長編 #2714の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
5 車は一路北へと向かっている。 砂糖キビ畑とパイナップル畑の田園風景を車窓というカンバスに収めるこの光景 は沖縄ならではいうものか。崖のあたりを走ると亀甲墓という沖縄独特の墓石が見 えたりもする。鍵穴式前方墳のミニチュア版といった感じだ。 暑いが、エアコンを付けずに窓を開ける。空気の味が若干本土と違うことに気づ く。 「こんなとこに住んでるんか、渚ちゃんは」 志村は、矢島の存在を無理やり助手席に座らせて自分は渚との歓談に勤しんでい た。饒舌な語りで渚の感心を買おうとしている。 「私は、オクマの集落に住んでいるんです。父は、酒屋やってます」 「へえ、だったら泡盛なんか、いつも飲んでるんだ」 「父も、母も強いですよ」 「だったら、渚ちゃんも強いんだ」 「それは、そんなことないですよ」 渚は楽しそうだ。 「志村さんは、恋人なんかいるんですか? 矢島さんはとんでもないこと言って たけど」 「矢島ぁ」 矢島は車窓に視線を移したままである」 「僕は、いない。というよりか、プロレス関係の記事も書いてたから女子レスラー にたまに飲みに行く娘はいるけど、別に結婚したいとか一緒に居てほしいなんて思っ たことは今までなかったな」 「ふうん」 「けどね」 志村は、じっと渚を見つめて言った。 「はじめて、一緒に居てくれたらいいなって思うことの出来る女の子に今日出会っ た。沖縄には美人が多いってことは聞いていたが」 隣の田宮は、似合わない言葉を使っている志村に対して苦笑いしている。 「渚ちゃん、三十路の中年男ってどうかな」 直接攻撃で志村が攻めた。 「ええっ」 一瞬憂いを帯びた、いや困った表情で俯いた渚。 しかし、気を取り直して返答した。 「志村さんだったら、タイプだと思う」 これをきいて志村の表情が一気に活性化する。喜色満面の志村の顔だ。 社交辞令かもしれないが、この雰囲気ではどうしてもいい発想しか出て 来ようがない。 「僕は、僕はどうなるんですか」 矢島が反撃する。が、所詮後輩である。 「お前には「パンドーラ」のミルキィ嬢がおるやろ」 「先輩、それは違います」 渚が赤面する発言をさらに連発する。 「桜木町の「ルージュ」のリサちゃん、吉原の「真知子」のかりんちゃん、西川 口のホテトルの咲江さんとかいっつも付き合っている女はようけおるやん。渚ちゃ んにこんな男は不釣り合いだなぁ」 「渚ちゃん、それは違うよ」 けど、相手の渚が追い打ちをかける。 「矢島さんって、やっぱり何よりも女性の方が好みだったのね」 矢島、もう立ち直れない。頭をかかえる。 「矢島君、君はまだ若い。精進したまえ」 と言って、志村はがっちりと渚の手を握った。 「志村・・・・・・ さん・・・・・・・・・・ 」 渚の顔が赤く染まる。 しかし、現実に立ちはだかる困難を思うと、わかっているんだけど、このアプロー チに何処かつらいものを感じていた。 いい人なのに・・・・・・ 渚は表情を隠して志村との話を続けた。 「あれが、アポロビールの本社ですよ」 アポロビールのブルワリーの横を通過し、車はオクマへと向かっていった。 ★ オクマのビーチは、この時期から本土からのサーフィン客で賑わいだしヨットや ジェットスキーも向こう沖に見える。 近くにあるJALオクマリゾートの客なのであるが、そのプライベートビーチは まだシーズンじゃないのか日光浴と言う感じの客は少ない。 空は青く青くはるか向こうまでひろがり、雲は疎らに見えるだけで、ため息が出 る程の快晴である。 気温は20度を越えている。 なのに、彼女はそんな最中に苦行を強いている。 オレンジとブルーのアディダスのサウナスーツを身に包み,オクマビーチの砂浜 を全力疾走し続けている。 砂を蹴りあげ走る様は、まるでボクサーのトレーニングのそれだ。 その瞳は真っ直ぐに向き、獣の飢えた目に近い。 これは、女のやることを超えていた。 「マコト! ヤメロ!」 禿頭のトレーニングコーチとおぼしき人物が彼女を止めた。 声を聞いて数秒後、ようやく彼女は失速した。 「マコトォ、イイ、タイム、ダ」 走り寄り、ストップウオッチを示してみせる。 誠は、フードを外してニコリと微笑んでみた。 「ぼちぼち、ベストかな」 額から滴る汗を拭い、屈伸運動を始めた。 すげえ女だな、と誠の方を向くリゾート客もいる。 しかし、まだ走り足りないように誠の足は思えるのだ。目測で四分の一里程度の 距離を何往復しただろうか。それでもスピードが衰えることが無かったのである。 もう少し走れると思う。本人もまだまだ満足していないみたいだ。 サウナスーツの中のシャツはたっぷりと汗を含み、重く、誠の体にまとわりつい ていた。 誠の激しかった心拍数はすぐにおさまった。 「さっ、帰ろう」 手渡されたスポーツドリンクを一気に飲み干し、砂浜の道を歩いて帰る。 海岸線をずっと歩くと漁民の家屋があり、その向こうに小豆色の煉瓦のゴチック 式の教会のような建物が見える。 誠は、そこに帰るのである。 ゆっくりと、一歩ずつ踏みしめるようにして、その方向へと歩いていった。
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