空中分解2 #2713の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
翌日、二学期最後の登校はつまらない、いつもの調子だった。クリスマスイ ブも休みにすればいい。次の天皇になれば、二十三日も休日になるんだっけ。 そんな不遜なことを考えながらグランドに出る。 終業式は、長い訓辞をぶつ校長、口やかましく休暇中の注意をする生活指導、 何かの表彰といった具合いに進んで終わり。教室に戻ってのホームルームも、 成績表をもらうときの不安感は普段通り。全くの平常通りのまま、昼前には何 もかもが終了した。 ところが、さっさと帰って事件の真相を探りたいと急いでいたところで先生 らが、 「失踪?」 そんな囁きをしているのを耳にしてしまった。職員室手前の廊下で話し込ん でいる。不用意だと思ったが、それだけ事態は切迫しているのだろう。 それとなく聞き耳を立てていると、失踪したのは英語の松谷らしい。そう言 えば、終業式でも見かけなかったな。 「家にメッセージが残ってたって?」 「そう。『エヌを見て死ぬ』だってさ」 死ぬ? 自殺するということか? 何が何だか分からない。先生らの間で、 何かが起こっているらしいけど……。 盗み聞きしているだけだから分かりにくいが、エヌとはNのことだろう。N を見て死ぬとはどういうことだ? そもそも、そんなメッセージを残すということは、誰かに止めてもらいたい 気持ちの表れかもしれない。自分が死ぬと決めた時間までに誰かが「その場所」 に来てくれたら、自殺を中止するのかもしれない。ならば早く警察に知らせる べきだろう。 が、どうしたことか、囁き合っていた先生三人の内、水木先生と担任の白井 はどうも歯切れが悪い。教頭だけが、せかせかしている感じだ。しばらく見て いると、教頭が 「もういい。私が連絡する!」 と、怒ったように職員室に入って行った。 これ以上いると、変に思われそうだから、下足箱の方に向かう。それにして も、立て続けにトラブルを起こしてくれる。少しは生徒のことも考えてもらい たい。 靴を履き換え、上靴をビニールに入れてから鞄にしまう。家に持って帰って 洗うためだ。 ふと気付くと、根本が側に来ていた。 「遅かったね」 「あ、ちょっと立聞き」 別に約束していた訳じゃないから、遅かろうと早かろうと、とがめられる筋 合いはない。しかし、嬉しいものには違いない。 「これ、プレゼント」 目の前に赤い包装紙とリボンで飾られた小箱があった。期待するともなしに 予感していたが、本当にくれるとは。 「あ、ありがと。あ、でも、僕、何も」 言語障害になったみたいに、言葉がぽつんぽつんとしか出ない。頭の中でま とめると、ようやくまともに話せた。 「そうだ。これから二人で買物に出てみない? お返しするよ」 「本当? うれしい」 初めてこちらから誘った。さっきまでは殺人事件と、それに重なるように起 こった失踪事件で頭がいっぱいだったのに、もうどうでもよくなっている。僕 にとって事件はやっぱり、紙の上だ。 街に出てみると、さすがにイブ。人でごった返しているし、電飾とクリスマ スソングのシャワーだ。時間はまだ一時になるかならないかだから、酔っぱら いまではいなかったけれど。 「予算、大丈夫?」 「結構心配性だから、僕は。いつも万札を一枚は持って歩いてるんだ」 「じゃあ、めいっぱい遣わせちゃおうかな」 「おいおい」 そんな会話を交わしているとき、ふとビルの一つに目が行った。正確を期す とビルではなく、その建物に張り付くような格好の電光掲示板に。クリスマス 用のサービスとして、メッセージを低料金で流すことで有名だった。確か、今 日の六時からサービス開始だったかな。それまでは、やはりその建物の屋上に あるスピーカーから流れる曲の歌詞が示されているのだ。 そのとき、僕は去年の今頃、電光掲示板がどんな歌詞を流していたか、思い 出した。何だっけ、幼稚な英語の歌。正式な曲名は知らないが多分、楽しいA BCとかだったと思う。その歌詞が今年も流されるとしたら、Nが大きく映る じゃないか! まさかとは思う。しかし、Nを見て死ぬというメッセージを残して失踪した 松谷は英語教師だ。楽しいABCを聞きながら死ぬのも、何となくありそうに 思えてくる。Nはアルファベットの十四番目。ちょうど後半に入るところだ。 曲のまん中を区切りにするのも、何となく意味ありげではないか。 こうなると確かめずにはいられない。根本を待たせ、公衆電話に走る。幸い、 この間刑事からメモをもらったとき、電話番号も教えてもらっていた。 うまい具合いに、吉野自身が電話口に出た。失踪事件のことも知らされてい るらしい。最初は相手にしてくれなかったが、こちらの思い付きを話すと、念 のためにそのビルの周りを調べるとのことだった。何とかなりそうだ。 代わりに一つ、情報までもらった。言いにくそうな口ぶりだったが、 「この間渡してもらった藁半紙だがな、白井先生の指紋があった。この紙、白 井先生には触らせてないな?」 と言った。肯定の意を伝える。 「分かった。いいか、絶対に漏らすなよ、今のことは。特に白井本人には」 そう言いつけられ、電話も切られた。 「何だったの?」 待たされていた根本は、さほどいらいらした様子ではなかった。 「大したことじゃない」 説明するのも面倒だったので、適当にお茶を濁す。 結局、根本へのプレゼントはぬいぐるみですんだ。これなら一万円札を使う 必要なかった。 6.Aの殺人 家に帰って少ししてから、電話があった。吉野刑事からだった。 「わざわざすみません。何か?」 「君の言った通りだった。言われたビルが正面から見通せるデパートの屋上で、 松谷を保護した。睡眠薬を大量に飲んでいたが、命に別状はないそうだ」 「そうでしたか。よかった」 「感謝状を楽しみにしてるといい。それとも、事件の情報がいいか?」 「そりゃ、後者の方がいいですよ」 「はっきり言って進展はさほどない。ただな、松谷の口から何か聞けるかもし れん。曖昧だが、白井が麻薬と関係していたようなことを口走っておるし」 「今、これまでの事件を考えていたんですが、分からなくなりましたよ。白井 先生が麻薬ってのは……」 「あっと、俺もお喋りが過ぎたな。松谷の回復を待って、ちゃんとした調書を 取れば終わりだ。探偵ごっこはもういい」 それを機に、電話は切られた。 もういいと言われても、折角のチャンスなのだから、もう少し論理・推理の 遊びをしてみたい。 横倉が殺された事件では、グランドに倒れていた横倉らしい人物がいつの間 にか消え、中庭に転落する形で死んでいたという謎を解かなければならない。 さらに白井が麻薬に関連していたとなると楽譜の暗号は、あれでは間違ってい たことになる。 化学の小澤が殺された事件では、Kというダイイングメッセージがある。さ すがに、誰にアリバイがあって誰にないのかまでは教えてもらっていないが、 イニシャルがKの人物が犯人なんてことはないと思う。普通、犯人の手がかり を残すとしたら、日本語で書くはずだ。 今のところ、関係あるのかないのか不明なのが、国吉が教員トイレ前で拾っ たと言う藁半紙だ。あれも暗号なのだろうか。白井の指紋があったんだから、 白井が書いたのは間違いないだろう。解読は楽譜のときみたいにうまくいかな い(楽譜も間違っていたようだが)。虫食い算を解く要領でもやってみたのだ が、どうも違う。 まともに解いたのは、Nを見て死ぬと言っていた松谷を捕まえられたことだ けか。ともかく、残り二つの暗号を解くべきだろう。楽譜の方は部分的に間違 っていたにしろ、「まやく」は合っていたと考えていいのではないか。どこか で間違えて、田西と白井を取り違えたのか、あるいは田西が麻薬に関しての総 元締めという可能性もある。 そこまで考えたところで、思わぬ訪問者があった。このところ、「思わぬ訪 問者」が多い。 「何だ、鹿島さんか」 同級生の女の子が来ていると母が言うので誰かと思ったら、鹿島景子だった。 「ご挨拶ね。あなたのお母さんも私のこと覚えてくれてないなんて、そんなに 御無沙汰してたかしら。幼なじみだったのにね」 意図を計りかねながらも、僕は彼女を部屋に招き入れた。 「何の用?」 まだ開けていない根本からのプレゼントを気にしながら、僕は言った。 「あなた、まだ探偵ごっこしてるみたいね」 「?」 いきなりきつく言われた。分からない。 「何を言ってるんだ? 僕がどうしようが勝手だろう。だいたい、どうして知 ってるんだ?」 「あなたの周りにいる人から教えてもらったの」 「誰だ?」 「気付いてないでしょうね、探偵ごっこに夢中だった人には。いい? 警察か らちょっと特別扱いされていい気になってもしょうがないのよ」 「いい気になんかなってないさ」 「なってるわ。あなたは自分で名探偵になりたいという妄想を抱いている。し かも、質の悪いことに、妄想なんか抱いていないという妄想にも浸ってしまっ てるのよ」 「何を言われても、やめる必然性はないね」 「そう。じゃあ、どれほどのものか、お手並拝見といきましょうか」 かわいくない態度で、彼女は腕組をした。頬を膨らませ加減でもある。 僕としては、まだ完全に推理を組み立ててはなかったが、勢い、 「いいとも」 と言ってしまった。 −−続く
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