空中分解2 #3112の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ) ●調査終了(N氏) 私は約束の時間に事務所を訪れた。伊井探偵の傍らには小林少年と初めて見る 大柄な美人が控えていた。この前言っていた通いの助手だろう。伊井探偵は薄っ ぺらな茶封筒をテェブルの上に載せた。肘掛椅子におさまった探偵は顔の前で手 を組み合わせ勿体ぶりながら、 「どうぞ 一週間の調査結果です ご満足戴けるものと自負しております」 「拝見致します」 私は幾枚かの報告書にザッと目を通した。田舎探偵には、この程度が関の山だ ろう。 「ふむ 簡単ですが よく纒まってますね」 「恐れ入ります」 「では これで 二度と お会いすることはないでしょう」 私は事務所を出て、宿に戻った。部屋でラップトップのパソコンを開け、報告 書を一言一句洩らさずに打ち込んでいった。 報告書 ご依頼の八百政の件、平成五年四月六日から同十二日迄の一週間、 当事務所が鋭意調査致しました結果を、以下にご報告申し上げます。 松本政三郎(まつもとせいざぶろう) 昭和十五年六月八日、宇和島市堀端街五丁目八二四番地に於いて 政次郎、松の長男として生まれる。 宇和津第三小、宇和津中、宇和島北高卒。 昭和三十三年に高校を卒業後、家業の青物販売業を手伝い、 同四十一年、父の死亡により経営者となる。 飲酒は晩酌にビィルを二本程度。喫煙癖なし。 女性関係は妻以外にはなく性向は別紙一参照。 交友関係は狭く中学、高校時代に野球部に在籍していたため、 市内の同業者で作るソフトボォル・チィム「ベジタリアンズ」に 参加している程度。趣味は他になし。 家業については祖父・政一郎が大正十年に現在地に開業、今に至る。 平成三年八月に隣町・北宇和郡松野町吉延の柴田農園(別紙二参照)と 独占契約を結びキュウリ、ナス、ネギ、タマネギ、ジャガイモ等十二種を 購入し販売している。他種の野菜は宇和島卸売市場にて購入。 主な販売圏は周囲約五百メェトルの同町内。常連客は近所の約七十軒。 売り上げは平成四年度で七百二十八万三千二百十六円(納税分)。 実際の売り上げは九百万円から一千万円と思料される。 特に柴田農園産の各種野菜が好評で近隣町村から来る客も十一人程ある。 妻 弥代子(やよこ) 昭和十九年十月三日、宇和島市大超寺した二六一番地に於いて、 海田茂、弥生の二女として生まれる。 松木小、宇和津中、宇和島西高卒。 卒業後は家業の農家を手伝う。 昭和四十二年に政三郎と結婚。 同五十年九月五日に長男・幸一を出産。子供は幸一のみ。 趣味はなく交友も狭い。 長男 幸一。 宇和津第三小、宇和津中を経て現在、宇和島工業高三年生。 ボォト部に在籍。 本人は家業を継ぐ意志が薄いが卒業後は就職を希望している。 職種などには希望がなく都会に出たいと周囲に洩らしている。 別紙一 松本政三郎の性嗜好 (略) 別紙二 柴田農園 経営者:柴田昇(27)。香川県出身。 京都農業大学農学部大学院修士課程卒。 家族構成は妻・美加(28)、長男・大輔(6)。 柴田は大学院卒後、三ヘクタァルの土地を買収し農園を設立。 大学院時代に独自に開発した有機肥料で実験栽培した野菜を 「産地直送」と銘打ち八百政に卸している。 他に比較のため通常栽培の野菜も作っており、こちらは 農協を通じて販売している。 実験栽培と通常栽培の比率は一:二。 独自に開発した有機肥料は、 有用な微生物群(詳細不明)をオガ屑や鰯粉に混ぜて作った媒体を 生ゴミに振りかけ約十日間、密封して作る。 微生物群に関しては屋内の実験室で培養している。 この有機肥料を使えば、通常の三倍の収穫量が期待できる。 収穫数は大きく変わらないが、個々の野菜、果実の体積が 二倍以上と極端に大きくなる。 またこの有機肥料を米に使用した場合、 土中の養分を稲がすべて吸収してしまい雑草が枯れてしまうという 実験結果が出されている。 現在の実験進捗率は七十五%程度。 残る課題は生ゴミの圧縮に関するもの。 柴田は実験が完成すれば学会に発表することを希望している。 漸く打ち終わった。私はあらかじめ指定された暗号コードを入力した。苦労し て打ち込んだ文書が一瞬にして無意味な記号の羅列となった。小型スピィカァを 取りつける。本部に電話を掛ける。パスワァド確認の後、若い女の無機的な声が 流れてきた。 「ピィという発信音の後にメッセェジを お話し下さい ……ピィィィ」 俺はリタァンキィを押した。小型スピィカァから受話器に向かってギィギィガ ァガァ雑音としか思えない音声が流れ込む。暗号一字ずつ厳密にヘルズ数を定め 音声に変換している。私にはドナルド・ダックの断末魔の叫びにしか聞こえない のだが。ともあれ、使命は果たした。後は工作班の仕事だ。 ●隠滅(山田美貴) 今朝、新聞読んでたらビックリしちゃった。例の農園が火事で全焼したんだっ て。柴田さん一家の全員が焼死したらしいわ。開発プラントも何もかも跡形も無 くなちゃったって。調査に行った時、ご主人に、お会いしたけど、キリッとした 目が印象的で、夢見る男っていぅのかなぁ、強い視線で遠くを見据えてるって感 じでさ。アタシ、惚れちゃってたのに……。アタシより背が高くて逞しくて、眼 鏡はかけてたけど、それが似合ってたのよ。頭良さそうで。それにダブダブの作 業ズボンの中からでもモッコシ存在を主張していた股間……。六歳の坊やも、と っても可愛くって、アタシのこと「お姉ちゃん奇麗だね」って言ってくれたのよ ねぇ。あのお父さんの子供だもん。将来、楽しみな子だったのに。あぁぁ、本当 にイイ男だったのにねぇ。二十七歳よ。二十七。ウチの先生と同じ年。アレが二 十七年も辺り構わず生き長らえてるってのに、あのイイ男が二十七年で逝っちゃ うんだもんねぇ。世の中、ウマクいかないものね。 でもぉ、新聞記事ではビニィル・ハウスの重油ストォブが出荷の原因かもしれ ないとは書いてるけどさぁ、一行だけ、「失火と放火の両面から調べている」っ て書いてるのが引っ掛かるわ。アタシの友達の武田っていぅのに聞いたんだけど、 こぅ書く時って、かなり放火の疑いが強い時なんだって。普通の火事って失火か 事故でしょ。で、放火の場合、放火の痕跡がなきゃ、疑い自体湧かないもんだし。 有機栽培が成功しかけてたからヤッカミもあっただろうしね。出る杭は打たれる って言うし。それとも女絡みかしら。モテそぉだったしなぁ。 ●ミィティング(小林純) あああ、止めてよぉ。その汚いモジャモジャ頭をテェブルの上で掻きむしるの は。せっかく奇麗にしてるのにさ。それに欠伸ばっかしして。 「先生 もぉすぐ美貴さんも来ますから顔洗ってきて下さいっ」 「ふぁあ? ああ そぉしよぉかねぇ っと どっこいしょっと」 昨夜は飲めもしないのに、お酒をガブ飲みして、今朝はアノざま。締まらない ったらありゃしない。ふふ、でも、いつもはベッドの中で横暴なんだけど、酔っ ぱらうとオトナシクなるからイイんだけどね。でも、先生、どぉしちゃったのか なぁ。お酒なんて飲むこと滅多にないんだけど。夜のニュウスで例の農園が全焼 したって聞いて、急に黙り込んで飲みだしたんだけど、何か関係あるのかなぁ。 あ、少しはサッパリした顔になってる。 「はぁぁ シみるねぇ 朝一番の珈琲 今日一日の原動力」 「おはようございまぁす」 「あ 美貴さん おはよぉございますっ」 「モォニン」 「先生 小林君 知ってる? 柴田農園が燃えたって」 「うん 先生と夜のニュウス見てたら流してた 可哀相にねぇ」 「そぉよねぇ 先生と同じ歳でしょ どぉして逆じゃなかったのかしら」 「でもぉ美貴さん 僕 先生の道連れなんてヤだよぉ」 「そりゃそぉよね ほほほほほほ ほ ほ? どぉしたの先生 傷ついた」 「んっ んあっ? え 何が」 「またぁ 小林君と絡んでる白昼夢でも見てたんでしょ このスケベェ」 「あっ そぉだ 先生 例の依頼の謎解けた?」 「あ? ああん んん……」 「やっぱりフケ専って奴だったのかなぁ」 「小林君たら 凄い言葉知ってんのね 専門用語よ それ ねぇ小林君 先生 何か言ってた? 例の依頼のこと」 「ワケ解んないこと言ってたよ ね 先生 あれ? 寝てるよ」 「ねぇねぇ話して」 「でも 凄くショウモナイよ 先生の謎解き だから昨夜 考え直しなっ って言ってやったんだよぉ」 「いいから ねぇ」 「えぇとねぇ…… 先生が言ってるんだよ 僕じゃないからね あの変な依頼主は政府か大手商社の人間で それで あの大きな野菜を見て ビックリしちゃったんだって」 「あたしだって驚いたわよ ねぇ それで」 「あんな野菜が大規模に流通しだしたらね 食糧政策が狂うだけじゃなくって 農業生産国との関係とかぁ 農産物輸入によって辛うじて抑えられてる 大国との入超問題とかぁ」 「ニュゥチョウ?」 「僕も知らないよぉ 先生がそぉ言ったんだ でね この技術が一部の途上国に流れでもしたら生かさぬよう殺さぬようっていぅ 外交政策が崩れるんだってぇ 解る?」 「じぇんじぇん」 美貴さんはプルプルと頭を振った。ふぅわりイイ香りが辺りに広がった。 「今朝はフロォラルだね」 「解る? この おマセさん」 「へへっ でね その他 モロモロの政治的必要性ってヤツのために こんなことになっちゃったんだって」 「ふぅん ってことは 八百政が目的じゃなくって 八百政に野菜を売ってた柴田農園を突き止めるのが目的だったわけ?」 「うん 先生は そぉ言ってた ねぇ どぉ思う この話」 「うぅん 小林君は?」 「いつもの誇大妄想だよ もっとマトモなことに頭使えばイイのにねぇ」 「そぉよねぇ あれ 先生 起きてるの?」 「え 寝てるよぉ こんなダラシない顔して 涎まで垂らせて」 「そぉよねぇ ……でも 泣いてるみたい」 「あ 本当だ あれ なんで?」 「小林君に振られた夢でも見てるんじゃない ねぇ ゲン直しにケェキ食べに行こぉよっ」 「え でも……」 「いいじゃない 先生は溶けてなくなったりしないんだから 行こ 行こ」 「行こっか」 (お粗末様)
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