空中分解2 #2725の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
§ 北さんの番組を受継ぐやいなや、彼女はターゲットに、よりによって超大物の日 高飛馬をおいた。しかも、北山からみなみに、ディレクターが変っての初の生本番 に、それを実行しようと計画した。すぐ実行してしまうのが、いいもわるいも、ま たみなみという事だ。 彼女は番組リメイクの為とシマキンに了解を得た軍資金を出張費に転嫁し、与え られた一カ月の休暇を、彼のコンサートツアーを見る事に費やした。その賭けが出 来るかどうか−−彼の人間性を確かめてみたかったのだ。 彼のコンサートは曲間の話しこそ少なかったが、思いがけず〈環境保護〉を全面 に打出したものであり、その売上を保護団体にすべて寄付するという主旨のもので あった。当初彼女はその裏に打出しの為のポーズ−−というか嘘くささを感じてい たのだが、それも数度コンサートを見ると、彼が決して嘘ではなくピュアな気持ち から、その行動を起しているのだと、思うようになった。 彼女がそんな彼のコンサートツアーから札幌に戻ると、札幌にはまた雪が舞い始 める季節が訪れていた。 「初めまして、わたくし神崎みなみと申します。まさか日高さんが私の番組に出て 下さるとは思いもしませんでした−−感激してますっ!」 ついに彼女にその日高飛馬を迎える日が来てしまったのだ。コンサートをいくつ か見たと言っても、彼とは言葉をかわすチャンスもなかった−−いくらなんでも緊 張をかくせず、思わず大きな声になって挨拶をした。 −−付添ってきたマネージャー氏が名刺を取出し挨拶をして「神崎さん、この番組 はどういう番組なんですか?彼、何をしゃべればいんですかねぇ」と尋ねてきた。 みなみは直接飛馬と話しをしたかったのだ。見た限りではこのマネージャーにわ かってもらえそうもない。とりあえずは「しゃべりたい事をお好きに−−」と突放 して様子を伺った。 しかし「あの・・・・パーソナリティーとか司会とかは?」と、それでもまだマネー ジャーが内容を尋ねてくる 彼女はもう一度「司会者はおりません。三十分後から二時間の生放送です」と突 放すと、案の定「ええっ二時間?司会者なし?」とマネージャーがびっくりした。 飛馬はなんの関心もなく、少し離れた場所でリズムととっているかのように体を 揺すっている。どうやら直接本人に相談はさせてくれないようだ。 みなみは『しかたない』とばかりに「下にオープンのジープが止めてあります、 私が助手席でマイクを持ち、日高さんに運転してもらいます・・・・でウトナイ湖に向 いながらインタビュー。それから湖畔でまた一言頂きます」と一気に番組の内容を 言ってのけた。 マネージャーがとうとう怒りだした。彼女はマネージャーの顔もみずに、ひたす ら飛馬の方を見、この話しにノってくれるように念じていた。 最悪ダメであればフツーに番組をやろうと、台本も用意はしてあるのだが、それ にしても当の飛馬まで怒らせてしまえばオシマイである。 すると、思いがけずしばらく沈黙を続けていた飛馬が「面白いなあそれ、大森」 と言出したのだ。 『やったー、成功だ』と彼女は目を輝かせ「ありがとう御座います!日高さん。そ れじゃ早速時間もないので−−」と、彼を外につれ去った。 「はっはっはっはっは」と笑っている飛馬に、彼女がジープのキーを渡すと、彼は 「気に入ったよ、みなみさん」といいながらジープに飛乗り、エンジンをかけた。 ホッとした彼女は、やっと通常の自分を取戻し「すいませんでした突然」と一応 あやまり「スレスレで怒りそうでしたか?」とおそるおそる尋ねた。 「いや」と彼は答えながら前方を指さした。 「あっスイマセン、取りあえず大通りを抜けて下さい」 彼はジープのギアとクラッチの繋ぎをひととおり確かめると、目の醒めるような 急発進で雪を蹴散らし駐車場を飛出した。 あわてて後ろに待機していた中継車が、彼のジープを追いかけてくる。 彼女が助手席であわただしく放送用のマイクをセットしていると、彼が「雪大丈 夫なのそれ?」と尋ねて来た。彼女は「それより飛馬さん、雪大丈夫ですか」と尋 ね返した。 大して雪は降っていない。少しばかりの雪はクルマのスピードで上方に飛ばされ、 二人のところにはこない。道にも雪はまだ積ってはいないが、さすがに日陰の部分 は凍り付いているようだ。 「ははは、おかげでいい気分転換が出来る、ツアーに出てもホテルと会場の道しか 知らないからね」 「だったら良かったんですけど」彼女が後ろの中継車にOKサインを出した。 「なんだ中継車のお守りつきかよ」彼がバックミラーを見て笑った。 「そうです、このままじゃ電波飛ばせないんです」と彼女が申し訳なさそうに笑い 返した。 「あっその角曲って下さい、あとはしばらくまっすぐです。千歳空港を抜け苫小牧 方面に向います」 彼がステアリングを回しながら彼女を見た「さて何を話そうかな?」 「お好きな事をなんでも−−」 それを聞いた彼はひとしきり大笑いをし、急に小さな声で『まったくなぁ』と呟 いた。彼女が聞き取れないでいると、彼はまた若干声を上げて話し始めた。 「最初は誰でも新人だろ、回りが全部偉い人ばかりというか、目上だろ。レコーデ ィングの時でも何でも、言いたい事いわれ放題だよ」 「はい?」 「少しばかり人気が出てきて、初めて好きな曲をアルバムに出来て、コンサートも 好きにやれる」 「素晴らしいですね」彼女はにこにと相づちをうった。 「え?素晴らしいか、うん素晴らしいんだ、好きにやれるからね。でもな最近は誰 も俺に文句も注文も言わないよ」 「レコード会社とかプロダクションの社長もですか?」彼女が意外そうに尋ねた。 彼はうなずいて「移籍がこわいんだろ。でもな、誰もいいも悪いもいわなくなっ たここからが俺が本物かどうか問われる時期なんだ。ここを乗越えないと俺は人間 として一流じゃないんだ。環境保護だって嘘っぽいけど本気だよ」と答えた。 みなみにもなんとなく、頂点に立ってしまったスターの孤独がわかるような気が した。〈自信があって〉〈恐くて〉〈寂しいんだナ〉と思った。 「みなみさん、そんな俺に注文つけたろ、だからノったのさ」 飛馬が彼女の肩に手をかけて笑った。 雪はあいかわらずパラパラと降っていたが、そのまま番組は本番に突入した。 そしてその本番のウトナイ湖湖畔で、普段はあまりしゃべらずにマスコミ嫌いで 通っている彼が、思いがけずに、そんな自白めいた事を延々としゃべり始めたのだ。 言うまでもなく反響はこれまでにない程にあった。彼のファンにとっては意外に も〈本当の彼〉をかいま見れたという事であろう。 「あいつもいっちょまえって事か」北山が独り言を呟いていた。 あたりを見ると雨上りゆえか、薄く霧が立ちこめてきたようだ。対岸の〈ななか まど〉の葉だけがやけに赤い。崖の壁には、確かこの前まではなかった小さな水の 流れが出来ている。 彼は2年前のみなみの事を思い出していた−−皿回しは出来るか?と聞いた時の 彼女のキョトンとした顔を思い出していた。・・・・横田は呆れていたようだが、北山 とて彼女の気が強そうなところを面白がっていたに過ぎなかったのだ。 しかし、彼女の成長も北山の思惑を越え−−いや、連子方式やら、飛馬の件やら 考えると、下手をすると今の彼女のパワーには北山でさえ圧倒される程だ。 『今の俺には、真似をしたみなみの真似さえ多分出来ない』とこの頃北山は思い始 めている。情熱が去ったという事か、ただの怠惰なのか、自分でもよく分りはしな いのだが。 『以前の俺に牙があったとしたら、今は入歯で肉を噛んでいるぐらいの気分だ』と ひとり思っては、その例えに苦笑し、足元の石をポンとほおりなげた。 その石がゆらゆらと水底にたどり着くのをみながら、彼は自分の仕事もこの釣り も、なにか似ている所があると思った。 ここに通い始めた頃の彼は、ただ夢中ですべてを忘れ〈ヤマベ〉を追うのみであ った。しばらくそうしていると釣り人には例外なく、何故釣れる?何故釣れない? という疑問が生じてくる。すると水生昆虫−−つまり魚が補食する川虫が気になり 始め、その川虫−−カゲロウやらトビゲラを調べ始める事になるようだ。 そこまでは彼もやってみた。当然ながら釣果は上がり、それは大の男を有頂天に させる程に面白かった。 しかし、それも釣るだけ釣ってしまうと、彼にとってその川は魅力のないもの−− というか、そこで何をしていいか分らなくなってしまったのだ。 〈飽きた〉という事と少しそれは違う。しいて言えば感動出来る〈次〉がないの だ。彼はそんな事を〈なんとなく似ている〉と感じたのかも知れない。 しかし、さすがにその川もさるもの。それほどの流れもない川なのだが、その流 れは気ままに幾重にも分かれ、また合流し、強い流れになって落込み、また分れる。 その流れが、いつしか岸の土砂を削り落し、川幅をふくらませ、その岸の木を倒 し、その倒木の陰に、また魚がつく。 川辺には季節事に様々な色彩を見せる木や植物があり、その実を目当てに、野の 鳥もやってくる。 つまり、その川はいつも同じようで、異なる渓相を彼に披露してみせた。今はそ こにいるだけで、楽しめるようになっていたのだ。 今の彼は川に魅せられた〈川の観客〉と言ったところなのかも知れない。 −−ココココココココ 頭上に、聴きなれた音が降りかかる−−キツツキのドラミングだ。そろそろ秋も 深いという事か、その空間にキツツキが戻ってきた。 彼は、上着のポケットから、アイヌの口琵琶を取出すと、相変らずへたくそなそ れを、そのドラミングに合わせるかのように奏で始めた。 するとキツツキは彼のその不自然な雑音に驚いたのか、頭上高く飛び去っていっ た。 『こればっかりはダメか』北山がまた苦笑いをした。
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