空中分解2 #2764の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ぱらん、ぱっぱっぱっ 数台のバイクと単車が、窓の外を通り過ぎていく。暴走族とか、最近では「ロ ーリング族」などと呼ばれる集団は、かなりけたたましい音をたてていた。 「やあねぇ」 「うるさいわよね」 その声は更紗の裏に座っていた、女4人組から聞こえてきていた。少々派手な 女子大生か、OLと思わせる集団だった。その声を聞いて、ほんの少しだけ更紗 の顔から笑いが消え、静かに水をこくりと飲むと外を見つめた。 「あの人達は確かに、他人に迷惑をかけているけど、その事実を知っている。他 人に迷惑をかけていないと思って、人を傷つけていることに気づかない人と、そ れほどかわりはなんてないと思う」 後ろの人に聞こえているかどうか解らないが、明らかにその人達に対しての言 葉のようだった。 「あの人達はああするのが普通だったり、楽しかったり、ほかのことから逃げた かったりしてやっているのだけれど、そういう風にはとれないものかなぁ」 更紗はかつて、暴走族との交流もあった。それで知ったのは、相手もやっぱり ごく普通の少年少女達でしかないということだった。別にかわいそうでもなけれ ば、恐そうでもない、いきがっているけど、ほとんどは優しい。 確かに迷惑はかけている。でも、誰もが人に迷惑をかけている存在だというこ とを知り、そして、遠くに存在するように見える彼らのことも、やはり同じなの だと思う人が一人でもいないものなのだろうか、と更紗は思うのである。 知性とはすなわち、相手のことを思う想像力と、先を読む思考力のことではな いのだろうか。 「心との戦いにはぬくぬく育った人達よりは、よっぽど一生懸命に生きているん だけどね」 暴走族は、しばらくしてふたたびガラスの前を通り過ぎていった。その時、更 紗が大きく手を振ると、向こうからも手を振りかえしてきてくれた。店内はちょ っとびっくりしたように、更紗のもとに視線が集中した。 「知り合いでもいらしたのですか?」 「いないよ」 「じゃあ何で」 更紗はにっこり笑った。 「やってもらうと、嬉しいのよ」 バイク乗りは、旅先でよく他のバイク乗りにピースサインをおくって、挨拶を 交わす。それはけっして礼儀ではなく、お互い共感して交わしあうもので、その 一瞬だけ孤独から解放され、すっかり嬉しくなる。 更紗の行動はそんなところらしいが、芳春にはまだ少し理解し難かった。 やがて外はもとの静けさを取り戻し、店内も喧噪を取り戻した。ただし、4人 の女組の声だけは静かになっていた。 更紗に賛同して声をひそめた子。恐いと思った子。言い分に怒った子。 いろいろいるのだと思う。 でも、いろいろな人の気持ちを考えて欲しい。 いま人が増え、情報が増え、横にいる人のことを考える暇がなくなってきたか ら。 更紗はそのことが言いたくて、小説家になったのだから。 お腹も満足して、二人は帰路についた。 バイクが走り出してもさっきほどは恐くなく、芳春はあたりを見回すぐらいは できるようになった。そうなると、灰色のアスファルトがすごい勢いで流れてい くのが見えた。そして、外灯がひとつ、またひとつと遥かうしろへと通り過ぎて いく。 「更紗さぁーん!」 一回目は更紗にとどかなかったが、二回目の呼びかけには気づいてくれた。 「なに?」 速度が少し落ちて、風の音が優しくなった。 「今日の男の子はなにを、伝えに来たのですか!」 「えっ、なに? あの幽霊のこと?」 「そうです!」 「あの子はね、筋ジストロフィーで指一本動かすことのできない子だったんだっ て! それで両親に、看護婦さんに、医者に迷惑をかけるばかりの存在だから、 早く死にたいってそればかり考えていたんだって!」 バイクは町並みを抜け、山あいのワインディングロードへと移っていた。他に 車もなく、バイクもなく、優しくなった風の流れに身をまかせながら、カーブを ゆるやかに抜けていく。 ぶろろ、と一定の振動も気にならず、いつしか空を飛んでいるような気持ちに なってきた。林がすごいいきおいで抜けていくのに、星はいつまでも目の前に光 っている。そして、ほんの少し、更紗から柔らかな石鹸のような匂いがした。 「だけれども、指一本動かせないから自殺することができない。それで考えたす え、食べることを拒否したんだって。点滴とかで栄養は補給されるけど、体はみ るみる衰弱していって、本当にそのまま死んでいくはずだったらしいの」 カーブを曲がると、そこからはずっと下りの道となった。そして、光の粒が眼 下に広がった。自分の住んでいる街。自分の育った街の、あたたかい家の光。長 くゆるやかになった下り道が、ずっとその街へ吸い込まれるように、長く、太く、 続いていた。 「ある日、いつものように必死にスープをお母さんが飲ませようとしていたのを、 ただ固く口も目も閉じて反抗していたんだって。でもとうとう、お母さんがこら えきれずに泣き出してしまったの」 静かに、子守歌のように更紗の声が流れゆく。ただもう眠たくて、意識だけは っきりしているのに、夢の中にいるようだった。 光が不思議なほど柔らかく、アスファルトを照らしている。きれいな、きれい な路面。 「その涙がぽたりと顔に落ちたときに、もうこれ以上お母さんを苦しめることは できない、そう思って、一口だけスープを飲んだんだって。そうしたら、お母さ んが、そんな大声のあげたことのない人なのに『看護婦さぁーん! この子が、 この子が飲んでくれたの!』って叫んで、みんなで喜んでくれたんだって。その 時にね、何の役にもたたない自分でも、生きているだけで周りの人が喜んでくれ るんだ、無駄な人間ではないんだって、気づいたんだって。それを他の人にも伝 えたくて、私のところに来たの」 世の中に何の役にもたたず、むしろ迷惑ばかりかけている人間でさえ、無駄な 人ではないのだと言うことを、伝えたい。 かかわっている人がいるのなら、生きて。 頑張って。その時がくるまで。 一生懸命生きていれば、きっといつか何かを得ることができるのだから。 家についたとき、芳春は眠りについていた。 夢を見るような、安らかな寝顔で。 すべてのことを、その小さな胸にひめながら。 更紗は微笑み、二人を縛っていたロープをほどくと、芳春を優しく抱きかかえ た。 月夜の晩の、そんなお話。 ------- 後書き ------- 今回は少々ボルテージが低いかも、とも思ったのですが、しょうがない。 どうしても起承転結のととのった「物語」と言うよりは、「日記」ものを 書きたいらしいのです。でも、その中でも凄いものを、鮮明に頭の中に残 るようなものを書きたいのですが……なかなか上手くいかないものです。 今の理想は、芥川龍之介氏の「トロッコ」と「蜜柑」なのですが、試験 的な試みも読み返してみればまぁったく効果をはっきしていない。頑張っ てやる。 それでも、この作品は、作品化したかった。 ここでお断りしなくてはいけないのですが、最後にでてくる「筋ジス」 の少年の話ですが、学陽書房出版・関根正明著「『教師を辞めたい』とき に」に書かれていた話をもとに書かれた実話です。この本の価値を下げる 行為ではないと思っているのですが、何らかの問題が生じた場合は、すべ ての責任は僕にありますことをここに明記しておきます。ただもう、本当 にこの体験談を少しでも多くの人にちらっとでも読んでもらえればなぁ… …と思い、作中に取り入れました。 そして、暴走族に手を振る行為は、僕の後輩がじっさいにやって見せ、 少々ショックを憶えたものをもとに書いています。寂しいのでしょうね。 心のどこかは。 更紗のいろいろな設定が出てきましたが、これはまたきっと、これから の話に関係してくることでしょう。 もういまさら遅いのですが「月夜話」と言う題の由来は、「月夜の晩に 読んで欲しい、そんなお話」なのです。だから別に、作品中にかならず月 夜の晩が関係してくるような規則はまったく作る気はないのですか、でも 実際に月夜の晩がよく出てくるだろうな、とは思っていました。好きです から。 そして、日記のような、よくある話をいろいろな事件とからませながら、 真剣にみつめ、書き続けていきたいと思っています。 そんなたわいもない作品ですが、次を待って下さる人がいれば、これ以 上の喜びはありません。(^_^) それでは、また。次の作品で。
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