長編 #2681の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「OK。おもしろそうじゃん」 とくる。 「よし、決まり」宣言するみたいに風神丸がしめくくり、あたしの方に向き直っ て、にっこりと笑った。「そういうわけで、狼の声、よろしくね。これたぶん、う ちのバンドの看板になるんじゃないかな。期待してるから」 はっきりいって、も う何がなんだかさっぱり。 「わかったわよ」 自分で云いだしたことなのに、なんだかふてくされてるみたいな口調であたし答 えて、床の上で膝を抱えて顎をうずめた。 ステージの向こうからは「早く出てこーい」とか馬鹿野郎とかオラーとか叫ぶ荒 々しい声の数が増えてきていた。 さっきから二度ほど、 「そろそろ出てきてよね」 と店の子から軽い催促が入ってもいる。 「じゃあ、いこっか」 風神丸がクールに宣言してさとみちゃんをうながし、うずくまるあたしの肩をぽ んとたたいて、 「じゃ、ステージで待ってるから。思いっきり、期待してるよ」 と云ってぐっと親指を立てて見せた。 さとみちゃんも、ニヤリと笑いかけてからさっさとカーテンの向こうに出ていっ て、ちょっともしないうちにたんたん、たたんと太鼓を試し打ちしはじめる。 あたし、途方に暮れたように上目づかいに円城寺さんを見やって、 「まいったなあ」 ため息まじりに、そう云った。 円城寺さんはそんなあたしを見ておかしげに笑い、 「なんとかなるさ」 そう云ってくれた。 だからあたしも、なんとなくいいやって感じになって、あいかわらず頭ン中は過 熱しっぱなしだったけど、それはそれで度胸がついたような気がした。 ヴヴ、ヴンと風神丸のベースの音が太鼓に重なり、デタラメに鳴っていた音がふ いに、ゆっくりと、からみはじめる。 さ、おれもいくか、とつぶやくように云って円城寺さんも立ち上がりかけた。 その時あたし「「ふと思いついて、口にしていた。 「あ、円城寺さん」 なに? って感じで、薄く微笑みながら首だけふりかえる円城寺さんに、 「風神丸のこと。あいつって、なんで風神丸って呼ばれてるの?」 そう訊いた。 円城寺さんは不思議そうな顔をして知らなかったの? と口にし、向けかけた背 を戻してから説明をはじめた。 「あいつの親父さん、むかし長距離の運ちゃんやってたんだ」 「あ、それは知ってます。トラックの」 うん、と円城寺さんはうなずく。 「でさ、自分のデコトラ持っててさ」 「デコトラって、あのごてごてした?」 「うん。で」 「あ、まさか」 と、あたし思わず「きゃい」のポーズとってた。だって。 「そのまさか。コンテナんとこと、額んとこと、それから他にもいろいろ。『風 神丸』って、でかでかとさ」 「ホントですか?」 小さな声で、それでもすっとんきょうな声調で訊きかえすあたしに、円城寺さん は内緒話ふうに「ホント」と小声でささやき、そして笑いながらステージに出てい った。 ぽつりと取り残された形のまま、あたし思わず、 「バカみたい」 ひとり楽屋裏で呆然とつぶやき「「ハ、と短く笑った。 だんだんだん、と荒々しく叩きこまれてた太鼓が、円城寺さんのギターのひねっ たような音に抑えこまれてふいに沈黙した。 ヤジが、静かになったハコの内部にいくつも響きわたった。 あたしは、力こぶをつくるようにして拳を握りながらぐっと上体をそらせて 「ん。よし」 とひとりつぶやき、よっ、と立ち上がった。 そして、傍らの椅子にひっかけてあった、川薙秀智さん特注の「憑狼LYCANTHROP E楽団」とロゴの入った皮のロングコートの袖に手を通し、 「よし、行くか」 と軽く気合いをひとつ、すたすたとステージに出ていった。 上気したままの頬に口笛と荒っぽいひやかし、それにクラスの友だちの「カジカ ちゃーん」という応援が無秩序にふりそそいで、なんだかとっても「「気持ちがい い。 風神丸をふりかえり、うなずいてみせる。 あいつは、穏やかに笑いながらかすかにうなずきかえし、そして重低音の『月光』 を、太い弦の底からしぼり出しはじめた。 荒れていた客席がにわかに静まりかえる。 あたしは、渦巻く値踏みと期待のエッセンスを香りに変えて、胸いっぱいに吸い 込んだ。 さとみちゃんのシンバルが、メロディをリズムだけで打ちならしはじめる。 目を閉じ、胸をそらして、瞼を透してふりそそぐスポットライトのまぶしさを見 上げた。 円城寺さんが、ギターのノイズをわざとかすかに入れる。 ゆっくりと、そしてゆったりと、風神丸はリズムを刻みながら低音で上昇して「「 間をおかず、ほとんど同時に、三人が断ち切るようなリフのパターンに移行した。 あたしひとり、飛びこむタイミングを逸して「「ちょっと笑いながら自分に向け て舌を出し、そして風神丸のあのテープとはちがう出だしで、咆えた。 思いきり。 それはやっぱり、遠咆えというよりはなんだか雄叫びみたいに太くって、だから あのテープから感じた印象とはまるでちがっていて、声を出した自分自身で驚いて いた。 でも、悪くない。 悪くない。あたし、叫びながらそう思って、息が切れるまで叫びつづけて、ぶざ まに声をとぎらせてから「「かまわずもう一声。 そして、もう一声。 さらに調子にのって、もうひとつ。 目を閉じて、頭上に顔を向けていたから見えていたわけじゃないけど、なんとな くバックのみんなが、あきれながら微笑んでいるのがわかるような気がした。 だからあたし、安心してさらにオマケにもうひとつ、夜の地下のステージでぎら ぎらとふりそそぐ無数の月光に向かって叫びあげた。 あれだけ荒れ騒いでいた観客どもが、そんなあたしの咆哮と、そして歪みうねる 円城寺さんのギターとに度肝をぬかれて、呆然と目を見はってた。 そしてあたし、そんな反応を眼前にならべて、ぞくぞくくる快感に狂おしく背筋 ふるわせてた。 背景に徹した風神丸のベースが、単純で力強いパターンをくりかえし、そのさら に背後で、横隔膜を無遠慮に激しく撹拌するさとみちゃんのバスドラの音が、強烈 なリズムをえぐるように刻みこんでくる。 もう、どうでもいい。 泣きたくなるほど強く、激しく、こみあげるものに衝き動かされてあたし、胸の 奥から逆流してくる得体の知れないなにかを、せり上がるままに喉の奥からしぼり 出し、叫びにのせて解き放った。 そして『月光』は、クライマックスに昇りつめると同時にずばりと、斧で断ち切 られるようにして収斂し「「間をおかず、さとみちゃんの太鼓が16ビートの疾走 を開始する。 小屋の内部を軽快な破裂が切り刻み、音で頬を張り飛ばされて呆然としていた聴 衆が、さらに張り飛ばされて正気づいたみたいにして、やにわに歓声をあげはじめ た。 その歓声は、打ち鳴らされる太鼓の律動にずわりと乗りあげていきなり飛ばしは じめた風神丸の、速い上下動を迎えていっそう高くなり、そしてそれに間をおかず、 追い立てるようにして短い音を刻む円城寺さんのギターが重なった。 早鐘のように打ち鳴らされるあたしの鼓動は、夜と一体となってとどめようもな く疾りだし、突き立てられるような衝動のまま、ほとんど無意識に「「それでいて、 どこか冷静な自分に見つめられながら、マイクなんか無視して飛び上がって観客の 眼前にせり出して、威嚇するように風神丸のつくった詞をやみくもに叫びあげた。 無数の口が、歯をむき出しにして歓声をあげ、拳をふりあげ、腰をひねり、ぶち 抜きたい衝動をそのまま全身にあふれさせて、あたしの声に唱和する。 もう死んでもいい。 そんな、バカみたいな嬉しさでいっぱいになりながら、風神丸や円城寺さんが持 ち込んでみんなで固めた歌をわめきまくり、ほとんどわけのわからないまましどろ もどろのMCを入れ、そしてまた歌い、叫び、咆えたけり、思うさま狂熱を発散し た。 ひとつなんだ。 うれしい。 もどかしい。 もっと。 もっと。もっと、もっともっと、いくらでも、どれだけでも、どこまでも、とこ とんまで! 来てよ! もっとここに来てよ。あたしのいるここに。 あたしも、そこへ行くから。行きまくるから! もう。 もう、もうもうもうもうもう! 止まらない! 止まれない! 止まりたくない! だから意地でも止まらない! そして、そうして、もうまったく何がなんだかさっぱりわからなくなるほどエキ サイトしながらあたし、夢中になってわめき、飛び跳ね、思いっきり笑って、叫ん で咆えた。 ありがとうって、バーゲンセールみたいに何度も何度も、曲が終わるたびにいや になるくらいくりかえして、それでも足りなくてもどかしくて、もっと声をはりあ げた。 そしてバラッドを。 バラッドを。 目を閉じて挑発するように顎をあげ、喉を見せ、いっぱいに開いた足で地下を踏 みしめ、拳をぎゅううっと握りしめて。 あたし歌った。 目じりに涙がたまってあふれ出してたけど、泣いていたわけじゃないと思う。た だ、あまりにも荒れ狂いすぎて、力のかぎりににじみ出したものが、破れ落ちただ けなんだ、って。 そして、哀しいほど心地よかった。 まちがいなく。 だからみんなも、この気持ち共有してくれてたらいいなって、腰のまんなかから わき上がりあふれ出る快感をせいいっぱい、広げた両腕から解き放とうとしてた。 もどかしい。 たぶん、どこまでいってもたどり着けない、もどかしさなんだろう。 そんなふうに思いながらあたし、歌い終えて口を閉じ、タガのはずれたわめき声 を、からだいっぱいに浴びながら。 10 秋は軽快に暮れていき、公園の風景が冬枯れという言葉にふさわしく灰色に姿を かえはじめるころ、あたしはひろったベースを抱えて風神丸のとなりに腰をおろし、 ぎくしゃくと楽器の講習を受けはじめた。 秀智さんとの一件が引っかかっていたのだろう、あいつは最初しぶってみせてた りしたけど、結局あたしにいろいろ手ほどきできる魅力には勝てなかったみたい。 あたしはあたしで、バンドの時はいいけどこうして公園であいつのとなりに人形 みたいにただすわりこんでるだけじゃ何となくあきたらなくなってきていたから、 ちょうどいいって感じだった。 円城寺さんの書く甘いなつかしいメロディや風神丸の得意な、胸の底まで共鳴さ せるようなハーモニーなんかと同質の何かを、あたしもなんとかして自分の内部か らひねり出してみたい、という想いもあった。 だから、べつにベースでなくてもよかった。たまたまひろったのがベースだった からそれを習いはじめただけ。 ただ単にわめきまくるだけじゃなくって、あたしはあたしで自分の胸の中にうず まく想いを形にできるだけの「「そう、表現力を手に入れたい、そういう切々たる 気持ちを抑えきれず、やみくもに何か新しいことをやってみたくなっていたんだ。 あの夜のライブはあたしにとって最高の夜だったし、円城寺さんもさとみちゃん も、そして見に来てくれた友だちもみんなとても満足してくれた。 もちろん、たぶん、風神丸も。 アンコールを歌い終わって、ハコいっぱいにあふれ出しそうなほど拍手と歓声が やさしく満ちたとき、思わずあたしも叫びながら風神丸に抱きついていて、そして 風神丸もなんだか目をシロクロさせながらも声を立てて笑い、そしてその小柄な身 体をいっぱいにのばしてあたしを抱き上げてくれた。 それからしばらくのあいだ、呆然としたブランクをあたしは過ごし、そしてまた 少しずつ、目覚めはじめたような気分でスタジオや路上で歌いはじめている。 またとうぶん、ライブハウスで歌える予定はなくなってるけど、けっこうあたし たちの音楽をまた聴きたいって催促するお客さんもいるらしくって、今度はもっと いい日に空けとくからそのときはぜひよろしくって、お店側からいわれてる。これ ってあたしのレベルじゃ、かなりの成功の部類に入ると思う。 もちろん、そんなもんで満足しているわけじゃない。 この先どこまでいけるのかとか、どこへいこうとしているのかさえよくわかって はいないけど、でもあたしまだまだ止まれない。 いけるところまで、できるならみんなといっしょに、昇りつづけていきたい。 「江藤さん、はっきりいってギターとかベース、弾かない方がいいよ。たぶんぜ
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE