長編 #2613の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
この作品は、私が運営している草の根BBSに寄せられた鳥さんの作品です。あ る、スジから読みたいというご要望がありましたのでここに転載しておきます。ご 意見、ご感想など寄せていただけると鳥さんも喜ばれると思います。それではお楽 しみください。 ----------------------------------------------------------------------------- ゴールデンウイークは、みなさん楽しくお過ごしなんでしょうね。私は、まあ、 適当に……。 以前、過労死の本を読んでから、いろいろとシンパシーを感じたものですから、 ひとつ書いてみたいなと思っていたのです。死ぬまで働く、というのは、考えてみ ればとても悲しいことです。 鳥 店長候補 1 「ご注文はお決まりでしょうか」 森町亮太がお辞儀をして声をかけると、座っている初老の男は、思い出したよう にのんびりした動作でメニューをめくり始めた。 「ああ、え〜と……」 亮太は、注文伝票を構えて、じっと待っている。 「う〜ん」 その男は、またメニューの初めのページをめくった。 「それでは、お決まりになりましたら、お呼びくださいませ」 「ああ、どうも……」 亮太は、にっこり笑ってきびすを返し、レジへ向かった。支払いの客が、もう三 組も待っている。後から後から、自動ドアを開けて客が入って来る。そろそろ、夕 食のピークの時間帯である。亮太はだんだん飛ぶような速足になってくる。 ここは、東京のある下町にあるファミリーレストラン「デリシャス」泉ヶ丘店で ある。飲食店街の最も人の出入りの便利なところに位置するこの店には、毎日千人 からの客が来る。十二時が近づくころから、背広姿のサラリーマンや、子供連れの 若い母親や、寄り添うカップルたちが、まるで波のように押し寄せ、テーブル空き を待って並ぶようになる。顔を覚えてしまった、常連客たちも多い。 この辺りには、ソバ屋、中華料理屋、回転寿司屋と、いろいろな店が並んでいる が、その中でも、駐車場が完備し、メニューが豊富でしかも値段が割安な「デリシ ャス」は、魅力的で、入りやすい店なのである。それは、資本力の差によるところ が大きいのだが、経営の合理化も徹底していた。 「A定食一つ、オレンジジュース、ボールスープお願いします」 「チャーシューめん、和風サラダお願いします」 注文を取ってきたアルバイトたちが、次々と厨房の前にきて、注文伝票を並べて いく。コック帽を被った調理の五人も、立ち止まる暇さえなく、料理を運んでくる。 亮太は、注文伝票をおいて、レンジの前でまごまごしているアルバイトのコック に声をかけた。 「ほら、待っている暇にサラダの方を手伝うんだ。今からが、かき入れ時なんだ からな、手際よくやれよ」 「はい」 注意された、まだ高校生らしい男は、あわててサラダボールの方へ飛んで行った。 亮太は、みんな聞こえるように言った。 「姿勢をきちんとして、はっきりとした声で注文を聞くんだぞ。反復確認を忘れ るな。くれぐれも落ち着いて確認するんだぞ。どんなに急いでいても、ミスをした らなんにもならないからな」 「は〜い」 ますます込み合ってきた店内に、ヒステリックな女の罵声が響き渡った。 「ちょっと、いつまで待たせるつもりなのよ〜」 その金縁メガネの中年の女は、目を吊り上げて、ほとんど絶叫という感じでアル バイトの高根幹雄に向かって怒鳴っている。 「あっちの方が、あたしより後に頼んだんじゃないの? 急いでるんだからちゃ んとしてくれないと困るじゃないのよ」 幹雄は、そばを通りかかっただけなのだが、逃げて来るわけにもいかずに黙って 聞いている。むすっとした表情で、黙って聞いているが、だんだん腹が立ってきた ようだ。 亮太が新しい注文を調理場に伝えて、慌てて駆けつけたときには、もう幹雄はう んざりという感じで顔を歪ませていた。あとからあとから注文がくるのだから、こ んないちゃもんにかまっている時間などないのだ。 「どうも、お客様申し訳ありません」 亮太は、腰を低めて静かに話しかけた。 「あんた、店長さんなの」 「副店長でございます」 「店長を呼んでよ。あたし、急いでるんだからね。こんなに待たされるなら、もう 料理いらないわっ」 女は、口を耳まで裂けるほどに開いて、早口にまくし立てた。亮太は、肩で息を しながら、言うだけ言わせて、そして穏やかに言った。 「誠に申し訳ありません。なにぶんにもたいへん込み合っておりますので、ご迷惑 をおかけします。大至急おもちしますので、もうしばらくお待ちいただけませんか。 いますぐにおもちしますので。どうしてもとおっしゃるなら、注文の取り消しを… …」 その女は、亮太の言葉を待たずに、どなり始めた。 「もういいわよ。取り消しにして。あたし、こんな店もう来ないから」 「……他のお客様のご迷惑になりますので、あまの大きなお声は……」 「なによっ、誰のせいだと思っているのよ」 私的なうっぷんまで晴らすように、その女は亮太に毒づいた。妙に静まった店内 で、回りの客は、嫌な顔をして無視している。 厨房に突っ立っていた幹雄は、いきり立った足取りで女が出て行ったのを見なが ら、口を尖らせた。 「なんだい、あの野郎。いい加減にしろって言うんだよ」 亮太は、それを聞きとがめると、きっと幹雄をにらんで、厳しい声で言った。 「こら、変なこと言うんじゃない。お客様だぞ。どんなお客様にでも、心を込めた サービスをするのが、我々の仕事なんだ。コンプレ(苦情)には、いちいち腹を立 てるんじゃないぞ。ああいう時には、ひたすらに誤って、反論なんてするなよ。騒 ぎなんか起こったら、他のお客様の迷惑になるだけだからな」 「……はいはい、わかってますよ」 幹雄は、うんざりしたようにテーブルの方へ行った。 「オーダーの順番は、間違っていなかっただろうな」 アルバイトの信次は、むきになって答えた。 「それはもちろんです。あの女、ジュースは食事の後にって言っておきながら、あ っちの客に先にスープがきたもんで、勘違いしたんですよ。ありゃ、ただの馬鹿で す。がつんといってやった方がいいと思いますけど。のぼせやがって」 「こら、そういう言い方はやめろと言ったろう」 亮太は、しみじみと諭すように言った。 「私たちの仕事は、すべてのお客様においしい料理を食べていただいて、満足して いただくことなんだ。すべてのお客様にだぞ。どんなお客でも、お客に変わりはな いんだ。お客を見てサービスを変えるようでは、この仕事をやる資格はないっ」 幹雄に説教しながら、亮太は、自分も管理職らしくなってきたものだと、内心得 意になっていた。店長マニュアルを、毎晩繰り返し読んで、店員への訓示の仕方は、 だいたい覚えた。 (うまいぞ。俺もなかなかよくやっている。この調子でいけば、きっと店長になれ る違いない……)
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