長編 #2605の修正
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「JETBOY」 第6話「耐え忍ぶ心に秘めた剃刀」 後半戦の開始を主審が告げる。しかしホイッスルは、フリエサポーターの指笛 にかき消されてしまった。 前田治のキックオフで始まった後半もフリューゲルス猛攻の予感をはらんでい る。サイドが替わり、横浜フリューゲルスが右側、鹿島アントラーズが左側に陣 を取った。お互い自軍のサポーターに向かって攻めるのである。サポーター達に とってはたまらないシチュエーションである。 前田が賀谷のマークを振り切り、緩いセンタリングを上げた。 チラリと上空を見て、ボールが舞い降りるその地点へ走り込む渚。 だが、位置的に甘い所に飛んだセンタリングは、無事古川の手に納まった。古 川がロングキックを試みる。 ボールは直接、前線のアルシンドへと送られた。 アントラーズの監督であるエドゥーの意図は、誠を省略する事のようだ。アル シンドが、渡辺一平を岩井をこじ開けて、ゴールキーパー森に襲いかかる。 誠のチャージも功を奏さなかった。 47分、アルシンドが直接叩き込み、1−1の同点に追いついた。先程まで沈 黙と憤りに埋め尽くされていたバラ色の観客席は爆発し、無数のトイレットペー パーの雨が降り注ぐ。 「浪漫よりも実利か・・・・・・ 」 エドゥーの選択は、中盤での潰し合いを避ける事は正しいわけである。誠のゾー ンプレスに付き合わなくとも、点をとる方策は少ないがあるわけだし。 それよりも、昨日の酒の席での物騒な発言を知っている俺は、ゾーンプレスを 破られたことで、誠が戦略を無視して単独行動に走りださないかと心配している。 けど、魅力的じゃない。戦術に縛られるタイプでは誠は決して無いのだし。 アントラーズの、ロングボール攻撃がはじまり、ラインの間隔が大きなものに なっていた。 ★ 試合は大味な展開になっていた。ここ20分の間、ボールは両サイドを行き来 するだけである。 誠は、相当イラだってるに違いない。記者席から見ても、苛立っているのがよ く判る。 その原因は確実に、アントラーズの小判ザメ本田泰斗であった。ゾーンプレス が有効でない今、誠は盛んに前線へ上がり、渚や前園に配球していた。 しかし過剰なチャージが誠を襲う。本田の強引で手段を選ばないチェックが、 誠の絵になる足技をブチ壊していた。本田はJリーグにおいて、指令塔に最も嫌 われるディフェンシブハーフの一人であった。警告を食らわない程度に仕事をこ なしているのである。 それにしても気丈である。本田のバックチャージにも、誠は未だ膝に土が着く 事無く持ちこたえていた。 誠が本田の包囲網をくぐり抜けて、前方にパスを出す。 だが、ここで笛は鳴った。 誠は倒れていない。しかしアドバンテージが成立しないと見るや、主審は本田 の、誠へのバックチャージを取ったのである。 スタジアムは、本田に対するブーイングで包まれた。そして主審が本田に向け てイエローカードを出す。 誠は、足首を引きずっている。ワザと倒れれば反則が幾つあってもおかしくな い本田のチャージであったが、それでも決して倒れることは無かったのである。 さすがに主審も誠の有様に耐えかねたのだろうか。 フリーキックの距離が20メートル以上あった。「ゴール」を連呼するフリエ サポーターがフリーキックの名手エドゥーのスーパーゲットを欲していた。 風向きを見、エドゥーがアントラーズの壁が下がるのを待つ。 しかし、そのエドゥーを誠が制した。自分で決めてみたいようだ。 しかし、フリーキックに関しては、世界でも五指に入る本物の元ブラジル代表 エドゥーである。ポルトガル語で誠と何か言い合っている。 インファイトがこの悶着に対してブーイングする。しかしそのブーイングは、 「マコト!マコト! 」の連呼がかき消してしまった。 皆、誠の右足に期待している。 エドゥーもチームの事を考えれば、遅延行為でイエローカードというのも馬鹿 馬鹿しいわけで、頭を撫でて誠に託した。 誠は、壁の位置を確かめ、そして右サイドをチラリと見た。芝生を少しむしり 取り、風向きを確かめる。 軽やかに四・五歩助走した。スタジアムは「ゴール! ゴール!」という声が 膨張し、ピークに達している。 もう一度、向こうを見据えて、そして右足で叩いた。 ウォォォォォォォォッ! ボールは壁を越え、そのまま急降下してゴールマウス右上に飛び込もうとする! 古川が飛びつく。 ゴールゲット寸前で古川が左腕が叩いた。どよめくフリエサポーター! その叩いたボールは・・・・・・ マークが誰も付いていない前園の胸の中に落ちて いった。 アントラーズ守備陣に、反応しえた奴は居なかった。 前園は迷わず胸でワントラップし、すぐさまゴールマウス目掛けて叩き込んだ! 三秒後、後半34分、フリエサポーターのシャウトが、そのまま爆発した。 「ゴーォォォォォォーール!」 前園が誠、渚に抱きつき、喜びを、エクスタシーを爆発させた! フリューゲルス逆転に成功! 後は守るだけである。 「ザ・マンオブマッチ、前園に決まりだな」 となりの記者がつぶやく。しかし、この得点は実質的に前園の得点ではない。 俺の視界には誠の姿だけしか映っていなかった。本田に傷つけられて足を引きずっ てはいるが、それに耐え抜いてこのゲットにつないだのである。 ロイヤルボックスのジーコは、興奮していた。そのジーコの視線の先も誠を見 つめていた事だろう。 アントラーズの望みは、Vゴールにつなぐのみであった。 ★ しかし本田は危険なチャージを、より誠に浴びせていた。だが、誠も負けては いない。時間が少ない、従ってボールを長く持って確実に前線につなぐだけであ る。誠は決して倒れなかった。汚いプレーに対するある意味でのアンチテーゼか もしれない。 本田の肘が誠の胸を捉える。記者席からも罵声が飛ぶのが判る。 持ちこたえた誠は、ショートパスをバウベルにつなぐ。 その時、この試合最大のアクシデントは起こった。 ★ ロスタイムになってようやく気づいた。誠の口から大量の出血である。流血の 味を口に含んだまま誠は闘っていたのだ。 ホイッスルが鳴り、試合が終了した。 その時、スタンドから悲鳴があがった。 グラウンドの真ん中で一人倒れている。背番号5が力尽きたのだ。 フリューゲルス、そしてアントラーズのドクターが駆け足で誠の許に駆けつけ る。フリューゲルスの他のイレブンも同様に誠の許へと歩み寄った。 渚が泣いている・・・・・・ 本田は、グラウンドから消えていた。アントラーズのイレブンのうち、石井と サントスが駆け寄り、安否を気づかう。 誠は担架に運ばれて、控室へと消えていった。健闘を褒めたたえる拍手と、悲 鳴が不協和音を奏でて混ざり合う。 俺は、ワープロを置き去りにして、誠を求めて走った。 ★ 誠は前歯2本と口の中を損傷した。 「お転婆のツケがついに回ってきたなぁ」 冗談のつもりで言ったのだが、誠は実に悔しがっている。 しかし意外だったのは、足首やヒザの損傷が殆ど無いことであった。こっちの 方は1日休めば完治するそうだ。 それにしても今日は、誠を見直した。憎まれ口を叩きまくり、傲慢な態度を見 せつけるいつもの誠は見られない。明日の原稿は大きく扱ってやろうと思う。 それに、見舞いに来てくれた俺やチームメイトに林檎を剥いて食べさせてくれ た。前園や渡辺一平が要らぬちょっかいを出しても苦笑いして応ずるだけである。 この報復は練習の時にたっぷりとするのだろうが、沖縄で会ったときより少しは 成長の跡が見られるのだ。 消灯の時間になった。渚を残して我々は退散することにした。 にやつく前園と一平の頭を張り飛ばしてやったのはいうまでもない。 ★ 翌日、アントラーズの本田が、サブレを持って見舞いに来た事を知った。 つづく
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