空中分解2 #3099の修正
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急峻な狭間の底、谷川添いの路。 <ここの空は、青く澄んでいるわ> 女は歩きながら言った。 <うん、空は青い> 男は言った。 女は、大学生、男はこの村の者、二人は同じ歳。 天竜川から和知野川をさかのぼる。谷は深く山は幾重にも急峻に重なる。 谷川に沿った道。上り下り右に左に、杉、桧、松、家は山の斜面にしがみつき、点在 している。山間の少し開けた平地に出る、これが村の中心地。過疎の村。山紫水明の美 しい村。自然のふところに深く抱かれて自然に溶け込んでいる。村の心の拠り所となる 景観。その中心に、二人が出た、小学校と中学校が並んでいる。 女は目指した大学へ。 男は村役場の職員に。先祖から受け継いだ、自然、文化、心、郷土愛をもって未来を 切り開いて行く職員に。妥協?、情熱?。 村の人口は七百六十八人、結婚は一年に一組、離婚も一組、平成二年のデータ。 <覚えている? 学校の階段、上がって行くと青空へ吸い込まれる、感じ・・・> <うん、透明の屋根> 男は女の言うことに答えるだけ、それも呟くように。 <体育館と修学館の、間、垂直な空間に、透明の屋根が・・> <うん、空が見えた> <本館二階から体育館へ、橋渡しの廊下、透明のドーム、学校じゅう見渡せたね> <うん、空も見えた「ハシロウカ」て呼んでた> <雨の日、風の日、雪の日、何時も移動が楽しかったわ、あの「ハシロウカ」> <うん、「ハシロウカ」へ行かない日はなかった> <あの「ハシロウカ」の口へ一人で立つと・・・、何処へ続く架け橋か・・?> 女はそこで口をつむった。男は黙って一歩遅れた。 女は空を見上げた。宙をはしる「ハシロウカ」二十一世紀へと続く架け橋をイメージ させる光景、設計者の意か、二十一世紀はもう間近か。 女が口をつむったのは、放課後、人気の無い校内を歩いて、「ハシロウカ」の口へ出 た印象が頭をよぎったから。透明なドームに覆われた橋の廊下は、眩しく明るかった、 しかしその奥は体育館、体育館に間違いないのに、体育館は見えない、薄暗く霞んだ空 間でしか無かった。踏み込もうとする廊下は、あまりにも明る過ぎた。 <・・・あそこにも空が欲しかった> 女が呟いた、男は、また一歩遅れた。女は上って行くと大空へ吸い込まれる感じの学 校の階段が好きだった。この階段を昇って最初に卒業した生徒の二人。村の人達一人一 人が、村を愛する心で力を合わせて、新しく建て替えた学校。未来に向かって大きい呼 吸を、明るい未来のメッセージが聞ききたくて。大空へ吸い込まれる感じの階段を上が った、空に向かって、希望に向かって。 空も色々。 重く灰色の雲が垂れ下る空、雨の日の空、雪の舞う空、その上に青空があると女は信 じていた。空に「大学」の文字が浮かんだ間は。今は違う。大学生になった今は、東京 の空は、白く不透明、その上に澄んだ青空があると、信じょうと努めても、だめ、倦怠 が覆うだけ。「ハシロウカ」みたい、気付かずに飛び込んだ眩しく明るい廊下の、大学 は、中程までは佳かったが、残りは、急いで渡れない。先に広い自由に活動の出来る広 場があると判っていて、それでも。大学の廊下は、何故? 恐いの? わからない。 女は、空を見に、確かめに、村へ戻ってきた。 青く澄んだ空はあった、しかし、何も語らない、教えてもくれない。 女は立ち止まり、男を待って、肩を並べた。男の心、胸の内、考えている事を知りたい と思った。すると歩きながら肩が自然に並んだ。何も語らなくても女は肩を並べて歩け ることを知って、黙って歩いた。 男が言った。 <どうかしたのか?> <いえ、別に>今度は女が呟くように言った。 <おかしいよ> <どうして?> <何かあったのかい> <何もないわ> <なら、いいけど。何で今頃帰って来た> <青空が見たくなって> 女は笑顔を見せて明るく言った。 <青空? そんな、空なんて何処でも見える> <東京の空は白いの、いえ、少し灰色掛かった白ね?> <驚いた、空を見に、わざわざ> 男は笑った。女は首をすくめて微笑んだ。 <そんなことして遊んでたら卒業できんぞ、大学出て何になりたい?> <それ、それなの、公民館で雇ってくれない、村長さんに頼んでおいて、きめた> 女は髪を風になびかせて走りだした。 男も走った。二人の肩は並んでいた。 終
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