空中分解2 #2577の修正
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とうとう12月だ。1992年もあと僅かだ、でも歳だけはとりたく無いなあ、 と時々思うのであった。 今日も素晴らしい一日でしたと振り返る達夫は、どうしても忘れ無くなってしま った事が、バブル消滅とか言われているように証券や債券投資の失敗のことでした。 二年前の1990年に定年退職しました。その時に会社から受け取った退職金3 000万円と自分の預貯金2000万円を株式や債券に投資したのでした。 証券会社のレディ達は熱心でした。少なくても二週間に一度くらいは電話してき て、あれこれと有望銘柄を勧めるのでした。私は初心者でしたので、大体はレディ の勧める銘柄に投資しました。当時環境保全とかエイズ治療薬関連とか言われて有 望視されていた銘柄を買ったりしたのでした。でも時期が悪かったのです。 色々合計して5000万円ほど有りました余裕資金も株式や債券に投資し売買し ているうちに今では2500万円にまで縮小してしまいました。いくら何でも資産 を減らしてしまったのは残念なことです。 達夫は今60歳、二人居た子供は当の昔に独立してしまっているので、妻である 芳子との二人暮らしであった。子供が居ないから、いつも静かなのである。これと いって、ぱっと笑えるような話題が無いし、お茶を飲みながら、時々息子の政男と 芳江のことを話すのでありました。 政男は、今度家を買うんですって、それで土地が高いから1000万円程都合し て貰えないかって言われているんですの、勿論お父さんに相談しないと答えられな いって言ってありますけど。それに芳江には、女の孫が出来たでしょう、だから御 雛様をお祝いに持って行かないといけないし、結構金が要るわねえ、ねえお父さん 聞いているの。 聞いているよ、聞いているよ、そなことは十分わかっているよ、お前のはしつこ いんだよ、お茶くれ、お茶。二年前には、楽に5000万円は有ったんだよなあ、 それが今では、それが泡のように消えてしまったのだから、夢も一緒に消えてしま ったみたいで情けないよ、うううん、何か手っとり早く儲けられる方法が無いか。 嫌だねえ、まだそのようなこと言っているの、もう株で損した話しなど聞きたく ありません、それより年金貰えるまで丈夫で居て貰わないとね。あっ、そうそう、 昨日ね、芳江からパンジーの鉢を届けられたの、年末には花が咲くんですって。 それは芳江が花屋をしているからでは無いのか。もうクリスマスが近いしなあ、 クリスマスにはパアアアアッと楽しくして、飲もうか。 お父さん、大丈夫なの、私は知りませんよ。 12月は慌ただしくて、そして日日のたつのは早いものです。とうとう24日に 成ってしまいました。 家の前にある小さな畑で、大根、人参、白菜、葱などを少しずつ収穫していると シロウマ・ツバメの宅急便が玄関の前に止まった、何だろうかなあと思ってみてい ると普通の箱型の包を持って入ってきた。 配達人は「こんにちわあ、小包です」と言って達夫に小包を渡し去って行った。 達夫は有難うと言って受け取った。差出人を見ると政男からであった。芳子も畑か らの収穫物を容器に入れて戻って来た。 夜になって芳子は夕食の準備、達夫は政男からの小包を開いた。 中には、大きなクリスマス・ケーキと2リットル入りのビール樽が入っていた。 そして、それにはメッセージが添えられていた。 * * * * * * * * * * * * * * メリー・クリスマス。 * * もうだいぶん寒くなってきました。 * ケーキと一緒に入っているビールは、酒のように温めて飲んでください。 * きっと美味しく頂けます。 * * 政男より * * * * * * * * * * * * * 「政男は何を考えているのやら、ビールを温めて飲めだなんて。」 達夫は政男の考えている意味が解らないので、ぶつぶつ言いながら、でもやっぱり 息子からの贈物に嬉しいらしく顔を綻ばせて、妻に「芳子、ケーキを切ってくれ、 今からビールを温めるから。」と言った。 芳子は、ビールを温めるなんて聞いたことが無いし、それに何かの聞き間違いか も知れないと思いながら、料理をテーブルの上に並べ始めていた。そしてケーキを 切ろうかなあと思った時、達夫は政男のいうとおりにビール樽を水をはった大きな 鍋に入れ、ガスに点火しようとしていた。「お父さん、大丈夫なの、ビールを温め て破裂したら大変ですよ。」 芳子は不安を覚えながらケーキをナイフで切った。 「政男は泡を出させて俺たちを驚かせて喜ぼうとしているのだろう。」 「よしっ、暖かいビールで乾杯だ。」 「お父さん、慌てないで下さいよ、美味しいケーキを目の前にして」 「あはははは、栓抜きは何処だあ。」 「栓抜きは三番目の引出しにありますよ、それにビールを飲む前にケーキを食べま しょうよ。」と不安そうに夫に言った。 芳子は黙って二切れのケーキを皿にのせて夫の前に出した。 10分程するとビール樽を入れた容器から湯気が立ち登ってきた。達夫は丁度好 い飲み温度になったと判断し、ビール樽を取りだしテーブル上に持ってきた。 「芳子見てろよ。」と、達夫は顔を幾分緊張させてビール樽の栓を抜いた。 予想通り泡が勢い良く出てきた。 おおおっ、もったいない、もったいない。 おおお、出るーー、泡が出る出る。もったいないなあ、もったいないです。 達夫は泡を慌てて吸った。でも泡は次から次へて出てきて止まらなかった。 口だけでなく、顔も泡だらけにしてビールの泡を吸った。泡は遠慮会釈無くぷくぷ くと出続け、ビール樽下の皿は瞬く間に泡で一杯に成り、料理は泡で覆われて仕舞 いそうだった。泡はしゅっしゅっと絶え間無く吹きだし、テーブル下に落ち始めて いた。 「ねえ、ケーキ食べましょうよ。」と芳子は達夫に言った。 達夫は「ケーキくれ。」と言って、驚きの表情を顔一杯に浮かべ、ビール樽から泡 が出続けるのを見ていた。芳子は第一にケーキの有る場所を確認した。多少迷惑だ と感じながらも、休み無く泡の吹き出ているのを興味深く見ていた。 泡は休み無く出続けた。そのうちにクリスマス・ソングが流れ始めた。 達夫はこの不思議な現象に我が耳を疑って仕舞った。少し考えた後、冷静さを装い ながら妻に「このソングは何処からだろう」と話しかけてみた。 芳子は成すすべも無く、「アハハハハ」と笑っているだけだった。 歌はビール樽からで有った。「お前、樽からクリスマス・ソングが聞こえてくる よ、あはははは、あはははは。」達夫も笑ってしまった。達夫と芳子の笑いは2分 程も続いただろうか、でも泡はずっと出続けていた。二人は時々雑音が入ったり音 程がずれて聞こえてくるクリスマス・ソングに聞き入り、一緒に合わせて歌ったり 笑ったりするのでした。勿論ケーキも食べました。 「あなた、今夜のケーキは美味しいねえ、それにしても政男は何を考えているので しょう、こんなに泡の出るビールを贈物にして。」 「あいつは、俺達をからかっているんだよ。」 泡はどんどん出続けた。泡は二人の足元を覆いつくし胸元まで来ていた。泡は止め 処無く出続け、とうとう部屋は泡で一杯に成ってしまった。 達夫と芳子はビールの泡に酔い、夢見心地に成り夜空に舞い上がって仕舞った、 そのような気がした。 「お父さん、お父さん、星が奇麗、それに木々の枝には白い花が咲いたようで、夢 みたいですよ。」 「俺達、雲の中だぜ。ふわふわした雲の上に居るようで、温泉の中みたいだ、 何処かに石鹸はないか、ははははは。」 「冗談はよしてくださいよ、月が笑っていますよ。」 達夫と芳子夫婦は白い雲のような泡の中に居た。そしてすっかりビールとその匂 いに酔ってしまった。天にも登るような好い気分に成り二人は泡雲の中を泳いでい た。 「あなた、そちらは危ないですよ。雲が切れていたら‥‥‥、大変ですよ。」 「そだったな、雲が切れていたらていへんだ、あはははは。」 どれくらい夫婦は夢見心地で居ただろうか、いつまでもは泡が出続けません。 大体15分程で終るのである。 暫くして二人は静かにケーキを食べていた。 「今夜は冷えますわねえ、そろそろ雪が積もるのかしら。」 「まあな、それにしてもケーキは甘いなあ、さっきのビールは消えて仕舞ったし。」 「人参、大根なら小さく切ったの有りますよ、味塩をかければ美味しいですよ。」 「それとも、酒をかんしますか、山田さんから頂いたの、まだ戸棚に有りますのよ。」 「もういいよ、もう要らないよ。」 静かに夜は過ぎ、ふわふわと降る雪は、うっすらと地面を白くしていた。 そして、木々には白い冠状の雪花が咲き二人を祝福していた。 −−−−− 完 −−−−− 「注」 #2573に誤字などが有りましたので一部訂正して再出しました。
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