空中分解2 #2520の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
久保田利伸のアルバム「BONGA WANGA」が流れている。洗面所のそばの 電話にかじりついて話している男は坊家という。 「 今度の一日、土曜日だから出ておいでよ 」 さっきから懸命に口説いている。ハッタリかませるにしても手持ちの材料がない。 彼女が会社を休んで東京に出て来るか、は運命に任せよう。 「 仕事に戻るんだよお前 」 サラリーマンの自分がそう言う。もう「8月の光」もオシマイ。秋の風の息づかいが 部屋の奥のボックスまで流れこんでくる。熱っぽく、そして、寒い。深呼吸をすると、 頭の芯がスーッと闇へと引いて行く。 「 含みも無い、将来性もない、お前の格付は C- が関の山だ 」 ビジネスマンの自分がそう言う。悪条件を乗り越えるだけのスーパーマンたれるか? 「 どうも失礼いたしました。 」 接待の多い生活。相手の話を聞き、良い処を一生懸命見つけては、褒めちぎる。 それが何であろうと褒めちぎる。営業に入って3年。性格が八方美人になってきた。 今日は、直属上司であり、営業の大先輩の柳瀬一角課長と御一緒しての接待。 「 はい どうぞ 」 オシボリをもらって手を拭く。手洗いに立つ合間に電話。忙しい仕事の合間に彼女 をつなぎ止めておくのは並大抵の事ではない。商談は、いつひっくりかえされるか わからない。そして、契約成立後にだって......。 「実掃除部長は、このたび取締役におなりになったんだよ」 「へぇ〜 凄いのね〜 今後とも一層の御贔屓にお願い致しますわ〜 」 アッシー メッシー ミツグクン 営業活動は根気が勝負。送迎・食事・酒色・貢物・等の接待が欠かせない。投資を 惜しんではいけない。足マメに、筆マメに、そしてマメにマメに。海千山千のママ は黒服に耳打ちすると、新入りの子をヘルプにもう一人呼んだ。 「 レイコ です よろしく 」 「 今度入った子です 行き届かない事があったら きつく教えてやって下さい 」 「 手取り 足取り ねっ 」 柳瀬課長はRESが早い。頭の回転は早い。坊家は、さっき電話をかけていた子に そっくりなのに驚いている。実掃除さんの遊びは、さすが堂に入っている。 「 ワニワニってした子とか 下半身デブの子って好きだな 」 「 ひど〜い 」 「 スマートな子は もっと好きだ 君みたいな 」 実掃除取締役は、いつになく調子が良い。通常は接待する側の決めた店なんだが、 今日は、どういう風の吹き回しか、実掃除氏が強引に誘って連れてきた店がこの店。 「 グリーン・キューカンバ 」 という名前。壁にトム・クランシーのサイン入りのペーパーバックなんかが飾って ある。前に、実掃除のお父さんがディープスロート氏の情報につられてやってきた 銀座のクラブである。色々な面白いものを食わせるというので、楽しみな店である。 女の子もなかなかに可愛い。ママの他にはケイちゃんという子がついている。この 子もなかなかの美形だ。「玄関の呼び鈴遊び」は、ここの名物らしい。 「 や〜だ〜 実さんたら〜 エッチ〜 」 お奨め料理「キュウリの酒蒸し」が出てきた。湯気を立てているキュウリにトロ みのついた白っぽいソースがかかっている。 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////// < レシピ > 良く洗い、砂摺り・面取りしたキュウリに縦に切れ目を入れ、鷹の爪(唐芥子) を詰め込み、ラー油と七味唐芥子をたっぷり入れた焼酎+醤油の中に一晩漬けて おく。それを、小量の漬汁と一緒に蒸す。鳥ガラで取ったスープに片栗粉を加え トロみをつけ、塩で味を整え、好みでココナッツミルクを加えて、蒸し上がった キュウリにかけて出来上り。 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////// 初めて食べた時は大変だった。一口噛む。唐芥子の辛味が、喉にまで一杯に広がる。 「 はぁはぁ ひぃひぃ 」 「 お穂穂穂穂穂穂穂 喉で味わうんですね〜 」 ディープスロート氏は、頭の先にツーンと来て頭がポーッとなる段になって教え てくれた。辛味は味覚ではなく、神経の連絡から言うと痛覚と同一の経路を通る。 マゾヒスティックな快感の虜となると、この店に通い、挙げ句の果てはタイへ遠征 という事になるらしい(もともとはタイ料理をアレンジしたものらしい)。 「 レイコ ちゃん だったね これ おいしんだ 」 「 へぇ〜 糠漬けなら 家でつけてるけど〜 」 「 そんなん比較にならないくらいオイシイよ〜 」 「 ママ ここの自慢料理だったね 」 「 えぇ そうですよ レイコちゃん いただきなさい (^_^; 」 「 じゃ いただきま〜す 」 坊家の目はとっくに彼女に張り付いている。柳瀬課長の目も、若干下方に偏位を 示しながら張り付いている。実掃除さんはリアクションが起きるまでは死んだふり。 オチョボ口で可愛くかじるレイコ。ママもケイちゃんも決して手をつけない。10 秒余りが過ぎた。強く目を閉じ、涙を絞りだした。言葉になりそでならない。 「 (そんなのってないわ。あんまりよ。ひどいわ!) 」 レイコちゃんは涙で顔中をぐちゃぐちゃにしてうめく。少年の様な男っぽさも少し 入り交じって、色っぽくさに皆言葉を失った。坊家はボケ〜っとして、デレっとし て、ハンケチを取り出すと、甲斐甲斐しく涙を拭いてあげる。 「 来週の土曜日・・・・ 」 心の蓋を閉じ忘れた男は、口走った言葉に気づき、また、手洗いに立った。鏡を 見る。知らないうちに目にクマが現われては、目頭は涙に濡れている。秋がくる。 「 風の中の雨のように 」 いつも変わる女心に、舞い散る落葉のように秋の風に吹かれて、いつしか濡れ落葉 になる男に過ぎない。俺の人生こんなもんか、とフト思えてきて呟いた。 「 命 棒にふってやるぜ 」 午前様で、男と遊びまくっている女なんか、もっ、どでもいいかんね。顔を洗う。 短く切った髪は、毎晩泣きながら洗うもんだねっ。結局、彼女に対する ”ROA”: RETURN OF ASSET (投資収益率) は零であった。不良債権は切捨てである。うがいをして、口の中をすすいで、洗い 替えである。 トイレから出てきたレイコとばったり目が合った。 「 へへへ 」 「 ふふっ 」 「商売抜き」が始まる予感に、笑みがこぼれた。
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