長編 #2635の修正
★タイトルと名前
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5 この夜の奇襲作戦は、事前に入念な調査が行われ、何度もシミュレーションが重ね られ、戦闘要員の選別も慎重に行われた。にもかかわらず、たった一つの些細な過ち が、巨大な亀裂となって返ってくる結果となってしまった。その過ちとは、もちろん ガーディアックの医者、カダロルを逃がしたことだった。 タカに変身して夜空に逃亡したカダロルは、何か小さく熱い塊がいくつも身体に食 い込むのを感じたものの、それを思い煩う余裕などないまま必死になって飛び続けた。 正体不明の襲撃者は、どちらも鳥には変身できないらしく追って来ようとはしなかっ た。だが、ガーディアックの上空を飛び去るときに、ちらりと下を見ると、同じ様な 襲撃者がうろつき回っているのがわかった。 おれの故郷のガーディアックが侵略を受けている!カダロルは傷の痛みも忘れるほ どの怒りを感じた。 カダロルは傷ついた身体が許す限り急いで飛び続け、ガーディアックの北に広がる 森の方へと向かった。何度もふらつき墜落しそうになったが、その度に気力を振り絞 って持ち直した。カダロルが目指しているのは、明日会いに行く予定の友人の小屋だ った。 その小屋は森の中を流れる川の近くにあった。カダロルはほとんど落下するように 小屋に屋根にたどり着くと、屋根板の破れ目からするりと小屋に入り込むと、変身を 解いて人間に戻った。 途端にカダロルの喉元に鋭い剣の切っ先が突きつけられた。カダロルは喘ぎながら 相手に向かって叫んだ。 「よせ、イーズ!おれだ。カダロルだ。お前の主人の親友のカダロルだよ」 イーズ、と呼びかけられたのは、剣を握って立っている一匹の白いウサギだった。 何種類かの草で編んだチュニックを着て、背中には鞘が吊られている。イーズはすぐ に剣を引くとつまらなそうな顔をした。 「なんだ、ガーディアックのやぶ医者か」ウサギはあくびをしながら言った。「ご 主人様はぐっすりお休みなんだ。悪いが、明日の朝にでも出直してくんな」 「ばか、それどころじゃないんだよ!」カダロルは叫んだが、その途端に全身に激 痛が走ったため、がくりと膝をついてしまった。だがそれでも口は閉じない。「さっ さとパウレンを起こしてこい。ガーディアックが大変なんだぞ!」 イーズはうさんくさそうにカダロルの顔を見つめていたが、カダロルが冗談を言っ ているわけではない、というのは分かったらしい。握っていた細い剣を鞘におさめる と、疑り深そうに問いかえした。 「何だ?ガーディアックが大変ってのは」 「いいから、さっさとパウレンを起こしてこい!」イライラしてカダロルは怒鳴っ た。「急ぐんだ!」 「大きな声を出すな!」イーズはとても小さいとは言えない声でたしなめた。「パ ウレン様が目を覚ますじゃないか」 「だから起こせ、と言ってるだろうが!」 「静かにしろと言ってるだろうが!」 生意気なウサギが叫び返した。カダロルがイーズを罵ろうとしたとき---- 「うるさいぞ、愚か者ども!」よく通る高い声が、無益な言い争いを続けようとす るカダロルとイーズの上に浴びせかけられた。「何を騒いでいるのだ!」 その言葉と同時に、音もなく一人の女性が実体化した。 「パウレン!」 「パウレン様!」 カダロルとイーズが同時に叫んだ。 パウレンはじろりと一人と一匹を睨み付けた。パウレンは一言で表現するならば、 「長い」女だった。決して背の低い方ではないカダロルよりも、頭一つ分ほど高い身 の丈と、床まで届くほどの鮮やかな赤毛がそういう印象を与えるのだ。ナイフのよう に長い爪や、細い顔立ちなどもその印象を助長している。 「久しいな、カダロル、と言いたいところだが、おぬしが訪ねてくるのは明日の夜 ではなかったのか?こんな夜中に人の迷惑もかえりみず押し掛けてくるとは、よほど 私に会いたかったのか?」 「それどころではないんだ、パウレン!」カダロルは座り込んで服の前を開いた。 「うむ」パウレンは長い眉をひそめた。「怪我をしているではないか。おぬしは医 者のくせに自分の手当もできんのか」 「まあ、聞いてくれ」 カダロルはようやく自分の傷の手当を始めながら、パウレンに事情を語った。とい っても、カダロル自身、襲撃者の正体については無知に近かったため、話はすぐに終 わった。 「ほう。ガーディアックがな」パウレンは首を傾げた。「どこの誰が、あんな小さ な村を襲って得をするのだ?」 「おれの知ったことか」カダロルは苦痛を和らげる魔法を使いながら答えた。3発 の銃弾はいずれも貫通していたので、カダロルはいまだに何が自分を傷つけたのかを 知らずにいた。 「そうだろうな。ふむ。では水晶玉でも使ってみるか。おぬしが悪い夢でも見たの だといいがな」 そういいながらパウレンはどこから取り出したのか、古ぼけた水晶玉を手に取ると じっと思念をこらした。細長い双眸が一瞬きらりと光り、そのまま視線が固定する。 しばらくパウレンはまばたき一つしないまま、水晶玉に集中していた。カダロルは ようやく傷の手当を(簡単にではあるが)終え、幼なじみの魔法使いの邪魔をしない ように息をひそめて見守っていた。 「なるほど」ややあってパウレンは視線を外し呟いた。「見たことのない奴等だ」 「はっきり見たのか」カダロルは訊いた。 「見た。だがあのような服は見たことがないな。北のミルン地方の服に似ていない こともないが」静かな口調でパウレンは話した。だがこのノッポの魔女が静かな話し 方をするとき、その心は激しく燃えていることを、カダロルは知っていた。「しかし 妙なことに魔法がほとんど感じられない」 「村の人々は無事だったか?」カダロルは気がかりだったことを訊いた。 パウレンはゆっくりとカダロルに視線を合わせた。そしてほとんど見えないぐらい に細長い首を横に動かした。カダロルは蒼白になった。 「全員か?」 今度は首が縦に振られた。カダロルは言うべき言葉を失い、茫然と口を開いたまま パウレンを見ていた。 「さて、では行って来る」実にさりげない口調でパウレンは呟くと、ゆらりと立ち 上がった。「すまんが留守を頼む」 「ど、どこへ?」思わず訊いたものの、カダロルには答えが分かっていた。「おれ も行くぞ」 「その身体では足手まといになるだけだ」パウレンは素気なく手を振り、立ち上が ろうとしたカダロルを押し止めた。「それに多分、おぬしの安全に気をかけている余 裕はなさそうだ。自分の傷の手当でもしているのだな」 カダロルは言葉もなく頷いた。パウレンの声音は氷のように冷徹で、激したところ などまるで感じられなかったが、事実は正反対であることを長年の付き合いからよく 知っていたのだ。ガーディアックはパウレンの生まれ故郷でもあるのだ。 「すぐ戻ってくる。イーズ!」パウレンはウサギを呼んだ。「カダロルを客室に案 内して、軽い食事を出してやれ。暖炉に火をおこしてな」 それだけ言い捨てると、長身の魔女の姿は煙のように消失した。 「やれやれ、真夜中にたたき起こされた上に、食事に暖炉ときたか」イーズは渋面 を作って聞こえよがしに独り言を呟いた。「しゃあねえ。ついてきな、やぶ医者」 生意気なウサギに腹を立てる気力もなかった。カダロルはそろそろと身体を起こす と、イーズの後について歩き出した。 「アンシアンの幻術だ!惑わされるな!」ようやく何が起こっているのかに気付い た指揮官が叫んだ。強力な魔力の干渉で通信波はほとんど途絶してしまっている。「 みだりに発砲するんじゃない!」 作戦指揮官の怒声は、ほとんどの兵士の耳に入ったものの、一度原始的な恐怖を見 た兵士たちにとっては何の効果もなかった。 ある兵士は自分の身体に、びっしりと黒光りする鱗が生まれていくのを見た。彼は 半狂乱となりながら、ナイフで鱗を削り落とし始めたが、鱗は次々に身体の中から生 産されていく。兵士が失血のために倒れたとき、その胸元は肋骨が露出するまで削ら れていた。 ある女性兵士は隣にいた仲間が突然巨大なゴキブリに変わるのを見て、生理的な嫌 悪と恐怖に襲われた。彼女は悲鳴を上げながらサブマシンガンのトリガーを絞った。 ばらまかれた弾丸は3人の兵士の身体を貫いた。 別の場所では二人の兵士が力任せにナイフをふるって、互いに身体を切り裂き合っ ている。一人は目の前に腐りかけたゾンビを、一人は鱗に覆われたトカゲを見ている のだった。眼球がえぐられ、耳がそぎとられ、肉がむしり取られても戦いは続いた。 まだ魔法によって作り出される虚像を見ていない兵士たちも大勢いた。彼らは、し かし仲間が殺し合うのを目の当たりにして、さすがに冷静ではいられなかった。何と か制止しなければならない。とはいうものの、下手に介入しては自分たちが巻き込ま れるおそれがある。それよりは、無事な兵士だけでも撤収を続けた方がいいのではな いか。すでに指揮系統は崩壊しつつあるし、バックアップも得られそうにない。 だが、軍事教練で育てられた兵士達の固定観念が、彼らの行動を縛っていた。別命 あるまでは現在の命令を続行するのが当然であり、それを意図的に無視して独自の行 動を取れば、敵前逃亡による軍法会議にもなりかねないのだ。 兵士達が躊躇しているうちに、殺し合いの波紋は次第に拡大していった。 「ぼくが出るから援護してくれ」アンソーヤはそう言うとさっさと緊急脱出ハッチ へと歩き出した。ギブスンは一瞬呆気に取られた。だが、アンソーヤが冗談を言って いるのではないと分かると、慌てて問い返した。 「な、なにをする気ですか!」 「アンシアンの魔法使いに攻撃されているんだ。火器は役に立たない。まがりなり にも対抗できるのはぼくだけだ」 「し、しかし、外へ出ればあなたまで巻き込まれることになりますぞ!」 「大丈夫だ。一応、魔法で結界を張っている。それにどうしてもディレクターだけ は回収してこなくてはならないんだ」 突然、ギブスン大佐はアンソーヤの意図を理解した。震え声でそれを確認する。 「あ、あなたは、あそこに行って<ヴェーゼ>を自分の身体に投与するつもりなの ですな?」 「そのとおり」アンソーヤはあっさり肯定した。「我々が生き残る唯一の希望は、 ぼくの魔力を<ヴェーゼ>によって強化して、今、攻撃をかけているアンシアンの魔 法使いを倒すしかない」 ギブスンは何と答えるべきか迷った。もし、アンソーヤの身に何かあったら、その 責任は自分にかかってくるに違いない。ギブスンは実のところアンソーヤが死んでも それほど痛痒を感じないだろうが、それでも地球人がアンストゥル・セヴァルティに 無事移住できるかどうかが、この少年一人にかかっていることは無視できなかった。 アンストゥル・セヴァルティ移住を成功させるには強力な魔法を有した人間が一人で も多く必要なのだ。そのためにはプロジェクト・ヴェーゼを早急に進行させなければ ならない。アンソーヤは第1次プロジェクトの唯一の生存者であり、第2次を遂行し 得る魔力を持った唯一の地球人だった。 「わかりました」とうとうギブスンは答えた。「ただし10分です。10分過ぎて も<ヴェーゼ>を回収する見込みがないときは、即刻、支援車両まで戻って下さい。 よろしいですな?」 「わかったよ、大佐」すでにアンソーヤはハッチの解放スイッチに手をかけていた が、ふと振り向くと、優しい声で自分の秘書に言った。「ドナ。心配しなくてもいい。 必ず無事に戻って来るからな」 「疑ってませんわ、アンソーヤ」ドナは心配の色をかけらも見せずに微笑んだ。「 楽しんでらっしゃいな」 アンソーヤは似つかわしくない苦笑で答えると、次の瞬間、ハッチを開放して外に 飛び出していった。 「楽しむですと?」少年の姿が消えると、ギブスンはドナに問いかけた。「どうい う意味ですかな?」 「おわかりになりませんでしたか?」ドナは謎めいた微笑を消さずにアンソーヤの 消えたハッチを見つめていた。「彼は自分の力を試すのを楽しんでいるんです。確か に切迫した事態を打開することが優先であることは承知していますよ。でも、これま でアンシアンの魔法に、<ヴェーゼ>によって引き起こされた力が、どの程度通用す るのかを試す機会などありませんでしたからね」 呆れたギブスンが答えようと口を開いた瞬間、オペレータが叫んだ。 「ディレクターに異常発生!緊急シグナルキャッチしました!シグナルは微弱です が間違いありません!」
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