空中分解2 #2823の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
おまえは、かわいくない。 昔、そんなことを言われた記憶がある。 鏡を見ながら、ふと、そんなことを考え始めた。 「かわいくないよね?」 と、自問する。前髪が少しうっとおしい。 右手で前髪をかきあげると、あまり自信のないオデコが見える。 そういや、お姉ちゃんってオデコを出すのが好きだったな。 『髪の毛で隠すのって好きじゃないの。自信があるわけじゃないけど、わたしの顔は 純粋に人にさらしたいからね』 お姉ちゃんはたしかそう言ってた。笑顔が映えるのもその為だったかも。 そういや、わたしはなんでもお姉ちゃんとは正反対だったな。性格も、趣味も、髪 型も。 前髪垂らす方がわたしは好きだけど、時々うっとおしくなることもある。 人見知りが激しくて、泣き虫なわたしを変えてくれたのは、やっぱりお姉ちゃんだっ たのかな? いつからだろう?わたしに人並みに友達ができたのは。 「おはよう」 挨拶をかけてくるユミに向かってわたしは不機嫌に挨拶を返す。頑固に意地を張り つづけてもしょうがないことはわかっている。だけど、感情がうまくコントロールで きない。無愛想な顔で彼女の横を早足で通り過ぎる。 無責任な話だけど、わたしの感情はわたし自身の制御を離れてしまっている。自分 でもどうしていいかわからない。暴走し続ける感情を止めるすべはないようだ。 ただ、時間が解決してくれるのを待つしかない。しかし、時間と引き換えにもっと 大事なものを失ってしまうかもしれないが。 校門の前まで来て、わたしは校舎を見つめる。一瞬、エスケープという言葉が脳裏 をかする。だが、それは現実を前に完全に打ち消された。 休むわけにはいかない。それは、感情を越えた何かがわたしの身体を動かしていた のだ。 教室に入る。いつもの雰囲気。 でも、何かが違う。 わたしに気を使っているのか、わたしを恐れているのか、ユミとノンコとミリィは 近づこうとしない。それはそれで正しい選択だと思う。わたしはこれ以上醜い姿をさ らけ出したくないから。 もう何も考えたくない。 嫌なことは忘れて勉強に集中したい。 たとえ、何を失っても、わたしは…………………… 雨が降る。 食欲のないわたしは、教室を出て階段の踊り場の窓から一人静かに雨を眺めていた。 「硫化硫黄物……だっけ……試験に出るかなぁ、酸性雨のこと」 わたしはひとりごちた。 しばらくぼんやりしていたわたしは、ふと人の気配を感じて後を振り返る。 「アンコ。…らしくないよ」 微笑みながら優しい声でそう語りかけてきたのはノンコだった。 「ノンコ」 わたしはぼーっとしながらノンコを見つめる。人懐っこい瞳。ちょっととろい所も あるけど、気はいい子。 「笑ってよ、アンコ。そんな不機嫌な顔似合わないよ」 ノンコの口調はあくまでも優しさを保ち続ける。 「ほっといてよ」 口から勝手にこぼれてしまう。ほんとは言いたくないのに。この子に八つ当たりし ても何も解決しないことはわかっているのに。 「ユミも反省してるみたいだし、わたしも謝る。ゴメン」 なんでノンコに謝らせてしまうのだろう。悪いのはこの子じゃないのに。 「関係ないの」 それでもわたしは、意地を張りとおす。 「関係ないなら、元のアンコに戻ってよ」 「元も何もないわ。これが本当のわたしよ。無神経でかわいげのない嫌な奴よ。いま までのわたしの方が偽りだったのよ。本当はもっと醜くて、いやしくて……」 わたしは自分で言った言葉に落ち込んでいく。今までの自分は偽りだったというこ とを証明するかのように、自己非難の言葉はあとを絶えない 「そんなことないよ。アンコはあたしたちの知ってるアンコよ。それが偽りだなんて ……そんなことないよ」 「わたしはもうだめよ。もう」 なんだかやるせない気持ちでわたしはノンコに背を向けた。 どうしてこんなに意地になるのか、自分でもよくわからない。どうして、感情が制 御できなくなったのか。 もしかしたら、みんなへの甘えの裏返しなのかもしれない。優しさに甘えて、それ で何かを紛らせようとしている。 そう。 みんなとはもうすぐお別れ。 いつかはみんなバラバラになるって、わかってたつもりなのに。 「ごめん、ノンコ。……でもね、今はほっといてほしいの」 やっと出た言葉。 ほとんど素のままの、感情すら込められない冷たい科白。 「なんか嫌なことがあったんなら、いつもみたいに愚痴にしてあたしたちこぼしてい いんだよ。みんなさぁ……」 「ほっといてって言ったでしょ!」 ノンコのいつものとろい口調がわたしの感情を逆撫でする。思わず振り向きざまに 彼女をにらむ。 「アンコ。忘れちゃったんでしょ?」 泣きそうな顔をしてノンコがそうつぶやく。でも、わたしにはなんのことだかわか らない。何を忘れているのだろう。 「アンコが教えてくれたんだよ」 泣き顔にするまいとわざと作り笑いを見せるノンコの姿はけなげでもある。 でも、わたしなんか教えたっけ? ……わからない。もう、どうでもいいそんなこと。 わたしは無言でノンコの脇を駆け抜けていく。 一人寂しく家路を歩くわたし。 いつもはミリィが一緒なんだけど……そういや、彼女も少し前までは進学組だった んだっけ。わたしなんかと違って、親に付属高への進学を決められていた。 かわいそうなぐらい抑圧されちゃって、一時期ノイローゼ寸前までいってたみたい。 でも、憧れの人が現れたことで、それが強さにつながっていったのよね。 今じゃ、親を説得して城高を受験するらしいけど。 安易だとは思わなかった。わたしだって付属高への進学は城高を受験するミリィと 似たようなものだもの。 わたしが付属高へ行きたいのは、お姉ちゃんへの憧れ。 お姉ちゃんが卒業した付属高へ通うことがわたしの第一の目標。 わたしを変えてくれたお姉ちゃんに……あれ? 結局、昔のように嫌な子に戻っちゃったのよね。 みんなに嫌な思いをさせちゃって。 ノンコのこと傷つけちゃっただろうな。 なんで、あんなこと言ったんだろう。 やだ。 わたしがお姉ちゃんに憧れていたのは何のため? いまさら自問しなくてもわかってるはずでしょ? でも、どうしてみんなに優しくできなくなっちゃったの? いままで、少しくらいの傷なんて苦痛に感じなかったのに。 お姉ちゃん。 わたし、どうすればいいの? 多分、夢の中だと思う。 わたしの目の前にわたしがいる。 まだ幼い、かわいくないわたしが。 「お姉ちゃん。お姉ちゃん」 いつものように泣きながら家の中をさまようわたし。 「杏子。そんなに泣いたらきれいな顔が台無しよ」 お姉ちゃんの優しい声が背後から聞こえる。 「お姉ちゃん」 ハンカチで幼いわたしの涙を拭きながら鏡台の前へと連れていく。 もうかなり古びた三面鏡。祖母が使っていたという由緒あるもの。 鏡に映る幼いわたしはどこか無愛想で、かわいげがない。 幼いわたしはそんなことを自分でも承知してか、下を向いたまま鏡を見ようとしな い。 「杏子。お姉ちゃんが、幸せになれるおまじない教えてあげる」 ふわっと、わたしの頭に手をのせるお姉ちゃん。 「おまじない?」 幼いわたしは好奇心まるだしでそうつぶやく。 「そうよ。これを毎日繰り返せば、今よりずっと幸せになれるのよ」 お姉ちゃんの語り口は、幼いわたしにしてみればとても魅力的で、なんでも叶えて くれる魔法の呪文のようにも感じていたのだろう。 「ねえ、教えて教えて」 さっきの泣き虫はどこへやらって感じで、幼いわたしはすっかりお姉ちゃんの魔法 の虜だ。 「教えてあげるから、鏡に映った自分の顔をよく見て」 幼いわたしは、ためらいがちにちらりちらりと鏡を見だす。 「そんなんじゃだめよ。真正面向いてちゃんと見なさい」 「わたし、お姉ちゃんみたいにびじんじゃないから」 幼いころから、自分に負い目を感じていたわたし。 「あら、杏子はお姉ちゃんの妹でしょ。姉妹なんだから杏子も美人に決まってるじゃ ない。さあ、鏡を見て笑ってごらん」 「できないよ」 「何か楽しいことを思い出して、笑ってごらん。一番いい笑顔を鏡に映してごらん」 幼いわたしは不器用にニッと笑う。だが、あまりいい笑顔とはいえない。 「無理してなんか笑えないよ」 「初めは作り笑いでもいいのよ。そのうちだんだん、心の底からいい笑顔が作れるよ うになるの。一種のイメージトレーニングなんだけど……あ、杏子にはちょっと難し かったかな」 「いめえじとれいにんぐ?」 「簡単に言えば、お・ま・じ・な・い」 お姉ちゃんは茶目っ気たっぷりにそう説明する。 「わたしもお姉ちゃんみたいになれる?」 幼いわたしの目は輝いてた。理想そのものであるお姉ちゃんを見ながら育ったわた しは、ずっと憧れを抱いていたのだ。 「なれるよ。うん」 お姉ちゃんの笑顔には偽りはなかった。この笑顔は本物で、今までずっと追い続け ていた理想なのだ。幼いわたしと心がシンクロする。 うれしい時だけじゃない。悲しい時だって、とっておきの笑顔を持ちつづけていた い。そう誓ったあの日。 そうだ……忘れてた。 急激に目覚めたわたしは、ベッドからばさっと起き上がる。 「……思い出した」 記憶の断片をつなぎ合わせながら、ひとりごちた。 わたしが変われたのは、あのおまじないのおかげ。 こんな大事なことを忘れてしまうなんてどうかしてる。 心に余裕がなくなる時こそ、あのおまじないが役に立つのに。 憧れを変形させて意地になって固執していたわたしは、その本質さえ忘れていた。 付属高に入れなくなって、お姉ちゃんへの憧れは達成できるはず。 もう少し、余裕を持たないとね。 そうだ。明日、一番でノンコたちに謝らなくちゃ。 いつかはバラバラにならなくちゃならないけど、わたしにとって大切な友達だもん。 こんなかたちで失いたくない。 ごめんね、ノンコ。 ごめんね、ユミ。 ごめんね、ミリィ。 みんな大好きだよ。 END
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