛ばし、クラブハウスの方に 向かって走っていった。 「田宮さんって、意外とせっかちなんだな」 「そりゃねぇ、かつての師匠だから」 その田宮と入れ代わりに、日本サッカー協会の黒いユニホームを身につけたレ フリー三人がグラウンドの中に入っていった。 監督の笛が鳴り響く。試合開始の合図だ。 シーサーズとセレソンのイレブンが持ち場に散らばる。コート左側のオレンジ とブルーのユニホームがシーサーズで、純白のユニホームがセレソンである。 渚と誠はセンターサークルの左側に残った。キックオフはシーサーズである。 「響くなぁ」 志村は耳を塞いだ。沖縄名物の口笛の音が一層うるさくなり、「シーサー! シーサー! 」の声も次第に高らかになってきた。 ピィィィィィィィィィッ! キックオフの笛が、その口笛をかき消すように鳴り響いた。 誠が少し後ろに蹴って渚にパスする。 渚が半身で受け止めて、守備陣形を確認する。 真ん中… だ……… 「いけぇ! 」 志村が叫ぶ! その声と同時に、渚が動いた。相手の懐に飛び込み、いきなり二人を抜き去っ た! ボールが渚の足首にまとわりつくように離れない。足首の一部分みたいだ。 あっと言う間にペナルティエリアの中央に侵攻した。同時に4人ものディフェ ンダー達が渚を囲もうと、四方八方からの強烈な圧力を掛ける。 華奢な体は屈強な少年たちに囲まれる。しかし、渚はこれも突破してみせた。 ゴールへの扉が閉まる瞬間を巧妙にすり抜け、置き去りにしたのだ。 セレソンのディフェンダー達が振り向いた時、渚の姿は彼方に在った。 既に、ゴール前にはゴールキーパーしか居ない。一対一の対決。 渚は右足を軽く前に出す。 目線は前屈状態で左方向に向いていた。 しかし、これはトリックで、実際は左足でのシュートの布石であった。 「ゴーー!」 歓声と同時に、左足のシュートがゴール右隅に目掛けて飛んだ。 しかし、流石はセレソンである。 「惜しい! 」 ゴールキーパーが素早く反応を切り換え、左手の握り拳で前方遠くへはじき返 したのである。観客の叫びはざわめきへと変わった。 「コザの爆撃機みたいだな。前線が渚だけのワントップでも十分だ」 しかし志村が感心したのはスピードだけではない。ストライカーに必要なボー ルコントロールの的確さを持っていた。 このボールコントロールに関しては、天性のものだと志村は思っている。ディ フェンダーに囲まれつつも突破したあの妙技は、視覚に依存するだけでは全ての 動きをとらえることはかなわない。 あの時渚は突破の際に、守備の隙間を突いてボールを通したのだ。秒単位の時 間の流れの中で、最高の選択を連発したのである。 人間にしては素早すぎる反応だ。 渚には第六感以上の何かが備わっている、これが志村の見解であった。 「渚ちゃん、次があるっ! 」 手を振って、歓声に応えた。 ボールはセレソンのものになった。渚も守備をすることになった。次の自軍の 攻撃のためにフィールド中央まで戻る。 セレソンは、素早いパス回しでシーサーズの中盤に右へ左へと揺さぶりをかけ て危険地帯に素早く入り込もうとする。 背番号3の玉城が目線で指示を出し、最終ラインを上げようとした。 しかしセレソンの指令塔のレオナルドは、主審が気づかない程の瞬発力でオフ サイドトラップを軽く破ってみせたのである。 「楠木ぃ、レオにくっつけ! 」と誠。 しかし、誠の声が楠木に聞こえるわけがない。 センターバックの背番号5、楠木の背後をついて、ペナルティエリアの右へス ルーパス。 慌てて失点を回避しようとするが、とっくにセレソンの9番エルジーニョはペ ナルティエリアの右端へと攻め込んでいる。 フェイント一つであっさりとゴールを決めた。 ピィィィィッ! 観客からため息が漏れ、鳩が豆鉄砲食らったような面を皆している。志村の表 情もその中の一つであった。 「くそっ! 」 背番号1が地面を叩く。 ゴールキーパー佐川は一歩も動けなかった。佐川の腋の下を通り抜けていった ファインゴールであった。技有りの一撃である。 エルジーニョのゴールでセレソンが先制した。 「やられたなぁ」 渚は苦笑いしている。 それにしても、今日のセレソンは闘志満々のように志村には見えた。シーサー ズに半年ぶり帰ってきた背番号10に対する、これは戦列復帰のお祝いであった。 しかし開始1分でのこのゴールは、土産にしちゃあ手厳し過ぎる。 「速い展開だ」 志村が唸る。確かにJリーグよりは試合のテンポが速いし、そしてパス回しは 正確であったし。 エルジーニョが誠の目の前を通り過ぎていく。ニヤリと白い歯を見せつける。 「へっ、調子ノリやがって」 10番は、口を固く結んでセンターサークルへと向かった。 挑発の一発は、誠の闘志をたぎらせるには十分な揮発油となったようだ。佐川 から奪い取ったボールを懐に抱え、センターサークルの真ん中に叩きつけた。 「すぐに追いついてやる」
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