空中分解2 #3110の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ) ●密命(N氏) 「しかし その程度のことは地元の警察にでも問い合わせれば……」 私は妙な引っ掛かりを感じた。私立探偵に或る八百屋を探らせるなど、苟くも 国家の諜報機関がすることではない。部長は面倒臭そうな表情で、 「そうはいかんよ 結果如何によっては最終手段をとらねばならない 我々 国の機関が動いた痕跡は全く残してはならんのだ 一週間 これがタイム・リミットだ」 「しかし そんな 田舎の八百屋など……」 私は納得がいかず食い下がろうとした。部長は急にいかめしい表情になり、 「N君 これは国家安全保障上 極めて重要な事案なのだ」 そうまで言われたら是非もない。私は気の向かぬまま四国の宇和島という地方 都市に飛んだ。飛ぶと一口に言っても、松山という県庁所在地までは空路、そこ から「汽車」に乗って八十分近く揺られ、深夜に漸く着いた。 私はそのまま伊井暇幻探偵事務所に向かった。本部で調べたところ、この事務 所は「年中無休 二十四時間営業」を謳っていたからだ。いかにも貧弱だが、八 百屋の調査など何処にでも出来るし、もし万一こちらの意図に気付いても消し易 い。俺は広告に記されたアパァトの前で地図を広げてみた。ここに間違いはない。 しかし何処にも看板は出ていない。それどころか「二十四時間営業」の筈なのに、 アパァトの灯りは全室、消えている。私は電話ボックスに入り、ナンバァを押し た。トルルルルルトルルルル……。十コォルもした頃、男の声が送話器から聞こ えてきた。 「はっはいっ いっいいかげんたんていじむしょっ」 息を切らせている。まるで百メェトルを全力疾走した直後のようだ。見ている と、アパァトの一室に電気が点いた。 「夜分に申し訳ございません 私 山本と申します 折り入って お話が…… 勿論 お仕事の話なのですが……」 私は消え入るような声を作り丁寧に話しかけた。もっとも「山本」は偽名だっ たが。少し落ち着いた、しかし甚だ軽い声で男は、 「はいはい よろしいですよ 毎度どぉも」 「あの 今から窺っても宜しいでしょうか 近く迄 来ているのですが……」 「えぇえぇ 結構ですとも お待ちしておりますです」 どう聞いても軽い声だ。明らかに頼りにならない。そう思った時、私の頬には 会心の微笑が浮かんでいたかもしれない。 私は一室のドアノブに手をかけた。何故か開いた。背中を見せていた地黒の男 が慌てた感じで振り向いた。「鳩が豆鉄砲を食らった」時の顔は見たことがない が屹度、こんな顔だろう。まさか電話から一分もせずに依頼主が来るとは思って もいなかったようだ。向こうで小柄な白い影がチラリと視界を横切り、隣室への 襖がピシャリと閉じた。地黒の男は紺のトレェナァに首と腕を通そうと、もがい ていた。まるで腹踊りだ。いっときして落ち着いたか男は、こちらを向いた。澄 ましているが下半身はパンツ一枚だ。男は尊大なふうに、ソファをしめし 「ようこそ 山本さんですね こちらにどうぞ」 私は会釈してソファに腰を下ろすと、すぐさま用件に入った。 「お取り込み中に申し訳ございません 実は のっぴきならぬ理由から 堀端町五丁目の八百政を調べて戴きたいと参った次第です」 「はあ なるほど のっぴきならない のですね」 男は子細らしく頷き手に持っていた使用済みティッシュを背後に隠した。 「そうです のっぴきならないのです で その八百政の人とナリ 商売 取引先など全般にわたって調査して戴きたいのです」 「はぁ 浮気とか何とか限定せずに ですか」 「そうです 八百政のすべて をです」 私は「すべて」の所に力を入れ念を押した。男は妙な顔をした。私だって妙な 気がしているのだが、それはオクビにも出さずに言葉を継いだ。 「私にとって 重要なことなのです」 「はぁ 解りました で 報酬の件ですが……」 丁度その時、ジィンズにシャツ姿、十七歳ほどの少年が茶を持ってきた。身長 は百六十センチぐらい。色白でクリッとした目をしている。紅顔の美少年。仕草 が少し女っぽい。訓練を積んだ私の心も少なからず波立った。 「あ どうも 弟さんですか」 「は? いえ 助手です」 男が戸惑いがちに答える。少年は頬を染め俯きながら自己紹介した。 「僕 小林っていいます ヨロシク」 「はぁ 宜しく 小林君は住み込みなのですか」 「え あ はぁ まぁ えぇと ウチは二十四時間営業だもんで……」 男が何故か慌てた口調で説明しようとした。何かアヤシイ。さっき見えた白い 人影は、或いは彼だったのかもしれない。私は興味をそそられた。だが、ここで 不必要な質問をして警戒させるのは得策でない、と思い直した。 「助手は お一人ですか」 「いえ 小林君の他に 通いの助手が一人います」 「では 二人ですね それは頼もしい」 「ははは なぁに で報酬については……」 男は世辞を真に受けたか機嫌よく笑った。なかなかに単純な男だ。扱い易い。 「五十万 用意しました 前払いです」 「よろしい 妥当なところでしょう 期限と連絡方法は?」 「一週間後の午後五時に伺います これが報酬です お確かめ下さい」 私は用意した封筒から札束を少し抜き出してテェブルの上に置いた。男はチラ と目を遣ったが確認もせず、立ち上がった。 「結構です。それでは一週間後の午後五時に」 「よろしく お願い致します」 ●始動(伊井暇幻) 俺、伊井暇幻。憚り乍ら名探偵。迷い犬なら一週間のうちに見つけ出してみせ る。発見率は百%、ってコトになってる。見つからない時もあるけど、なぁに、 依頼主にゃ「保健所にヒかれた」って報告する。これで大抵、納得するもんだ。 浮気の調査も、お手のモノ。忍者の末裔である俺にとっちゃ、映画みたいな活躍 が似合ってるんだけど、田舎街だから仕方ない。まぁシケた商売だけど、性には 合ってる。 昨夜、助手の小林とヨロシクやってるところに、妙な依頼人が舞い込んできた。 「八百屋のオヤジのすべて」を知りたいんだとさ。少し前だったら、地上げ屋が 脅迫のネタ欲しさに探りを入れるって線も考えられたけど、今時ねぇ。それとも 所謂「フケ専」ってヤツかな。そぉいえば都会モンらしくノッペリした感じの青 年だった。ま、報酬も貰ったしドォでもイイけどね。 朝はイツも小林が俺の腕の中からソッと抜け出すのを感じて目を醒ます。重た い瞼を押し上げると、台所で白く丸く盛り上がった可愛い尻を見せ、珈琲の仕度 をしている。俺はポッカリ空いた腕に布団を抱き込み、十分間だけ余計に惰眠を 貪ろうとする。小林が枕元でバタバタ着替えをする。裸の方が似合ってるのにさ。 小林が俺に飛びついてくる。ピィピィケットルが囃し立てる。小林は起き上がり、 急いで台所に向かう。何時も変わらぬ朝。俺はテェブルに就くと莨に火を点ける。 ニコチンが血管を通って行き、脳を揺さぶり起こす。カップが目の前に置かれる。 暖かい珈琲の香り。この時点で、イツものように山田が登場する。もう一人の助 手。今朝は緑のワンピィスだ。オリィブ色の肌、薄茶の長い髪に似合っている。 スコブルつきの美人だが、俺より十センチは背が高く六尺豊か。 三人が揃うとミィティングが始まる。俺は簡単に昨夜の依頼を説明した。 「で 今 抱えている浮気の調査二件は 解っている事実を小出しにして 依頼主を安心させ条 この一週間は八百政の調査に専念する」 「でも 八百屋さんの調査って専念する程のモノかしら」 山田が珈琲を啜り条、口を挟んだ。 「いや 何か裏があるに違いない だから全力をあげる」 「でもさぁ あの依頼人も チョッと変だったよ」 小林が山田の髪を三つ編にしながら言う。 「だからこそ俺は裏があると睨んだ ヒョッとしたら依頼人の弱みを 掴めるかもしれんしな そうなったら五十万どころか…… へっへっへ」 ●接触(山田美貴) とりあえずアタシは八百政へ買い物に出掛けたの。小林君にエプロンを借りて。 ふふ、若妻に変装。……憧れるわぁ、若妻。アタシより背の高い彼に、尽くして 尽くして尽くし倒しちゃうんだからっ。えぇっと、お仕事、お仕事。あ、アレが 八百政のオヤジかな。もろ嫌いなタイプ。チンチクリンのハゲチャビン、おまけ にビィル腹。どこに出しても恥ずかしくない、じゃなくって、恥ずかしい、典型 的なオヤジ。あぁ、口なんかキきたくないっ。 「あの キュウリ下さいな」 「はいよっ おっ こりゃ別嬪さんだ 何本だい」 「えぇと 3本」 ここで下方三十度で前に腕を伸ばし、掌を返す感じで三本指を立てるってのが 若妻のポイントよ。勿論、顎は引き気味に少しだけ上眼遣い。但し、アタシの場 合、オヤジより二十センチは背が高いからココロモチだけね。 「はいよっ ウチのキュウリは立派だろっ 太くて長くて 奥さん方には大好評なんだよっ どうだい ウチの野菜はドレも大したモンだろぅ これこれ このナス ブッとくて黒光りしてて 年配の方に売れてんだよ 奥さんみたいな大柄な人には コッチの方がイイんじゃない」 オヤジの野郎、無邪気な顔で屈託なく笑ってる。可愛くなんかないわよ。まっ たく、妄想を逞しくしなきゃ勃ちにくくなって、セクハラしたがる年頃なのは解 るけど、ほんっと頭にキちゃう。 「ナスなんか要りませんっ!」 「おおっと ゴメンゴメン 口が滑ったね こりゃどぉも えぇっと どうだい じゃっ このネギ いいだろ」 「あら 大きなネギね 一本貰おうかしら」 「まいどっ 三百二十円 えぇっと 別嬪さんだから三百円でいいやっ」 案外、イイ奴かもしれないわね。このオヤジ。 つづく
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