長編 #2715の修正
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第2話「双子の天才」 1 志村の頭の中に『フィールド・オブ・ドリームス』の記憶が蘇る。 夢のお告げを信じてトウモロコシ畑を潰して野球場を作った男の話だ。 この野球場には数々の往年の大スターがやってきた。そして同時に、胸の奥に隠 された願望さえも叶えられた。 実に野球の好きな国の映画である。この映画は、志村が最もお気に入りの作品で、 三度ばかり上映中に通い詰めた程である。 「これは本当に、その世界だよ」 ここまでの道のりは、砂糖キビ畑かパイナップル畑、水田もあったが、おおかた 緑の荒涼としたどこまで行っても終わらない田園風景が続くといった感じであった。 車が最後にエンジンを止めたとき、その光景は一変した。 デジャブーが襲ってきたのはそのときであった。 砂糖キビ畑を切り開いて作ったグラウンド、それが『フィールド・オブ・ドリー ムス』のあの場面のように存在するのである。 「ちょっと、降りてみようぜ」 車から飛び出して、志村はスニーカーのまんま、そのグラウンドへと足を進めた。 そして一歩、グラウンドの芝生を踏みしめる。 「おっ」 柔らかい。緑の真綿だ。先程の畦道の固さと比べたら雲泥の差だ。 「すげえ、最高の芝生だ」 志村が、エバーグリーンのグラウンドを駆け回る。突然不意に、ゴロゴロと寝そ べってみたりもする。 田宮も芝生を触ってみた。 最高の洋芝だと田宮は言った。長さは40ミリに刈りそろえられ、その芝が根を 張っている土壌も吸水性が良さそうだ。沖縄独特の気象条件でもあるスコール対策 も処理されている。 豊かな土壌と南国の太陽に育てられた天然芝のフィールドが、小豆色のゴシック 式の教会のような建物に向かって何面も続いていく。その中には野球場もあり、テ ニスコートもある。テニスコートでさえもグラスコートだ。贅沢すぎるのではと志 村は思う。 志村は仰向けになって、空を眺めた。 薄い雲だけが、北へ向かって流れていく。 「いい天気だ」 長旅で疲れたのかもしれない。緑の芳香に誘われたのか、志村はそのまま目を閉 じた。昼の2時を回って今が一番暑い時間帯ではある。しかし緑のクーラーが複射 熱を吸い込んでくれる。志村にとってはお陰で寝心地のいいベッドとなった。 田宮も長旅の疲れのせいか芝生の上に座り込み、渚も田宮の横に腰掛けた。 いい気持ちだ。うらやましかった。 「渚ちゃん、君のお友達もこんなところで練習してるのか」 田宮も、背広を脱いで楽な恰好になっている。 「そうですね。それと、実を言うと私も、此処でサッカーやってるんです」 「へえ」意外だった。渚も、サッカーやっているのだ。 ポジションは何処と尋ねてみた。 「フォワードやってます。田宮さんも、昔は左のフォワードやってましたよね」 「へえ、そうだけど。よく昔の事しってるね」 嬉しそうである。 「好きですから、日本のサッカーも」 「そういえば最近、女子サッカーも人気あるな」 最近の女子サッカーブームはサッカー雑誌にも大きく扱われる程に膨張しつつあ る。ヴェルディもベレーザというクラブを所有しているし、鈴与清水という名門ク ラブも加盟している。 「シーサーズは女子のクラブも持ってるのか」 「えっ?」 「いやいや、女子の日本リーグだったら二年で一部に昇格できるからさ」 渚くらいの年頃なら、日本リーグでデビューしてもおかしくはない。 意外と活発だな、そう田宮は思った。渚のイメージから連想する物と言えば、民 族衣装を身に包んだしとやかな沖縄美人というものだったからだ。 渚が時計を覗き、立ち上がった。 「田宮さん、ぼちぼちクラブの時間なんで、着替えてまたここに来ます。それま で校長先生にお会いするとか見学するとかして、ゆっくりとしてってください。ク ラブハウスはあのゴシックの3階です」 「いってらっしゃい」 渚は手をふって、多分校舎と思われる建物に向かって走っていった。 だんだんと姿がちいさくなっていく。 「結構、足が速いな」 女の子にしては結構脚力があると田宮は見た。 けど矢島はもっと渚を評価していた。 「彼女が一番凄かったりするかもしれませんよ」 矢島がニタリと笑っている。 「渚ちゃんにひかれて、僕はシーサーズに命をかけたんです」 「確かに、ユニホームは似合いそうだ。Jリーグのレプリカも最近売れてるし」 最近のJリーグギャルを想像したみたいである。 しかし、田宮のコメントに何か変な部分があるのか、矢島が笑い転げている。 「おいおい、何か僕が変なこと言った? 」 「いえいえ、常識では」 そう言って、矢島は妙な発言をした。 「このグラウンドの上の渚ちゃんを見たら、ど肝を抜かれますよ。ひょっとして バッジオやライカールトよりも凄かったりしますから」 「見てみたいもんだねぇ」 冗談半分に田宮は言った。 車道から砂煙があがる。タクシーが那覇市内へと戻っていったのである。
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