空中分解2 #2726の修正
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「みなーみさん!おはよっす」 みなみが試聴室で選曲をしていると、東京レコードの宣伝マン村中が入ってきた。 「あっ村ちゃん、こんにちわ。新譜?」 「クリスマスソングだよ。今年のは絶対いいと思うな、オンエアしてよ」 「いいわよぉ」彼女がヘッドフォンを半分はずしたまま、返事をした。 「またあ、聴きもしないで返事ばっかりいいんだもなぁ、今じゃ札幌にみなみあり。 天下のディレクター・神崎みなみさんに気にいって貰わなきゃ、話になんないので すよ・・・・」村中が思いきりみなみをおだて始めた。 「なに言ってるのよ村ちゃん、それまで言うかな?」とみなみが呆れていると「お 願い・・・・オンエアを書いて出すの・・・・部長がさ」と村中が手を合わせた。 「いいわ、丁度今〈クリスマス特番〉の選曲してたから紹介する」 「やったあ!助かります。お礼に今晩どう」 「いいな・・・・あらだめだ。昨日のインタビューテープの編集。朝帰りかなまた」 「そりゃまたカワイソウ」 「・・・・でしょ、ごめん!」みなみが手を合わせた。 「じゃ頑張って!」言残すと、彼は部屋を出ていった。 「・・・・あと番組もうひとつか、やんなっちゃうな。・・・・ねえ横チン!」 となりの試聴室でヘッドフォンを掛けている横田をつっついた。 ヘッドフォンを首にかけ、横田がしきりから顔を出す 「ん?なに」 「つまんないよー」 「なんだよ、いきなり」横田があくびをするように体を伸して言った。 「『演歌でGO!GO!』の後番組」 「ああT−WAVEの番組になっちゃったんだよな」 あれから、あの番組はT−WAVEの番組にすりかわってしまったのだ。 ネット局というのは、基本的に、そのすべての番組を自局で制作する程の予算は ない。よって九○%のローカル局は、T−WAVEなどの中央からの電波をまずま るごと買いつけ、それを軸として番組の編成をするのだ。 ネットしただけでは、ただのアンテナ経由、中央の電波を流してるだけに終る。 その地域の特色もなにも出せない訳だ。つまり、T−WAVEのすべての番組の 中から、いくつかの番組を外し、その番組のかわりに自局制作の番組を挿入して、 カラー付けを計るのである。それがノースFMでは『演歌でGO!GO!』であっ た筈なのだが。 「あの番組、全然前より評判いいみたいよ」みなみが口を尖らせた。結果的には彼 らが番組など作らなかった方が良かったという事になる。 「制作費のムダ遣いよ」 「う〜ん、でもな。それ言ってたら終りだよ、俺達いらないもん」 「だから悔しいのよね。それにこのクリスマス特番もつまんない」 彼女が台本をぴらぴらと見せた。 大通り公園から公開放送をするという事で彼女も張切っていたのだが。 「そんな事ないんじゃない」 「ううんこの英語、デビッドがキチンと書いてくれたのはいいんだけど、私意味わ からないのね。カッコばっかり、聴いてる人もわかんないのに」 「そう?」横田はそれを、ちょっと新しいと思っていた。アメリカ人である男性D Jがすべて英語で日本人女性に話しかけ、その英語を彼女が理解した上で、日本語 で答えるという主旨の番組だ。 「英語は解らなくてもいいんだよ」横田が当り前の様に言った。 「結局T−WAVEの真似で負けてる。私こういう番組やりたかった筈なんだけど、 演歌でおかしくなっちゃったのかな?全然わかんないわ」彼女が鉛筆をクルクル回 しながら呟いた。 「でもT−WAVEは凄いぜ、やっぱり。札幌でそーいうのないもんな」 「北山さん、私の番組の事、なんか言ってなかった?」 みなみが彼の目をのぞき込んだ。 「また北さんかよ。北さんは恒例の大晦日特番があるだろ、みなみの事なんか考え てる暇ないよ。それに今更天下のみなみさんに文句はないんじゃない?」横田がい った。みなみが「だって・・・・」と唇をすぼめた。 § 大通り公園に小さなクレーン車が出没し、その並木のすべてに電燭を取付けてい るようだ。そろそろ雪でも降出すのか、どんよりとした空が会議室の窓から見える。 「みんな集ってるっていうのに、何やってんだ北山クンは、電話しろ電話!」 なにやらシマキンが怒っている。 「多分釣りかなんかしてるんじゃない?横チン」とみなみが彼に耳打ちした 「年末の特番企画まだ決ってないんだよ。あの人さ、だいだいみんなで打ち合せし てなにかを決めるのなんて大嫌いだろ」 「でも、だからってすっぽかしちゃうの?」 シマキンがいかにも落ちつかない様子で貧乏ゆすりをしていると、電話が鳴った。 みなみが立ち上がり、それを取った。 −−神崎さんに外線ですよ、2番に回しました。 彼女がシマキンに「失礼します、私に電話で」と許諾を得ると、シマキンはもう 待てないとばかりに、会議を中止し「北山クンに連絡とれたら、僕に電話するよう に言ってくれよな、もう全部僕の責任になちゃうんだから、管理職は辛いよな」と 席を立った。 彼女が「モシモシ」と電話にでると、なんと当の北山である。あわてて彼女は掌 で受話器をつつむと、会議室を出ていくシマキンに背中を向けた。 −−どうしたんですか? −−シマキン怒ってるか? −−あたりまえです、怒ってます・・・・中止です −−出れるか今? −−外に?出られない事はないです、半日会議の予定が没ったんですもん。 −−恵庭に来いよ −−恵庭? −−釣りだ、釣り −−そ、そんなあ −−いいから来い、駅に行って待ってるからな。 と彼は言放つと電話を一方的に切ってしまった。横田が何事かと寄って来たが、 急な打ち合せだと言残し『しょうがないなあ』と彼女は局を飛出した。 「へえー北山さん、いつもここで釣りしてるんですか?」 彼女があたりを見回しながら言った。雪はいくらか降ったようだが、まだ積るま でに至っていない。 あたり一面の熊笹の葉を、雲間で輪郭を失っている太陽が鈍く光らせている。 「釣りはやめたよ」北山がいいながら川面を指さした。何か魚のようなものが光っ たのが、みなみにも見えた。 「じゃ何を?」 「ただ座ってる。一度みなみには見せてやろうってな」 「でも、わざわざこんな時に・・・・」 ここまで、みなみを引張ってきたからか、さすがに言い辛そうに「はは、シマキ ンがカンカンか?」と北山が尋ねた。 「アオスジたてたあとに−−管理職は辛いよな」 みなみがシマキンの口癖を真似た−−笑いながら北山が川面に小石を投げる。 「どうするんですか特番」とみなみが責めるような口調でいうと、北山は「全然、 だからここで考えてる。全然面白くねえな最近のノースFM。どうしたらいいのか? みなみのクリスマス特番もつまらなかった」といって、また川面に石を投げた。 「・・・・す、すいません」 「いや、責めてんじゃないよ」 「お前いくつんなった?」 「もうすぐ二十五です」 「そうか」 「北山さん、私なんかよりまだ若いぐらいな感じですよ」本気で彼女はそう言った。 北山が歳を気にするなんておかしいと思ったのだ。 「お前は頑張れよな」 こんな場所にいるせいか、いつも豪放な北山が、いつになく真面目に言った。 「なんか、北山さんいつもと違う」と彼女が含み笑いをすると「はは、そうか・・・・ ヘンか」と北山も苦笑いをした。 「・・・・あらっ、何?北山さん!」みなみが上を見上げて指さした。 五mぐらいの長さの細い絹の糸のようなものが、川面から湧出たようにキリッと 空中に斜に静止している。 「雪迎えだよ」 「雪迎え?」 じっとそれを見てみると、それは一本ではない。次第に数を増し見ている間にも 数十に増え、それがキラキラと陽射しに光りながら、天に昇るかの様に舞上がって ゆく。 みなみが「・・・・すてき」と小さな声でいうと「あれが出ているから来いと言った」 と北山がにこにこして答えた。 「何ですか、あれ」 「空を飛ぶクモだよ」 「雲?」 「いや虫のクモ」 「クモの糸なんですか?」 「そうだ。冬の始めかな、晴れた日−−それも風のない日に出る。最近ではメッタ にみれない。多分、クモも上か下かについてる筈だよ。種族保存という事なのだろ うけどな、よくわからない。あれがこの川にこうやって立つと、雪も本格的に降出 すという事だ」 「へぇぇ、それで〈雪迎え〉ですか・・・・誰が名付けたんだろう?」 「知らない、東北人が名付けたとも聞いたけどな」 「ホントに幻想的・・・・」みなみが胸の前で手を合わせると、北山が「お前、あれは 神様じゃないんだからな。でもよかった、見れてな」と笑った。 「シマキンに言っとけよ、明日会議やるって」 「はい、わかりました。期待してますから北山さん」 はっぱをかけた彼女に「お前もいっちょ前に・・・・」と北山が言出すと、それをさ えぎるように、みなみが「そうです、なめてたら痛い目にあいますよ」といい、手 を口にあてて笑った。北山が彼女を頭をこづいた。
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