長編 #2603の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「JETBOYS」 第4話 「Jリーグ前夜」 「押さないでくださーい! 」 「きちんとマナーを守ってください! 」 球団職員のがなり声が耳に響く。 全日空菅田グラウンドには、いつもより数倍の女性ファンが詰めかけた。皆、 平日だというのにカメラを持ってご苦労なことである。 普段は数も疎らで、選手達も気軽にサインに応じてやれるものだが、今日に限っ ては勝手が違った。皆、先日スポーツニュース等で報道された二人の顔を見て、 ここまで駆けつけたのであろう。美少年に対する見識はどの女の子も一緒だとい うわけだ。 それにしても、誠の営業用のパフォーマンスは見事であった。俺に対する愛想 の悪さから見れば、渚の方に人気が集まるものだと思ったが、この一言が女性ファ ンの心をつかんでしまった。 「優しくて可愛いフリエファンの為に、今シーズンの優勝と僕のハットトリッ クをお約束します」 この日誠は、アルマーニの礼服に身を包んでいた。明らかに女の子を意識して いる。一方の渚が謙虚なコメントを残したが為に、結果として誠の方が目立って しまった。 女であることをバラしてやろうかと思ったが、俺にだって思惑くらいはある。 渚の頼みは果してやらねばならなかった。 だが、当の誠は、実に不機嫌な顔をして練習に加わっていた。先程からゾーン プレスの練習を繰り返しているが、いまいち乗り気ではない。 練習を見ているかぎり、誠の役目はこぼれ球を拾って前線へパスを出す役目で はなく、中盤の選手にプレッシャーをかける事であった。 フリューゲルスにおいては、ヴェルディのラモスやガンバ大阪の磯貝のような ポジションは無い。誠であっても11人のうちの一人でしかないのだ。 誠は、前線に飛び出す術を奪われていた。誠が欠けるとゾーンプレスが成立し なくなる大切な所に配置されてしまったのである。右のディフェンシブハーフは 明らかに不本意なポジショニングと言わざるを得ない。 渚は誠とは対極で、実にいきいきとしていた。エドゥーからの正確で適宜なロ ングパスのお陰である。 サテライトのディフェンダー相手に、エドゥーとコンビを組んで中央突破のパ ターンを繰り返していたが、エドゥーのパスをノートラップで落とさず蹴り込む テクニックに、マニアックなファンはため息をつく。此処に飛んでくると判る予 知能力があるんじゃないかと某誌の記者はぼやいていたくらいだ。 のびのびと自分の持てる物を見せつける渚と、自分の位置づけに納得のいかな い誠。加茂監督の意図は十分に判っていたが、俺は気になったのだ。 誠は頭では判っているはずなのだが。 ★ 翌日、本拠地三つ沢での鹿島アントラーズ戦を前にして、俺は渚と隠密理に約 束していた場所で待ち合わせることにしていた。 横浜駅の構内にCIALというショッピングセンターがある。そこの2階へ上 がるエスカレーター前で待ち合わせということになっている、のだが、まだ渚が 来ない。 今回は俺にしては珍しく、ブランド物で固めてみたのである。ファッション雑 誌に載っていた服装の中で、安いものをえりすぐって取り合えず着てみたのであ る。 隣に住んでいる成美の酷評なんぞは無視した。あいつの無節操なバーゲン固め 打ちをボロクソに罵ってやれば原稿用紙50枚程度では済まない。 けど、自分でも似合わないと、思う。 それにしても渚が遅い。 時計はもう7時と半分を回っている。その間に怪しい宗教の奴が俺の幸せを祈っ ていきやがった。 「遅いなぁ」 そう呟いた時、不吉な声が耳元に届いた。 「こんばんわぁ」 いつもの渚は、今日はおさげのカツラを付けている。もう一方の険悪な渚、もと い誠は、この前渚のつけていたストレートヘアのカツラだ。 何故誠まで来たの? と渚に目線で訴える。 「伊丹君、別にあんたがホモでも構わないけど、私の渚にツバを付けたと思った ら大間違いよ」 少々誤解混じりだが嫌な部分をついてくる。 けど、俺が何処かおいしい店に連れていこうとした事は既に折り込み済みの様子 だったらしく、ちゃっかりと無料飯だけは頂く寸法の様子であった。誠のこういう ところが女として嫌いだ。成美のいい友達にはなれると思うが。 誠が、遅れてきた理由を説明した。 「あんたぁ、沖縄にはJRは走ってないんよ。いきなり東京来て何が判るんよ。 沖縄にはこんなバカでかいビルは無いし」 その事を忘れていた。二人は沖縄というバスしか交通手段の無い特殊な地域に今 まで居たのである。JR東日本の自動改札のシステムにも手間取っていたみたいだ。 時間は、8時近くをさしている。 「じゃ、行こうか。横浜駅の北口に俺の知ってる店があるんだ」 大学の後輩が裸一貫で開いた店である。 「ま、タダでくわしてくれるんだから、味の事は目ぇつぶってあげるけど」 渚が苦笑する。俺の右拳はガチガチに固まっていた。 ★ 沖縄料理は正直言って辛いときがある。 この店の店長でありコックである俺の後輩には、度々、メシの事で世話になった。 こいつの名前は上村というのだが、俺が二十歳にもなって欠食児童してた時に、サー クルの先輩の権限で、こいつのアパートで無料メシを食っていた。 上村の家にはよく、季節になるとニガウリが届く。上村を当てにしてたのは、こ いつが結構おいしいメシを作ってくれるからである。特に上村が得意にしていた料 理はゴーヤチャンプルであった。ニガウリをソテツ味噌で炒める沖縄の家庭料理で ある。 このゴーヤチャンプルがそいつのメシのタネになった。県人会のツテで在学中に 沖縄料理の居酒屋で包丁を握り、昨年の暮れ、ついに横浜に店を開いた。その開店 祝いの時、久々に上村のゴーヤチャンプルを食べる機会があった。 三口食べると気分が悪くなる。俺の同期の奴は九州出身だったせいか、他の料理 まで美味そうにたべていたが、若い頃からしたら胃の具合が随分ヤワになっていた。 それ以来ここで食べることはなかったのだが、渚がこの横浜にやって来たことで、 ふと上村の事を思い出したのである。 それにしても、渚のリクエストでソーキソバってのを三つ頼んだのだが、誠と渚 がそいつを平気で胃袋に流し込むのが信じられない。長浜ラーメンよりも濃厚で、 量が多いのだ。沖縄料理は万事是である。 これで泡盛なんぞ飲んだら、急性胃炎で医大病院行き確実である。 「それにしても、よく食うなぁ」 俺のボヤキに渚は不思議そうに反応した。 「僕たち、いつもこんなの食ってたよ。僕が誠に作ってあげたんだ」 「渚のテビチって、おいしいよね。しつこくなくて」 渚は料理が上手いみたいだ。「誠も料理作るん? 」ってワザと聞いてみた。 「えっ」という言葉が誠の口から漏れる。余計な事を、と渚は思ったかもしれ ない。だが、この意地っ張りは負けを認める気が無いのだ。 「決まってんじゃない。今度、今度ねぇ・・・・・・ けど、あんた嫌いだから食べ させてやんない」 やっぱりだ。俺の予想どおりである。誠の料理に「興味」が湧いてきた。 それにしても、俺の財布の中身が怪しくなった。体育会系の奴より食べるんじゃ ないのかと思う。 「こんだけ食ったら明日は大丈夫だろ? やっぱり連れてきて良かったな」 俺は、二人の初陣を励ますつもりでそう言った。 しかし、渚はともかく、誠は不機嫌そうに「まぁね」という濁した言葉を残す のみである。 誠がしかめっ面のまま、水屋の中にあるある物に目を付けた。 「おじさーん、泡盛あるんでしょ。隠してないでもって来てよ」 渚が止めなよと宥めるが、誠は平気だと言い張る。 「おい、明日は試合だろ。二日酔いでグランドに立つ気か? 」 「試合? あんなの出たくない! 何がゾーンプレスよ! 私は渚と一緒に点 を取る為に横浜くんだりまで来たんよ。それをあの糞親父。飲まんとやってらん ないわ! 」 ヒステリックに暴走する誠は、渚にも止められない。 それから延々と2時間、俺は誠の愚痴を聞く羽目になった。その半分は加茂監 督の戦術に対するものであり、もう半分は俺と渚の事である。時々卑語や沖縄弁 を折り混ぜてがなりたてる話っぷりは、かつての渋谷のチーマーも恐れをなすの ではないかと思うくらいである。結構ゼニになるネタを提供してくれた。このオ フレコ話を加茂監督に聞かせてやりたいものである。週刊大衆でも構わない。 結局今晩は、渚とのデートは諦めた。その渚は、誠に連れられて横浜の下町の 方へと消えていったのであった。 最後、二人を確認したのは、桜木町のホテルの玄関であった。 ★ 翌日、三つ沢のロッカールーム前で見た二人は、意外な表情を俺に見せてくれ た。 誠は、あんだけ泡盛を食らっておきながら実にピンピンしている。一升は飲み 干したはずなのに。確かに独特の酒臭さは漂っていたが、プレーには支障がない ように思われた。天性の「うわばみ」である。 そして、機嫌がよかった。指を使って卑猥なマークを作ってみたら、にっこり として勝ち誇った笑みを俺に見せつける。 不安なのは渚であった。別に顔色が悪いわけではないが、疲れちゃったと耳打 ちする。さぞかしあの誠を満足させるのだから大変なことであろう。 けど、試合にプライベートの疲れなんて持ち越せない。 「渚ちゃん、今日勝って、一緒にドライブしよーぜ」と前園が景気づけると、 「まこちゃん! サントスは頼んだぜ」と岩井が背中を叩く。 誠や渚の性別なんて、フリューゲルスの猛者共にはどうでもいい事のようであ る。連中は勝つことだけしか考えてなかった。新しい二本の柱がこのチームに活 気を与えていた。 グラウンドから飛び出すと、そこは大観衆の待つフィールドが広がっている。 一番最初に飛び出したのは、フリエサポーターが「ジェットボーイ」と命名した 渚、そして誠であった。 サンバのリズムが新しい仲間を祝福する。水色のフラッグが、バラ色の狂気を 包み込むように空に溶け込んで広がる。 渚と誠の、Jリーグ初のホイッスルが鳴り響いた。 つづく
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